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『私の仕事は』 作者:ねやふみ / ショート*2 リアル・現代
全角3196文字
容量6392 bytes
原稿用紙約9.95枚
一方的に悪くなる世界情勢。地球環境も悪化をたどる一方。そんななか、『私』の仕事は一体どうなる?

「起きる時間ですよ〜。起きろ〜!」
 私はけたたましく鳴り響く目覚まし時計を止めようと手を伸ばした。と、突然私の布団を誰かが剥ぎ取る。
「起きろっ!」
 さっきから起きろ起きろと連呼していたのは目覚まし時計ではなく、私の妻だった。もうすでに格好は普段のパジャマではなく、よそ行きの格好になっている。
「ん……あと、二年ぐらい寝かして」
 と布団を取り返してまた丸くなる私に、妻は容赦なく蹴りを入れる。
「馬鹿なこと言ってないでさっさと着替えなさい。もう仕事の時間ですよ」
「馬鹿なのはお前だ。前のニュース見たろ? 当分私たちは休業さ」
 アルマジロの体勢のまま、私はモゴモゴ言った。それに対し、妻はこう反論する。
「残念でした。ついさっきのニュースで中止が取り消しになったわ」
「ホントか?」
 その言葉に私はついつい飛び起きる。
「みたいよ。今、お偉いさんが会見やってる最中だからテレビ見てみたら?」
 その言葉に促され、私はベッドから這い出て、起き上がるとリビングへと足を運んでいった。

 ときは二五〇〇年。世界情勢は悪化する一方であり、五百年前から常に悪くなっているといっても過言ではない。
 爆発的に増えていた人口もいつしか頂を見せた後に、急激な低下現象を見せていた。十二億。それが今の世界人口だ。
 昔はもっともらしく叫ばれていた環境問題も今では、誰も見向きもしない。改善されたわけではない。もう改善しようがないほどのダメージを受けている。ただそれだけだ。
 世界各国の関係も最悪とはいかないまでも、とても友好的とは言えないような状態である。

「で? 中止が中止と、誰がいったんだ?」
 私はリビングでコーヒーをすすりながら呟いた。妻は怪訝そうにテレビに見入っている。
「おっかしいわねー。ついさっきまで取り消しの発表やってたのに。あ。でもほら、コメンテーターが朝三暮四の対応は国として情けないってほらほら言ってるじゃない」
 妻はテレビの画面を指差して言っている。私はコーヒーを飲み干したマグカップをテーブルに置きながら言った。
「別に経過なんて関係ないだろ。最終的にやるのかやらないのかはっきりしてもらえればいいんだから」
「今の世界情勢考えれば無理もないわ。前回の私たちの仕事が上手く言ったのも本当に奇跡に近いぐらいなんだから。ちょっとー、飲み終わったカップ片付けてよ」
 私は妻に言われて折角手放したばかりのマグカップを流しへ持っていく。
 その時だった。
「ああっ! 来て来て! すごいことになってる」
 時々テレビの内容に興奮する妻だからそんな大したことではないだろうとリビングに戻ってテレビの画面を見たとき、私は驚愕した。
 今年の私の仕事場である日本で大規模な内紛が発生。大人数の死傷者が出ているという。
「これじゃ……仕事どころじゃないわね」
「いや、まだわからない。二百年前も似たような状況下が仕事場に設定されていたけど、無事に開催されたじゃないか」
 私は、落ち込んだような妻にそっと言葉をかけた。妻は私と同じぐらい、もしかしたら私以上に自分や自分の仕事に対して誇りを持っているのかもしれないと時々思うことがある。仕事ぶりは私ほどの注目は浴びることはないが、それでも私と彼女の仕事は対象者が違うというだけで、内容は極めてイーブンに違いないのだ。
「ちょっと、日本に行ってくるよ」
「わかったわ。気をつけてね。私も後で行くから」
「ああ」
 私は鞄を持った。

 戦場と化した日本は前回私が訪れたときとはまるで違っていた。
 廃墟と化した都心。崩れたり、粉々になったビル。薄汚れた空。行き交う人々の手にはそれぞれ武器が携えられており、あちこちですぐさま惨い銃撃戦が繰り広げられていた。
 私は、十数人の日本人とともに駅の構内に隠れていた。彼らは全員、避難者ではなく戦闘員だった。しかも全員が二十歳に満たない学生である。中には女子高生や、小学生も混じっている。
「君は逃げた方がいい」
 丸刈りの日本人が女の子にそう言った。女の子は強い調子で言い返す。
「いや! タカユキが一緒じゃなきゃいや! 」
「アキコ。俺は君に死んでほしくないんだ」
「私だって、タカユキに死んでほしくない! そんなのわかってるでしょ!」
 恋人同士だったのか。私はその二人のやり取りを聞いていたたまれなくなってしまった。
 なぜ、年端もいかない少年達がこんな目に合わなくてはいけないのか。
「そんな顔するなよ」
 タカユキがアキコの頭をくしゃくしゃっと撫でる。
「これ。アキコに預けとく」
 少年が少女に渡したのは野球ボールだった。
「こっから脱出したら、絶対に取りに帰ってくる。だから、待っててくれ」
 どうやら、私がこの少年に感じた縁というのは間違いないらしい。このご時世でなければ、彼は私の仕事のお得意様になっていたはずなのだ。

