- 『私の部活動』 作者:みやねこ / お笑い 未分類
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全角7789文字
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原稿用紙約27.1枚
1話 さつき
私の名前は仲元かずは。みんなから、「かずはちゃん」と呼ばれています。…ごめんなさい、今嘘つきました。普通に仲元ってよばれてます。
好きなものは裏に暗証番号の書かれているクレジットカードです。みかけたらください。お願いします。
嫌いなものは、ハンバーガーのピクルスです。あれさえなければハンバーガーは大好きです。
好きな言葉は、冷静。いつも、この言葉の通りに行動してます。…はい、冷たいってよく言われます。
嫌いな言葉は、1つ目が努力。2つ目がガンバル。
「ふぅ」
高校生になって、新しい先生に自己紹介して、売り込んだ5月の事。私は、例年通りの5月病にかかっていた。
ああ、空はあんなにも蒼いのに、どうして心はこんなに曇っているのだろう。
「おはよう、仲元。どうしたんだい、ため息なんかついて」
って言ってくれる男子でもいれば、少しは日常が楽しくなると思うけど、あいにく男子とは無縁の生活です。自分の年齢=彼氏いない歴です。告白なんて夢のまた夢。ラブレター?なにそれおいしいの?
(あー。彼氏欲しいな。っていうか、ぼぅいふれんど欲しいな。友達からでいいのに。女友達ばっかり。それも悪くないけど、なんだか疲れちゃう。あー。彼氏彼氏)
そんな私にある悪魔的なひらめきが。
(……あ、そうだ、こんな私でも、男子と会える機会が必ずある方法が一つあるじゃん。ずっとその存在を忘れてたけど、挑戦してみようかな)
そう、その方法は、部活。
部活動。それは、
「分類:名詞 意味:学生・生徒が始業前や放課後に行う運動部・文化部などのクラブ活動」
…じゃなくて、青春を一言で表すのにちょうどいい名詞。ぴったり。しっくり。ジャストフィット。
(…そういえばうちの学校、どんな部活があったっけ?)
かばんのそこ付近にある、「学校紹介」のパンフレットをひらいた。サッカー部、剣道部、野球部、陸上部など、いろんな部活の名前が書き連ねられてある。
(体育会系は除外。私暑いの嫌いだもん。文科系で何かないかなー)
文化 とゴシック体で書かれた文字の下に、文芸部、映画部、茶道部、吹奏楽部、とこれまた多種多様な部活名が。その中で、ひときわ異彩を放っている部活があった。
(何これ…。本気?)
その部活名は、長谷部。…はせべ、って読むんだよね?
(人名じゃない…っ!部長か何かかな?)
人間というものは、一日の間なら、なかなか物事を忘れる事が出来ないようになっている。
(長谷部、長谷部…。う〜ん、気になる)
「ええ?!長谷部に入部?!」
「いけませんか?」
放課後の職員室に、私は部活名と氏名住所を書いた入部届をもっていった(入部届はパンフについてました)。
そう、結局入部しました。長谷部に。これで私は、今この時点で、長谷部員よ!
「いや、悪くないけど、まさか本当に入部するやつがいるとは…」
「では、これからいってみるので、場所を教えてください」
本当に入る奴、ということは、私以外に生徒は居ないということだろう。つまりは、ハーレムも夢じゃないかも。
先生、どうして焦るの?
「わ、わかった。北館の2階の、一番西の教室だ」
「ありがとうございます」
先生が少し焦っていた気がするけど、気にしない。職員室を出るとき、視線を大スター並みに集めた気がするけど、これも気にしない。
ふぅ。ここが、部室か。長谷部の、新たな高校ライフの、始まりの場所か。
ドアに手をかけ、ガチャリ、とひいた。
踏み出そうとしたそのとき、目の前を何かが下におちた。黒板消しだった。…まあ、通過儀礼というやつかもしれないので、無視する。
「こんにちは。新入部員の仲元です」
冷静に、極めて冷静に。そして、深々とお辞儀をした。
顔をあげると、3つの顔が見えた。男子二人、女子1人。男子は将棋をやっていた。片方はやさしげで、もう片方は眼鏡の似合うイケメンだ。女子は、窓辺で本を読んでいた。長い黒髪の、クールな人だ。どこかでみた構図だけど、恐らく気のせいだろう。女子が居るのが気になるけど、競争率は低いから、一安心。
男子は、二人とも“超”がつくほどイケメンだった。…美化してないです。男に飢えてるからでもないです。
「新入部員?!あんた本気?本気じゃないなら、今すぐ帰りなさい」
真っ先に口を開いたのは、女子部員のほうだった。私より美人だった。胸も大きい。…はい、悔しいです。ええ悔しいですとも。
「まあまあ。退部なんかいつでもできるんだから」
「そうですよ。…僕は3年の杉縄昌一だよ。よろしく」
まず優しげなほうが自己紹介をした。優男、ってこんな感じだろうか?
