- 『Who Why』 作者:金色 / リアル・現代 ミステリ
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全角24619.5文字
容量49239 bytes
原稿用紙約80.35枚
青い空の下僕は幽霊になった。なぜ僕が、いつ、どこで殺されたのかをめぐるミステリー。そこで出会う少女とは一体何者なのか。 謎から謎が、答えはいつ出てくるのか。
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Who Why
目の前には青い空。しかし、一瞬でそこは無と変わった。
――僕は死んだ
「ここはどこだろう?」
しかし、帰ってくる言葉はない。そこは暗く、所々不思議な明かりが灯っている。足元までは照らしていない。近くでその光を見るとそれは人の頭蓋骨のような木の作り物の中に不思議な光が浮かんでいる。
それを手にとろうとした時、背後から、耳でなく全身の骨に響く声が聞こえてきた。
「それに触ると、魂を食われる」
いきなりの声に思わず手を引っ込めた。辺りを見回してもその声の主はいない。あたりには不思議な光が灯っているだけだ。また背後で声がする。
「私の姿は見えないはずだ。なぜなら――まぁいい。目をつむれ」
意味がわからない。だが僕はそのまま目を閉じた。かすかに何処かから吹いてくる風を感じることができる。
「おまえは死んだ」
僕が死んだ? 驚いて声を出そうとした。しかし体を動かすことが出来ない。金縛りのような感じだ。そして謎の声の主は続けて言う。
「しかしお前は幸運な事にか、偶然か。まだ死ぬ時じゃないらしい」
そして小さな咳払いをして続ける
「人は死ぬとき、自分の心を他の奴に預けて死ぬ。事故、病、寿命……そして自殺もだ。そして、そいつが死んでまた……と命、心はつながっていく」
「しかしお前は誰にも預けずにきてしまったみたいだ。そしてここに引っかかってしまった。こんな事は希で、続けて二人なんて今までなかった。そして、お前はまだ心を預けてはいない。ここから先に心は持っては行けない。今から時間をやろう。お前が何故ここにきたのか。その謎をすべて解け。そしたらお前を――」
僕の全身の力が抜け座り込む。しかし、床はなくそのまま真っ暗な穴に落ちていった。
そして体が引き裂かれるような声が響く。
「生き返らしてやる」
《Where》
――そして僕は見慣れた町に舞い降りた
僕はいつもの町にいた。太陽は自分の真上にある。一体何があったのだろう。いつもの町だ。いつもの…町……?
周りの景色はどこかおかしい……いや一体何がおかしいのだろう。走る車、点滅する信号、天を覆いつくす電線、周りを囲む商店、すべてが新しく懐かしくどことなく恐怖に満ちあふれた世界。
あれは夢だったのか、それとも……しかしそんなことを考えていると背後から猛スピードで突っ込んでくる車。
自分は今、道路の真ん中に立っていた! だめだ、避けなくては。そうかんがえるまもなく、振り向いたらもう車は目の前にいた。
轢かれる!そう思い、目を瞑った。
それから数秒がたった。無音の数秒間。しかし何も起こってない。目を開け、後ろを向くとさっきの車が走り去っていく。
「なぜ?」そう思うが答えてはでてこない。
辺りを見渡すと通行人は2、3人いたが、僕を気にかける人はいない。
それから町を歩いた。見覚えのある町。しかし、さっきから自分の名前すら思い出せない。目の前にあるすべてのものが新しく、懐かしい。自分は誰で、いくつで、さっきなぜ轢かれなかったのか。
――そして自分は死んでいるのか。
疑問、謎しか思い浮かばない。
しかし、あの夢のようなことだけ覚えている。骨に響く声。そして、あの……何といっていたのだろうか。今、僕の頭の中には何もない。何も……何も。
そんなことを考えていると走ってこっちに向かってくる小学生。自分は道の端に寄る。しかし小学生はそのまま端に寄ることなく、まっすぐ走ってきた。まるで僕のことが見えていないかのように。
――そして僕の腹を突き破って走っていった!
声もでない。小学生が何ごともなかったかのように走り去っていく。僕は今、身に起きていることが信じられない。しかしこれで確信に近づいてきた。
試しに歩いてくる女子高生の肩を触ってみる。普段なら顔が裂けても出来ないと思うのに。
しかし自分の手は肩を通り抜けていった。もちろん女子高生は何事もないように歩いていく。これで確信がついた。
「僕は死んでいる」
一体これから僕は何をすればいい。やり残したことがあるのか、恨んでいる奴がいるのか、そいつを呪い殺すことが出来るのか。
しかし、何も覚えていない。何も…何も…!
「一体…僕は、誰だ?」
辺りを見回しても道路の真ん中で立ちつくす僕を見る目はない。僕は一人。周りの目がないというのはなぜこんなに恐ろしいのだろうか。
何もできること、することがなく、ただ僕はここに存在してしまっている。
それから一体、何日がたったのか、それとも一分も過ぎていないのか。わからないまま時が過ぎていく。周りが急いで走っていく雨の中、僕はその冷たさを感じることが出来ない。
あの太陽の暖かさも。何人もの人が歩き、無数の雲が泳いでいく。
空が青い。空が――あお…い?その瞬間なくしていた記憶のかけらが、戻る
「僕が死ぬとき、空は…青かった」
たったそれだけ。
だが自分にとっては大きな一歩だった。それはまだ、記憶を取り戻すことが出来るということだから。
ここはどこだろう――そんな事最初から知っている。なぜなら僕はここにいるのだから。
《Who》
その時こっちを見つめる視線。それは同い年ぐらいの女子高校生だった。だが自分は見られているとは思わない。なにせ僕は幽霊だ。
いままで何度かこちらを見ているような人はいたが、大体は知り合いがいたか、ただこちらを見ただけ。
しかしその女はだんだんと近づいてくる。そのまま、こっちを見たまま口が開く。
「あんたどうしたの? こんなとこに座り込んで。気分でも悪いの?」
辺りを見回したが、座り込んでいる人はいない。僕は無言で彼女の方を見続ける。
「あんただってば!」
そう叫ぶと放心状態の僕の肩を強くたたいた。僕は驚き、恐る恐る聞いてみる。
「ぼ…ぼくのことが見えるの?」
聞くと「あたりまえじゃん」と目を見て言ってくれる。僕はそのまま嬉しくて泣いてしまう。
こんなにも僕を見てくれる人等今までいなかった。そしてこれはいつぶりの会話なのだろう。
「あんたなに泣いているの? 怪我でもしてるの?」
涙をぬぐいながら言う
「嘘だと思うかもしれないけど……僕、死んでるんだ。だからずっと一人で……」
しかしその時はっとした。なぜ彼女は僕のことが見れるのだろう。しかも触る事も出来た。
彼女の口が開く。
「は? あんた正気? そんなわけ――」
そう言い終わる前に僕は走る車の前に出る。彼女は僕のことを止めようと手を出したが間に合わない。
「危ない!!」
彼女は叫ぶ。しかし僕はその場に立ち尽くしている。走る車を体全体で受け止め、そして車は後ろを走っていく。自分が幽霊だと知ってから、思い切りがよくなっている。
「信じてくれた?」
驚きの表情なのか、恐れなのか。目を大きく開き、叫ぶ。
「あんた幽霊?!」
「あんまり直接言われると」
「ご…ごめん」
しかしこんなにも会話をすることが出来たかなんて。夢のようだ。今までしゃべりかけても帰ってくるのは車の汚い排気ガスだけだったのに。
そこで、ひとつの疑問がわいてくる。なぜ彼女は僕の姿が見えるのか。
「ねぇ。なんで僕のことが見えるの?」
彼女は困ったような顔をしている。それはそうだ。自分でわかっているわけがない。彼女は普通の人間……だと思う。
顔をしかめながら彼女は答えた。
「さぁ……私が霊感が強いとはおもわないんだけどな。多分なんか関係があるのかもしれない……」
「もしかして君も死んでるとか?」
「怒るよ」
彼女が目を細めて僕に言う。ふざけてやっているのだろうが……
この目。
目の前にいる物を凍らせる、この目。
その時、無数に広がる記憶の海から一つの記憶が現れた。失われた記憶が蘇る。
青い空の下――
「殺してやる」
銃口を自分に向ける……人?
