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『登場人物は俺しかいない。』 作者:悠湖 / ショート*2 お笑い
全角2725.5文字
容量5451 bytes
原稿用紙約9.4枚
 いいか、諸君。驚かないで聞いてほしい。
 俺は今、何やら大変な陰謀に包まれているかもしれない。
 これは罠なんだ……都心部における、怖い人たちの罠なんだ……。

「あ、おにいさん! ちょっとうちの店寄ってかない?」
 ま、また来やがった!! これでもうかれこれ7回目だぞ!? な、何なんだよ、全く。
「あ、いえ、俺興味ないんで……」
 俺は足早にその場を立ち去る。
 ――もうわかっただろうか? 俺は、今……。



 モーレツに風俗の勧誘にあっているんだッッ!!!



 ……あれ? 何? この空気。
 いや、だっておかしくね? さっきも言ったけど、7回も勧誘されてるんだぜ? 
 前までこの道を通っても、虫が寄ってくるだけで、他の人間が俺に近寄ることは無かったというのに。
 ――これは陰謀だ。きっと陰謀なんだ。よくわかんないけど、とりあえず陰謀なんだっ!
「あ、おにいさ――」
 きやがった!! 明らかに風俗店やってそうな店員がきやがった! ど、どうする!? このまま逃げ続けても何にもならんっ!
 俺の推測(当たる可能性3%)では、きっとさっきから話しかけてきやがってる奴らはグルだっ!
 ええい! グルだ! そうに違いない! 明らかに店の種類違うとか、なんでグルになってんの? とか、そういう質問、意見、感想は、一切受け付けねぇっ! とにかく、あいつらは何か企みがあるんだ!
「ん? なんだい? 僕(の体)に何か用でも?」
 フ、フン。どうだ? あえて一人称を僕と言っている、この高貴な感じ。このオーラ。この厚き壁。きっと相手に威圧感をあたえるに違いな――。
「あっはは、何言ってるの。にいさんったらしらばっくれちゃって」
 と、目の前の勧誘者は笑いながら俺を見つめた。
 あれ? なんか威圧感全くあたえてなくね? あっれ、おっかしいな。逆に相手から威圧感をあたえられてるんだけど。
 い、いや、だめだ! このまま空気に流されちゃだめだ! 
「い、いえ。俺はかれこれ26年純情なので。ではっ!」
 俺は走った。馬刺しにされそうになって、ようやく脱走できた馬のように……って何だ? このネガティブな例え。
 しかし、一体どうなっているんだ? まさか、俺の方が変なオーラを出しているというのか?
 い、いや、そんなわけあるまい。俺に出せるのはつばと涙と40円(現在の財布の中身)くらいだ。
 だが、さっきの勧誘者の言葉を思い出すと、俺がオーラを出しているというのもハズレではないかもしれない……。
 いや、オーラじゃなく、俺の態度が問題なのかもしれん。
 い、いや、違う、違うぞっ。きっと、きっと――。
「俺の顔がイケメンになったからに違いない」
 いや、あえてツッコんでほしい所だが、この際俺しか登場人物がいないのでどうでもいい。
 でも“ラーメン、つけ麺、僕イッケメーン説”を出すと、さっきの説が全く成り立たんな。
 まさか、俺の体のどこかに、“ヘーイ! イッツウェルカーム!!”みたいな部分でもあるのか?
 いや、もちろん英語の意味は全く間違っているのだろうが、俺しか登場人物がいないので仕方が無い。
「あっ、おにいさん、ちょっと寄ってかな〜い?」
 ワーオ、9人目。しかも何か顔怖ぇぇ〜! 何あれ? ヤクザじゃん。
 あ〜〜!! 一体何だっていうんだっ!! なんで皆同じようなセリフしか言わないんだ! いや、単に風俗勧誘セリフがこれぐらいしかないからかもしれないけど。
 まぁ、落ち着け俺。ここはさっきの失敗を踏み越し、新たな失敗――じゃなくて! 成功に導くんだ!
 そして、そんな俺が言った一言がコレだ。

「なんだチミは。ミーの体に惹かれたのかい?(注:26歳サラリーマンのセリフです)」
 
 どうだ? かなり破壊力あるだろ? 効果はばつぐんだよな! てか言った俺自身すっげぇ恥ずかしいんだよね。
「あ、ああ、ごめんねおにいさん。疲れてるんだね。悪かったよ」
 お! 成功だ! やったぜ! なんかすっげぇ可哀想なものを見る目だったけど、結果オーライだ!
 だがこの策は次には使えないな……。いや、なんというか自分自身の精神保持のためにもさ。
 む〜、しかし本当に何でこんなに話しかけられるんだろうか。もしかしたら俺の考えすぎ? いやいや、でも周りの人間はそんなに話しかけられてないぞ?
 まさか、俺の顔が“風俗通ってそうなオッサン”に見えるのか……?
 いや、悔しい話だが、“ラーメン、たんm(以下省略)”よりも有力と思われるな……。
 っていうか、こんなことやってて終わるのか? なんか永遠ループしちまいそうだ。
「おっ、いいねぇおにいさん」
 ちっ、祝10人目なんですけどっ! まったくめでたくねぇ。クジの3等くらいめでたくねぇ。
 っていうか何が“いいねぇ”なの? その言葉は何? 何なの? 何が目的? 金? 体?
「す、すいませんね。俺純情派26歳なんで――」
 ノーマルな受け答えで走り去る俺。あ、なんかクールでアダルトだね。そしてルーだね、さっきから。
 
 さて、どれくらい走っただろうか。なんか疲れた。
 文字数もいい加減限界に来ている。そろそろ謎を解かなければ。
 ――一体何故俺は風俗にここまで勧誘されなければならないのか。
 パッとしなくて、冴えなくて、モテなくて、彼女居ない暦=生きている年数で、万年窓際で、財布は折り紙で、朝ごはん歯磨き粉という俺が、何故こんな目にあってしまうのか。
 いや、なんか逆に俺の生い立ちの方が気になる感じだが、登場人物は俺しか居ないので放っておく。
 あ、でも彼女居ない暦ってのは違うか。だって俺“脳内彼女※”居るし〜。(※妄想上の彼女のことです)
 あ〜もうなんかトイレ行きたくなってきた。と、思ったところで、ちょうど目の前にトイレがあった。なんて軽い展開なのだろうか。この展開考えた奴はきっと低脳だ。
 ――トイレに入り、便器の前までたどりつき、俺はようやく謎が解けた。
な、なんてこった……。そ、そういうことだったのか。
 あの勧誘者の声が鮮明に蘇った。

『おっ、いいねぇおにいさん』

 嘘……だ。うそだっ!!! これは夢なんだっ!


 まさか、ここまでひっぱっといてッ――。
 ここまで俺に被害妄想をさせて――。
 ここまで俺に恥かかせといて――。

 そのオチが――。

 
 
 ―社会の窓全開♪―

 
「オチショボくね!? ここまでやっといて、これオチィィッッ!? 昭和のオチじゃねぇんだよッ!! 昭和ナメんなァァァ!!」
 


 
 自分自身のことなので、本当は他人にツッコんでほしいとこだったが。


 
 だけど登場人物が俺しかいないので……――。 
 
2008/03/10(Mon)20:29:51 公開 / 悠湖
■この作品の著作権は悠湖さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
お読みになっていただき、ありがとうございました。
前回と同じく、ブッコワれ気味のハイスピードコメディを意識してかいてみましたが、どうでしょう?
ついでに、このオチは友人の親の経験をパクらせていただきました。どうやらやる気まんまんに見られたみたいです。都会も怖いですなぁ。
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