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『パティシエ 〜Uhe famille heureuse〜  第一話』 作者:藤林 祭 / 恋愛小説 リアル・現代
全角8235文字
容量16470 bytes
原稿用紙約25.35枚
北條大学三年生の主人公、滝咲光は同じ大学で出来た、女の『親友』朱鷺明日美を好きになり、ある日光は、彼女に告白をするが、その告白は断られてしまう。その日から、物語は足らない歯車のせいでどこかぎこちなく動き始める……喫茶『Temps tendre』の従業員のうち七名には、それぞれ心に大きな傷を抱え込んでいた。自分の傷と、大切な六人の仲間の傷。その全てと向き合いながら、全てが繋がるまでの軌跡のストーリー。
「今日だ。今日告白すんだぞ」
 待ち合わせ場所である、この街で一番大きな噴水のある公園の、その噴水の前にあるベンチに座って、俺は一人呟く。そして、右腕の腕時計に目をやる。
「四時十七分、と」
 さっきから、呟いては時計を見、呟いては時計を見の繰り返しで、正直な話、何度この動作を繰り返したのか自分でも分からない。それほどなまでに、今日の俺は、いや、多分俺が今まで生きてきた中では、一番緊張しているんだろう。知らず知らずのうちに作っていた、握りこぶしを解いて見ると、手のひらは汗でビッショリだった。
「ははっ。こりゃすげぇな」
 こんなこと、今まであっただろうか?……まずないな。これほど緊張しているのも、今日が、これからの俺の人生を大きく左右するといっても過言ではない、一大イベント(俺にとっての)の日だからだ。
「告白すんだ。好きだって、明日美にそう言うんだ。大丈夫だっての、心配すんな俺」
 こうやって、約束の五時まで自分を勇気付ける。ふと、俺が明日美と出会った日のことを思い出した。



 大学に入って一週間位して、その人と初めて話をした。彼女の名前は、朱鷺明日美(ときあすみ)といって、今年度の新入生1候補。なんて言われている、超がつく美人で、所謂【高嶺の花】ってやつだった。俺の中での、一般的に【美人】と言われている人のイメージは、【我が侭】【高飛車】【男遊びが激しい】【計算高い】etc…等など、マイナスなイメージばっかで、明日美もそんな人だろうと思っていた。だから、最初のうちはかなり警戒気味に話をしていたし、明日美の印象もかなり低くしていた。だけど、明日美と話しても、俺が描いていたようなマイナスな所は出てこなくて、むしろプラスな所ばっかりが出てきた。明るくて、意外とお茶目な部分もあって、でも基本はクールで、最初はそれも計算のうちなのかなと疑っていたけど、何となく、そう、何となくなんだけど、それが明日美の【素】なんじゃないかって思ってきた。だけれど、やっぱり根付いたイメージというのは中々消えないわけで、やっぱりどこか他人行儀な態度で接してしまっていた。
 そんなある日、構内にある休憩所みたいな場所で、明日美をデートにでも誘おうとしてる奴に、明日美がそれは物凄い形相で、そいつを一蹴しているのを見た。それは、結構噂になっているようで、【明日美をデートに誘ったら凄まれた】とか、【凄い罵詈雑言を浴びせられた】とか、挙句に【般若を見た】とか、そんなのばっかだった。その日からだろう、俺の明日美への印象が大きく変わり始めたのは。人によっては、俺の考えは甘かったり、浅かったり感じられるのかもしれない。でも、それは俺の中の、明日美という人物への印象を変える【きっかけ】になったんだ。
 んで、元々気が合うのか、俺達は仲良くなっていって、一番の【親友】になれたんだ。だけど明日美は、俺に気がある素振りは一切見せなかった。俺と明日美は【親友】にはなれたけれど、明日美は【友情】と【愛情】のボーダーラインははっきりと敷いていて、それは俺にも分かる様にはっきりと敷かれていた。
 でも、やっぱり好きになってしまうわけで、【友情】より【愛情】が勝ってしまうわけで。俺が、明日美のこと好きになるまで色々あった。いっぱい悩みもしたりした。いっぱいいっぱい悩んだ末に………



 今日という日に至る。俺は、また時計を見る。ちょうど長針が三十分を指していた所だった。ふと、公園の入り口を見ると、明日美がこちらに向かって、ゆっくりと歩いてきているのが目に入った。まだ、約束の五時まで三十分はあるってのに、相変わらずの絶対時間主義者だこって。
「さぁ。伝えるぞ」
 両足に、ぐっと力を込めて立ち上がる。もう汗は出ていなかった。俺と明日美との距離は30mほどに近づいていた。
 そして……