誰かわからない。
鋭い目
誰が、なぜ、僕を?
そして放たれる弾丸……
「――どうかしたの?」
記憶をさまよい、また彼女を見る。
「いま少し記憶を取り戻した……」
不思議そうな顔をし、納得したようにか目を開き、あきれたように言う。
「幽霊の上に記憶喪失? あんた大変ね。で、どんなこと?」
彼女に教える必要があるのか? 一瞬そうおもったが、これは一人で解決するのは大変そうだし、何より他の人がいるというのは心強い。
「銃を向けられて撃たれた」
「さ…殺人?」
そういわれるとそうだ、しかし、僕が殺される理由はない。そう思っている。ただ「無差別」ということもあるが、それは限りなくないと思う。しかしそれは自分の中でそう思っているだけなのかもしれない
「わからない――えっ?!」
今僕は腰を抜かして座り込んでしまった。しかし手には今まで感じたことのない感覚が蘇る。
手を見ると少しだけ色が濃くなり、そして地面を触ることが出来ているではないか!いつもどうりのように何事もなく、土を触っている
今までは空気のように乗っているだけのようだったのに、触ることが……出来るなんて……
「あんたどうしたの? 急に驚いちゃって。またなんか思い出した?」
土を握りしめて彼女の前にやり、説明する。しかし少したつとまた元の半透明の色に戻り、そして砂がこぼれ落ちる
「少しの間だけ戻れるんだね…でもすごいじゃん。でも何で急に? もしかして記憶を少し取り戻したから?」
そうかもしれない。もしすべての記憶を取り戻したら、体を取り戻し、そして――
「記憶を取り返せば、生き返るかもしれない」
それを聞いたとたん、彼女は自分のことのように喜びの表情を浮かべる。
「それはよかった!」
そう言うと後ろを振り向き、背中を向けたまま言う。
「ねぇあんた。生き返るの手伝ってあげようか?」
「え?」と驚きの声を上げる。彼女とは全くの赤の他人だろう。僕が忘れているだけなら彼女は僕の事がわかるはず。
「迷惑ならいいんだけどさ、何かほっとけないじゃん。あんたのこと見えるのわたしだけみたいだし」
「迷惑なわけない!……ごめん。手伝ってくれるの?」
そういうと彼女は自分の胸をたたき、まっすぐ目を向けて言う
「あたりまえじゃん。 なんかさ……関係ないような気がしなくてね。手伝うよ」
僕のことをこんなに思ってくれる人はいただろうか、生きていたころもいなかっただろう……いや、いたのか……わからない。そして、彼女と僕の記憶探しの時間が始まる。
..
だれなんだろう。こんな僕を助けてくれる彼女は。しかし、答えなど存在しない。最初から――終わりまで。
《Whose》
「まずさ、幽霊になってからいきなりこの交差点にいたわけ? そうならここがかなり重要な場所だと思うけど」
僕が最初にいた交差点を見て彼女が言う。この交差点はさほど人通りは多くなく、今この場にいるのは僕たち二人……というかなんというか。
確かにそうならここは重要な場所だ、しかしここで死んだ場合、交通事故などによる事故死が考えられる。
しかし人目に付きやすい場所で拳銃での殺害は難しい。そう伝えると彼女は考え込む。
「だよね…。でもだったらなんでここに」
僕は辺りを見渡し、交差点の歩行者用の信号を見た。青が点滅する。そして、赤に変わった。あの光……その瞬間何もないはずの頭の中から一つの記憶が現れる。僕が死んだ後のこと……。暗い部屋で言われた事。
「僕が死んだ後、地獄のような所にいって変なこと言われたのを思い出した……たしか記憶をすべて……取り戻せだったかな」
「記憶? やっぱり記憶を探したら生き返るかもしれないんだ。ならここら辺をいろいろ見て回って、記憶探しだね」
そんな話をしていると、僕らを見る視線が後ろから感じる。この体になってからこういう機能は発達しているようだ。
後ろを振り返ると反対車線の歩道に年が20代前半と思われる細身の体、そしてスーツを着た男性がたっていた。
「後ろにこっちを見ている人がいる」
そう言うと彼女は振り向きもせず、小さな声で言った
「あの人には見えていないんだよ、あんたが。だから私は大声で独り言を言っているように見えるわけ」
そういわれればそうだ。僕はふつうの人には見えない。だからあの人は変な人を見ているかのような感じなわけであろう。
その後あたりを散策してみたが何もなく、次の場所を探す事にした。
ここでの記憶は、一体誰の物となってしまったのだろうか
《Why》
次にきたのは彼女の通う学校。
その学校のグラウンドではいくつも部活動が行われている。日は沈み始め、後片付けを行う部活も出始めていた。
校舎は生徒たちを送り出した後の、少し入り辛い空気を出していた
「あんた見た感じ学生だよね? ならここらへんに学校はここぐらいしかないと思うから、ちょっと見てみようか」
そういうと僕の手を引き学校の校門の前に走っていった。彼女は僕が一時的に戻らなくてもさわれるようだ。
これも端から見れば不思議な感じ。しかし彼女はあまり気にしていないらしい。
学校のげたばこは開いていて中にはすぐにはいることができた。
「んじゃまず、私の教室でもいってみよか」
階段を上がりながら彼女は言う。
「うん。そうだね」
特に断る理由もないので素直に同意する。階段から三つ目の教室。そして着いたのは……見覚えのある――教室?
