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『愛を奏でる物語T』 作者:AIK / リアル・現代 恋愛小説
全角8387文字
容量16774 bytes
原稿用紙約24.7枚
ギターが大好きな高校1年生の「和樹」に突然起こった事件。和樹の様子がおかしいことに誰より先に気づいたのは、彼女の「千夏」だった。自分のことを心配してくれている彼女に、千夏への想いは強くなっていく…そんな彼女に、ありったけの愛を弾き語る和樹。二人の恋愛はどこまで進展するのか…(前編、後編と2つに分けてあります。これはその前編です。)
ある街に住んでいる高校1年生、「如月 和樹(きさらぎ かずき)」。
彼は、頭も運動も中の上くらい。友達も多く、ごく普通の16歳だった。学校では周りと話し、放課後は塾へ行ったり、友達と軽食をすましたり…平凡な日々を送っていた。
そんな彼には2年ほど前からずっと楽しんでいる趣味があった――ギターである。
中学のとき、仲の良かった友達に勧められ、始めてみたのがきっかけだった。最初はあまり興味を示さなかったが、しだいにギターを弾くということに強く憧れていったのだった。それから今まで、高校へ上がってからもずっとギターを続けていた。
「へぇ、如月ってギターできるんだ」「今度俺にも教えてくれよ」と初対面の和樹に親しんでいった人も少なくない。

和樹は本当にギターが好きだった。一日、最低30分は弾きまくっていた。ギターを弾かないとイライラする時もあったらしい。小遣いでやっと買った高くない自分のギターを、いつまでも丁寧に使い続けている。他のある友達の持っている物より安いのに、和樹が弾くギターの方がいい音を奏でた。それは、ギターの手入れと、弾き方が違うから…
ある日の音楽の時間、ちょっとだけみんなの前でギターを披露した。みんな拍手喝采で、和樹は人気者になっていったのだ。その時、音楽の先生が和樹の前に立った。
「キミは音で表現することがとても上手いね。喜怒哀楽を全て音だけで、聞いてる人により伝えることができるんだよ。高校生でここまで感動的な演奏をする人はなかなかいないと思うな。」
先生は目に期待という文字を光らせながら言った。
「いや、でも、俺には技術ってものがまだ足りないし…」俺が照れながら言うと
「ギターに限らず、楽器っていうのはな、テクニックじゃなくてフィーリングなんだよ」
と肩をたたいた。
同じようなことを、中学の時、ギターを勧めた友達にも言われたことがあった。
「お前、プロになれば成功するかもな!」あの時の目も、先生に似ていたかも…。
和樹はしだいに自分の弾くギターに自信を持ったのだった。

和樹が好きなものはもう一つあった。それは彼女である「千夏(ちなつ)」。
中3の春に、前々から気になっていた和樹が、ギターを弾く姿に惹かれ、千夏から告白した。
一方和樹も入学したときからずっと気になっていた。返事はもちろんOKし、仲の良い二人組でずっと過ごしてきた。無事に一緒の高校に入り、以前より親密感を感じられるようになった。

ある日の帰宅時、塾帰りの和樹はいつものように家路を歩いていた。
「はぁ、もう12月だなぁ。高1もこうやって早く終わっていくんだろうな…年が明けたらちょっとずつ勉強に集中しよっかな。軽音楽部で楽しむために勉強はやっとかないと……高2になってもまた千夏と一緒のクラスになれるかな…」などと空を見つめながら歩いた。ここまではいつもと変わらない。しかし、この後事件が起きた……。
帰宅。(ガチャ…)
「ただいま〜。あれ、なんだよ、誰もいねぇの? かぁさ〜ん!…まったく、家空けるんなら鍵くらいかけて行けよな〜」
リビングの電気をつけ、寂しいのでとりあえずTVもつけて、ソファーに腰掛けた。
「腹へったなぁ。今日は金がなくてハンバーガー買えなかった…」
冷蔵庫をあさり、パンをかじる。再びソファーに座ろうとしたとき、テーブルの上の置き手紙が目に入った。何か書いてある……和樹は手にとって内容を読んだ。
『わるい、母さんと詩織でどこか行く。おまえはもう高校生だ。一人で生きられるだろう』
…テーブルの上にはあと書類用紙があった。これは置いてあるというより放っているという感じだ。和樹はそれにも目を通してみた……
どうやら父が勤めていた会社が潰れたらしい…。書類の内容から、特にどこからも補助が出ることもなさそうだ……
「そんなバカな!会社が危ないなんて、ましてや潰れたなんて俺は一言も聞いてないぞ!そうか、俺をビックリさせるためだな。ハハ、ひやっとしたぜ……」
しかし、そんなドッキリのために倒産についた書類まで用意するわけもなかった。
8時…9時……いくら待っても誰かが帰ってくる様子もない。
「逃げた……」俺をおいて…。父さん、母さん、詩織はもう家には戻ってこない…。
妹の詩織は連れていったらしい。まだ5歳だからな…。
和樹は状況が理解できずに、ソファーの上で頭を抱えていた。
「なんで……なんで……?」
ずっとそればかりが頭の中で飛び交っていた。そのまま0時も過ぎた……
このままいてもしょうがない、そう思って和樹はベッドに入った。大好きなギターもその日に限っては触れる気になれなかった。
「朝になれば、きっと何もが元通りさ。いつもどおり、俺が起きたら、まだみんなベッドで寝ているんだ…。」