「それはそうだけど…。ま、本人の自由だしね。私は3年の桐村あやか。よろしくね。困った事があったら、相談だけはしてあげる」
にっこりと笑った。…悔しい。こんなに笑顔とクールを併せ持つ人間が居るなんて。
「僕が部長の湯本譲治だ。君、名前は?」
眼鏡をかけた賢そうな最後の一人が名乗った。あだ名決定。メガネ先輩。私の中だけだからいいよね!
「私、仲元かずはといいます。よろしくおねがいします」
軽く会釈すると、みんな返してくれた。
「…ところで、この部は何する部活ですか?」
自己紹介を手早く済ませ、一番気になっていたことを聞くと、部室がしんと静まりかえった。えっ?何?地雷?
「…聞きたい?」
桐村先輩が小さな声で聞いた。目つきが鋭い。
「非常に」
ディ・モールト。
「じゃあ、教えてあげる。この部活はお花見の場所取りから人に言えない仕事まで受け持つ、なんでもありな部活なの」
「嘘ですよね」
「ばれたか」
てへ、っと下を出し、頭をかく。
「本当は何する部活なんですか」
「なんでもあり、ってのは本当よ。登山もするし、バンドだってやる。まあ、気分しだいだけど」
「そうなんですか…。…で、部活の名前の由来はなんですか?」
桐村先輩の目が緩んだ。
「初代部長の名前。…もしかして、名前で入ったの?」
再び鋭く。ああ、もう。
「…いえいえ!とんでもない!気になったから入…じゃなくて、えっと、えっと」
そういえば私、なんで入ろうと思ったんだろう。なんか、こう、魅力を感じたのよね。
「…いいのよ。私もなんではいったかわかんないんだから。こう、魅力、っていうのかな」
…面倒くさい。
「さて、終わったか?終わったなら、歓迎会でもするか」
将棋を指していたメガネ先輩がゆらりと立ち上がった。
杉縄先輩と桐村先輩がメガネ先輩のほうを向いた。頭に“?”マークがついている。
「どうした皆。歓迎会だぞ」
皆無言。ていうか、唖然。
「…ああ、お金か。全部私持ちだ。安心しろ」
「あ、いや、そうじゃなくて」
杉縄先輩が疑問符を投げかける。
「歓迎会って、なんですか?具体的に、何するんですか?」
問題はそこじゃないと思う。
「なんだ、そんな事か。…そうだな、焼き鳥でいいか。…君、鶏肉は好」
「嫌いじゃないです」
間髪いれずに答える。鶏肉は、コラーゲンがたくさんだからね。それに、さりげなく謙虚さをかもしだした私の発言グッジョブ。
「なら決まりだな。…杉縄、コンロ持ってきてくれ」
了解、と小さく呟いた。
「そうじゃなくて!」
いままで黙っていた桐村先輩が勢いよく立ち上がった。
「えっと…なんで焼き鳥?」
「嫌いか?」
「違うわ。えっと、…何かおかしくない?」
「どこがおかしいんだ。…杉縄、早く」
杉縄先輩がドアを開けて出て行った。黒板消しをまたいでいった。…優雅。
「おかしい。やっぱりおかしい。…そうよ!」
「なにか言い訳でも見つかったか?」
「常識的に考えて…じゃなくて、校内じゃない?校内に火気の類や銃器の類は持ち込み禁止じゃないの」
銃器持ち込むヤツがいたのか…。
「…そうだったっけ」
「この部の第1条!校則は破らない!」
鬼の首を取ったように叫んでいる。でも、怖くない。
「……」
「わかったら、とっとと杉縄を…」
その時。部室のドアが、ガチャリと開いた。
「ただいま」
手には、大き目のコンロが。何処からくすねてきたのかは知らないが、新品のようだ。
「ちょうどよかった」
メガネ先輩が、眼鏡を光らせながら杉縄先輩のほうを向いた。杉縄先輩は、さわやかな笑顔をたたえている。
「中止になったから。焼き鳥」
桐村先輩が、続けた。
がたん、と何かが地面に落ちる音がした。たぶん、金属質の硬い物体だろう。
軽く頭を下げておいた。顔を見ないようにして。
2話 みなつき