何処か見覚えがある。しかし思い出せない……何が?それが思い出せない。頭が割れそうだ。そして――
「ねぇどうしたの? なんかおもいだした?」
頭を上げて言う
「ねぇ…このクラスに転校した人とか、いなくなった人いない?」
「いなくなった人? うーん…いたきもするけど思い出せないな……」
そうすると階段から剣道着を着たままの男子生徒が歩いてくる。背丈は僕よりも彼女よりも大きめのがっちりした子。もちろん僕は見えていないだろう。
「雅!ちょうどいいとこに。ねぇうちらのクラスって誰かいなくなったっけ?」
その雅という男は一つため息をつき答える。
「なんだよ急に――いたよ。覚えてないのか? 隆史だよ、隆史。あいつ」
そして場が悪そうな、話したくない顔をする
「殺されたって話だ」
「なんでかはよくわからないけど……じゃあ俺急いでるから」
そう言うと手を振り「じゃあな」と言い残し足早に目的の場所に駆けていく。
それを見送っている体はすでに力が抜けている。僕はこの学校にいてこのクラスにいた。そして……殺された……
改めて死を告げられるなど、僕以外になかなかいないだろう。僕はこの場所にいた。そしてふつうの生活をしていた。そして撃たれて死んだ。
こんな悲しい、やるせない気分。こんなになるんだったら、記憶なんて思い出したくなかった。
そして生きていたころの記憶が蘇ってくる。名前、家族、出身、仲間……
「思い出したよ。僕の名前は近藤隆史……このクラスでいつも後ろの席に座ってた。ふつうの学生……だったはず」
そして僕は後ろに後ずさりをし、壁にぶつかる。体の上半身が元に戻っている。これは事実なのだろう。しかし、ほとんどの記憶を取り戻してもまだだめらしい。
多分だが僕が殺されたことについての記憶を取り戻せばいいのかもしれない。
彼女はよくわからない顔をしている……ように見えるが、なんなのだろう。
「そ…そう。でも私は思い出せないな…そういえば私一回記憶喪失になったことがあるの。すぐに回復したけどあんたの記憶がないところからすると、何か関係あるのかも」
「そうかもしれない。でも僕は君の名前を覚えている。田中…葵……」
名前を言う。同時に記憶の映像が目の前に映る
不敵な笑みの男がいる。
「改めて紹介しよう。田中葵君だ。君も知っているだろう?」
それは確かに田中葵だった。しかし空気が違う。
「そして――」
そこで記憶が途切れた。
「どうしたの?」
「また……思い出した。そして君がいた。僕が殺された場所に。あの交差点に」
「私が? なら本当に関係あるかもしれないわけだ」
そう言うと教室の窓側まであるき、空を眺めている。あまり彼女が僕の死んだ所にいたことは驚かないし、何とも思っていないようだ
「あんたといると多分私の失った記憶も取り戻せるかもしれないね」
彼女は自分の記憶を取り戻したいのか。いや、その程度のことではなさそうな……よくわからない。
今、目の前にいる彼女美しい。僕はその空を眺める少女に手をかける。彼女より僕は少し背が高い。
横に並ぶ。
「空、きれいだね」
「君もきれいだね、とか言ってみたら?」
「そっそんな……」
彼女は軽く僕の足を蹴る。軽くよろめいた。
「馬鹿」
そして僕らはその場を後にした。
なぜ、僕はこの姿を楽しんでいた。なぜ、彼女はあんなに美しいのか。なぜ、僕は死んでしまったのか
《How》
それから、僕たちは辺りを見て回った。よく行った図書館、友達に連れて行かれたゲームセンターやファースフード店。
しかし今以上の記憶は戻らなかった。というより、これ以上記憶があるのかもわからない。
「他に行ったことのあるところはない?」
彼女は隣を歩く僕を見ながら言う。
「もう多分ないと思う。あのさ、もう遅いし……」
明日にしないかと言おうかと思ったが、僕に主導権があるわけもなく、言葉を濁す。
「いま……6時か。もうそろそろ帰らなきゃ。でもあんたどうすんの?」
「僕は寝なくても大丈夫だから、一人で探しておこうかと思う」
空がだんだん暗くなってきて、街灯が二人を照らす。他に通行人はいなかった。
「う〜ん…そうだ! うちに来なよ」
そういうと僕の服の裾を掴んで首をかしげながら「だめ?」とつぶやく。
そんな顔されて断れるはずがない。だがそこまで僕を引き留める必要があるのだろうか。理由は何なのだろう。僕にそばにいてほしい……なんてことはないだろう。
他にあるとしたら、僕に動きまわれたくない程度だろう……と思う。
「何でって顔してるね。別にいいじゃん。なんかさ、あんたがどっかいっちゃう気がするんだよね」
そこでようやくわかった気がする。彼女は僕にいなくなってほしくないだけだろうか……
突然僕は現れた。そして、いつ消えてしまうかもわからない。
余計な詮索などいらなかった。ただそう思う。そして僕もそばにいたいと思う。
――あれ?なんかひっかかる。葵と僕の関係……生きていたころにもこんな風に歩いていたことがあるような……
もしかしたら、本当にもしかしたら。僕の記憶が正しければ、彼女と僕はこうして歩いていた――
覚えているはずなのに、思い出してるはずなのに何も思い出せていないようなこの気持ち。何なのだろう……この気持ちは
「どうしたの?深く考えて。わかんないことがあったら一緒に考えようよ」
彼女は僕の目を見て言う。僕はこの気持ちを伝えた。
「僕は事件以外の記憶は大体戻ってきていると思う。そして君のことも覚えている」
「私は覚えてないけど」
「……そこはまた考えるとして。でも君との関係が思い出せないんだ。友達だったのか、親密な関係だったのか、名前を知っている程度だったのか」
そう言うと彼女は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔に戻ったがそれは何処かおかしい笑顔だった。
「親密…な関係かどうかは知らないけど、あんたのことを覚えていないのに会ったときにほっとけない感じがした。だからあんたが生きている頃は……友達だったんだよ。多分……」
彼女はそう言い、前を向きなおす。
僕はここで初めて彼女を疑った。もしかしたら彼女は……いや、葵は記憶をもう取り戻しているんじゃないのかと…… 。
いったいどうするのだ。僕が彼女を疑って。しかし、すべてを信じて良いわけではないだろう。
《What》
今、僕は彼女の部屋にいる。
彼女の部屋はふつうの女子高生の部屋……というより受験勉強中のような部屋だ。
誰かのポスターなども張られておらず、たくさんの本が散らかっている。そこには、恋愛小説から参考書、雑誌などが無造作に散らばっている。
「ごめんね散らかってて、一人暮らし始めてから片付けられなくて。そこら辺に座っててよ」
そう言うと葵は散らばった本を部屋の隅に追いやり、場所を作った。
「よしっと。ねぇなにかする?」
そう言われても何もしようがない。なにせ女の子の部屋だし……といっても何もしないと間が持たないので、気になったことを話し始める
「あのさ、何で一人暮らししてるの?」
「おっ。そうきたか。わたしさ、親いないんだよね。ママは交通事故、パパはママが死んだら他の女とでていいって。そのときあたしは中学三年だったから、親戚のとこにも行かず一人で暮らしてるんだ。お金はママの保険金とパパが毎月送ってくるんだ」
見事に地雷を踏んでしまった。結果、重い空気が流れてる。どうにかしなくては。そう考えていると彼女が気を取り直したかのように話しかけてきた。
「まぁそんなことはおいといてさ、あんたはどうなのさ。家族に会いたいとか思わない?」
家族…? 僕にそんな物がいたのだろうか。いや――いた。親はとうの昔に僕たちを捨てていなくなっている。なので僕の家族は……妹がいたはずだ。
「妹がいたはずだと思う。たしかいまも同じ家に住んでいるはず」
「そうなの? というよりあんたは家に行ってみようとか思わなかったの?」
家にいってみようか……そういえばいままで休む暇なくここまできたからそんなこと考えたことなかった。
「ねぇ、明日行ってみようよ。あんたの家」
「うん。そうだね」
そんな話をして夜はふけていった。
なんだろう。この昔からの暖かさは。
〔First Qestion〕
彼女は今家の中で寝ている。僕は彼女の家の屋根上にいる。今は体の大部分を戻すことができるので、夜の涼しい風を感じることができた。
あれから、特にすることはないので彼女は寝ると言って僕に布団を敷き、自分はベットに入って寝た。しかし僕は寝なくてもいいのでここにいる。
彼女は一度記憶を失ったことがあるそうだ。しかし、その記憶はまだ戻っていないと彼女は言っていて、その失った記憶の中に僕もいる。
そして僕が撃たれた現場にいたことも……。いったい何でなぜ彼女は僕と一緒に現場にいて、僕は殺され、彼女はその記憶をなくしているのか。
そう言えば昔、テレビで「強烈な出来事があると脳が自らその記憶を固い箱にしまってしまう」というのを聞いたことがある。しかしそれならば、
僕をみたときに少しぐらいは反応するはずだろう。
そう考えていくと答えは一つ。いや、僕と初めてあったときは思い出せていなかっただろう。
しかし今は記憶を取り戻している。
たぶんだが思い出したのはあの剣道部員に話を聞いたときだろうし、その後から行動が以前とは違ってきた。急に家に入れようとしたり、学校でのことも。
そうすると彼女は事件の真相を知っているのではないだろうか。それを教えてくれれば僕は生き返り、すべてがうまくいくというのに。
なのに彼女は、僕には教えてくれない。事件の真相、彼女との関係、記憶をとりもどしていることも。
なぜなのだろう……なぜだ?