朝が来た…。今日の天気は快晴。
和樹も目を覚ました。でも、怖くて布団から出られない…。
やっと勇気を出して、布団から体を出し、そのままリビングへ降りた。
1階の両親の寝室、そこには誰もいなかった。もちろん詩織も……
「やっぱり…もう誰もいないのか…」
和樹はようやく確かな現実にうなずいた。家族は去った。今は俺ひとり…
如月家で何があろうと、今日は金曜、平日である。和樹はいつもどおり学校へ行くことにした。
学校へ行けばみんなに会うし、何より楽しい。
親戚へ連絡する手もあった。けど、父の方のおじさんは家族で今アメリカで滞在中。当然連絡先など知らないし、連絡したところですぐにどうにもならないだろう。
母のお姉さんは、おととし事故死した。その旦那さんは一人になったので、成人の息子の所へ身を移して生活している。これも連絡先が分からない。そして母の妹は、和樹が一番嫌っている人だった。小さいころからよく自分に当たってきた時もあったし、わがままでよくばり、とても人から好かれる人間とは思えない。こちらの連絡先は知っているが、連絡する気にとうていなれなかった。パンをかじって、いつもどおり学校へ出かけた――

予想どおり、学校は楽しかった。みんなの中にまぎれていると悲しみも消えてくる。
休み時間、千夏とも話した。なんだか久しぶりに会ったような気がした。でもいくら楽しい話をしてても、やはり頭をよぎる不安は隠しきれなかったようである。
「ねぇ和樹、なんかあったの?何か悩み事とかあるんじゃない?」
さすが千夏。俺としては完璧にいつもどおりにしていたつもりだったんだけどな。悩んでることまで分かっちゃうのか…。
「悩みがあるなら、私いくらでも聞くよ?」千夏がまじまじと俺の顔を見つめる…。
俺のこと心配してくれるのはありがたい。けど、今の状況を千夏に言えば、千夏に少なからず迷惑がかかるだろう。それに男が女にすがるようでかっこわるい…。
「いや、ちょっと朝から時々腹が痛くてさ、大丈夫、すぐ治るから」
なんでもないって言ったら余計に心配して探ってくるのが千夏なんだよな…。
「もう、気をつけなきゃ。大丈夫?夜おなか出して寝てたんじゃないの?(笑」
千夏に知らせるわけにはいかない。これは俺で解決していかなければ。和樹は授業中、そんなことを思いながら、これからのことを考えた……。

放課後、今日は塾はないが、和樹は寄り道をした。近くにある書店だった。
そこの店長さんが父の友達であり和樹も昔からその「阿部(あべ)」というおじさんを知っていて、本を買うときはいつもここへ来た。授業中、色々考えた結果、やはり生活にはお金がいる。自分で稼ぐほかお金を手に入れる方法はないと思った和樹は、おじさんの店で働かせてもらおうと頼みに行ったのだ。
「こんにちは、阿部さん」和樹はドキドキしながら棚を整理している阿部さんに話しかけた。
もしこれが断られたら、もう頼るものはいない…
「おぉ、和樹くん。久しぶりやなぁ。元気してんの?」
なんとか、と答え、和樹は早速、家の状況を説明した。こういうことは回りくどく伝えるべきではないと思った。阿部さんはじっと和樹を見つめて話を聞いてくれた。
「そうか、分かった。えらい大変やんか。でも自分で稼いで生活なんて立派やなぁ。よし、おじさんもできる限り協力したろう。」
「本当ですか?ありがとうございます!!」
「じゃぁ、いつからでも、いつでもここに来たらええで。ここで働いた時間で給料を渡そう」
阿部さんは学生だから仕事ができる時間もそんなにとれないだろうと、時給700円という好条件で仕事をあたえてくれた。この書店は、近くに住む学生たちもよく来るので、店頭には立たせず、奥の部屋で書類のまとめ、計算などをさせるなど色々配慮してくれた。和樹の通う学校ではバイトは禁止されていたので、働いているところを見られてはおしまいなのである。
それに、水道代や光熱費、携帯電話もいろいろかかるだろうと、月に5千円を手渡してくれるという。言いようのない感謝を阿部さんに伝え、さっそく明日から働くことになった。これでお金のことは一安心だ。和樹はくれたお金で夕飯の弁当を買い、家へ戻った。今日は金曜日なので、明日は休み。明日は昼から書店へ行こう。そう明日の計画を立てながら弁当を食べた。今日はギターを弾きたいと思えた。いつものように、お気に入りの一曲から弾き始める。家には誰もいないからいつでもいつまでも弾いていられる…。和樹はその夜、1時間半も弾きどおした……。

