- 『裏切り者と追う者』 作者:茜丸 / リアル・現代 未分類
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全角8074.5文字
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原稿用紙約23.6枚
舞台は空想の現代。――20//年。世界には“化学外の自体”と呼ばれる魔法が一般市民に広まりつつあった。 初めは一定の人間しか魔法を扱う事はできなかった。しかし、五十年前に開発されてからというもの、魔法は一つの商品として売られるようになっている。そんな世界に住む少年「海飛(カイア)」は、一般人とは少し異なる魔法を持っていた。どこに行っても手に入らない魔法を持っている海飛だが、その魔法の名は、“継続魔法”と呼ばれるものだ。 世界の変革と復讐を。これは、私たちの住む世界と少しだけ違う現代モデルの物語。
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◆ プロローグ
紅が、自分のものとは思えない。
忘れない。忘れはしない。
暗闇に沈んだ町。
滴り落ちた雫。
凍てついた道。
鼻を刺す鉄臭さ。
はしる痛み。
この身体から流れ出した血の上に立つお前。
分厚い雪雲の浮かぶ、虚空はとても低いところにあった。
この虚ろな瞳に映っていたのは、お前の背中。こんなに近くに居たのに、手を伸ばしても、届かない。
あの日、初めてお前の笑顔を見た。今となっては、それが本物の表情だったのかは分からない。
あの日、初めてお前の泣き顔を見た。今は、それが本物の表情だったのがよく分かる。
身体のどこか深いところから、何かが崩れる音がした。
ずっと積み上げてきた、形のない、しかしきちんとそこにあったモノ。
価値はないけれど、大切だった。知識と呼ぶべきか、経験と呼ぶべきか。
一体何が、過ちだったのだろうか?
お前は今。どこに在る?
お前の心は今。どこに在る?
恨みはない。恨みはない。恨みはない。
何もない。何もない。何も残ってはいない。
――俺がずっと引かれていたのは、お前だよ。
崩れ逝く。短い悲鳴を上げて。
崩れ逝く。血を吹き出して。
思い出せば思い出すほど苦しくなる思い出に、蓋をして。
――……復讐を。
お前はそれを、望んだんだな。
◆ 序章
風は今日も吹き続けて、頭上に永遠と広がっている空に波打つ。
目には見えていないだけで、空には風が海面の白波のように吹き荒れているのだ。それに浮かび流れるのが、不規則に姿を変えながら空を航海する航海者。一般的に雲と呼ばれるそれだ。
地上よりも高く、海よりも広い。地上を監視する監視者。空。
手を伸ばしてみても掴む事は不可能で、せいぜい太陽や月をその小さな指の輪で囲める程度。
空と海は似ていると誰かが言っていた。だが、実際はそうじゃないと、そう思う。その点、海の風である波、水はどうだ。コップで掬う事ができるだろう。
空と海は、対の存在なのではないかと、そう思う。交わる事はないのだから、当たり前だと思わないか。
ああ、それならば俺は空で、お前は海が良かったな。
◇ ◇
コンクリートで分厚く固められた固い道路は、昼間の熱を未だ保っており、太陽が西に傾いた今でも熱気を帯びていた。足下から朦々と上がる蒸し暑さと、それによりなかなか下がってはくれない気温のせいで、遠くの景色は歪んで見えた。
既に靴の中は、汗のせいで特有のジメジメ感に満たされており、靴下がいかに濡れているのかが想像できる。思わず表情が歪んでいるのが、自分でも理解できた。
ここ最近は毎日の最高気温が三十五度と、とんでもないが快適と呼べるような環境ではない。理由としては、今の暦が“夏”という事だ。九月とだけあって、夏を終わらせまいとする紫外線の量が半端ではない。
ケータイ会社の宣伝に受け取った手持ちのウチワを取り出し、忙しくそれを上下させながら彼は歩道橋の上を歩いていた。国道の上を跨いでいるだけあって、足下のすぐ下には信号が近いのもあり、渋滞でほとんど動いていない自動車が無数にクラクションを鳴らし続けていた。それに引き替え、数人しか利用していない歩道橋を行く彼は、多少の優越感に浸りながら身に付けていたウォークマンのボリュームを上げ、歩道橋の階段を下りていった。