そう考えているといつの間にか辺りが明るくなってきた。きれいな朝日だ。
「せっかく敷いてあげたのに寝てないの?」
「えっ!?」
驚いて隣をみると彼女がパジャマ姿で立っている。
「まったく。まぁいいけど。ここまであがってくるの大変だったんだからな」
そう言うと彼女は部屋に戻ろうと、屋根の縁まで歩いていく。
「……あれ。のぼってくるのは簡単だったけど、降りるのは恐いな」
まったくもって何というか…。しょうがないので先に僕が降りて手を貸すことにした。僕は透明になれるので簡単にしたに降りることができる。
最初の、問題。
《How long》
その日葵は学校に行き、僕は記憶にまだ残っている場所を散策することにした。生前、僕はそれほど活発な人間ではなく行動範囲が狭かったので、場所を一個一個探しても
それほど時間はかからなかった。しかし、特に思い出すこともなく、今は葵の家に向かって歩いている。
そういえば、あの地獄のような場所で「こんな事は希で、おまえで二人目」と言っていた気がする。僕で二人目ということは、前に同じようにあそこに引っかかった人が
いるという事なのだろうか。ならばその人も僕と同じように、心をあそこに持っていってしまったのか。それ以外であそこのに引っかかるというのは考えにくい。
そんなことを考えていると後ろから殴られた。いや、殴られるというよりは押されるといったほうがいいだろう。
「やぁ幽霊くん。こんなところで成仏か?」
一瞬、葵かと思った、しかしその声は男の声で聞き覚えのある声だった。恐る恐る振り返ると自分の記憶には記録されていない顔があった。
「これはこれは、あまりぶらぶらしてると『死に神』に狩られますよ?……おっと、自己紹介がまだでしたね。私、依然あなたとお会いしたことがあるはずですよ。ほら、あの暗い部屋で」
この声……どこかで聞いたような………思い出した。この人はあの地獄のようなところで僕に死を告げた人だ。その人は考えていたよりずっと小さく、小学6年生ぐらいの感じ、なぜかスーツを着ている。
「ん? この体型のことは黙っていてもらいたい、ちょっとこっちに降りるための体ですので。それより、なぜ私がここに来たかわかります?」
「わから……ない」
「それはそうでしょうね。では用件のみを教えます。あなたの魂をこの世にとどめておけるのは、もって1週間。最悪の場合3日であなたは抹消させられます」
そう淡々と答えると頭を下げてお辞儀をした。
「抹消?あの世にはには心を持っていけないんじゃないですか? まだ謎も解いてないし」
そうすると男は、咳払いをして続ける。
「本当は心を持ってきてしまった人間は抹消と決まっているんですが、私はあなた方には時間を与えている。しかし、さすがに死者をここにとどめるのはかなり大変で、『死に神』に見つかるのも時間の問題、私の力が尽き次第あなたを抹消します。」
「抹消? 死に神?」
「言葉どうりあなたを消し去ります。皆さんの記憶からも。死に神とは魂の調節者です。あなたのようなぶれた魂を狩る者の事。…では私は戻ります。中々この体は動きにくい」
そういうと男の体が透明になっていく。
「消し去る? 調節者? そんな……ちょっとまってくれ! 僕以外のそこに引っかかった人は今どうしているんだ!」
体の半分ほどが消えているところで男は答えた。
「それは教えかねます。しかし、あなたその人を知っているかもしれません。そしてその方はあなたと少し違いましてね……」
「それはどういう……」
全部言う前に男は消えてしまった。謎をまた増やして。そして僕には見えないタイムリミットが出来た。
「暗い顔してどうした?」
後ろから今度は蹴りが飛んできた。振り返るといつものように笑いかけてくる葵の姿があった。
それから僕はさっきあった男の事、そして自分のタイムリミットのことを話した。
「なるほどね……でも3日から1週間っ…。なるべく早く探さなきゃ行けないんだね」
一緒に家に帰りながら、話を続ける
「そういうことみたい。だから今日中に僕の家に言ってみようと思う。それからのことはまた考えよう」
「そうだね」
その後10分もしないうちに葵の家についた
「着替えてくるから待ってて」
そういうと足早に駆けていった。
彼女には死に神のことは言わなかった。必要ないと思ったからだ。しかし後になって後悔することになるだろう。
どれだけの間、僕は立つことができるのだろう。それは神をも知ることができない時間なのだろう。
《Who are you》
正直自分の家に帰るというのはなんだか照れくさい。今まで記憶の中でしか言ったことのない家に、自分が住んでいた家に死んでから帰るのだ。
傍から見れば家に取り付きに行くと思われるだろう。
歩いているとすぐに見覚えのある建物があった。そこの表札には「近藤」の二文字。
「ここがあんたの家?」
その家はどこにでもあるよな2階建ての家である。というより、妹は一人でこの家に住んでいるのだろうか。
「そうだよ。前まで二人で住んでた。でも今一人なのかな」
「妹さんっていくつ? まだちっちゃかったら誰かに預けられてるかもよ」
そう考えればそうだ。しかし妹が一体いくつだったか覚えていない。なぜか記憶があやふやなのである。
「わからない。でも僕には時間がないんだ。行ってみるしかない」
「だね」
そして僕らはチャイムを鳴らした。
「はい。今行きます」
中から声がする。妹は居るようだ。その声は小学生と取られてもおかしくないほどかわいらしいっ声だったが、出てきたのは僕よりも葵よりも大きな女だった。
「どなた?」
葵が困ったように僕に言う
「何ていえばいい?」
後ろに居た僕は一瞬困った。しかし次の瞬間それは打ち消された
「お兄……ちゃん!」
驚いた顔の妹は僕ののところまで走ってきた。
「お兄ちゃんどうしたの! 死んだんじゃなかったの?」
そういうとおもいっきり抱きつこうとしたが、彼女の腕は僕を通り過ぎていった。
妹は驚きを隠せない表情をしている
「ごめん、驚かしちゃって。でも……」
僕の言葉をさえぎるように妹はいった
「わかってる。幽霊になっちゃったんだ。そりゃそうだよね、あんな殺され方したんだもんね」
その言葉に二人同時に驚きの声を上げた。妹は僕の死に様を知っている!!