次の日、和樹は午前中に宿題をすませ、昼から書店へ向かった。その日は阿部さんがひととおりの仕事を説明して、6時まで働いた。
「はい、じゃぁ今日の分、1時からの3500円ね。いやぁ、キミがきてくれるとだいぶ助かるわ〜。時給700円は高くないほどや。あ、おじさんの電話番号を教えとこう。何かあったら携帯からいつでも電話してくれたらええから。」和樹は阿部さんの電話番号をとうろくした。
阿部さんがここまで自分のためにしてくれるとは思わなかった。和樹はまた阿部さんにお礼を言い、家へ戻った……。
平日は夕方から夜になるべく働くようにし、休日は半日働き、あとは遊んだり勉強したりだった。時給800円という額は学生一人が食べていくには十分であり、スーパーでパンやおかずを買って食べた。弁当はおいしくて便利だが、こればかりだとよくないので、米も買って炊いて用意した。暇なときはひたすらギターを弾いた。どんなに嫌なことがあっても、ギターを弾いてるうちに忘れてしまう。
「俺はギターを弾くことにどれだけ励まされただろう…。」自分がギターを弾けることに喜びが深まった。

そんな生活を続けてそろそろ1ヶ月たとうとしていた。生活にもだいぶ慣れ、ごく普通に食べていけていた。それに、うまいことまだ誰にも家の状況には気づかれていない。と思っていた矢先、ある日の夕方、千夏に近くの公園に呼び出された。
「やぁ、どうかしたの?こんな時間に呼び出して…」
「ねぇ和樹、何か私に隠してるコトない…?」
「え……、いや、別に何も」
「こないだ、私偶然だけど、和樹があそこの書店の裏口から入っていくの見たよ。普通じゃあんなとこから出入りしないよね?それで気になって私、裏の窓からのぞいて見たら、和樹が中で書類めくって計算してた……。和樹、あそこで働いてるんでしょ?あ、もちろん学校には言わないよ。でも…なんであんなとこでバイトしてんの?和樹はお小遣いもらってるはずでしょ。そんなにお金のいるような欲しい物があるの?ていうか、なんか最近やっぱり和樹変だよ?放課後は空いてない時が多いし、和樹の家の前通った時、いつも電気ついてないもん……」
和樹はしばらく黙っていた。千夏はじっとこっちを見ている。早く返答してほしいって目だ。
(やっぱり千夏は俺のこと分かってんだな…これ以上隠したら関係が崩れてしまうかもしれない。今はもう生活に困ってはいないし、話してもいいかな……)
和樹は1ヶ月前からのことを全部千夏に話した。千夏は当然、最初は驚いていた。けど、そのうち、阿部さん同様、じっとこっちを見て話を聞いていた。
「そっか…、分かった。でも…もっと早く私に言って欲しかったのに…」
「ごめん、千夏に迷惑かけると思って…。でも今はさっき言ったとおり、生活には困ってないから大丈夫だよ。何も心配いらないから…。」
「そう?でも…家にひとりじゃ寂しくない?」
「うん、まぁね。でももう慣れたよ。TVもあるし、暇なときはギター弾いてるしね」
「そうだよね…でもやっぱすごいなぁ、和樹。私だったら絶対一人で生きられないよ…。ねぇ、和樹、一人で寂しいなら、私の家に来ればどう?ごはんも、寝るとこもちゃんとあるし…。」
「いや、そんな、いいよ。それこそ千夏の家も迷惑だろ?俺にはちゃんと家があるから」
「ん〜でも……じゃぁ、私が和樹の家に時々泊まってもいい?」
予想してないことを言い出した。女子は男子の家に泊まりたいなんて言うのか…
「え、いや、でも、女の子一人泊めるなんて…。千夏の親も反対するよ」
「しないよ、多分。だって私の親、和樹のことすごい褒めてたもん。とってもしっかりしてて男らしいって。和樹君なら千夏のこと任せられるねって…」
へぇ、と和樹は驚いた。俺ってそんなにいいイメージ持たれてたんだ……
「そっか。でもなんでそんなに泊まりたがるの?」
そういうと、急に千夏は顔を染めた。
「え、だって、当たり前じゃん。一緒にいたいもん、和樹と。和樹は私と一緒に寝たくないの…?私のことキライ……?」
「そんなわけないじゃんか。俺…大好きだよ、千夏のこと。じゃぁ…今夜、うちに来る?」
「え、ホント?今晩?やった♪ 私も大好きだからね、和樹。じゃ、後で行くから待ってて」
二人はいったん別れ、千夏は急いで家に戻った。千夏も正直、親が許してくれるかちょっと不安だったが、難なく了解を得て、和樹の家へ向かった…。

