- 『身寄りの無い猫の行方』 作者:ぁわ / 未分類 未分類
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原稿用紙約17.75枚
猫:本名、猫雫真由美(ネコダマユミ)。両親の離婚がきっかけで近所の公園に家出してきた。何故か彼女がいると雨が降りやすくなるという雨子(アマコ)。/秋田先輩:真由美が通う高等部の先輩。3年生。/ちっちゃい姉御:本名、八月一日姉妹(ホヅミネマイ)。小学生。よく「誕生日を名札に書くな」といわれる。土砂降りの中、何故か全身裸体で座り込んでいた大きな猫を拾った。
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ねえ、あなたには大切なものはありますか? あるの? じゃあ、それを大切にしてあげてね。
ねえ、あなたには大事な宝物はありますか? ないの? じゃあ、それを私にください。
***
猫は気まぐれだとか、種類によっては貴高く繊細。そんな常識はこの都会に通用しない。猫だけが気まぐれとかじゃない。
結局は人間も同じだから、もしかしたら猫も人間になれるのかもしれない。どこかの比喩で、女子を猫だのウサギだの言う。
大人しくて、でも気まぐれなのよ。寂しくて、一人だけでは死んでしまうの。裏ごとのきれいな言葉だけで、繊細なものにも穢れがある。私は穢れた捨て猫。誰も相手にしてくれない。相手になってくれても過ぎに飽きる。
私は身寄りの無い猫。遊び相手を探してる女の子。雨音だけが響いて、空っぽの心に強く打ち込んで、隙間風が素肌をなでる。胸に突き刺さる世間の冷たさなんて、私にはわからない。
私の大嫌いなもの、一人ぼっちの雨音。耳鳴りのような雑音なんて聞きたくないよ。一人ぼっちで、真っ暗で、私以外誰もいない様なだだっ広い世界。
右へ行っても左へ行っても、前も後ろでも変わりなくて全部が寂しい。帰るところなんて、一握りしか無い。帰る場所も行く場所も、ひとつしかない。
私は私。だけど私の好きなものは私じゃない。自分が嫌い。私という自分自身が大嫌い。
何でこんな狭い世界に私だけ。きれいに穢れながら、存在しているのか。わからない。わかりたくも無い。ウサギは寂しいと死んじゃう。私は温かみが無いと凍えて死んじゃう。弱い生き物なんだ。
だから穢れて、きれいになって……今も昔も、この公園の中。私のあるべき場所は、二つも要らない。離婚して親がいなくなったことを後悔する。暇なのに、暇が無い。
「〜…〜〜……」
今日も雨音だけが響いて、独りになったんだって自覚なしで生きてる。きれいな心だけじゃ生きていけない。
穢れた世界の悲しい音楽祭。やさしい音を奏でる。きれいな馬の上に跨って、今も響くよ。呼んでいるんだよって、今もここで音楽を奏でる。一人ぼっちで、うれしくて悲しくて、それでも呼んでいる。遠い日の思い出。
この想いは鮮やかで鮮明に聞こえる。うれしい声は穢れた歌声で、響いて鮮明によみがえるあの日の記憶。
今も自分は一人で叫んでる。心の中で呼べる名前も無くて、ただひたすら叫んでる。私にできることは叫ぶことしかできない。苦しくて、つまずいて、私の中の私は悲しんでる。
それでもあなたは歌を歌ってくれた。あなたを好きになってよかった。あなたに会えてよかった。今は誰も知らないの。儚い夢の泡沫に、私は一人で歌ってる。
***
誰かを待っている。誰も来ないような広い公園で一人。手元には充電切れ間近の携帯電話。いつかの誰かに貰った携帯のストラップが風に遊ばれてる。揺れればゆれるほど奏でる小さな鈴の音を空に翳して、雨中に紛れる。
12月の風を浴びながら、空っぽになっただだっ広い公園の一角にしゃがみ込んで、携帯のボタンをいじくる。大学のサークル仲間の皆には内緒で、演奏の野外練習をしようと誘い出してみた。