「知ってるの? 僕がどうやって殺されたか」
妹は顔を下げながら続ける
「知ってる。だって、死んでるお兄ちゃんを最初に見つけたの私だから」
その後僕たちはひとまず、家に入ることにした。
一目見たときに思い出せなかった。それを考えることはもうないだろう。
《Whose remenber》
家の中は僕の記憶通りだった。見覚えのある廊下、ドア、机。そして僕らは4人がけの机に座った。
「でも、驚いたな……だって死んだはずのお兄ちゃんが帰ってくるんだもん」
「今でも死んでいるけどね」
そういうと妹は下を向いてしまった。まずい。そう思い、僕は口を開く。
「ごめんね、寂しい思いをさせてしまって。でも僕は記憶を取り戻さなくてわいけないんだ。だから協力してくれないか?」
妹は驚いてこちらを見る。
「記憶をなくしてるの? じゃあ私のことも?」
「忘れてしまっている」
妹はもう驚きを隠せないといった表情、そしてあきれた表情が混ざっている。
「忘れてるんだ……でも……いいや。私の名前は加奈。近藤加奈。いま中学三年生なんだよ」
頭の端から駆け足で記憶が降りてくるような感じだった。
「加奈……! そうだ思い出した。いつも喧嘩ばっかしてた――」
言い切る前に僕のすねを蹴る。椅子に座るため足は実体化していたので痛みが走る
「そんなこと思い出さなくて良いの。でもよかった…思い出してくれて……それでさ、気になってたんだけどそちらの方は?」
そう言って葵の方に手を向ける。二人は場が悪そうな顔をするが、決してそのような関係ではない。
「え〜と、彼女は田中葵さん。色々手伝ってもらってる」
葵が軽くお辞儀をする。
「手伝いね……お兄ちゃんの友達か何かだったのかな?」
「多分ね。それよりさ、教えてくれないかな。僕が死んでいる所を見たときのこと」
一瞬で場の空気が凍った。しかし、それを聞かない限りどうにもならない。それは加奈にとって思い出したくない「過去」なのだろう。しかし僕にとってその「過去」は必要不可欠なのだ
加奈が口重い口を開く
「じゃあ……いうね。……そのとき私は学校帰りだったの。友達との約束があって早く帰らなくちゃいけなかった。そのために、あの車が少ない交差点を選んで通ったの。
でも行ってみると……お兄ちゃんが血だらけで倒れていた……頭と胸から血を流して………」
そこまで言い終わると泣き崩れてしまった。やっと忘れる事ができた悲しみが吹き返してしまったんだろう。下を向く加奈に葵が慰めに行く。
さて僕はここから推理していかなくてはいけない。僕には時間がない。
「加奈。僕以外に倒れている人いなかった?」
「ちょっと。あんたが思ってる異常に加奈ちゃんにとって大きな事だったんだからね」
葵が加奈のそばから強い口調で言う
「わかってる。でも僕には時間がない」
葵がまた何か言おうとしたが加奈が手で止めた。
「うん。じゃないとお兄ちゃんは帰ってこないもんね。お兄ちゃん以外に人はいなかった。それと……たしか、お兄ちゃんの倒れている近くに血の付いた石が落ちてたのが覚えている…」
そこまでが限界だった。加奈はそのまま泣き崩れた。葵が慰める
僕が死んでいるそばには、誰もいなかった。葵も僕の記憶の中にいたあの男も。それと、僕が死んでいるそばに、銃で撃たれて死んでいる僕の側に、何故血の付いた石が落ちているのか……
一体あの事件は誰の記憶が知っているのだろう。
《When finish》
僕らは加奈の話を聞いた後、家を出た。
加奈が言うには僕のことを見ると涙が出てくるらしい。どうせならもう、目の前には現れてほしくはないだろうと思う
しかし僕は大きな情報を得た。しかし、一つも答えを導き出せていない。気持ちばかりが急いでしまって空回りしている
そんな様子の僕を心配してか、葵が口を開いた
「そんなに焦ることないよ。ゆっくり考えて答えを……」
その言葉に僕は頭に血が上る。それは僕のことを心配していってくれている事なのだろう。しかしいまの僕にはそのことが考えれるる冷静さはない。
「ゆっくり? いつ僕が消えるかもしれないのにゆっくりなんてしていれるわけがない。君は良いだろう、僕が消えても自分には何も関係ないんだから」
僕がそう言い終わると、葵は……立ち止まった。
「そんな事……思っていない。何も関係ないなんて言わないで…私は……私は……」
そこで僕は言い過ぎたことに気が付いた。しまったと思ってももう遅い。なにせ彼女は善意で手伝ってくれていたのだ。それなのに僕は……!
「…ごめん。言い過ぎ……」
言い切る前に葵は走って行ってしまった。しかし僕にはその後を追いかける権利はない。
僕はいったい何故こんな過ちを犯してしまったのだろう。僕のたった一人の仲間。
今まで手伝ってくれていた葵に向かってあんな事を…葵のことを何も考えてはいなかった僕がすべて悪い。
いったい僕はどうすればいいだろう。今から走って追いかけるか…いや。追いかけたところで僕にはどうすることもできない。いったいどうすればいいんだ…!
「あ〜あ。彼女、いっちゃいましたね〜」
急に後ろから間の抜けた声が飛んできた。振り返るとそこには、あの交差点で見た、痩せたスーツの男がたっていた
「ぐふふっ。ちゃんと女の子は大事にしないといけないですよ?」
そういうと男はがたがたの歯を見せながら舌なめずりをする。
「何ですかあなたは!? 関係ないでしょう!」
葵へのふがいなさからか、少し声が大きくなってしまった
「おお〜恐い恐い。まったく、前よりいい男になったんじゃないですか〜?? 前はあんななよなよの使用人みたいな顔していたのに〜今は何ですか〜?恐い恐い」
またがたがたの歯を見せて笑い、歩き出した。
「ではでは。僕ちゃん今から行かなきゃいけないから〜彼女から離れないで下さいよ〜。じゃないと……ぐふっぐふふふ」
そう言い終わる前にもう見ないところまで行ってしまった。
いったいあの男は何だったのだろう。しかし……僕と葵のことを知っていた。昔何らかの関係が会ったのだろうか……
そこまで考えて気づいた。いや、もっと早くに気づくべきだったのだ。今、僕は幽霊なのにあの男は僕に話しかけてきた――
何故なのだろう。今まで僕のことが見えたのは、葵と妹の加奈ぐらいだ。葵は現場にいたし、加奈は僕の肉親だ。しかしあの男が僕の肉親だとは考えることができない。
そうしてくると答えは一つ
――あの男は僕の殺された現場にいた。
しかし時はもう過ぎてしまっていた。もうあの男に追いつくのは無理だ。けれど…何処かおかしい。
なぜなら、あの男が犯人ならば、そんな印象的な人ならば、一目見たときに思い出すはずだ。なのにあの男の記憶はない。一体…あの男は…
考えているうちに僕の終わりが近づいている。見えない終わりが
《First answer》
今僕は一人だ。周りには誰もいない。
今までは葵がいた。
しかし、また一人戻ってしまった。
そしてあの男……もし葵が側にいたなら、もう謎が解けているかもしれない。彼女は僕の足りないところを補ってくれる。いや、それ以上の物を僕に与えてくれる。
だが、今となってはしょうがない。もう僕の側には……僕はもう前には進めない。そんな気が永遠かのように湧いてくる。
「ごめん……私も悪かった」
後ろから声がする!それは今一番聞きたかった声。僕はうれしさのあまり、後ろを振り向こうとする。
「まって! ……そのまま聞いて」
僕は驚いて固まる。葵はそのまま続けた。
「ごめんね。でも聞いて」
空気が変わる
「ごめん…本当にごめん」
「何をそんなに謝ってるの?」
葵は声を殺して泣いている。一体何がどうなのか、よくわからない。
「私がもっと早くに話していれば、こんな事にはならなかったのに…本当にごめん」
「だから…」
「あんたを殺したのは私」
「…………っえ?」
頭の中が真っ白になる。
「あなたを殺したのは私」
「…………………嘘だろ」
「私が……あなたを殺した」
「………」
沈黙が続く。僕はその沈黙が一生続けばいいと思ってた。しかしそんな物はとても簡単に破られる。時は進みはじめた。
「だけど、聞いて……私は――っ!!」
急に葵の声が抑えられた。誰かが口をふさいだようだ。
「そこまでです」
男の声がする。さすがに僕は振り返った。しかし、そこには葵はおらず、謎の男もいなかった。
一体何が起きた、いったい何なのだ…訳がわからない。しかし…葵は…一体…?
