- 『神の力』 作者:千尋 / リアル・現代 ファンタジー
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全角7754.5文字
容量15509 bytes
原稿用紙約25.15枚
毎日変わらない日常を送っていた玖瑠魏麗(クルギレイ)。彼女には幼馴染の鵬來炎(ホウライエン)と会うまでの記憶がない。今日は新学期、何も変わらない平凡な日を過ごしていた彼女の前に現れたのは銀色の青年だった。
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*序章 00【日常】
四月、桜の花弁が春風に乗り舞い踊る季節。学生達にとっては新学期の始まり。
この神乃木市もこの時を迎えようとしていた。
山のから顔を出すオレンジ色の太陽、その光は優しく神乃木市の朝を告げようとしていた。
先ほどまで静まり返っていた町は少しずつ騒がしくなってくる。
新聞を届ける自転車の音、小鳥たちの歌声、目覚まし時計の鳴る音。たくさんの音が町中に響き渡っている。
そして、一軒のアパートからも同等の音が聞こえ始めていた。
音源はニ○一号室、表札には丸っこい独特の字で「玖瑠魏(クルギ)」と書かれていた。
室内では、五月蝿いほどに目覚まし時計の音が鳴り響いていた。
薄暗い部屋の中、布団の中でもぞもぞと動き、細く白い手で時計を止めた。
そして時計を手にゆっくりと起き上がった。針が示す時刻は午前六時。
長い黒髪が滝のように流れ重力を無くし、白いシーツの上に力なく垂れる、まだ虚ろな漆黒の瞳で時計を見つめる少女。
彼女の名は玖瑠魏 麗(クルギ レイ)十七歳。今日から高校二年生だ。
彼女は両親を早くに亡くし、今は一人暮らし。学費は社会人の兄に払ってもらっている。
「ふぁあ…… 今日から新学期か」
小さくあくびをしベットから降りる。大きく背伸びをし、黄色のカーテンを開ける。
その瞬間、待っていたように光が部屋の中に入る。薄暗かった部屋は一瞬にして明るくなる。
麗は眩しそうに目に手を当てて外の景色を見る。
今日も何一つ変わらない町並み。変わるといえば自分の学年だけ。
そうしばらく考え込み、ぱんと威勢よく手を叩く。そして壁にかけてある制服を手にし着替え始めた。
十分ほどで着替え終わり、現在の時刻午前六時十分。
そして白い椅子にかけてあったピンクのエプロンを取り、着ける。それから朝食を作ろうとキッチンに足を運ぼうとしたその時だった。
何かを破壊する音が隣のニ○ニ号室から聞こえてきた。麗はいつものことの様に軽くため息をつきキッチンに移動する。
彼女には音の元がわかっていた、隣の住人であり、麗の幼馴染でもある鵬來 炎(ホウライ エン)だった。彼は非常に朝に弱いため今まで壊された時計の数、およそ二十台。
それになぜか炎は朝食と夕食をいつも麗の家に食べにきている。
彼女は人並み以上に料理が上手いためあまりこの事を気にしてはいない。そして今日も彼が来る……
包丁で野菜を切る音だけが聞こえていた室内にチャイムの音が紛れ込む。そして鈍い音と共に扉が開き少年は現れた。
染めている訳でもないのに赤い髪、そして紅の瞳。
「おはよ〜 麗。今日から新学期だな……」
「そうだね。おはよう、炎」
機嫌が悪そうな顔で麗の部屋に上がりこむ。新学期と言うのに制服はだらしなく着られている。炎の挨拶に野菜を切りながら優しく微笑む麗。
彼女は無自覚だがとてつもなく美人のため高校のアイドルとなっていた。
そんな麗の笑顔におもわず赤面になる炎。そうなりながらも、部屋の奥の二つある椅子の一つに腰掛ける。
「あと十分位で出来るから待っててね」
「おう」
朝一番の他愛もない会話。本当に何も変わらない。炎は鼻歌を歌いながら朝食を作る麗の後ろ姿をじっと見ていた。
そして十分後、テーブルの上には豪華な朝食が並んでいた。トースト、ハムエッグ、トマトサラダにスープ、デザートのヨーグルト。