                                  《パティシエ Uhe famille heureuse》 【Épisode 1 Le matin de l'ouverture】

                                         「なぁ。俺はどんな顔して、明日美に会えばいい…」
                                         「バカ。いつも通りでいいんだよ」
                                                        by滝咲光&神谷秋穂


「はぁ…」
 今日、何度目かの溜息をつく。今日であの日から、明日美に告白した日から、三日が経つ。俺には、この三日間が三年間にも感じられたよ。嫌な意味で、【忘れられない日】になっちまった。
「はぁぁ……」
 どんなに気をつけていても、やっぱり溜息が出てしまう。止める気なんだが止められない変な感じだ。ちなみに、今俺は友人が経営している喫茶店の厨房で、ケーキを焼いている最中だ。この店で一応ケーキ職人、所謂パティシエ(まだ見習いだけど)として働いている。つってもアルバイトなんだけど。
「ダメだ。こんなの売りに出せねぇ。全部気持ちが入ってるよ…」
 ケーキに気持ちが入るのは、俺は良いことだと思っている。ただ、それに少しでもマイナスな気持ちが入っていたら、もうそれは売り物にはならないとも思っている。今の俺のケーキは、売り物にはならない方だ。
「これじゃ、パティシエ失格だぞ俺」
 自分に言い聞かせ、自分のプライドを奮い立たせる。店の人の期待や信頼、自分の職人としての誇りと意地。そして、お客様の笑顔。何よりお菓子作りが楽しいという気持ち。その全てを思い出して、もう一度ケーキの焼きに入ろうとする。ふと、頭の隅に甘い考えが過ぎった。
「俺。仕事なんてしてる場合じゃねぇのかも…」
 そう言ったのと、ほぼ同時に厨房のドアが勢いよく開けられ、一人の男が入ってきた。そいつは、俺ににっこりと気色悪い笑顔を向けながら、
「しかしだな光よ。その仕事"なんて"をやってもらわんと、うちの店は潰れちまうんだよ」
 と、言った。ついうっかり口に出してしまった言葉に、しかもナイスタイミングで毒のあるツッコミをしてきたこいつは、神谷秋穂(かみやあいお)この喫茶『Temps tendre』の店長で、一応、俺と同い年。(Temps tendreの意味は、優しい時間)
「おい店長よぉ。ケーキの準備中は、調理場に入ってくるなと前から"何度も"言っておいたと思うが?」
 ここで、パティシエとして働き始めて、何度も口をすっぱくして言っているが、この人は一度として聞いてくれたことがない。それでも、入ってくる度に何度も言う俺って、結構律儀な性格だと思う。
「その前に、店長に対する、その糞生意気な言い方を改めるべきでは?」
 自分のことには、過敏に反応する奴だな。
「はぁ…。ケーキの準備中は、調理場に入らないようお願いします」
それを聞いた秋穂は、ふっと鼻で笑い、自信たっぷりにこう言った。
「店長だから問題ない!」
「んなの関係ねぇ!」
 このやり取りも飽きるほどやった。てか、飽きた…





 俺と秋穂は中学校時代からの一番の親友で、当時、勉強も運動もごく一般レベルの俺と違い、常に何事においても学年トップを維持していた秋穂。そんな秋穂に、俺はテストの毎に、みっちりしごかれたのを今でも憶えている。秋穂は、テストでは常にトップから落ちたりせず、またその事を周りにひけらかしたりせず、寧ろ子供のように喜んでいた。中学三年になって、受験のシーズン?が始まった時、俺は、秋穂は県内でも有名な進学校に進むのだろうと思っていた。俺は、そのことを考える度に少し寂しくなったのを憶えている。
 そんなとき、秋穂がわざわざレベルを落としてまで、俺と一緒の学校を受けると知って凄く驚いた。秋穂のレベルなら、ほとんどの学校に合格できるほどの実力があるにも拘わらず、わざわざ偏差値が40〜50そこらの学校を受けるなんて馬鹿げていると思ったし、それが嬉しいとも思った。俺は秋穂にその理由を聞くと、秋穂は澄ました顔で、
「そんなの、お前と一緒の学校が良いからに決まってんじゃん」
 と、こっぱずかしいことを、さも当たり前のように言ってきて、『何を今更、んなこと聞いてんだ?』と言われたのを今も忘れていない。あの時は、ホント死ぬほど恥ずかしかった。