「いらっしゃい。特に何もないけど…」
「ううん、そんなに気遣ってくれなくていいよ。おじゃましま〜す」
そういえば、千夏を家の中へよんだのは初めてだった。千夏の家へ行ったことはあるけど、あとは映画や公園へデートに行くくらいで、自分の家によんだことはなかった。千夏はずっと自分の家に来たがってたんだろうか…。
「ね、和樹。ギター弾いて!」 唐突に千夏が言った。
「あ、うん。いいよ」
そう言って、千夏と自分の部屋へ上がった。
「えっと、じゃぁ千夏が好きなこの曲、弾いてやるよ」
「え、これも弾けるんだ!キャ〜すごい!憧れちゃう」 千夏がはしゃいだ。
千夏の嬉しそうな顔はいつ見てもとても可愛かった。そんな顔に見とれていると、だんだん照れてくる…。
「えへ、顔が顔が赤いよ〜。さ、聞かせて」
俺はうなずいて、千夏の好きな歌を弾き語った。それは冬の感動的なラブソングで、和樹もこの曲が好きだった。歌いながら、改めてこの歌の歌詞のよさを感じた……。
約4分30秒。和樹はありったけの千夏への想いを込めてギターを奏でた。そしてありったけ優しさで温もる声を出した。夢中になって、和樹は目の前のことは見えてなかった。ただ気持ちを伝える…それだけ……。
曲を弾き終え、ほっとすると、千夏が手を叩いた。その千夏の目を見ると、確かに潤んでいた。
「千夏、なんで泣いてんの?」
「え、私…ほんとだ…、涙出ちゃった。だって和樹の歌、すっごい感動するんだもん…。心にじわじわ伝わってくるよ」
これか、これが音楽の先生が言っていた表現力、か。和樹は、自分の歌で千夏を感動させたことをとても嬉しく思った。
「俺、精一杯の愛を千夏に伝えようとしたんだ。うまく伝わった…みたいだね…」
「うん、和樹の愛、受け取ったよ…。じゃぁ私の愛も受け取って……」
そういうと千夏は和樹に抱きついた。千夏の腕がギュっと背中を締め付け、そしてそのまま、唇が重なった…。久しぶりのキス…。お互いに照れてなかなかできず、これが二回目のキスだ。
和樹も腕をそのまま千夏の背中に伸ばし、強く、優しく抱きしめた。とても心地よい瞬間だった。このまま時が止まればいいと本気で願った…。そう思ってると、千夏がゆっくり唇を離した。でも腕はそのまま離さなかった。
「伝わった?私の愛……」
「うん、俺、全部受け取ったよ…」
よかった、と言ってようやく千夏は腕を離した。