待つ間、掴むのは空っぽの手と冷たい空の涙。それでも私は寂しいから歌ってる。一人ぼっちの歌声は土砂降りの雨音にかき消された。
暫くしてから人の気配がした。
「どうしたの?」
俯いていた顔を上げてみたら、見間違いなくサークルの仲間だったから嬉しくって抱きついた。温かい。アルバイト帰りに立ち寄ったというサークル仲間の発言を聞く限りではメールの内容は見てなさそうな顔だった。独りぼっちで長時間はきついよ。寂しくって死んじゃう。冗談を口走りながら、相手に軽く甘えてみる。
「他の皆は?着てないの?」
「うん。まあね」
「…うーん。てことは、じっとしてるのも寒いよね……」
相手は鈍感なのか、綺麗に笑いながら着ていた上着を私の肩にかけてくれた。寒かったでしょって。元々じっとしているのが性に合わない相手は、サークルの仲間が来るまで体を動かして、体あっためていようかって、単純な思い付きを提案した。彼とは正反対で、あまり体力の無い私は苦笑いを浮かべながら返事を返す。は自慢げに笑う。
「ねえ、何して遊ぶ?」
「そうだねえ…」
単純な相手の特別でもない遊びには興味は無いけど、ここは仕方なく付き合ってあげるか。心の中で軽く思いながら私は少しだけ、体を動かす遊びを考えていたけど、さすが体力馬鹿の脳内は違う。きっとフル回転で考えたのだろう、
「鬼ごっこしない?」
「……鬼ごっこ?」
相手がとても嬉しそうに提案するので、私は頷いた。
「いいよ」
「じゃあ、ボクが追っかけるから、真由ちゃんは逃げてね?」
「うんっ」
私は思いきり走った。雨が降った後の崩れた足元は滑って走りにくいが、そこは持ち前の身体能力で園内を跳び回って、体力馬鹿の相手よりも早く走って、雨音にすべてが消されかけても、それでも速くかけていく。相手は楽しそうに追い掛けてくる。私は余裕の表情で相手を振り返る。
「あはははっ。真由ちゃん。早い、早い」
「あははっ」
何年ぶりだろう。こんなに走ったの。凄く気持ちいい。凄く嬉しい。だけどなぜだろう。何かが物足りない気がする。……そうだ。
「うわっ…危な」
「捕まえた」
私は足を止めて、全速力で走ってきてブレーキが止まらない相手を受け止める。誰も居ない公園の中、大量の雨音だけが鳴り響く空間の中で、私一人で何を待っていたんだろう。今まで、ずっとわからなかった。この男が着たから? 本来のことがわからなくなったの? でも、今になってやっと思い出した。
「え〜っ? こんなのズルイよお!」
「意外と簡単に捕まっちゃうんだね。秋田先輩って」
「……何。その言い方。ていうか、野外リサイタルは!?」
秋田先輩は手足をバタバタさせながら抵抗してくるけど、野外リサイタルのことを聞いてきた。ああ、やっぱりメールの内容見てくれたんですね。でも、あなたは楽器持ってきてないでしょ? 少し向きになった顔で私を見つめてきた。雨にぬれた顔が可愛い顔してる。
「まあ、リサイタルは皆が着てたらやるということで……。そうだっ。今度は私が、先輩に体が温かくなる遊びを教えてあげますよ」
「え?」
徐に服の中に手を入れて、布を破り始めると先輩が着ていた体育着がビリビリに破けて露出度が上がった。私は笑いながら先輩の上に跨って、相手を見下ろす。先輩の素肌を舐めて、吸い付くようなキスを施す。
「うあっ!? ちょっ、何すんだ!」
「何って、暖かくなる方法ですよ。もしかして、知らないんですか?」
肌を這い回る様に、柔らかな肌と板のような肌を引き寄せる。板の上に張り付くやわらかい触感があたっただけで顔を赤くする先輩。やっぱり可愛い先輩だと思った。
「っ!」
「もしかして、先輩は初めてですか? こういうの」