6月。1年の半分。ジューンブライド。梅雨。夏服への衣替え。
英語の授業を適当に受けていると、右方向45度辺りから小声で話す声が聞こえた。最近女子の間で話題の“学校の怪談”の話のようだった。
(怪談なんて、小学生までで充分でしょ。それを高校生にもなって…)
「でね、昨日私マユミと学校来たのよ」
「本当?!で、どうだった」
犯罪ですね。不法侵入で逮捕ですよそこのあなた。
(夜の学校か…。私は音楽室とか体育館より、テスト作ってる先生の机に直行するけどなぁ)
結局聞き耳を立てていた。…気になるじゃない。
「怪談って、7つあるじゃない。そのうち5つが零時丁度に起こる物で、残りは丑三つ時に起こるらしいのよね」
「じゃあ、全部確認できてないのね?」
「そう。だから、“零時丁度に音楽室のベートーヴェンの両目が縦横無尽に動きまわる”と、“丑三つ時に音楽室のスリッパの色が七色に変色する”だけ確かめたの」
「ふんふん。で?で?」
「両方本当みたい。さながらカメレオンのようだったわ」
(まじすか。え?真実?怪談が?)
「すごーい」
何が凄いんだ。
「でしょ。あとは、“零時丁度に校長室の前にある水槽の水が3リットル前後で増えたり減ったりする”と、“午前零時に東館4階の廊下で約50人くらいのテケテケがほふく全身で鬼ごっこをしている”と…あとなんだっけ?」
「知らないの?“零時丁度に図書室の黒板にそれなりに難しい漢字が書かれる(例)蝙蝠”と、“丑三つ時に校庭に首の無い少女がコサックダンスを踊っている”よ」
「6つだけ?」
「何も知らないのね。そうよ、この学校の怪談は6つなのよ」
(微妙な怪談ばっかり…。全部本当だとしたら発見した人は只者じゃないわね。まあ半分くらい嘘だと思うけど。…興味が出てきたわ。先輩達に話したらなんていうかな。…6つ目怖いなおい)
退屈この上ない授業が終わり、放課後。
「こんちわー」
がちゃりと部室のドアを開け、中に入った。黒板消しトラップは仕掛けられていなかった。なので私が代わりに仕掛けておいた。
黒板消しトラップは、本当に相手を陥れるものでなく、通過儀礼という物らしい。
部室の中には、杉縄先輩のみが窓際の椅子に腰掛けていた。目は閉じられている。おそらく寝ているだろう。
「こんにちわー」
部室のドアを開け、私を除いた唯一の女子部員・桐村先輩が顔を出した。綺麗、というよりはかわいい、という雰囲気を出している。そしてその“かわいい”顔の上に、黒板消しが落ちた。
「うわっ。ごほっ」
「大丈夫ですか先輩」
「大丈夫だけど、棒読みで心配しないで」
「善処します」
長い黒髪が一部白く染まった。
「もう。不覚だったわ」
「そうですよ。頭の上にこう、ストーン、って、大成功の鑑でしたよ」
「……もしかしてあなたが仕掛けたの?」
「否定はしません」
そのとき、ドアが開けられ、最後の部員にして部長の、メガネ先輩(湯本先輩)が入ってきた。
「こんにちは」
「ああ、こんにちは」
丁度杉縄先輩が起きた。うーん、と伸びをしてから挨拶をした。
「さて、今回何かやりたい事とかあるひとは」
メガネ先輩が皆に聞いた。
はい、と私は手をあげた。
「はい、仲元君。20字程度で簡潔に述べなさい。ただしドイツ語で」
「無理です。私は日本語とある程度の英語しか喋れません」
「じゃあ日本語でいいです」
「はい。…聞いた話ですが、この学校に怪談があるらしいです。なので、皆で検証してみたいと思います」
「怪談?そんなの、聞いたことも無いわよ」
「最近女子の間で人気独占中なんです。本当だったら面白いじゃないですか」
「では聞くが、その怪談の内容をこれまた20字程度で簡潔に述べなさい。もちろんドイツ語で」
メガネ先輩の要求を聞き流し、日本語で説明した。
「6つなの?」
「らしいです。普通7つだと思うんですけどね」