耳の奥深くにある鼓膜に、ポップの混じったロックバンド系の曲が大音量で響いていた。軽く頭を上下左右に揺らし、リズムにのりつつ足を帰路に沿って運ぶ。周りの人々から見れば、“ノリノリの若い学生”的な感じなのであろうか。そんな事を考えながら、コンビニや服屋など色々な店が連なって建ち並んでいる街道を行く。血を零したような真っ赤な夕焼け。もうすぐ暮れる太陽の光が眩しく店々のガラス窓に反射していた。洋食店の前を過ぎると、夕食ラッシュの客に備えて食材、料理の準備をしているのかなんとも美味そうな匂いが漂ってきている。香ばしい香りに、無意識の内に唾液が口内に溜まってくるのが分かった。
高校生で、しかも現在食べ盛りである彼が高校で食べる昼食に満足する事はなく、下校時になると決まって腹が悲鳴を上げる。コンビニに立ち寄って菓子パンの一つや二つを買い食いしたいのは山々なのだが、金欠によりそんな行動には移る事ができない。食欲というものを紛らわすように、無理矢理に音楽に浸る。それが、彼の下校時の現状である。
ふいに、電気器具屋の店内に視線を奪われた。薄いガラス一枚の先に広がる狭い店内には、最新の薄型テレビが大小様々に並べられていた。値段はとてもではないが彼が購入できるような数字を示してはいないが、彼が興味を持ったのは商品のテレビではなく、その画面に映し出されているニュース特報なのであった。
『――――えー、次のニュースです。先日、×××に住む、四十代の女性が自宅付近で死亡していたのを近隣住民が発見しました。女性の身体には無数の切り傷があり、その傷の形から女性は――に襲われた可能性があります。現場の×××地区では、数日前新たな“異世”の出入り口が発見されたばかりで、犯行を犯したであろう――は、その出入り口から侵入したのではないかと思われます。なお、まだ――は確保されていないので、現場付近の住民の方は充分注意をして下さい。えー、続いては――――』
綺麗に整えられた黒髪のショートヘアーの女性――ニュースアナウンサーが、淡々と昨日今日に起こった事件を言葉にして並べていく。トントン拍子で次々と述べられていくニュースだが、冷静に考えるととんでもない事件ばかりだ。ウォークマンを身に付けている彼でも、画面下に表示されているニュースの内容を表したテロップと、流れる映像を見ることで、ニュースの内容は理解できた。
殺人レベルの凶悪なニュースでも詳しい事を説明してはいなかった。
警察庁の調べでは、ここ数十年の内に殺傷事件の起こる率が急激に増加している事が判明しており、あまりにもその件数が多いためそれぞれの事件の詳細を述べる時間が、各番組にはないのだ。限られた時間内で番組を完成させなければいけないのだから仕方がない事だ。そして、ニュース番組の中には放送する事件そのものをすり減らし、その分事件の詳細を述べているものもある。
殺傷事件が一日に報道される件数は、今では平均して四十件程度である。しかし、その数はあくまで国内での数値なのだ。この大陸、いや、この星での一日の死者は何人になるのだろうか。そんな知識は持っては居ないが、そんな事に思考を巡らさせているうちに、彼はある本屋での立ち読みした本を思い出した。
数を数えよう。数を数えよう。
一、二、三、四。
さあ数えたかい? 今、この瞬間。この星で十人もの人間が死亡したんだよ。
そんな文章が、並べられた本だ。
殺傷事件が増加しはじめたのは数十年――五十年程前の事だ。そして、何故五十年前から殺傷事件が増加し始めたかの理由は既に調べられていた。理由としては、その“五十年前以前にはなかったものが世の中に広まった事”だ。それは、小学校低学年の子供達が学ぶような常識の知識なのである。
「――…………」
ふいに、幼い自分が脳裏に映った。
背は今の半分以下。髪は黒い。目は大きい。
