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『エイプリルフール感染症』 作者:かくらく / 未分類 未分類
全角3789.5文字
容量7579 bytes
原稿用紙約10.5枚
岡田四十三(おかだ・よとみ):不思議な体質を持つ女の子。引っ込み思案で、男ぶりな性格。服装は常にボーイッシュ。*宇流麻一颯(うるま・いっさ):岡田の友人。楽天家な男の子で、岡田のことを未だに男の子だと思い込んでいる。

 カレンダーに書かれた日付を眺めながら、「今年も、この人生最悪な日が着てしまった」と心の中で呟く。
 これがなんの意味を示しているかわかるか? カレンダーを日付を目の前にして、俺がこんなにも鬱な気分なのは誰のせいか。
 4月の頭、4月1日といえば世間的に知られている嘘をついてもいい日。
 つまりエイプリルフールだからである。

【エイプリルフール感染症】

 この期間中に軽い嘘をついていい有効期限は4月1日の午前中と決まっているらしい。この日一日を単なる軽い嘘で乗り切れるほど俺は甘くはない。何故だかこのときになると必ず身体の調子が悪くなる。
 そもそもエイプリルフールを訳すると四月馬鹿。単なる馬鹿な行いが仇となり、不幸な出来事につながっているだけなのかもしれない。だが、単なる馬鹿というだけで重い病に魘されるなんて何かの間違いだと思わないだろうか。馬鹿は風邪を引かないって言うのは風邪をひいても馬鹿だから気づかないって意味で、実際は風邪ひいてるんだよ。同じ馬鹿でも、四月馬鹿は根本的に違うと思う。
 エイプリルフールとは「日ごろの不義理を詫びる日」という事で日本では言い習わされているが、実際、エイプリルフール、通称・四月馬鹿の起源は明らかではなく、いつ、何のために習慣づいたのかが不明なのだ。

 世の中は何が起こるかわからないから怖い。だから外には出ない。そういう空気見たく軽すぎる感覚だけで、外出を拒否してる一部の引きこもり諸君。君らに俺は負ける気がしない。まあ、張り合う気もないけど……。
 本来なら学業があるはずの平日。季節ごとのイベントがあっても、学業優先にすすめる全ての学校。時々、インフルエンザで学級閉鎖になる学校。目覚まし時計のベルの様にうるさく鳴り響く、熱血系教師のどうでもいい説教。腹が下って、タイミング悪く落ちどころを間違えた俺の体調で耐え抜く戦場。
 長い、長い、リアルな昔話。タイムリミットが迫り来るお腹の中の溜まり水と何かの塊。長時間耐えて、耐え抜いて、やっとのことで駆け寄れる天国への扉。長々しくまたされる、地獄への時刻。何ならいっそうのこと、学業なんて止めてしまえっ。というのは難しい切り捨て方なので、あえて選ぶなら「すみません。急に足を捻挫したので、学校休みます」という仮病の電話。
 15年間しょっちゅう続けてしまえば、立派な仮病マスターだ。言われてもあまり嬉しくはないが、休んでいるうちに本気で熱が出てきたりする事が時々ある。その時は仕方ない。60分間の休憩だ。だけど、長時間寝すぎて逆に寿命が縮んでしまうとなったら、自分で自分の人生無駄にしてる。
 この場合、とりあえず……暇だから調べ物するかあー。って、軽い気分で買い集めた本が千冊を超える勢いで、いつの間にか固まりこんでしまい玄関先まで放置されている。最近、読んでいない何冊かは玄関先に置かれていて、ついこの間から読み始めた何冊かは、一枚の敷布団を囲むように散らばっている。一目見れば、ただの倉庫だ。