答えが出た。最初の答え。しかし、これが最後だった。
《I`m last time…It is before two hours》
僕は闇雲に走った。謎が解け、僕はもう人間に戻っているといってもいい
今一体どういう状況なのかは全くわからないが、大事なことはわかっている。
葵が危ない。
僕の頭の中で探し当てた答えではあるが、大体のことがつかめた。葵は僕のことを本当に殺したのだろう。ならば今まで思い出したことにも筋が通る。
そして、それは葵の意志ではない。本当の犯人は……あの男。最初葵と会った時あの男はいた。葵が去った時も、そして…葵が戻ってきた時も。
これはただの決めつけかもしれない。しかし犯人が葵であって、葵ではないのなら犯人はもうあの男しかいない。
今僕にできること。それは葵と男を捜し出すこと。その後どうすればいいか全くわからない。しかし会わなければならない。あって謝りたい。感謝したい。
しかし無情なことに、僕のタイムリミットは終わりがもうそこまで来ている。
「………!!」
急によろけて倒れた。辺りにつまずくような物はない。自分は右足から倒れ込んだ、現に今砂の上に寝ている。
……わかっている。だが、認めたくない。
右足が消えた。
……いや透明になってしまった。見慣れてしまった足。
もう足を元に戻すことはできない。タイムリミットは予想以上にはやかった。
しかし、今そんなことは全く関係ない。片足なければもう片足で歩く。いや走る。
僕はすぐに起きあがり、走り出した。
片足で走っているわけではない。もう片足は浮いているだけではない。原理はわからない。しかし、今走っている、走っているのだ。
道を選んでいるわけでもないのに、決められた場所に走っていく。そこには葵がいる。答えがある。
僕に残されたタイムリミットは約2時間。十分すぎる時間である。
《One`s story》
もう一つの話
そこはビルの屋上である。しかしそこは人が上れるような場所ではなく、もうすぐで雲に届くのではないかと思うほど高い。
しかし、そこに一人の少年が座っていた。その少年はスーツ姿、そしてすべての死を管理する悪魔である。
「あいつやっとちゃんといったかな? まったく、俺がいなかったら何にもできねぇな」
「楽しんでいるくせに」
そこに突然、長身の女子中学生が現れた。その少女は悪魔の隣に立っている。
「おーやっと来たか。どうだった?」
「どうだったじゃない。完璧だよ」
「だろうな。ばれなかったんだよな」
「しつこいよ。完璧だったっていってるでしょ。家に来たときにもばれなかったし、演技もばれなかった」
自信満々にいった表情はどこか悲しみがあふれていた。
悪魔は立ち上がり少女の肩に手をかけた。というより小さな体で肩にぶら下がっているようだ。
「加奈…わかってる。わかってるから。そんな事いっちゃいけない。演技だなんて」
「……うん。でもなんか変な感じ。お兄ちゃんが死んで、そのショックで自殺して。そしたらあなたにあってまたお兄ちゃんと話すことができた。いろんな事が起きて頭が爆発しそうだな」
「馬鹿いってるんじゃない。でも今考えても不思議だな。ふつう自殺でもあそこに引っかかることないのに」
「わたしにとってお兄ちゃんはすべてだった、世界のすべて。お兄ちゃん中心に世界が回ってた。だからかもしれない」
そういうと少女……加奈は座り込んだ。。
「そっちもうまくいったの?おせっかいさん」
「お節介じゃない。親切だ。あんな奴おれがいなかったらとっくに死んでいる……ってもう死んでたか」
照れくさそうに頭をかく悪魔。
「ねぇ……私ってもう消えちゃうのかな」
加奈は遠くの方を見つめながら言った。その目は悲しそうでもなく楽しそうでもない。
「あぁ………ごめんな。加奈を助けれなくて。隆史の魂の欠片は何とか修復できたけど、加奈のは完全には修復できなかったんだ。だから生き返らすことが出来ないから………」
悪魔は言葉を濁した。しかしその沈黙は加奈の笑い声によってやぶられた。悪魔が驚いて加奈の方を見る
「なにしょっぱい顔して言ってるのよ! いいんだよ! 別に! 私はお兄ちゃんさえ幸せなら………それで」
「加奈………。お前ってほんと強いな。というより馬鹿だ」
加奈がむっとした顔で悪魔を見た。
「誰が馬鹿だって?」
「馬鹿だよ。馬鹿。兄貴……隆史が全てだからって、自分が消えるのに笑ってるような奴はいねぇだろ? それなのに強がって……ほんと馬鹿だよ」
加奈の顔がどんどん涙でぐしゃぐしゃになっていく。そして悪魔に泣きついた。
「消えたくない………本当は………お兄ちゃんとずっと一緒にいたい………!」
抱きつく加奈の背中に手を回す。
「あぁ………消しなんてしない」
「…………っえ?」
加奈が顔をあげる。
「なぁ、俺の所に来ないか?」
「どういう――事?」
「俺と同じ仕事をする。それならお前を消さなくてすむ」
「いいの? なんで?」
「ん………う〜ん。そうだなぁ。うん」
「なぁに?教えてよ」
加奈の顔に笑顔が戻る
「その笑った顔をずっと……見ていたくなったというか………」
加奈は吹き出してしまった。
「ぷっ……ふふふ。なぁにくさいこといってんのよ」
「うっせぇ」
加奈を突き放す。
「痛いなぁもう」
「うっせぇ」
そう言い捨てると加奈に背を向けてしまった。
「ふてくされなくても良いのに……」
「……さて行ってくるか」
「あぁ話そらした!」
指をさして笑う
「もうマジで黙れ。今から大事な兄貴を助けに言ってやるよ」
もう一つのお話
《Lights out》
僕はずっと走っている。
もう肺は何処かに行ってしまったらしく、もう苦しくない。
その代わり意識がさっきから消えかかっている。
右手、右耳、左肩が消えた。
ずっと暗い道を走っていたのに、急に道が開けた。そこには――
「おやおや…追いつきましたか。遠かったでしょう」
男は葵に銃口を向けている。葵は僕が来たのが気づかないほど怯えきっている。
「や…やめ……ろ」
肺がやられて声がちゃんと出ない
「まぁ、葵ちゃん。あなたのためにあんなになるまで走ってきたみたいよ」
葵は今にもつぶれてしまいそうな首をこちらに向ける。
「あ…あんた…何できたんだよ。もう生き返れたんじゃないの…私が犯人で……終わりなんじゃ…」
葵が涙を流す…。お構いなしに男はしゃべり始めた
「好都合…とでも言っておきましょうか。これで元々の計画通りやれる」
男が銃口を僕に向け、続けた。
「何で俺がお前をねらったか、わかるか? わかってるよな〜葵ちゃんは僕の物。なのになんでてめぇは何事もなく葵ちゃんにさわってんだよ!! いいか……」
男の罵声が続く、僕はそれを無視して葵に話しかけた
「どういう関係?」
僕の方を向かず固まったまま答える。
「兄貴」
「なかなかのお兄ちゃんをお持ちで」
「おいそこ!! 僕の断りなしにしゃべってんじゃねぇよ!!」
引き金に手をかけた
「やめて…兄貴」
男は銃口を下に向けた
「葵……君は僕の中だけいればいい、僕のために生きていればよかった。だけど……もういらない」
再び銃口を向ける。しかし、今度は僕でなく、葵に。
「僕はいままで葵のためにどれほど頑張ったか……葵の近くにくるゴミをはらうのに一体何人殺したか覚えていないぐらいだよ」
「――!!」
葵はあっけにとられている。葵の近くのゴミ…?殺した…?あの男は一体……?