あどけない表情をした幼い自分――少年が指をくわえてすがりついている、深緑色のコートの裾は小さい少年の隣にいる男が羽織っているものだ。「もう、人々が殺人に対して心を痛めなくなる日は近いのかもしれない」と、その誰かが言っていた。
今では、その誰かがどんな顔をしていたのかすらも思い出せない。ただ、その時の表情が悲しそうだったような気がする。この小さな身に向けられていた誰かの瞳は少年を捉えて離さず、その眉尻は下がっており口角は上がり、切ない笑顔を残していた。
現実に視界が戻り、潤んだ目をこすった。どうやら目に虫が入り込んだらしい。未だに瞼の下側で生きている小さな虫がうごめいているのを感じた。こうなると本当に気持ちが悪いのはほとんどの人が経験済みだろう。同時に、独特の痛みが目裏にはしった。
実際、ニュースで放送されている事など一瞬興味を湧かせてくれるだけで、数分後には記憶からデリートされる。どんな残忍な事件であろうと、映画を見るような感覚なのだ。その時には小さな感激や痛感を伴うものの、すぐに頭のメモリーからは消え去る。一時的な哀れみなど、テレビ画面に映し出されている被害者の遺族も求めないだろう。
◆ 一話
IF 変えられない未来があるとしたなら
IF 変えられない君がいるとしたなら
手を伸ばして 血を拭って 壊れても追うよ
愛している 愛してくれた日々を
君に捧げる 歌を 歌うよ
紡いでいくよ 永久届けと 歌を
本日何曲目だろうか。ちょうどこのウォークマンに入れてあったアーティストのアルバムの一曲が終わろうとしていた。
数分前に歩いていた街道とはうって変わり、今彼が足を進めているのは何か素朴な雰囲気を漂わせている住宅街の細道である。石を切り抜いたブロックを積み上げた塀が彼の歩く道の両側に建っていて、各家庭では夕食タイムなのであろう、にぎやかな笑い声が時折聞こえていた。そんな小さな笑い声が聞こえたのは、ちょうどウォークマンの充電が切れてしまったのが原因らしい。何故、と記憶をさかのぼると、一週間前に充電をして以来一度も充電していない事に気が付いた。「ああね」と相づちを打つと、彼はしぶしぶ耳から白いイヤホンを抜き取り、そこから本体へと伸びるコードを鬱陶しく思いながらも丁寧にそれを本体に巻き付け、担いでいたスクールバックの外側ポケットに収納した。
スクールバックは濃い青色で、角はすり減り既にオンボロ。彼の通う高校の友達に落書きされた痕跡も残っていた。だがそんなバッグを買い換える金すらも彼にはなく、毎日の食事以外に物を買うのは滅多になかった。
人工的に染めた灰色の短髪を掻きむしった。先程ケータイで見た記憶によると、現在の時刻は午後六時頃だったはずだ。夕食時が早い家もあるものだな、と思いながら視線を笑い声のする家に向け、すぐ後にはそのまま帰路に視線を戻した。
真夏であった八月に比べるとだいぶ日照時間は短くなっており、六時現在の今は少し薄暗い。だが、体感温度は未だに下がった感じはしない。
◇ ◇
ふいに、頭の上を何かが横切った気がし、彼は少し黒みがかってきた空を見上げた。そして、見上げてすぐに気付いた。彼の頭上を通過したのは一羽の小鳥だ。彼の視線の先には弧を描きながら飛ぶ小鳥がいた。
夕暮れ時の薄暗さのせいで、なんという名の鳥なのかは分からず、小鳥の黒い影だけが確認できた。寝床へ帰る途中なのだとうかと、そんな呑気な事を考えながらぼんやりと遠ざかっていく鳥を目線だけでしばらく追っていたが、そんな自分に何をしているんだと一人ツッコミを入れる。そして、無意識の内に止まっていた足を前に出した。腹が減っては戦が出来ぬ。という言葉が何故か頭に浮上していた。
西の空は紅いままだったが、その明るさを浸食するように東の空からは夜の暗闇が迫ってきている。ちょうど夜と夕方との境目のようだ。あまりの空腹に若干涙目になりながら、足を急がせ彼は自宅であるアパートへと駆けていった。
しばらく先程の道をまっすぐ進み、数十メートル先には河川を確認できるぐらいの十字路を、車が来ないか一瞬注意を払った後に左の道に曲がる。そこに、彼の住むアパートが位置していた。