「…………てな理由で、お前は今日クビな」
「そうか。クビか」
 秋穂との思い出に耽っていたら、その秋穂からクビ宣告か。んでも、店長なんだから当たり前か?
「んじゃ、お疲れ様っした」
 そう言いながら、厨房を出て行こうとする、俺の方をガッシリと掴み、秋穂が言う。
「まて、光。なぜそこまで落ち着いているのだ?もっと、口から泡が出るくらい慌ててくれないのか?」
 どんな、慌て方だよ。そこまで取り乱したりはせんだろ普通。たかだかクビくらいで……って、ん?
「クビ?何でだよ!?」
 今理解した。俺はすごく慌てて、すごく動揺していたようだ。
「そうそれ」
 にっこりと微笑む、秋穂の顔に一発グーをぶち込み、話を進める。
「殴るの禁止!結構痛いんだかんな」
 赤くなった頬をさすりながら、秋穂は言った。その時、小声で『俺てんちょなのに』とかも言っていた。その発言は色々と控えるべきだろ…
「んなこと、どうでもいいから説明しやがれ」
「ったく。お前、俺の話ちゃんと聞いてたか?」
「いや全く」
 そう言いながら、俺は首を横に振る。聞いてなかったから、いきなりのクビ宣告に驚いているんだ。まぁ多分、話をちゃんと聞いてても、同じような反応をしたと思うけど。秋穂の方は、やれやれ、と言った感じに溜息をつきながら首をふり、
「ったく、しょうがねぇ奴だなぁ…」
 と、本当に呆れた感じで言った。
「すまんねぇ。今週限定だから勘弁してくれ」
「お前。さっきから、店長に対する発言が失礼極まりないな。ていうかな、クビの理由は"それ"だから」
 そんな、いきなり"それ"って言われても、いまいち見当がつかない。もしかして、本当に俺の態度が問題なのか?確かに、パティシエとして、今の俺は限りなく最低の状態だと思う。でも少しばかり厳しすぎやしないか。とりあえず、一応の確認はしとかないとな。
「本気なのか?」
「俺は、冗談と嘘が嫌いだ」
 本気のようだ。俺と秋穂。二人で厨房に居るわけだが、一体どれくらいの時間が経ったのか、五分経ったのか、それとも三十分は経ったのか。さっきまでは、時間を感じ取れていたのに、急に解らなくなってしまった。さっきの数分の会話で、時間が止まってしまったような錯覚を覚える。いつになく、真剣な空気のなか、ふと厨房の入り口に目をやると、さっきまで閉まっていたはずのドアが、とてもゆっくりと、まるでスローモーションカメラの映像のように、開いているのが目に入った。これがアハ体験ってやつなのだろうか。そのドアが、少しずつ、少しずつ、開いていき、ちょうど人の体の半分位が入るところで、その動きが止まった。開いたドアの隙間から、ちょこっと顔を覗かしている、まるで子リスのようなその小さな女性は、この店の従業員の一人で、フロア担当の月城彩(つきしろあや)さんだ。彩さんは、俺には目もふれず、というよりも興味がないようで、ずっと神谷の方ばかり見ている。
 そして、ふと俺と目が合うと、俺と神谷を交互に見、一度だけ、はぁと溜息をつき厨房に入ってきた。
「店長。言われた通り、店を閉めてきましたよ」
 と、神谷に話しかけた。てか、また店を閉めたのかよ。これで三回目だぞ。
「おぉ。よくやった。それでこそ、この店のチーフだ」
 彩さんに、話しかけられてから、ようやくその存在に気付いた秋穂は、彩さんの肩をぽんぽんと叩きながらそう言った。彩さんは、また溜息をつきながら、
「店長。何度も言いますが、私はチーフじゃありません。あと、ちゃんと光君に説明してあげないとダメでしょう」
 と、腰に手を当てながら、もう、といった感じに言う。秋穂の毎度のボケにも律儀に突っ込み、そして、秋穂のダメな所を正す。本人には口が裂けても言えないけど、なんかお母さんみたいな人だ。てか、二人とも相性良すぎ。