「ふん。感謝はよしてくれ。よけいなゴミがつくと質が落ちる。だから葵の親しい奴は消した。片っ端から……そしたらいつの間にか葵のまわりにゴミは、たからなくなったんだ。実に良いことじゃないか」
「わたしの…友達を殺したのはあんただったのか…。新しい知り合いができるたびにその知り合いが殺人事件に巻き込まれていた……おかげで私は死神だの殺人鬼だの…」
「よかったじゃないか。だけどな葵。そいつは俺の手で殺せなかった」
銃口を僕の方に振る
「なぜだ」
僕は強い口調で言う
「ふん。貴様はな…葵と近づきすぎたんだよ…おかげで殺しそびれた――いや。お前が消えると葵が悲しむ」
予想外の答えが来て僕はあっけにとられた。今まで葵とかかわった人間を次から次へと消してきたというのに
「だから葵自らの手で殺させて記憶ごと消してやろうと思った」
考えや行動は度が過ぎているけど、妹のためを思ってやっていることなのだろう
「狂ってやがる」
だが、それされる限度は超えている。
「うるさい!!」
いままで落ち着いてしゃべっていた男は急に大声を出した。
「全部教えてやるよ……記憶を取り戻せば生き返るんだろ?」
「何でそれを?」
「お前らをつけてりゃいやでもわかるな〜。じゃあ教えてやる。俺はいろんな所つなっがっていていろいろな物を手にいれることができた。そしてそこで俺はある薬を手に入れる。精神を不安定にする薬だ」
「それを葵に飲ませたのか」
「その通り。そして命令した。「近藤隆史を殺せ」とそしたら命令道理にやったよ。渡した拳銃で頭と胸を2発ずつ。……でもよぉ、てめぇは死ななかった。それどころかこっちに向かって歩いてきやがる。そして俺はまた言ったさ「撃て、早く、殺せ!」と。でも葵は撃たなかった。そして急にしゃがみ込むと落ちていた石に向頭を打ち付けやがった。意味がわからなかったさ……そしたらお前は倒れて死に、葵は血を流して気絶しやがった。銃声に気が付いて警察が来たからずらかったけどよ……」
「警察が来たから?」
最初に僕の死に場所を見たのは妹の加奈のはずだ。
「そうだ。さすがに昼間から銃声が聞こえりゃとんで来るだ……ろ…う………」
言葉が聞き取れない…記憶が飛んでいく。過去に引き込まれていく――
《Last memory》
まったくの平凡な帰り道
いつもの会話
そんな僕たちの世界を壊すかのようにある一人の男が現れた
名は田中章、葵の兄である
今までに何度か会ったことはある
その章が急に葵の首を掴む
「なに?!」
葵が叫ぶ
しかし章はお構いなしに今にも折れそうな葵の首にポケットからだした注射器を刺した
バタッ
葵が倒れた。
僕は葵の側に駆け寄ろうとする
「てめぇは後だ!!」
そう言うと葵をつれ、乗ってきた思われる車に乗り走り去っていく
その日から3日がたった。葵は学校には来ていない
警察に連絡しようかと思ったが、葵の兄やったことだ。大丈夫だろう、と連絡はしなかった。というより出来なかった
恐かったのだ
そして平凡な一日が終わり、いつもの帰り道。違うのは葵がいないだけ
学校から大体十分程度歩いたところで、いつも通る「誰もいない交差点」にさしかかった
そこは交差点なのだが、いつも誰も通っていないし、車も走っていない
場所が場所だから仕方ないとは思うが、今日はその静けさの中に、恐怖があった
「隆史」
聞きなれた声、後ろを振り向く
そこにはやつれきった葵が立っていた
「葵!! どうしたんだ!!」
僕が叫ぶ。
葵は答えない。後ろから章が出てきた
「どうも…改めて紹介しましょう。私、田中章と申します。そして…生まれ変わった、田中葵君です」
制服のままの葵の手には、その容姿に全く似合わない物が握られていた。
「そしてそして……お別れです。葵君……さぁ」
銃口が僕の目をむく
バン、バンッ。バンバンッ。
4発の弾が僕の中に飛び込んできた
頭、頭、胸、腹
血が吹き出る
意識が遠のく
しかし、ここで倒れてはいけない。葵が何故僕を撃ったのか、その真実が知りたい
一歩、二歩、三歩
歩いても歩いても、近づかない
怯える葵を最後に、僕は倒れた
最後の記憶。それは本当の終わりへ続く
《The last answer》
すべて思い出した
その証拠に体が元に戻り始める。
「どうやらすべて思い出したようだな」
章が言った。
「これでお前も殺せるな」
銃口を葵に向ける
「だけど先に葵だ。……もう見たくない! 僕以外に染まった葵など……消えてしまえばいいんだ」
引き金を引こうとする。葵はその場に固まっていた
「やめろ!」
葵までの距離は約10m弱。間に合うとは思わない。
しかし、僕は1秒でも早く葵の側に行かなくてはいけない。
消えていった片足が戻り、僕は走り出した。
引き金は引かれた。
弾はまっすぐ葵の方へ飛んでいく。
まだ、葵の側まで行ってはいない。
手を伸ばす。目をつむる。届くか、届かないか………
目を開けると葵が目の前にいた。涙が僕の顔に落ちてくる。
「どうして? ……なんであたしなんて助けたの?」
僕は自分の右腕を目の見える位置にあげた。その腕は血だらけだった。
僕は葵を助けることができたのだろう。銃弾は僕の体で止まったようだ。
「よか……よかっ……た。葵が無事で……」
葵の涙が雨のように僕の顔に落ちてくる。
「私のせいでこんな事になったのに………何でだよ……」
僕は血だらけの右腕を葵の顔に近づけ、涙をぬぐいながら言う。
「馬鹿。葵のせいじゃない………僕がこうしたいからこうした。それだけ……ねぇ聞きたいんだけど……いつ思い出した?」
葵は僕の右腕を握りながら言った。
「学校であんたの名前を聞いたとき……全部思い出した」
「何で言わなかった?」
答えは何となくわかっている。しかし、僕はすべてが終わってしまう前に本当のことが知りたい。
「言えなかった……だって私があんたを殺したんだよ……? 言ったら……もう一緒にいれない気がして……」
再び僕の頬に涙が落ちる。
「馬鹿。そんなわけ―――な………い」
もう声を出すのがつらくなってきた。本当に僕はもう死ぬのだろう。今度は魂を葵に預けることができそうだ……。でも、まだ葵が安全なわけではない。
呆然と立ちつくしている男がまだいる。
「すごいな………あの距離から葵をかばうために………なぜそこまでできる? 葵はお前を殺したのだぞ? 何でだ?」
章は本当に何もわかっていない。しかしその事とを教える。声はもうでない。
「………もう虫の息か。とどめをさしてやってもいいが、計画道理、先に葵を殺すとしよう」
章が銃口を葵に向け直した
「これで終わりだ………安心しろ。葵は僕の中で生き続ける」
引き金が引かれる。僕はもう体を動かすことはできない。もう……本当に終わりなのだろうか。僕はゆっくりと葵の腕の中で目を閉じた。
終わるのか?もう終わってしまうのか?この時間は、この時間は
終わらない、終わらない、終わらせない。
銃声ではなかった。弾が肉に刺さる音ではなかった。
目を開けると、そこには絶叫する章と、それを眺める葵がいた。
そして血だらけの僕の手で持った包丁。
よく見ると章の右手首は切り落とされ、拳銃を握ったままの腕が落ちている。
「なん……だ!! おれの……おれの腕が!!!」
「間に合った。いや……少し遅かったのかな」
声がする方にはいつかの悪魔が空から降りてきた。そして僕の方を向いて会釈した。
章の方を向きなおす。
「田中章、あなたはやりすぎた」
死を告げるように冷酷に淡々と言った。章はまだ叫び続け、切り落とされた右手を見ている。
しかしいったい何なのだろう。急に薄れていた意識が戻り、目を開けるとそこには手首のない章。そして手首を切り取ったと思われる包丁。
悪魔は隆史の方をむき直し表情を変えずに淡々と言った。
「今起っている不思議なことは『全て』私がやったことだ不思議に思うな」