鉄筋造りで、耐震強度は不明。壁の表面はブツブツとした白い塗料で塗られており、ところどころ剥がれ落ちている。元は白かったのだろうが、今では剥げかかったベージュといったところであろうか。屋根は同じく剥げた赤茶色をした鉄板で、太陽に長年さらされていたせいか、パキパキとひび割れたそれが各部屋のベランダ付近に落ち溜まっている。ひっくるめると、ぼろいのだ。
四階建てであるこのアパートは外見通り古く、五十年程前に造られたものなのだそうだ。また、河川とは平行になるように建っており、玄関側には電車が。一畳程のベランダ側には河川の風景が広がっていた。室数は一階につき五室という計算で二十室である。
親子揃ってこのアパートに住んでいる家族は少なく、ほとんどは大学などに通うため一人暮らしをしている若者達だ。そんな学生がこのアパートに住まう理由はやはりその家賃の安さにあった。何故安いのか。それは、玄関側すぐに行き交っている電車の通過時の騒音や揺れ。そういったものだ。
彼の住まいはアパートの三階に位置しており、そこまではアパートの外部に突き出た階段を上って移動する。階段は、玄関側、ベランダ側を行ったり来たりしてる内に上るような造りになっており、一つ階を登るのには二度階段を登る計算になる。
彼は自室の前に立つと、持っていたスクールバックの外ポケットから錆びた鉄の鍵を取り出し、取っ手のくぼみに差し入れ半回転させた。ガチャッという聞き慣れた音をたてると、彼は肌色をした鉄製のドアを押し自室に入って行った。と、その時。
「……ん?」
ふいに、スクールバックの中からブブブ、ブブブと、マナーモードにしたままであった携帯電話が震えている事に気が付いた。しかし、どうせメールだしすぐに鳴り止むだろうと思い、彼は携帯電話を取り出さずに玄関にスクールバックを投げるように放り投げると腰を下ろし、窮屈な紐靴を慣れた手つきで脱いだ。
が、携帯電話の振動は今だに止まない。
――通話かいっ!
瞬時にそう判断すると、彼は軽く慌ててバッグから携帯電話を取り出した。何度も落として傷まみれにしてしまったいかにも男子らしい携帯電話である。携帯電話を空け、その発信者を確認。すると、そこには見慣れたある人物の名前が記されていた。
通話のボタンを押すと、彼はため息混じりの声で「……もしもーし」と言った。すると、
『海飛ーっ! おまえまだ帰って来ねーのかよ! 今どこほっつき歩いてんだこの野郎!』
「っさいな俺を中耳炎で殺す気かっ! 今帰ったとこだよ!」
体育の教師が運動場で遠くの生徒に向かって吐く大声を連想させる通話の相手は、さもかし彼の自室にいるような口ぶりである。しかし、その通話の相手は彼の自室には居ない。正体は、同じアパートに住む隣人様であり、既に声変わりを済ました大学生様である。
彼――海飛と呼ばれた彼は携帯電話を顎と肩で挟むと、苛ついた表情をしながらスクールバッグを持ち上げ自室のソファーへと向かい、そこに再び投げた。
『遅いんだよオメエは。こっちは海飛が腹減ってるだろうと思って晩飯の準備してやってるってのに』
「うわ珍し。アンタ料理とか出来たんだ」
『なめんじゃねーよ。カップラーメンとチャーハンなら任せろってんだ』
「それ、湯う入れるか、炒めるしか出来ないじゃん」
『そんだけ出来れば人間生きて行けるっての』
ハハハと同時に二人笑い声をあげると、海飛は断りもせずに通話を切り、十五畳ほどの長方形型をした縦長の部屋一室だけの自室にポツンと置かれた、小さな冷蔵庫を開けた。彼の身長の半分程度の大きさがない冷蔵庫は冷蔵庫と冷凍庫の二段になっている一般的なものだ。下の冷蔵庫の中には、何日か前にコンビニで買った二リットルのコーラが入っており、それを取り出すと海飛はそれを口にくわえ片手でラッパ飲みをした。ゴクッ、ゴクッと、勢いよく音をたてながら喉に泡のはじける爽快な冷たさが通りすぎる。真夏なので、帰宅時には何かを飲まなければやっていられないのが現状である。