そこで私は、あることに気がついた。
「杉縄先輩?どうしたんですか?」
いつもなら必ず何か言うはずの杉縄先輩が、ずっと下を向いて押し黙っている。
「……頼みがあるんだ」
重々しく開かれた口からは、そう聞こえた。
「私に出来る事なら」
「できれば誰にも話さないで欲しいんだけど、いいかな」
「いいですよ」
「ああ、わかった」
私とメガネ先輩が了承した。
「僕、怖いの駄目なんだ…」
……?
「ネタ…ですよね?」
「いや、真剣だ」
「良い事聞いちゃったぁ」
桐村先輩がうれしそうに飛び跳ねる。
「だからこの話は無かった事に……」
「そうか、反対意見があるなら仕方ない。多数決で決めようか」
「ええっ?!負けるって絶対!」
杉縄先輩が全力で拒否する。
「何を言う。この部活は民主主義を大切にする部活なんだ」
「そんなのいつ決めたんだよぅ」
「まあそれはおいといて、多数決だ」
「人の話を聞けー!」
「怪談検証作戦に、賛成の人」
「はい」
「はい」
私と桐村先輩が元気よく手を挙げる。
「おい杉縄?」
杉村先輩は窓の外、遠く空を見ていた。
そしてそのあと午後11時にもう一度私たちは学校の校門前に集合した。杉縄先輩は逃げなかった。
「押さないでください」
夜の学校。なぜ恐ろしいのだろう。怖いのだろう。不気味なのだろう。
それは、昼間と違い、静かだからかも知れない。暗いからかもしれない。目に見えない“何か”がいるからかもしれない。
その中で、私たちはなぜか一列、―――私、メガネ先輩、杉縄先輩、桐村先輩の順で並んで歩いていた。窓の外ではじとじとした雨。肝試しには絶好の天候だ。
「押してないぞ」
「押しましたよう」
「押してない」
「取り込み中のところ悪いけど、まず何処に向かうの?」
「6つ中2つはその少女たちが確かめてくれたらしいから、」
「僕達は何もせず帰りましょうか」
「残り4つを2人で分けて確かめようか」
「スルーかよ」
「それが効率的ね。じゃんけんで決めよう」
「では行くぞ、じゃんけん、ほい」
「ほい」
「ぽん」
「ぽん」
私 ぱー。
メガネ先輩 ぐー。
桐村先輩 ぐー。
杉縄先輩 ぱー。
「きれいにわかれましたね」
「ではこれで、そこの角から別行動だ。くれぐれも、警備員や宿直の先生方、その他の不審者等に見つからぬようにな。もし見つかった場合、僕達は君達を見捨てて逃げる。もし僕達が見つかった場合も、君たちはそうするように」
「了解です」
「了解よ」
「帰って良いかな……?」
私たちは図書室と校庭を受け持つ事になった。あの二人はどうやら恐怖に耐性があるようで、別行動をとるらしい。尊敬ー。
「失礼しまーす」
そういって私は図書室の扉を開けた。時刻は午後11時55分。目的の時間まであと5分だ。
図書室の中は梅雨時の季節だからか空気がいくらか湿っていた。本棚に並べられた無数の本が、一斉にこちらを向いた…ような気がした。
「誰かいますかー」
いたら困るが、一応聞いておく。
「仲村、今何時?」
「11時56…今57分になりました」
「なあ、このまま帰らない?」
「怖いのですか?」
「うん」
「恐怖を知り、打ち勝ってこそ勇気なんですよ。逃げてばかりでは勇気になりません」
「勇気なんて要らないよ…」
そのとき、黒板のほうからカツカツという音が聞こえた。
一瞬にして背筋が凍りつく。首が動かせない。
勇気は私も足りないみたいだ。
そんな私に関係なく、カツカツという音は続く。
そして1分ほどでその音は鳴り止んだ。その間、私はずっと目を閉じていた。
「おい、仲村」
「なんでしょうか?」
「黒板…見てみろ」
「え?」
先輩が指し示す黒板には、
Q1 蝙蝠
Q2 絨毯
Q3 澱粉
Q4 詔
Q5 上総
Q6 主税頭
Q7 糒
答えは五分後に!
