- 『陣内イズム』 作者:across / リアル・現代 未分類
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全角1406文字
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原稿用紙約4.8枚
平凡だった%常の中、彼が見つけたものは――
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俺は知った。日常の中で、
人間とは、時には不思議で高慢で、そして時には儚いということを。
知ってしまった。平凡の皮を被った日常の中で――
Act.1 【ミラクルフラグメント】
鳩羽市立鳩羽高等学校。
そこに見事合格した俺よろしく岡崎紅也は、深い深い溜息をついていた。
はて、何故だろうか?
俺がここへと受験した理由は自宅から近いこと。そして中学時代、仲の良かった友人も幾人かは受けるからという、なんてことのない普通過ぎる理由。悔いなど一切ない。
では何故だ? 何故俺は、こんなにも虚し過ぎる溜息をついているのだろうか――
高校生活が始まって、早一週間。
この日も俺は、何気なくしかし当然のように自分の日常を過ごしていた。
そう、平和な日常だった≠フだ。
「よう岡崎。どうだった? 世界史の小テスト」
「ん、ああ……悪くはないと思うぞ」
「ちっ、流石は中学時代に当時の天才を脅かしただけはあるな」
「おいおい、いつの話だよ」
こんな風に、悪友の遊部や他のクラスメート達との、なんてことのない交流。
変えたくないもの、そして壊したくないもの。
そのような日常が、限られた時間の中でずっと続いていて欲しい。否、そこまでの自覚さえ持たず、続くのだろうと無根拠な確信の中で溺れていたのだ。
あの日までは。
「おーい! 食堂でメシ食いに行こうぜー!」
いつものように、遊部がハイテンションで俺の元へと駆け寄ってくる。誤解を招かない為に言っておこう……これは決して、ホモ云々ではない。
「そうだな、行くか」
断る理由は、これといってない。
こうして、あまりにも簡単に俺は遊部と食堂へ行くこととなった。
――珍しいことに、水曜日の今日は食堂に生徒達はあまり見られなかった。
そういうえば雲一つない今日だ。連中は買ったパンや持参の弁当などを持ち込んでは、外でわいわいランチタイム……まぁ、恐らくそんなところだろう。
とはいえ、俺も遊部も燦々と輝く太陽の下で昼飯を食う気は毛頭ない。
「今日は……人が少ないな」
「連中はよくもまぁ、こんな眩しすぎる外で昼飯なんて食えるよな――って、どした?」
「いや、なんでもない」
遊部の台詞を半ばスルーした状態で、俺は一人の女生徒を見つけた。
ブレザーに留められている校章が赤色からして、同じ一年生だと思われる。
(――偉く、美人だな……)
率直過ぎる感想だが、絶世の美少女≠ニいう例えは的を射てないと思う。
意志の強そうな琥珀色の瞳に、腰辺りまで伸びている艶のかかった黒髪。単独行動しているのが不思議に思うくらいだ。
「何? 岡崎って麻川美玖に興味あんの?」
不意に、遊部がからかうように俺の肩を掴む。
麻川美玖? ……知らないな。
「それがあいつの名前なのか?」
「ああ、中学三年間同じクラスだったからな。……つーかお前って、意外に面食らい?」
なんでそうなる。大体話しかけたこともないし、名前だって今日知ったばかりだぞ。
「ま、あの女は確かに美人だけど、少しばかりネジが緩んでるぜ」
「何だ、身体障害者……とか?」
「ちげーよ。ま、親友として一つ忠告しておいてやる。麻川はマジでやめといた方がいい」
止めとくもなにも、そんな気は最初からないんだがな。
…
………
……………
いつもならこのタイミングで出るはずの溜息が、不思議と今は出なかった。
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2008/02/01(Fri)21:02:28 公開 / across
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■作者からのメッセージ
初めまして、acrossと申します。
今回ここで小説を書かせて頂きますが、何分まだ未熟者なので、甘く至る点も沢山あるかと思います。
そういうわけで(?)感想、アドバイス、意見、批判などを、心からお待ちしております。