「あれ?違ったけか?ところで、お店ちゃんと閉めた?」
「違います。先ほど閉めたと言いましたし、店長も反応したでしょう。その年でボケたんですか?あと、話が一向に進まないので、ちゃんと一から十まで光君に説明してあげてください」
 おぉ、秋穂が小さくなった。何と言うか、ほほえましいねぇ……すいません、彩さん。めちゃくちゃ怖いっす。
「っく……あのな、お前うちのチーフの明日美ちゃんに告ったろ? んで振られただろ?」
 直球過ぎな、秋穂の問いかけに、俺は俯いて答えることが出来ない。正確には答えたくない。
「んで、そのせいって言ったらあれだけど、お前は精神的にまいってて、明日美ちゃんの方は、店に来ない」
 秋穂の話を聞いてると、なんだか無性に腹が立ってきた。秋穂は悪くないのかもしれないが、それでも腹の底から湧き出てくる何かが、俺の苛々を増していった。秋穂の斜め後ろに立っている彩さんは、目を閉じたまま、じっと秋穂の話を聞いている。
「だからよ。お前はこれから一週間クビ。どっちかってと休暇だな。だから、ちゃんと体を休めて、んでもって頭も冷やして来い」
「……」
 俺は、まだ俯いたままで、まだ秋穂に何も答えていない。正確には答えられない。でも、その理由はさっきとは違う。秋穂の店長としての甘さと、親友としての優しさを感じ取れたからだ。
「それに、今のお前は邪魔なだけだしな」
 そう言った秋穂の太ももを蹴り、『一言余計です!』と彩さんが怒る。確かに一言が多いな。でも、その一言も含めて、秋穂の言葉に救われた気がする。だから、俺は顔を上げて、頭の帽子を取って、"店長"に頭を下げる。
「店長。迷惑かけてすみません。ありがとうございます」
「気にするな」
 深々と頭を下げる俺に、いつもの秋穂が声をかけてくれる。いつも自分より、お店より、家族より、友達を優先してきた秋穂。俺は改めて思った。こいつは俺の親友なんだって。
「店長」
「なんだい?彩くん」
「良い雰囲気の所、真に申し訳ないのですが、明日美ちゃんもチーフじゃないです。というより、従業員ですらありません」
「「…………」」
 本当に台無し。
「まっ…まぁとにかくだ。光は、今日から完全休暇だ。わかったな?」
「了解だ。」
 そう言って、頭の帽子を取り、厨房を出ようとしたところを、後ろから秋穂に声をかけられた。
「光。着替えが終わったら、カウンターに座れ。話があるからな」
「あいよ」
 そう言って、今度こそ俺は厨房から出る。そして、厨房から出て直ぐの所にある、男子更衣室に入った。昼間とはいえ、部屋は電気を点けなければ真っ暗な部屋の中で、俺は電気を点けないで、入り口のドアにもたれながら座り込む。最近は、独りになるといつも"こう"なる。本当に俺は弱い人間だ。そりゃ色々あったんだけど、って言ったらただの言い訳にしかならないか。
「あぁ。ダメだ」
 文字通り『負の連鎖』俺は、ゆっくりと立ち上がって、ドアのすぐ横に付けられているスイッチを押す。一瞬チカチカっと光ったと思うと、パっと部屋全体が明るくなった。ただ相変わらず、俺の心の中は真っ暗なんだけどな。
「いかんいかん。さっさと着替えるかな」
 頭をふるふるっと振って、自分のロッカーに手をかける。さっさと着替えなきゃ、また似非店長に愚痴られるしな。どうせ、話しっていうのも明日美関連だろうし。
「嫌なことは、さっさと終わらせっかな」
 そう言って、ロッカーを閉めて、部屋の電気を消して、更衣室から出る。電気点けっぱなしだったり、部屋が開きっぱなしだったりしたら、暴走族より五月蝿い女性がいるから、それはもう気を付けている。
「んあぁ〜〜」
 と、大きく背伸びをしながら、カウンターに向かう。