と書かれていた。
「先輩、読めますか?私Q3までしか解りません」
「そういうときは、再変換してみるといいよ」
「私には無理です」
「Q1こうもり、Q2じゅうたん、Q3でんぷん、Q4みことのり、Q5かずさ、Q6ちからのかみ。Q7、ほしいい。Q6、Q7は難問だね」
「すっごーい。尊敬しちゃいますー」
「頼むから棒読みでほめるのはよしてくれ」
「はい。…次行きましょうか」
なんだかノリノリになってきた?
真夜中の校庭なんて、全く怖くない。そう思えるのは、体験してみてから言って欲しい。周りに何も無いというのは、案外怖いものだ。
「丑三つ時までどうやって過ごしましょうか」
「百物語でも」
「本気で何か出てきそうなんでやめましょうよ」
「そうだね、ろうそくもないしね」
そういう問題じゃないが。
しかし、時間というものは気がつくと立っている。気付くと午前1時58分だった。
「丑三つ時って、午前2時ですよね」
「そうだけど、何も起こらないな」
「帰りましょうか」
「そうしようそうしようそれがいいそれがいい」
校門前には二人の先輩たちがすでに到着していた。
「やあどうだったかね諸君。こちらは二人とも起こったよ」
「校庭の方は起こりませんでしたが、図書室の方は起こりました」
「ま、噂なんてそんなものよね。5つも起こったことに驚くわ」
「本当ですね」
結局、それだけで今日の作戦は終了した。
筈だった。
次の日。授業終了後の部活。
「こんにちは」
いつも通りにドアを開け、いつもの場所にかばんを置く。
「やあ」
部室には杉縄先輩が眠らず机についていた。詰め将棋をしていた。
「昨日は怖かったですね」
「? 何の事だい?」
「何の事って、肝試しをした話ですよぅ」
「初耳だな」
あまりに怖すぎて、記憶から消してしまったのだろうか。
「じゃあ先輩、主税に頭、とかいてなんて読みますか?」
「国語は苦手だ」
おかしい。じゃあ糒では、と聞こうとしたとき、メガネ先輩が入室した。
「やあ諸君」
「こんにちは」
「こんにちは」
「先輩、昨日って」
「昨日?何かしたかな?」
この人も覚えていない…!
「もしかして、君の勘違いかも知れないよ?」
「何の話をしてるんだ」
「昨日、皆で肝試ししたって言うんですが、僕は記憶にないです」
「昨日はそんな事はしていない筈だが…」
もしかして、本当に勘違い…?
「勘違い、じゃないか?」
「そ、そうかもしれませんね、あはは」
何故。何故覚えていないのだろう。日付は確かに進んでいる。
勘違いだとしたら、私は昨日の夜十二時ごろに何処にいたんだろう。
怪談は、本当にあるのかもしれない。
触れてはいけないのかもしれない。
探ってはいけないのかもしれない。
窓の外では、昨晩と同じような雨が降り続いていた。
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2008/06/21(Sat)20:15:13 公開 / みやねこ
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■作者からのメッセージ
がんばって書いてみました。
長谷部 に故意はありません。
1話 とにかく思いついたこと全部書いてみました
2話 季節含めて好きなもの書いてみました