「やめろ…ぉ!」
「ちょっと煩いなあ……。これ、舐めててください」
私はやわらかい触感のものを先輩の顔面に乗せて、もそもそっと上で動きながら、その先端を相手の口の中に入れて塞いだ。
「んん……ッ」
「美味しいですか? 母親ほどじゃないですけどね。ね、マザコン先輩?」
学校で唯一マザコンで有名だった先輩をこうして独り占めできるなんて、凄く楽しい。邪気が無い純粋な心で遊んでる。先輩が安心できる場所はここだよって教えてあげてるだけ。先輩の目から涙がたまってきたように見えて、その顔が凄く可愛くて、私は満足しながら先輩の秘部の割れ目に触れてみた。
「んあ…あっ!」
先輩。男なのに、可愛い声だしてる。よく見えるように片手で先輩の足を持ち上げて、クチュクチュと音をたてて発音した舌が割れ目を這った。
「美味しそうだね」
「ひゃうッ!…らめ…っやら…あっ」
先輩はいやいや泣きながら叫んでいたけど、私の苺を加えている為に舌の回らない状態で喘ぐ。
「少し濡れてきましたね……やっぱり気持ち良いんでしょ? 先輩」
天から屋根を伝ってベンチに落ちる雫に紛れて、先輩の涙が零れ落ちる顔を眺めながら、分泌する透明な液を味わい同時に主張し始めた突起物を刺激した。
「…ふあッ!やっ…あッ!んにゃ…あっ」
先輩は我慢できずに苺の先を吐き出した。
「……あ〜あ。やっぱりダメですね…。先輩はダメダメです」
「…ッだって……。……やあぁああっ!!」
「あははははっ」
悲鳴をあげる先輩を眺めながら、私は楽しくなってきた。
「痛いよぉっ! やだぁっ! 助けて…ッ」
「お母さんにですか? マザコン先輩。でも、残念。あなたは私のモノなんだから、誰も迎えに来ませんよ?」
泣きじゃくる秋田の頭を撫で、真由は笑った。
「すぐに壊れたりしないでね? 私の玩具なんだから」
「やだぁあぁあ…っ!」
「あははははっ! あははははははっ」
雨音に重なって、嬉しそうな笑い声が響き渡った。
「な〜んだ」
12月の冷たい風が吹き付ける野外で、滅多に人が来ないような静かなライブを小さくしてみた。そうしたら突然、相方の方が崩れた。今日は凄く寒いから、それで体調不良を起こしたのだろう。だけど動かなくなるのなんて嫌だ。
「もう壊れちゃったの?」
寒い雨音。響いて素肌に零れ落ちる。凍りつくような寒さの中、小さくなった私は新しい何かを求めた。求める前はちゃんと手元に居たけど、すぐに壊れちゃった。だから捨てた。そしたら手元が寂しい事に気づいた。直ぐに新しい何かが欲しく感じた。何かが来ないかな、なんて思って待ってみた。
暖かくしたはずなのに、空になってからからになった手のひら。上の空に翳してみる。上からの雨が素肌にしみこんで、満たされなかった心の隙間にしみこんでくる。
「あ〜あ……また暇になっちゃった……」
また暫く待ってみよう。私が動かなくても、新しい何かが直々に来るかもしれないから。もう少し。寒いけど、もう少し待ってみよう。
***
「ふみゃっ……」
大きい猫が腹を上に向けて無防備にも「触ってどうぞ」って誘ってる。あまり目にはしたくないピリピリな時期なのに、なんでだろう。触れて、少しでもやりたくなる。本能丸出し。馬鹿馬鹿しい自分に腹を立てる。
「ねえ、構ってよ〜」
「嫌だ」
こちらの気持ちも知らないで、短い幅の膝の上で真っ直ぐデカイ横断。軟体をびよ〜んと伸びきってて、重くて足が痺れてる。むかつく。しかも勉強の邪魔なので更にむかつく。
頭にきたから頭を鷲掴んで立ち上がり徐に壁に向かって投げつける。火事場の馬鹿力というやつで、自分より大きな相手を投げ飛ばした。さっきまでデカイ鏡餅の様な形だったのに、今となっては壁にぐで〜っと伸びる餅。