「とっても暖かいココアだ。喜びに涙を流しつつ飲め」
「夏間近のこの時期にどうもありがとう」
 そう言って、秋穂からココアを受け取る。この野郎、本当にぽっかぽかじゃねぇか。そんなことを思いながら、少しずつココアを飲み込む。そうして数分が過ぎたが、秋穂は一向に話し始めない。それに俺が折れる感じで聞く。
「そいで話しって何だ?」
 そう言うと、カウンターに肘をつき店内を見ていた秋穂が、その目線を俺に合わした。
「お前、あれから明日美ちゃんと話しは出来たか?」
 話しは、また、"そのこと"についてだった。俺はいい加減うんざりしてきた。
「結局そのことかよ」
 その話題を出されても、さっきまでは何とも思っていなかった。今までは我慢できた。でも今は違う。はっきり言って鬱陶しい。もう、我慢の限界だ。
「そのことかよ、じゃねぇだろ。皆心配してんだぞ?」
「それが?」
「それがじゃねぇって。今のお前、子供みてぇだぞ?」
「だったら! それがどうしたってんだよ!!」
 俺は、カウンターをおもいっきり叩き、秋穂におもいっきり怒鳴る。行き場の無い、もやもや全部吐き出すみたいに、ただ俺は怒鳴る。それは、誰が見たってただの八つ当たりだった。
「秋穂! いい加減ほっといてくれよ! お前には関係ないだろ!」
「関係あるさ」
「ねぇよ!」
「ある。 お前はこの店の店員だ。 んでもって俺は店長だ。 それ以前に、お前は俺の親友だ。 だから関係ある」
 秋穂は、さも当たり前かのように言った。それを聞いた俺は、驚いて声が出ない。昔からこんな奴だった。喧嘩しそうな時も、実際喧嘩している時も、どんな時も空気を読まずに秋穂は"それ"を言う。『お前は俺の親友だ』って。呆れるくらい真剣な発言。本当に恥ずかしい発言。でも、一番嬉しかったりする発言。それを聞いて、一気に頭が冷える。そして途端に情けなくなる。
「聞いてくれよ、秋穂」
「おう」
 泣きそうな声で、秋穂に話し始める。溜まっていたもやもやを、さっきとは違う形で吐き出す。そして、それをちゃんと受け止めてくれる秋穂。最初から、近くに居たのに、それに気付けなかった自分が、また情けなくて。今は、ただ話す。それだけしか出来ないから。
「俺、あれから分かんなくなっちまったんだ。明日美との接し方がよ。」
「うん」
「最初は、振られても大丈夫だと思ったんだ。実際、大丈夫だったんだけど、次の日からあいつを見かけたら、条件反射で逃げ出しちまってよ。辛いんだよ現実が。変わってしまったんだって、そこから先は無いんだって思うと、なんかよ…どうしたらいいかわかんなくて……」
「そっか」
「なぁ。俺はどんな顔して、明日美に会えばいい…」
「バカ。いつも通りでいいんだよ」
 俺は、ハッと顔を上げる。まさか、そんなこと言われるとは思っていなかったからだ。
「ど…どうしてだ?」
 そう聞く俺に、秋穂はさも当たり前のように、
「そりゃ、お前も明日美ちゃんも、それに他の皆がそれを望んでいるからだ」
「明日美や、皆が?」
 うん、と頷く秋穂。
「当たり前だろ。誰も変化なんか望んでないよ。それに、そのことを一番望んでないのは明日美ちゃんだ。女の子ってか、振った側の人間ってのは、基本的に振ったことによる変化を嫌うもんなんだ。明日美ちゃんみたいな子なら、尚のことだな。だから、いつも通り接してあげたらいいんだよ」
「だけど…」
 そんなこと、出来ると思えない。俺は、そんなに強い人間じゃないから。
「今回は頑張れ。お前が、どうして弱いのかは分かってる。でも、だからこそ頑張るんだ。今回はダメだった、だったら次を作ればいいだけだ。簡単な話しじゃないかもしれないけど、不可能なことじゃないだろ?」
「あぁ…」
 いまいちハッキリしない返事をする俺。でも、そんな俺に秋穂は、
「今は、それでいいさ。すぐにじゃなくてもいい。少しずつ、"今まで"に戻っていけばいいんだからな」
「うん。ありがとう」
 俺が、そう言うと秋穂は『別にいいさ、親友だろ?』と言って、今度は冷たいコーヒーを入れ始めた。
2008/05/01(Thu)04:51:13 公開 / 藤林 祭
■この作品の著作権は藤林 祭さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
名前を変えました。
前の名前は『天宮』です。

この作品で、いろいろな人になにか感じてもらいたい、そう思っています。
それが、例えどのようなものであっても、何か感じ取れたのならば凄くうれしく思います。
御指摘、御感想、お待ちしております。
では、よろしくお願いいたします。


"雑文"
久々の更新。
時間が出来ない為、修正だけした。
なんとか時間を見つけて
続きを書かねば。。。。
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