あとはその夜、一緒に夕飯を食べ、風呂も入った。
風呂からあがって、髪をかわかし、二人はまた部屋へ上がった。
「もう11時半だね。そろそろ寝よ♪」
「うん、そうだな」
和樹は押し入れから簡易のベッドを取り出し、自分のベッドの隣につなげた。
「色々ありがとう。ベッドまで用意してくれて」
「ううん、いいよ全然。じゃ、寝よっか」
二人はそれぞれのベッドに横になり、目を閉じた。でも二人一緒の夜は初めてだったためなかなか眠れなかった。
(今日は色々あったなぁ…。でも千夏、本気で俺のこと好きでいてくれてるんだな…)
そう思うと和樹はまた、千夏を抱きしめたくなるのだった。
……しばらくして、和樹が言った。
「千夏…起きてる…?」
「…うん…起きてるよ。…なかなか眠れないね」
「千夏…、こっち来て寝ないか…?ちょっと狭いかもしれないけど……」
「え…、一緒のベッドで…?……うん、分かった、いいよ」
千夏は体を起こして、和樹のベッドに滑り込んだ。
「狭くない?大丈夫?」 
「うん、平気。私ちっちゃいからね…。きゃぁ…でもなんかすごいドキドキする…」
「うん、俺も……。でもやっぱ、千夏のすぐ横で寝たかったから…」
「和樹…もっとそっち寄っていい?」 「うん…いいよ」
千夏は体を動かし、これ以上むりほどまで和樹にくっつき、和樹の胸の傍らに頭を置いた。
「あぁ、和樹のドキドキが聞こえる…。でも、なんか変に緊張しなくなってきた…」
言われてみれば確かにそうだと和樹は思った。千夏が寄り添うと、変なドキドキはなくなり、むしろ安心感が生まれた。
「こうしてると眠くなってきた…。ねぇ、和樹。私このままで寝てもいい?」
「うん、もちろん。じゃぁ、俺もこうして寝てもいいかな」
和樹は横になったまま千夏の肩に腕をまわし、ギュっと抱いた。
「えへ、なんかすごく嬉しい…。あ、でも和樹…、寝る前に…おやすみのキスして…」
「またキスするの?好きだなぁ、口づけするの。じゃぁしてやるから、目、閉じて…」
千夏が目を軽く閉じると、和樹の唇が千夏の唇をなで、舌と舌もなであわせた。
(これが大人のキスってやつかなぁ…)和樹はいっそう強く千夏を抱き寄せた。
10秒ほど重なっていた唇が離れ、二人は目を開けた。
「…ありがとう。和樹のキスって優しいから好き……じゃぁ、もう夜遅いし寝よう」
「うん、おやすみ…」 「おやすみ…」
二人の愛はその日だけでかなり進展した。その夜、二人はすぐに寝付き、朝までぐっすり寝たのであった……。

その夜、和樹は千夏とデートをする夢を見た…。
特に悪い夢ではなかったが、千夏は店先に並ぶ可愛らしいグッズを和樹におねだりした。財布を見ると乏しい量の小銭しかなかったところで目が覚めた。
――夢か……
すぐ横には千夏のかわいい寝顔があった。夢のことから和樹はふと思った。
(俺ら、この先デートとかもしていくだろうな。そうなるとやっぱり女の子に何か買ってあげるってのは当然か…。)
今の現状に不満なわけではない。でも、この先いろいろお金がかかるかもしれない場面が出てくるだろうと思った和樹は、他に少しでも収入を得ることを考えた。
(何か俺にできることないかな〜…) そう思っていたとき、千夏が目を覚ました。
「ん〜、おはよう…」 
「あ、おはよう、千夏。(そうだ、千夏に聞いてみよう) なぁ千夏、なんか俺が他に少しでも稼げるようなことってない?」
「え、和樹が…?ん〜、どうだろ……。あ!思いつきだけど、どこか外でギター弾くのはどう?」
「外で…?それって、聞いてるひとがお金くれるってやつ?」
「そう。和樹のギターなら悪く思うひと絶対いないよ!そのうち有名になっちゃったりして」
(ふぅ〜ん、なるほどなぁ。俺、今まであんまり人に弾いて聞かせることなかったし…やってみようかな…)
和樹が賛成すると、千夏は喜んで、その日一緒に行って見ていると言った。
和樹は早速、次の土曜日に隣町のある公園で弾き語る予定をたてた。
あんまり近くでやって近所で目立つのもいやなので、少し距離のある場所を選んだのだ。
「何を弾こうか…」
その日の休日は、当日弾く曲を千夏と一緒に考えた。ギター一本で十分に弾ける曲、そしてより人になじみやすい曲…
和樹は千夏とこうして共に過ごす時間がとても幸せだと感じたのだった……。

―――☆続く★―――

2008/02/10(Sun)21:25:14 公開 / AIK
■この作品の著作権はAIKさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
僕(作者)自身ギターが好きなんで、ギターに関する話をかきたかったわけですが、恋愛モノも書きたかったのでくっつけました。
是非、良いところ、悪いところなど、感想をお願いします!
後々、後編を出すつもりなので、そちらの方もよろしくお願いします。
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この作品の投稿者 及び 運営スタッフ用編集口
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