蜜柑の上に炬燵とくれば、ワンコよりニャンコ。犬は喜び庭駆け回り、猫は炬燵で丸くなる。という事で12月と1月2月に大活躍なお炬燵を用意した訳ですが、……畜生。丸くならない。丸くなれ、丸くなるんだ、丸くなるんだよ、猫ーッ! 強く念力を送ってみたが、途中で途切れた。
「にゃあ〜」
体力というか、無駄な精神力が途中で吹っ切れたみたい。12月の風が吹き付ける中、肌色を全開に見せるのにはやっぱり危険なものがある。寒く感じた私はしぶしぶ炬燵の中に潜る。ぬくぬくとして暖かい。気が抜けた表情を浮かべる。少し気持ちにゆとりを持っちゃった隙を見て、開いた隙間に埋まるように猫は入ってきた。
「駄目」
「あ〜〜」
入ってきた相手の感触を素肌に感じながら布団の隙間から顔を覗かせた。瞳孔が開いて、鼻がヒクヒクしてて、体を小さく震わせてながら私のイチゴを必死に舐めてきた。駄目だ……。完全にこれは「構ってちょーだい」の合図を出してきた。うちの猫、こんなに躾け悪いの。
「だから、駄目だって……」
「ちゅう」
「……っ!」
「…ぺろ」
瞬間的に終わった。吸い取られるような音が漏れて、ぐにゅっと何かが捻られる音がしたと同時に、ねばりっけのついた黄色い液体が顔に飛び散ってきた。妙に温まってきた下の方から細い何かが針のように刺激してくる。頬を少し桜色に染めて、再び猫のほうを見下ろしてみた。猫は無邪気に笑ってる。
「……ちょ……っ!」
がくんっと一気に何かが挫折した。精神から何から、体全体がボロボロに崩れた。猫はこっちの気持ちも知らないで後始末が凄く面倒に成るくらいに散らかした。こんな猫相手に散らかされてたまるかと、こっちも力を入れてみた。だけど猫は相変わらずで、ふっくらと丸くなった苺の先を遠慮無く咥えだした。といっても甘噛だから、そんなには痛くない。
「まっ……駄目、……だっ……て、ば……っ」
満足げな顔。凄くむかつく。餌に不自由しているというわけでもない。猫の缶詰もサンマもある。何故かこの猫はただの餌には見向きもしない。血統書付というわけでもなく、特別な扱いを受けているわけでもない。ただの野良猫だったので、雨の中こっちが拾ってきた。何故か、苺を好んで食べる。
「ごちそうさま」
長く時間をかけて苺を味わう。その顔は何でもなく無邪気な顔で、見かけは普通なのに普通の猫の餌には反応しない。というか興味が無いらしくて、特別に甘やかしたわけでもないのに我侭な猫。猫は気まぐれだとか言われる。そんなんで、私の猫は特別なものにしか反応しない。満足したのか飼い猫は私の顔を見て一言満足げに言い放つ。彼女はただの飼い猫なんかじゃない。それを知らずに私は拾ってしまった。
「ちっちゃい姉御って、結構おいしいんだね」
私ね、あなただけの宝物に成れるようにがんばるよ。そうしたら、あなたは私の大切な宝物になりにきてくれますか?
いつも片方のポケットには甘いお菓子とたくさんのビスケットをいっぱい詰め込んで、もう片方のポケットにはあなたの手を入れてあげましょう。
壊れやすい安っぽいガラス玉や食器なんていらない。賢くても可愛くなくっちゃ意味が無い。壊れやすいきれいなものもいいけど、直ぐに壊れて消えてしまわないように、私があなたをぎゅっとしてあげる。強くやさしい甘いお菓子を仕込んで。
さあ、二人だけのお茶会を開きましょう?
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2008/02/26(Tue)18:18:22 公開 / ぁわ
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■作者からのメッセージ
初めまして。一回目はコメントというか一言書き忘れてたみたいなので、改めまして、よろしくお願いします。