- 『僕の春は……』 作者:えぃえむ安堵 / 未分類 未分類
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全角1867文字
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原稿用紙約5.8枚
フリー男とは――中学だろうが大人だろうが、いつだって青春する。
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僕に届く。
大きくなるこの想い。
この手のひらに届く。
大きくなる期待。
夜桜は儚く散った。
[ 春 ]
大きい手と小さい手。一つの大きな縁結び。
仲良くしよう。僕の手と君の手。
夕方の帰り道。手と手をつないで、一緒に歩く。大きな歩幅と小さな歩幅。僕は大きくて、君は小さい。それでも仲良く歩く。
君の手、小さいふかふかの手袋。あったかい。僕の手は素肌、冷たい風がびゅうびゅう吹いてる。
でも、ちっとも寒くなんかない。君のあったかい手に握られてる僕の素手。
さあ、帰ろう。一緒に帰ろう。
陽が沈んでいく。西に沈んでいく。
僕と君は夕日が帰る場所に向かって歩いているんだね。さあ、帰ろう。闇に呑み込まれる前に。大またと僕と小さく歩く君。さあ、行こう。
風が正面からぶつかってくる。僕らは風の中に踏み込んで歩く。歩く。歩く。
言葉なんて要らない。僕らはどんどん歩く。
吹き付ける強い風。冷たい風が木々を揺らす。
ざあざあ。ざわざわ。寂しげな風景の中に音楽が流れる様な感じがした。僕の大きな上着をきみの小さな体には負わせて、僕はまた寒くなる。君は更にあったかくなる。
向かい合う言葉なんてなくて、周りの音だけが僕らを取り囲むよう。
歌おう。さあ、歌おう。心も体もホッカホカ。言葉がなかったから凄く寒い。
声を出して歌えば、ほら。お腹を使って、空高く歌うんだ。歌え、歌え。気持ちよく歌え。僕らは歌う。春よ来い。寒空の下から響く。春よ来い。早く来い。
春を呼び込む僕と君。寒空の下、歩幅は揃わず歩く。歩けば賑やかな町並みが見えてくる。
かっちん、こっちん。ぎくん、しゃくん。凍えた手足がロボットの様に硬くなる。歩く。街中を歩く。西に向かって歩き出した。
知らないうちに桃色の街。知らないことは知らなくていい。歩いていれば、なんどだって訪れる。桃色の街の中を歩く。未成年が早足で歩く。君は僕に縋りつく。余裕な笑みを向けて、君は僕に言った。
「私の家、この近くだから寄っていかない? 今、パパもママも居ないから」
言わざる。聴かざる。見ざるです。僕はそのまま、君の前を通り過ぎて歩く。どんどん歩く。足早に君の前を通り過ぎる。周りを見渡せば桃色一色。
うわああああああああんっ!!!!! 僕は足早に全力で走る。桃色の街の終わりが早く来るように願って、全身全霊で走る。未成年が走る。
ちびっ子の憧れになる予定のヒーローが全力で走る。
……僕はどこで行く道を間違えたんだろう。
***
さんさんと照る太陽。
ずきずきと突き刺さる紫外線。
僕の心は、萎れた漬物の様。
ずきずきと突き刺さるのは何も紫外線だけじゃない。世の中には他人の視線も突き刺さることがある。
昨日の夜に見た悪夢から未だに逃げられていないまま、今日を迎えてしまった。
しかも真冬に感じられた夜中とは違って、今日は炎天下だ。差し込む日差しがコンクリートに突き刺さるように照らしてる道路を海岸沿いに歩く僕。
持つ荷物もなく、財布をすられたまま。何もない僕が、とぼとぼと歩いている周りはにぎやかな声が響き渡っていた。
周りを見渡せば、夏の定番、ぎらぎらと輝く太陽。真っ青な海岸。白い砂浜に、それをかけるビキニ姿の娘。老若男女、関係なく着ているビキニ。よく見ていると、目の保留になるのとならないものに分かれる。たまたま子連れが居たり、フリーかと思って声をかけたらフリーじゃだったり……。唯一、男(特に僕みたいなフリー)の憩いの場所だと思って来たのに……。
なんだよ、この盛り上がりようは!!! くっそう。今にも死にそうなジジイとババアの腐れカップルが居る。もう人間なのかゾンビなのかわからない。
その間にはすっごくかわいい幼い子供が居る。とりあえず……あの子の将来が楽しみだ。
「……目が痛え……」
今年で二十歳を迎える男たち。何度でも生まれ変わる。
花びらの様に散っていく恋を数えて、悲しみの海が広がっている。目の前がにじんで見えない日には、また何度でも生まれ変わる。
生まれ変わって、死んでいく。生き抜くなんて悪あがきは一生もの。悲しくなったら癒しを求めて、生き返る。失恋して落ち込んだら、死んでいく。それを繰り返して生きていく。生まれてから死ぬまで一生。
再生が不可になるまでの間、僕はいつでも一生ものの悪あがき。一生ものの悪あがきは自分自身の精神との戦い。力尽きるまで悪あがき延長戦。
ああ、…今日も僕は生まれ変わる。
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2008/03/27(Thu)20:49:01 公開 / えぃえむ安堵
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