 生まれてからこの方15年間生きてきた中で、度々回ってくる4月という悪夢に何度襲われてきたことか。我が子のことなのに我が子の体質も知らない両親は4月になっても、いつもと変わりなく平然としている事が唯一の悩み。ある意味、引きこもりになっているようなないような……。
 信じてもらえないことが嫌だ。自分の好きなように成らないと嫌だ。1月から3月下旬までが何だかやる気がしなくって、何もかもが凄く面倒くさいと感じる俺でも、4月1日以降は出来るだけ外に出ようと決めている。こんなんじゃ、ただのプー太郎と同じだ。
 外は時間が経つに連れて姿語りを変えていくものがあり、十人十色の声が響く。人は時代と共に変わっていく。ただの引き篭もりになった俺は時が止まったまま。多分、それが原因と思われる。一応、自覚はあるのだが外にはさまざまな病原菌が充満している、汚れたくない云々で外出を拒む俺には当然の様に天罰が下された。
 しかも決まって4月1日の午前中と来る。運が悪ければ、丸一日かそれ以上。今まで出もっとも最悪だったのが、外には一歩も出ていないというのに正体不明の病原菌に感染してしまい、近所の大学病院で長期入院。因みに11週間の入院生活だった。退院した後日、賞味期限切れの牛乳を飲んで腹痛を起こす。幸い腹痛だけだったので病院送りは免れた。ただ便秘が……ううううっ。次の日の翌日、女の子特有の痛みが腹に響き渡る。……あ、それは違うか。――そして今年の今日。何が起きるのか俺にとっては推測不可能であり、スリリングな一日となる可能性が大きい。だから迂闊に手が出せないのだ。
 この苦しみを少しでも軽くしようと、友人や両親に「今日、具合が悪くて入院してる」「腹が壊れそう」とか決して中途半端な嘘ではないのだが、この事を友人や両親に話してみる。すると流石に、世間が4月1日というだけあり「それって、嘘だろ?」という様な感じに笑い話になるか、「何度も同じネタに引っ掛けようとする魂胆がわからねえ」という様な感じに相手にされないかのどっちかである。
 真実だというのに誰も信じてくれない。これじゃまるで狼少年だ。ついでに15年間も長い付き合いの俺を未だに男だと思い込んでいる友人は友人じゃない。ただの雑用係りだ。
 女の子特有の苦しみに魘され、思い思いに頭だけをフル回転させているその最中。プルルルル……――部屋の電話が鳴ってる。ああ、今日もまた始まってしまうのか。渋々ベッドから立ち上がり、のっそりと歩き出した俺は部屋の隅に設置された手持ちの子機に手を伸ばして電話に出る。
「はい、岡田です」
『あっ、岡田? 今、どこに居んの?』
「……家だけど」
『今さ、僕。秋葉原に居るんだけど! 人間型ゴジラが出現したって、スゲエ事になってんぞ!』
「………。……嘘なんだろ」
『……チェ。な〜んだ。……結構、萌えると思ったのになあ』
 俺――岡田四十三の家に、自称・4月の風と名乗る宇流麻一颯が携帯電話から、毎週の様に岡田家の電話にかけてきた。お互い変わった苗字と名前で世間的にも知られている。ちょっとした有名人気取りだが、大して容姿は変わらない。一颯は毎年、必ず岡田家に電話をしてくる。そのため毎年のことの様に、こちらの怠さを半ば鼻で笑いながら電話口で言ってくるのだ。機嫌が悪いことには変わりないが、怠い時に改めて言われると嫌味にしか聞こえない。
「俺を混ぜるな」
『ていうか、いつものアレ。言わないの?』
「………は? いつものって?」
『いつもの”具合が悪くて入院してます”って』
「‥おい。今、お前がかけてるこれは岡田家の家電だよな?」
『うん。そして僕は携帯電話からだよ』
「なら、問題はねえだろ」
 今、こうして電話口で喋っている。エイプリルフールだから、それなりの話題で会話は進んでいく。もう、こうなったら感染の始まりだ。俺はこれを『エイプリルフール感染症』と呼んでいる。新年度の4月に入学・入社した新人に、5月頃になると現れる精神の不安定状態をいう五月病という言葉があるらしい。5月秒の一歩手前なのか、もしくはご先祖様関連なのか、4月1日のこの日に限って具合が悪くなるなんて絶対におかしい。何らかの因縁でもあるのか。やはり4がつくものは「死」を意味するからなのか。
『でもさ、もしエイプリルフール自体が嘘だとしたら、どう思う?』
「そうしたら、ありがたいな」
『ありがたいって……今日が本当の4月だったら、また入院しちゃうとか?』
「御名答」
『ていうか、それって単に4月が嫌いだからじゃないの?』
「嫌いだから具合が悪くなる。とでも、お前は言いたいのか?」
『うん。それしか考えらんない』
「そうか。なら、勝手にしてくれ。そう思われる分には、俺のほうも構わないから」
 未だに原因は定かではないが、一颯からのエイプリルフール感染の風は止まることを知らない。呆れた声で早めに電話を切りたいが為に対応する。対する一颯の調子から察して会話を切らすつもりはなさそうだ。会話は途切れることを知らない。
 性もない会話で長時間。多分、この電話の意味はエイプリルフール限定とされた「軽い嘘を誰かに試す」という一口程度の話だと思うが、ちょっとした嘘をすぐに見破られ笑い話になり後はたわい無い話で2時間半くらい延長するだけの会話が続く。――今年のエイプリルフール感染症は「電話口から離れられない病」というしつこい病気なのかもしれない。

 結局20分間喋り明かした岡田と一颯は、そろそろ終わりにしようか? って事で、二人は同時に電話の通話を切った。
 携帯電話を耳元から外すと視線を携帯電話から離して公園の中に目を向ける。そこでは撮影を終えたばかりのゴジラ――もといゴジラの着ぐるみを着ていた役者が頭を被り物を取った状態で、水分補給をしながら休憩を取っていた。しかも中身はオッサンではなく美青年だった。
(……本当なんだけどなあ……。人間型ゴジラ……)
 その後の一颯は手持ちの携帯電話に内蔵されているカメラ機能にモードを選び公園の入り口に突っ立ったまま漫然と人型ゴジラにピントを合わせて、パシャリと撮影した写真メールを後日、岡田に送りつけたという。

【終わり】
2008/03/31(Mon)14:28:21 公開 / かくらく
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■作者からのメッセージ
お久しぶりです。もうすぐ4月ですねー。と、いう事でエイプリルフールに因んだ話です。
4月1日には間に合わせたいものです。
また今後もよろしくお願いします。
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