先ほどまで寝ぼけていた炎の目はこの匂いで一気に輝いた。そんな炎の様子を見てくすりと笑う麗。
「じゃあ食べようか」そんな麗の言葉に「おう」と先ほどと同じ返事をする炎。
そして二人で両手を合わせ、
「「いただきます」」
降り注ぐ朝日のなか、朝食を食べ始めた。
食べ終わった後は二人で後片付けをし、食後のお茶を飲んでいた。
現在の時刻午前七時。登校するにはまだ早い。
此処から学校まではおよそ十五分。家を出るにはまだ三十分の余裕があった。
すると麗は、思い出したように話を切り出した。
「炎、今日部活なかったら放課後買い物がてらどっか寄り道しようよ」
「へ? あ、ああ別にいいよ。どうせ暇だし」
突然の麗の提案に驚いて声を漏らしてしまった。
だが、麗と一緒に出かけることはあまりないため、これは嬉しい提案だ。
口ぶりはこうだが内心、とてつもなく喜ぶ炎。
炎の答えに麗は嬉しそうに微笑んで、「じゃあ決定だね!」と言う麗にやはり顔が赤くなってしまう。そう、炎は麗に恋心を抱いていた。きっとずっと前から、最初にあった時からだろう。
そんな話をしていたらあっと言う間に三十分という時間は過ぎていた。時計の針は七時二十五分を示している。
「時間だ、そろそろ行くぞ麗」
「うん」
二人は足元にある鞄取り、外に出て家の鍵は麗が閉めた。二人は仲良く学校へ向かう道を話をしながら歩く。
そんな二人を屋根から見ている一人の青年がいた。銀髪の長い髪に銀色の瞳、とても整った綺麗な容姿。彼の周りには風に乗った桜が舞っている。
彼の瞳には麗の姿が映っていた。
「やっと会えた、麗……」
その言葉は強い風によってかき消された。いつもと変わらない日常がこの時から狂い始めていた。
*一話 01【記憶】
家を出て十五分後、麗たちが通う神乃木高校に到着した。この学校には樹齢五百年の桜の木が在り、この町のシンボルと言ってもいいだろう。
今日の学校は、新入生が真新しい制服に身を包み、緊張した顔で登校してくる姿を見かける。
校門前には新しいクラス替えの表が張り出されている。この高校は五クラスあり、成績順に分けられている。
なので大体は三年間知った顔振りになることがほとんどで、二人はあまり期待をせず人盛りの校門前に足を運ぶ。
「俺見てくるから麗はここで待ってろ」
「うん、わかった。よろしくね」
わざわざあの人盛りに二人で見に行くのも面倒なので炎だけが人混みの中に入っていく。
その間麗は綺麗に花を咲かせている大きな木に移動し、その幹に手を触れた。木の凹凸の感触とそのひんやりとした冷たさが手を通して伝わってくる。
五百年もの時代の波がその感触によって麗の体の中におしよせるようにも感じた。
麗は目を閉じ、黙って風の音を耳にする。その瞬間、風の音以外の全ての音がかき消された。人の騒ぎ声も車の音も足音も全てだ。
そして視界が真っ暗になる。目を閉じても感じていた日の光が消えたのだ。そんな中、ある男の声が麗の頭の中に響いた。
『麗、思い出して下さい…… 五龍の力が…… 目覚めます』
『……誰?』
聞き覚えのない声に麗は嘆いた。だが、声の主は麗のことを知っているようで、名前まで呼んでいる。
実は麗には幼い頃の記憶がなかった。はっきりとした記憶があるのは炎と出会ってからの記憶だけ。
この人なら自分の幼い頃を知っているかもしれない、そう思った。それにこの声は何処か懐かしかった。
そう思ったとき、ひらりと花びらが舞いはじめ銀色の青年が姿を現した。
視界は暗いのに彼の綺麗な銀髪だけははっきり見えた。しかし表情までは見えない。
『貴方…… 誰なの? 私を知ってるの?』
『麗…… また後で会いましょう』
その時青年は笑ったように見えた。その瞬間、強い風が吹いた。桜が舞い散ると共にその男も消えていた。
彼が消えると、全ての音が再び聞こえてくる、そして自分の名を呼ぶ炎の声も。
麗はゆっくりと目を開き、木の幹から手を離す。
「……青龍?」
