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『月食』 作者:櫻 / 未分類 ホラー
全角3952.5文字
容量7905 bytes
原稿用紙約12.3枚


『“月食い”。
 心の闇を食うといわれる伝説上の魔物。
 語り継がれる逸話は、いくつか存在する。
 月食いは人の夢に入り込むといわれる。人の形を模し、月を食ったような赤い瞳。雲隠れするかのような、深淵の髪色をしている』

「月食い……これだ。絶対これだ」
 図書館の隅に、高いトーンの囁きがこだまする。少女の白い横顔が、夕日を赤く弾いている。鋭い雰囲気の少女だった。
 彼女は本を閉じるやいなや、椅子を蹴った。顔を上げた少女の大きな瞳。それに映る図書館は、夕闇に包まれている。橙色の床を少女は小走りに走った。
「すみません。この本、借ります」
 早口ぎみに、言葉は紡がれる。
 少女は図書カードを手元に引き寄せる。三月十六日、『異世界奇譚』。素早く本の番号を書き取り、最後に名前を書いた。高橋葵。走り書きだった。
 少女は、青年にカードを見せる。
「はい。それじゃあ返却期限は一週間ですね。ありがとうございました」
 機械的に本を渡した青年は、面倒くさそうに見える。
 葵は軽く一礼をする。学生用の鞄を開け、適当な場所に本を詰め込んだ。本は分厚かった。肩にかけた紐が、若干重くなる。だが葵は気に留めなかった。彼女は、追い立てられるように扉を押した。彼女には、あまり余裕がなかった。
 図書館を出ると、太陽が最初に目に留まる。すでに傾いていた。
「急がなきゃ……」
 葵は急いでいた。
 日が落ちる前に、家に。もう一刻の猶予も許されない。
 葵は走った。先ほど読んだ『異世界奇譚』の一節を思い起こした。
 ――月食い。人を異なる世界に引きずりこむと語られる。人の夢に入り込み、何ヶ月にも渡り、月の夢を見せる。満月に始まり、毎晩徐々に月が欠けてゆく。月が新月となった時、人を異界へと引きずりこむ。
「急がなきゃ……」
 口の中で反芻する言葉が、背中を後押しした。
 葵は、毎日同じ夢を見ていた。
 月の夢だ。そして、もう月は見えなくなった。――完全に、無くなってしまいそうなのだ。
 葵は、逃げるように歩を進めた。肺が痛みを訴える。苦しさに肩が上下する。しかし葵は止まらなかった。
「このままじゃ、月が無くなっちゃう!」
 声は掠れて吐息と化す。
 自分の足じゃないようだった。恐怖が、足を動かしている。葵は下唇をかんだ。鋭い空気が、心を掠め取る。彼女は俯いた。
 葵は思った。まさかこんなオカルト話を信じるはめになろうとは。
 葵の夢が奪われたのは、数ヶ月前。ちょうど、親友が失踪した頃だった。
 新藤美樹。人好きのする顔立ちだった。笑った時にえくぼができるのが可愛らしかった。羨ましかった。葵は、目が少しつっている事を気にしていた。とっつき辛い印象を与えてしまうのが嫌だった。
 しかしそのふたりは、小学校の頃からの幼馴染だった。卒業式に二人で写真を撮り、中学校は一度も同じクラスにならなかった。高校生になった時、偶然同じクラスにあたった。葵は複雑な気持ちで美樹に話しかけた。美樹は、しばらく見ないうちに変わっていた。改めて、三年間の隔たりを肌に感じた。
 美樹は、装いこそ派手になったが、葵のことは覚えていたようだった。
 二人は自然と仲良くなった。数ヶ月もすると秘密を共有するようになった。
 美樹。
 数ヶ月前、いなくなった。何かに思い悩んでいる風もなく、突然、失踪した。
 私の親友。
 彼女は失踪した。困惑と寂寞の砂漠だけを葵に残して。

「あっ!」

 突如、葵の視界が黒く染まった。
 まさか。心臓が大きく跳ねる。月の夢が思い浮かんだ。……月食いは、人を異界に引きずりこむ。
 葵がそう思ったのも束の間だった。
「っ!」
 暗闇に、するどい呼気が聞こえる。葵の背中に、人の手が伸びる。葵は奇妙な浮遊感に包まれた。人にぶつかったらしい。ぐいと、背中からの力に引き寄せられる。離れかけた両足がコンクリートについた。葵は安定感を取り戻す。
「……あの、君。大丈夫か」半ば呆れた声が上から降ってくる。
 男の声だった。受け止められたのだ。ばつが悪かった。葵は彼の胸を押し、手を離すように促した。
「すみません」
 葵が顔を上げると同時、男の手は離された。少し失礼だっただろうか。葵は自分の行動を恥じる。
 彼の真っ黒い学ランは、葵の学校のものだった。胸の生徒章は青色。三年生だ。男は、二歳年上の先輩だった。
「ええと、前を見てなくて」
 葵は視線を彷徨わせる。伺うように視線を上げると、見下ろす男の細い目に出会った。「いや。」と響いた低い男声は、いかにも年上という感じだった。
 男の双眸は、不思議と揺れていた。不審と不満の光を湛えている。だが、その言葉を飲み込んでいる様子だった。もし葵が彼の友人だったなら、何か言われただろう。
「ごめんなさい。ありがとうございました」
 軽い会釈をした葵は、身を翻した。男の「ああ。」という声が背中を追った。
 葵は、また走り出す。
 太陽が放つ、神々しい橙色が眩い。葵は、家へと歩を進めた。もうすぐ、月が出てくる。
 