「悪魔がやったこと」、そう言われればそうだった。急に力が湧いたようだったし、持っていなかった包丁が握られていた。
悪魔は再び章の方にむき直す。
「さて………田中章さん。あなたの魂はすでに腐ってしまっている。腐った魂はもう戻すことは出来ない」
「魂が………腐っている?」
そう聞いたのは葵だった。
「言葉の通り魂が腐っている。腐った物はもう戻らない。魂も同じだ。腐った魂はもう戻らない。そしてそんな魂の行き着く先は………死に神の地獄」
章の顔にはもうすでに絶望しかない。
「死に神……? 俺は地獄に堕ちるのか? 今まで妹のために尽くしてきたというのに………」
「うるさいよ。君はもうすぐ墜ちる」
しかし、章は最後の抵抗をはかった。
「な……なら…葵はどうなんだ? あいつは薬の効果とは言っても、奴を殺した……。他にも殺ったんだぜ?」
葵の顔が絶望に変わる。目の前で叫ぶ兄が自分を売った。そしてもし葵ががあのような…………
「安心しなさい。わたしはあなた達を裁きにきたのではない。田中章あなたはもう消えなさい」
悪魔が左腕をあげる。そうすると………章が消えた。
「あいつは私どもが責任を持って処分します」
悪魔が僕の方をふり向いた。
「近藤隆史さん……とても言いにくいことなんですが………」
「わかってる」
僕はそうはいった物のなにをわかっているのかわからない。しかし、もうわかっているのだろう。
僕はその場に倒れた。意識が戻る前のようだ。葵が駆け寄ってくる
「………。次に田中葵様…あなたには関係ないかもしれない。しかし、………あなたは人を殺しました。もう帰ってこないんです。どうお考えで?」
葵は僕を床に寝かせると、立ち上がった。
「わかっています。もう………死んだ人は帰ってこないんですもんね。………もし、あなたが私に兄のように罪を償えと言うんでしたら、喜んでお受けしましょう。しかし………私はもっと生きて、死んでしまった人の分まで生きていたい」
「良い心がけです」
悪魔が右腕をあげた。葵が覚悟を決めて目をつむる。
「………!!」
――悪魔はそのまま腕をおろす
「今日はもう力を使い果たしたようです」
葵が目を開ける。
「最後です。近藤隆史さん、あなたはもうだめなようですね………いきましょうか」
僕はもう死ぬんだな。これでもう終わりなんだな。もっと葵といたかったな。いろいろな思いが心の中を暴れ回る
「なんで……!」
葵が急に叫ぶ。
「なんで!! あいつ……隆史は生き返ったんでしょ!? もう……終わったんだろ? 謎は解いたんだろ!?」
悪魔は首を振る
「まだです……まだ完全ではない。それにもし生き返ってしまっていたとしても……もう助かりません」
葵は………やりきれない表情を浮かべる
「でも……でも……でも」
僕はもう死ぬんだな。葵には悪いけど……。でも満足な時間だった。後悔はない。
「隆史さん行きましょうか」
僕は消えかかる意識の中で僕は答えた。
「ちょっと………まってて。葵と……話がしたい」
「わかりました………私は先に行きます。あとでちゃんとき来て下さいよ」
「僕はあとどのくらいここにいられる?」
「あと……5分が限度でしょうか。ではちゃんとしゃべれるようにしておきます。それでは」
悪魔は左手を僕の上にのせ、力を込めた。口が動くようになった
「では」
悪魔の体が光りだし、一瞬の光で消えていった。
葵はその場に立ちつくしている。僕は開くようになった口を開ける
「葵………聞いて」
葵から返事はない。僕はそのまま話す。
「いままで……本当にありがとう。僕が死んでしまってからも迷惑かけちゃった。生きているとき、僕は本当にだめな奴だった。何度も失敗して、みんなに迷惑かけてさ。でも……葵の笑っている顔を見てるとさ……なんだかもう一回やってみようかなって思えるんだ。もっとできるんじゃないかなって感じるんだ」
葵は僕の方を向こうとはしなかった。でも僕は続ける。
「もうすぐ僕はもう消えると思う。でも……最後にちゃんと聞いてくれ」
僕はもう葵の方は見なかった。手を伸ばしても……絶対に届かない、空の果てを見続けている。
「私は嫌だ………もう………一人にしないで……最後だなんて言わないで」
空から雨が降るかのように葵の目から滴が落ちている。僕はそんな葵を見ることはできなかった。僕だって本当は葵の側にずっといたい。でも、時はそれを許さなかった。
僕の体が悪魔の時と同じように光り出す。
「もう本当に最後だ………葵」
空は青い。葵。そう、あの時のように。
「僕は楽しかったよ。でも何でって感じかな。この世の中には不思議なことや、わからなくて納得いかないことがあるけど、終わってみると楽しかったって思えるんだよ」
空はとても広かった。なのに僕と葵はとても狭い世界の中でとても楽しい時を過ごせた。
「僕は終わるけど、葵はまだこれからだ。最後に楽しかったって思えるようにね……なんか変な気分だ。忘れないでね僕のこと。僕は死んでも……覚え……て…」
後悔はないとは言えない。でも……いまはそれほど悪い気分じゃない。体の光が強くなる。
空はずっと青い。世の中がどんなに血に染まろうと、汚くなっていこうと、空はずっと青い。
――そう言えば……あの日もこんな青空だったかな。
答えというものは謎の終わりである。しかし、謎は尽きないものである。
《Who why》
あの日から三ヶ月がたった。私はあの事件のあと警察に引き取られたけど。でも私はそこでは何もしゃべらなかった。あいつのことも。
だって誰が悪魔や幽霊の事を信じるかというのだろうか……まぁ誰かに知ってもらいたいわけではないのだけど。
あいつはやっぱり帰ってこなかった。そりゃあいつは死んだんだし……。そのかわり嫌な奴は帰ってきた。私の兄だ。
兄貴は、事件から数日たってから現れ、警察に自分から自首したという。
警察に自首したときは死んでいるのではないかと間違えるほどやつれていたらしい。
一体兄貴はあのちっさいのと死に神に何をされたのか……考えただけで恐ろしい。
私は今、学校の帰り道だ。
毎日のようにあの道を通っている。
あの――私にとってとても大きな出来事があった場所。
いつものように歩いている。だけど、あいつは隣にいない。
最初はずっと泣いてたけど、泣いたってあいつは帰ってこない。笑ってあいつの分まで生きてやる。
もうすぐ、あの交差点にさしかかる。
ふと、不思議な感覚が体を通り抜ける。
何なのだろう、全くわからない……大事な所が抜けている。
交差点にさしかかった。――ん?誰かがその交差点を歩いている。
私から見て右から、左の道まで歩いている。
この交差点に人がいるなんてとても珍しい。一体誰なのだろう。
そいつはあいつだった。
なんであいつが?どうして?どうやって?
色々考えた………悪魔の気が変わったのか、それとも別の方法で?
そんなことどうでも良い。私は走った、ずっと待っていた顔の元まで。
息を切らしながら、あいつ……隆史の前までで走る。
そのいつも道理の何も考えてはいない顔は言った。
「今日もまたいい青空だ」
空を見上げたまま続けた
「僕が誰で、何故だと思う?」
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2008/09/10(Wed)17:59:56 公開 / 金色
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■作者からのメッセージ
模造の冠を被ったお犬さま、有難うございました。
前、再びこの作品を読み返してみたとき、もっといい作品にしてみたいと思う心が表れたので、今回投稿させていただき、また意見を聞きたいと思いました。今後シリーズ化(?)していきたいので、意見・感想をお願いします。