「麗?」
彼女はポツリと言葉を発した。心配そうに麗の顔を覗き込む。麗ははっとしたように炎の顔を見て微笑み「なんでもない」と答える。
炎は戸惑いを感じたが取り合えずクラス表の話をした。
「俺たち同じクラスで一組。一緒なのは、真一と美佐あたりだ。担任は新しく来る青堂龍(セイドウリュウ)とか言う奴らしいな、後は転校生が来るみたいだ」
「やっぱり、美佐と真一も一緒なんだ」
どうやら今年もあまり変わっていないらしく、変わるのは担任と転校生、後は教室だけだ。
麗は先ほどの出来事はあまり気にせず炎と共に教室に向かう。
二年一組は三階の一番奥。校舎は屋上、地下を含め五階建てだ。新しくもなく、古くもなく、二十年ほどのつくりだ。
三階には二年の教室は他に一年生の教室があり、二階は三年生、一階は職員室や準備室や実習室がある。
二人は三階の二年一組と書かれている教室の中に足を踏み入れる。
まだ来ている人数は少なく、どうやら二人が一番乗りらしい。綺麗な黒板の中央には磁石で座席表が張ってある。
それに目を通しその席に座る、麗は丁度中央の席で炎はその右隣。左隣には知らない名前が書いてあり、おそらく転校生が座るのだろう。
転校生の名前は、霧原一成(キリハラ イッセイ)。炎は転校生が座るであろう席を眺める。
「転校生どんな人だろうね?」
「さあな、優等生って言うのには違いないだろうが」
期待に目を輝かせる麗に冷たく答える炎。彼は、転校生の癖に麗の隣に座るというのが気に食わないらしい。
壁にかかっている時計の針がそろそろ八時を示す。他の生徒がそろそろ集まりだす時刻だ。
二人が予想していたように、音を立てて教室の白い扉が開かれる。どうやら女子のようだ。
「一番乗り〜! ありゃ? やっぱあんたらに先越されたぁ!」
「だから言っただろう、こいつらは俺らより早く来てると」
最初に現れたのは、二人の幼稚園の頃からの幼馴染の都築美佐(ツヅキ ミサ)と劉堂真一(リュウドウ シンイチ)。
美佐は茶髪に茶色い瞳、真一は青に似た黒髪に青い瞳。この四人はいつも一緒につるんでいる。
美佐と真一は無自覚だが、付き合っているような関係でとても仲がよい。本人たちは違うと言っているが。
二人は座席表に目を通し席に着く。これまた炎と麗の近くだ。
「ねえ、転校生の話聞いた? かっこいいといいね〜」
「やっぱり女はこれかよ…… ったくくだらない」
いつの間にか荷物を置いた美佐は麗に話しかける。話題は勿論転校生の話だ。
美佐の話は真一のあっけない答えにて打ち切られる。そんな四人をよそにクラスの人間が集まって来る。
この学校の始業式は体育館ではやらず、各教室の放送で流れる。なので校長の長話で倒れる生徒は居ない。
それから三十分後、時計の針が八時三十分を示した時、新学期最初のホームルームを告げるチャイムが校内に響き渡る。
この音を待っていたかの様に、すぐに教室の扉が開かれる。席に着いていない生徒は慌てて自身の席に座る。
教室に入ってきた担任は、先ほど麗の脳裏に浮かんだあの銀色の青年だった……
*第二話 02【転校生】
新学期の始まりを告げた最初のチャイム。その音と共に現れたのは、麗の脳裏に浮かんだ銀色の青年だった。
先ほどの姿と違い、長い銀髪を後ろで一つに束ね、眼鏡をかけてさらには黒いスーツを着ている。
服装や髪型は違っても神々しさと美しさは変わらず、一瞬にして女子全員の注目の的となっている。
後ろの席に座っている美佐も惚れ惚れした表情で青年を見ていた。
青年は女子たちの熱い視線を余所に教卓の前に移動すると生徒名簿を置き、白チョークに持ち替え黒板に何かを書き始める。
チョークで文字が書かれるたびに独特の音が教室内に響き渡る。書きあがった文字は「青堂 龍」。
青年はチョークを置くと前を向いて口を開く。
「始めまして、今日から皆さんの担任を務める青堂龍と言います。 一年間よろしくお願いします」