 美樹が失踪したあの日。そこから、葵の夜は止まったままだった。
 あの夜、葵は綺麗な満月の夢を見た。無数の星を統べる強大な光。
 葵は思った。夜だから、月がよく見える。涙が止まらなかった。闇があるから、光は栄えてしまう。夜だけ、満月は神さまになる。
 葵は、高校生になって初めて泣いた。頬を伝う気持ちの悪い涙を感じた。美樹はいない。でも、きっと帰ってくる。満月に願いを馳せる夜は続いた。
 不思議な引力が、月にはあった。妖しい魅力が、あれにはあった。
 だが、月は徐々に欠けていったのだ。
 葵の希望も欠けて行き、不安が首をもたげた。葵は、初めて思った。この月が無くなったら。光がなくなり、闇の空間しか残らない。それは、心の虚無だった。そして、黒の無限だった。その隙間に闇がある。
 気づいた時、すでに月は消えかけていた。
 月が無くなった空間。葵は戸惑いを隠しきれなかった。怖いと思った。
 月の夢。
 葵は噂に聞いたことがあった。友達が話したホラー話だった。葵は記憶に落ちる単語を拾い、“聞き覚え”の実体を探した。葵は必死に本をめくった。
 たどり着いたのが、月食い。

 夢の中で、月は徐々に欠けてゆく。それが月食いの見せる夢であることは間違いなかった。本によると、新月になった時、葵は異世界に引きずり込まれる。だが葵は、そんなことはどうでもよかった。ただ、夢の中で光る月を失いたくないだけだった。
 ……あの満月が欲しい。
 しかし葵は、月の夢を見続けることが怖くもあった。満月が欲しい気持ちと同じぐらい、妖艶な月がもたらすものを恐れていた。
 
「なんで……!」

 葵はふらふらと減速した。
 春の涼しい空気が喉を掠める。肺は酸素を欲していた。息苦しさの中で、葵は思った。家に辿りつけない。帰路を通っているはずなのに、家に行けない。
 葵は、しだいに空気が胸を侵しているように感じてきた。
 変だ。葵は震える肩を抑えた。先ほどもここを通った。ここは、男とぶつかった場所だ。
 ループしている。
 愕然とした。
 まさか、もう夢の月は完全に消えてしまっていたのだろうか。葵は下唇を噛んだ。だとしたら、自分はどうなるのだろう。伝承どおり、異世界に連れて行かれるのだろうか。
 当ても無く、葵は歩を進めた。恐怖に背中を後押しされる。
 美樹。美樹。
 焦りは、危険な足取りを作った。だが葵は、止まろうとしない。ふと思った。私がいなくなれば、誰かが悲しむだろうか。美樹が失踪したあの日、あの私のように。
 葵は急に、泣きたくなった。視界が霞む。父と母の顔が浮かんでは消える。心が掠め取られてしまう。
 浮いた気持ちで葵は歩く。
 日は傾き、薄い黒が下りてくる。時刻は六時を回ろうとしていた。風が吹くのを変に感じた。人は一人も通らない。聳える建物は、押し黙っている。先ほどは活気さえ感じた帰路は、暗かった。
 葵は、袖で涙を拭った。
 意を決して、分かれ道を右に曲がる。すると、霞んだ双眸に、黒いものが映った。葵より幾分か高い。……先ほどの男だ。
 気づいた時には、もう遅かった。
 彼の鋭い眼光に突き当たり、双方は沈黙した。微妙な空気が、二人の間に滑り落ちる。だがその沈黙は、一瞬だった。男が渋々口を開いた。
「どうかしたか」
 視線が合ってしまった以上、無視できないといった様子だった。
 葵は、何も答えられなかった。言葉に詰まり、俯く。彼は無言をどうとったのか、怪訝に眉を潜める。言葉を探しているようだった。
「ああ、その。先ほど向こうに行ったよな、君。なんでこっちから来たんだ」
 男は聞くほど疑問に思っていない。葵は思った。彼の視線は葵を向いていなかった。
 葵は、震える唇を開いた。
「ここから、出られないんです」
 葵は男の反応を伺った。改めて見ると、彼は研ぎ澄まされた風格をしていた。独特な雰囲気を持っている。運動部だろうか。葵は思った。勝負師の顔つきをしている。
「出られない?」男の声に
「ループしているような気がするんです」
「ループ……」
 彼の声色はまっすぐだった。葵は小さく驚いた。彼の真剣な双眸とぶつかった。予想外の反応に、彼女は狼狽した。
「もしかして、あなたも出られないんですか?」
 期待で言った訳ではなかった。声が掠れたのは、罪悪感の所業だ。もし彼が出られないなら、それは葵のせいだった。
 男は口を引き結んだ。思いを巡らせているようにも見える。彼は遠慮がちに口を開いた。
「いや」
 葵は胸を撫で下ろした。葵の上から、低い声が落ちてくる。
「困っているなら、手助けしようか」
「手助け?」
 思わず聞き返した。
2008/03/08(Sat)23:26:11 公開 /
■この作品の著作権は櫻さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
比喩表現が多すぎて何が言いたいか分からなくなってしまいました。さらに短い文が多いですから、それに拍車をかけている気がします。雰囲気重視で、割とさらっと書きました。強調したいところだけ、何度も同じ単語を繰り返しました。でも全て玉砕。
感想やアドバイスを下さると嬉しいです。
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