 なんてことだ。こんな事が許されていいのだろうか。若き卓越された才能が戦争によって、その芽を摘み取られてしまう。私は混乱した今の世が大嫌いだった。すべてを理不尽にも消し去るこの世が大嫌いだった。もし、世界中が手を取り合えるのならば私の仕事はもっと有意義になるだけでなく、世界中の人々にも忘れがたいようないい事として記憶されるだろうし、それが結果として世界の関係を円滑にする事にも繋がるのに。

 その時だ。
 ズンッと地響きがして駅の構内が大きく揺れた。
「アキコ……行け」
 タカユキは静かに呟いた。アキコが頷く。
「敵襲だ! みんな構えろ!」
 階段の上の方から怒号が響いた。周りの人間が一斉に身構える。もう一度ズンッと地響きがして、パラパラと上から小石や埃が降って来た。
「タカユキッ! 大好きだから!」
 アキコはそう言って走り出した。ニカッと笑ってタカユキは手を振る。彼女が見えなくなると、タカユキはそっと呟いた。
「アキコ……ごめん。多分……もう会えない」
「来たぞーーっ!」
 その叫び声とともに構内の人間は全員立ち上がり、雄叫びをあげながら、階段を駆け上がっていった。続いて鳴り響くたくさんの銃声。最後に大きな爆音が辺りを支配して、物音は一切しなくなってしまった。

 夕暮れ。私は廃墟となったビルの最上階でズタズタになった町並みをぼんやり眺めていた。ひとりではない。側には私の妻がいた。
「静かになったわね」
「一時休戦ってところだろう。すぐまた騒がしくなるさ」
「どうして、人間ってこういう騒がしさが好きなのかしら」
「別に好きでやってるわけじゃないだろう」
 私はタバコに火をつけながら言った。妻は負けじと言い返す。
「いいえ。あれは好きでやってるに違いないわ。じゃなかったらこんな世の中になるはずがないもの」
「きっとしょうがない事情があるんだ」
 私は煙と言葉を同時に吐き出すと、妻はさらに言い返す。
「いいえ。しょうがなくありません。大体、争うのが好きなら私たちの仕事上でたっぷりやればいいと思わない?」
「私たちじゃ解決できないような大きな問題なんだろう」
 私はもう一度煙を吐き出す。妻もまた意見を述べる。
「そこよ。いっその事政治の事とか戦争じゃなくってスポーツかなにかで決めればいいのよ。世界も平和になって万事解決だわ」
「ははは。そりゃいいな」
 私はそう言ってタバコをもみ消した。
 すると、どこからだろう。ラジオのニュースがかすかに流れてくる。
「本日、今年度東京オリンピックが正式に中止が決定いたしました。アホンダラ理事長は、誠に遺憾であるとし、各国に対し、中止の反故を求めるよう提案しました」
 そのニュースを聞いて、妻はため息をこぼした。
「中止だって」
「そのようだな。ま、私たちは祈るしかないさ。来年は開催されるようにな」
「そうね。願わくば、私たちオリンピックが来期こそ開催されんことを」

2008/03/26(Wed)18:12:21 公開 / ねやふみ
■この作品の著作権はねやふみさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 どうも、初めましての方が圧倒的に多いと思われますがとりあえずはお久しぶりです。ねやふみです。
 読み切った方ならわかると思いますが、落ちから膨らませていったこの作品。正直な話、タイトルも作品説明も書きようがない(汗)
 こんな稚拙な文章ですが、最後まで目を通してくださった方に感謝します。読後に一言作品のコメントをして頂ければ、なお幸せです。
 あと、この疑似作品があるようならばそれもコメントお願いいたします。前作が星新一さんの作品と似てしまって削除されたらしいので。前作に盗作の意図がなかったのはあらかじめ言明しておきます。
 あと、紅堂さんへ。パソコンを新しく購入したため、別人と認識されるかも知れませんが僕は『ねやふみ』本人です。
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