喉を十分に潤わせると、彼は大きく息を吐き出し、蒸し暑い自室を見渡した。ここに一人暮らしをしている海飛はこの春高校に進学したばかりの学生である。親は海外で働いており、結構儲かる仕事をしているのにかかわらず月に一度の仕送りは家賃と最低限の生活費のみ。おかげて、彼の部屋は一見整理整頓のゆきとどいた綺麗な部屋に見えるが、実際の所物資が乏しいだけなのである。小さなプラスチック製の服入れ棚に、同じくちんまりとした冷蔵庫。そして、ステンレス台の大きめのベット。部屋の中央に無雑作に置かれている折りたたみ式のパソコン。あとは、百円均一ショップなどで買ったインテリア。そんなものしか海飛の部屋には置かれていない。大体は黒を貴重としている部屋の壁には、彼の好んでいるバンドのポスターなどが貼られている。
水道やコンロなどといったダイニングルームはなく、リビングと同化しており、バスルームは三畳ほどだが一応設備されている。
一息つくと、彼は飲みかけのコーラを片手に自室を出、鍵を掛けることなく一階上の四階に位置する先程の電話の相手の部屋に向かった。
◇ ◇ ◇
「チョリーッス」
「お、来たか海飛。あがれよ」
「もうあがってる。うは、クーラーガンガンじゃん涼しー」
「ハハ。お前より一時間ぐらい前に俺帰って来たもん。今日はバイトないんだー」
ご近所様である男の部屋は、海飛と同じ造りのはずなのにどうにも圧迫感があった。理由としては、男の部屋の壁際に並べられた、漫画がつめられてギュウギュウになっている棚のせいなのであろう。フローリングの上には真っ赤なジュータンが引かれており、床一面には雑誌などが散りばめられている。中央には低い炬燵布団のかけられていない正方形の机が置かれており、その上にはかろうじて何も置かれては居ない。
海飛はコーラをぐびぐびと飲み続けながら、通行に邪魔な雑誌を足で払いのけながら炬燵机のそばに腰を下ろした。そして、先程の自分の部屋と違い、とても快適な涼しさの男の部屋にうっとりとした。
キッチンに立つ男の背を見ると、彼は電子レンジで何かを温め直しているのか片足で貧乏揺すりをしていた。
「やっぱり今日もチャーハンなわけだ」
「おお良くできました。なんで分かった」
「臭い、するし」
「ん〜。俺は作る前からここ居たからな〜。よく分からん」
海飛はクンクンと鼻で臭いを嗅ぐ仕草を大袈裟にした。
レンジで温め直した炒飯は、決して旨くはないだろう。しかし、彼ら二人は朝、夜の二食は共に摂っていた。理由としては、彼らはどちらも学生であるので、“金”がないこと。なので、少しでも食費を浮かせるために食事を共にしているのだ。いっそ同居にすればいいのだと、そんな話も挙がったが、海飛はそれを拒否したので、今のような生活を送っている。
海飛はレンジの出来上がりサインの音を待つ間、持っていたコーラの蓋を閉め、通学時から着用したままである制服の襟元を上下させた。すると、クーラーで冷えた空気が暑苦しかった胸が心地よく涼み、幸せな気分に浸る事ができた。海飛の制服は至って普通なもので、上着は半袖のシャツ。下は、黒い長ズボンである。そのうちに、ピッピッピという一定のリズムでの電子音がレンジの方向から聞こえた。どうやら夕飯の炒飯が温まったという、待ち望んでいた瞬間が訪れたようだ。大袈裟のようだが、海飛の腹はそれほどまでに空いていた。
「へい、待ちどーい」
男はそう言い、炒飯が山のように盛られた二つの皿とスプーンを器用に担ぐと、おぼんを使用せずにこちらにそれらを運んできた。そして、ドスンという大きな音をたてて海飛がついていた炬燵机に皿を置き、自分の座る場所の雑誌を払いのけるとそのまま海飛の向かいに腰を降ろした。
「いただきます」を言わず、そのまま海飛はスプーンを手に取りほかほかと蒸気を漏らす炒飯の山を、勢い良く崩し、そのまま流し込むように口にかきいれていった。
(第一話 途中保存)
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2008/04/11(Fri)18:32:38 公開 / 茜丸
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■作者からのメッセージ
現実物、学園物共に初めてです。
ジャンルは、近未来 現代 魔法 といったところです。
では、よろしくお願いします。