そう言って優しく微笑むと女子たちの悲鳴に近い声が聞こえてきた。周りを見ればほぼ全員が顔を真っ赤にして青堂を見ている。
この容姿だ、それは当たり前だろう。しかしここまで……と炎は考えこみながら青年を見る。
そして麗を見てみる。まさかと思って見てみたらそのまさかだった。
顔は赤くなってないが、硬直し、無表情のまま青堂を見つめていた。まるで、時が止まっているかのように。
(……ったく、こいつもかよ)
さすがの炎も呆れた顔で麗を見つめる。それ以前に嫉妬していたのだ。
そんな炎の視線も気づかずに麗は固まったまま青堂を見つめている。そして近くにいる炎にも聞こえるか聞こえないかの声で呟いたのだ。
「青龍……」
と、炎は不思議そうに「は?」と声を漏らした。その声も青堂には聞こえないだろう。
そんな二人の様子に気づいているのか知らないのか、青年は黙って微笑んでいた。
「……れ「皆さんも知っていると思いますが、転校生が来ています。 どうぞ入ってください」
炎が麗に話しかけようとしたとき、タイミングを窺っていたかのように青堂は喋りだした。
麗と美佐が噂していた転校生が来るのだ。
青堂の呼びかけの直後、教室の扉が開かれる。その音で気がついたのか麗ははっとして扉を見つめる。
炎はそんな彼女を見て、無言で見つめていた。
ついに開かれた扉から現れたのは黒髪で漆黒の瞳の少年。彼は青堂の隣まで来ると室内を見回した。
この少年も青堂と同じくかなり容姿は整っている。
「霧原一成です。よろしく」
「それじゃあ霧原君はあの空いている席…… 玖瑠魏さんの隣に座ってください」
短い挨拶をした一成に青堂は微笑んだまま麗の隣の席を示す。
一成は頷き、麗の隣の席へと移動し、鞄を机の上に置き座った。
「私、玖瑠魏麗。宜しくね、霧原君」
「……一成でいい」
微笑んで自己紹介をする麗に無愛想な返事をする一成。
炎の怒りゲージがたまっていく。その時、後ろの席の美佐が耳元に小声で話しかけてきた。
「何々、彼女奪われて妬いてるの? このままじゃ、転校生に彼女奪われるぞ〜」
「ばっ…… 誰が彼女だ! ふざけんなよ!」
炎は顔を真っ赤にして最後は大声で叫びながら立ち上がった。クラス全員の視線が炎に向けらて、笑われる。
美佐は笑いを堪えるように口元を押さえ、真一は鼻で笑い、隣の麗はくすりと微笑んだ。
最初は驚いたような表情をしていた青堂だったがすぐに微笑み、
「どうしたんですか、鵬来君。急に立ち上がって」
「すっ、すいません!」
炎は顔を赤くしたまま座る。その時、一成の鋭い視線を感じたような気がした。
その後、始業式は何事もなく終わりもう放課後になっていた。
今日は始業式だけで午前授業で部活もなく、生徒たちは続々と帰路へと着いた。
麗たち四人は校門までは一緒だが、その後は別々の方向へ。 炎と麗は街に遊びに、美佐と真一はそのまま帰るそうだ。
「炎、行こう!」
「お、おう」
二人は町へ続く道を行く。此処からバスに乗れば十分ほどで着く。
そんな二人の様子を屋上から見る者が二人。青堂と一成だ。
青堂は束ねていた髪を解き、眼鏡も外していた。一成は彼の横に立っている。
「青龍、あの男が本当に麗様の守護者だと言うのか? 五龍の力を使えるようには見えないが……」
「おそらくそうだ、麗の傍にいるのが何よりの証拠。麗はもうすぐ目覚める、五龍の封印がもうすぐ解ける」
青龍と言うのがどうやら本当の青堂の名なのだろう。二人の視線の先には炎。
青龍は先ほどの温厚な笑顔は何処に行ったのか、凄く冷たい表情で炎を見つめる。
「麗と私は五龍の主。お前は雷、他の三人は時期現れる。そして最後の炎は……」
「鵬来炎…… あの男なのか」
二人の言葉は風の中にへと消えていった。
*第三話 03【運命】
バスに揺れ、十分。ようやく町の地に足を着く。今日は平日と言うこともあって人数は少ない。
天気も良く、遊ぶには十分な天候だろう。麗は気持ちよさそうに両手を空いっぱいに広げ背伸びをする。
心地よいそよ風が、麗の長い黒髪を靡かせる。そんな光景に炎は見とれていた。
「ねえ、炎。これから何処行こうか!」
「え、お前の好きなとこ行けば? 今日は好きなだけ付き合うぞ」
満面の笑みで炎に問いかける麗。少し赤面の表情で炎は答えた。
「了解!」と麗は可愛らしく敬礼すると、突然炎の腕を引っ張り走り出した。
突然走り出したため、炎は少しバランスを崩したがすぐに立て直し、麗の速さにあわせて走る。
麗が選んだ最初の目的地は大きな本屋。本が大好きな麗は炎の手を放し目を輝かせて店内へ足を踏み込む。
炎も麗の後に続き店内に入る。その瞬間、紙の匂いが鼻を擽る。彼はあまり本に興味がないため、黙って麗の後をついていく。
しばらく奥に進むと、二人と同じ学校の制服を着た少年がいた。
本を読んでいるため、顔は隠れて見えないが、制服が新しいためおそらく一年生だろう。
しかし、一年にしては背が高い。そんな中炎の頭の中にもう一つの選択肢が浮かんだ。
「霧原…… 一成」
「え? あ、本当だ一成君」
炎の微かな呟きに麗はすばやく反応する。
そして一成と思われる人物に近づき、肩を優しく叩く。少年は驚きもせずに麗を見る。
炎の予想通り、少年は転校生の霧原一成だった。
「れ…… 玖瑠魏麗」
一成は麗の名を呼ぼうとしたが、後ろにいる炎に気づいたようでフルネームで彼女の名を口にした。
そんな彼を気に食わない表情で睨む炎。
しかし炎の様子に気づかないまま麗は一成に微笑みかける。
「ありがとう、名前覚えてくれてたんだ。 でも麗でいいよ」
「……わかった」
麗の言葉にゆっくりと頷く一成。
ますます気に食わない表情で彼を睨む炎。そして機嫌が悪そうに口を開いた。
「なんでお前がここにいるんだ?」
「……居てはいけないとでも?」
炎の質問に一成は冷たく答え、鋭い目つきで炎を射抜く。
そんな彼に驚いて後退りする。
麗は不安そうに二人を見つめる。
(本当にこいつが炎の守護者なのか……)
一成がそう考えた時だった。いきなり鋭い耳鳴りが彼を襲った。
耳を押さえ跪く一成。急な出来事に驚いたように彼に近づく炎。
いくら先ほどまで敵対していたとは言え、苦しみだした相手は見ていられない炎。そして肩を支える。
「だっ、大丈夫か!?」
「っ…… 何も感じないのか…… それより彼女は、麗様は!?」
急に様子を変え心配そうに顔を上げ、麗を見た一成。
彼女も一成と同じく、苦しそうに耳を塞ぎ座り込んでいる。
なんとも無いのは自分だけだ。救急車を呼んでもらおうとレジに走る炎。
様子が変わったのは二人だけではなかった。レジの男はまるで時が止まったように固まっている。
少し恐怖を覚えた炎、受話器をとり番号を押すしかし電話は繋がらない。
「畜生っ!」
炎は悔しそうに受話器を投げ捨てる。
ふと外を見ると、先ほどまで青く晴れていた空は黒い変色していた。
二人の元戻ろうとしたが、それは麗を抱えて歩いてきた一成によって行動は止まった。
未だに苦しそうにしている麗を壁にもたれかかせ座らせた。
「くそ、青龍早く来い…… 彼女が目覚める前に封印が……」
一成が口にしたその時だった。
入り口の自動ドアが切断され、そこから現れたのは紛れもなく日本刀を持った青堂の姿だった。
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2008/03/26(Wed)11:58:14 公開 / 千尋
■この作品の著作権は千尋さんにあります。無断転載は禁止です。
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■作者からのメッセージ
始めまして、千尋と申すものです。ここに投稿するのは初めてとなります。
文章が未熟で表現しきれないことがたくさんありますが、温かい目で見守ってくれれば恐縮です。
誤字、脱字、アドバイス等を頂けたらかなり嬉しいです。
どうぞ宜しくお願いします。