- 『お昼寝の時間』 作者:ナナ米 / 未分類 未分類
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全角4390文字
容量8780 bytes
原稿用紙約12.75枚
名前・山田花子:性別・♀:種族・殆ど寝不足気味の高校生:特技・高速フル回転で放課後+教師と二人きりの答えを出す事ができる:弱点・現実的な問題が出来ないが英語で告白だけは出来る。
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寝てはいけないと分かっていても誰もこの悪には勝てない気がしなくもない。
私にとって寝てはいけない事を取るとあとは何も残らない。
寝てはいけない寝てはいけない寝てはいけない……そう思うたびに離れて行く私の意識。
ああ後10分。後10分間だけ寝かせてほしい。
とにかく今は永眠をさせて欲しいくらい眠くて眠くて…そして眠くて……。安らかなる眠りをしたいなんていったら逝っちゃう様なのでここは眠たい寝たいが正解だろう。私はそう思う。
*
「――だ、山田!」
「………?」
呼ばれて飛び出てこんにちは。頑固親父が今日も耳元でわめく声がしたような気がしたのでうっすらと目を開いて漫然と左右前後の安全確認をした後に今度は頭上確認に入ると頭上に危険物注意の警報が唸りをあげて鳴り出す。
見上げたくも無い空気を背負いながら机の上に突っ伏していた頭を上げてみた視線の先にお天道様でもゆで卵でもなく何処までが顔で頭なのか分からない校長がぶっとい眼鏡のレンズの下からこちらを見下ろしていた。
ということは6時限目の地理か。
「まったく。お前はいつまで寝ているんだ」
この時間が終わるまで寝てます。聞いてて眠れる授業だったら私はいつだって寝ていられる。たとえ学校が崩壊しようが寝すぎて未来にまで時が進もうが大地震が起きようが寝れるものなら深い永眠だってしますよ。
見上げた先で動いている時計の針を追いながら同時進行で睡魔という波に今からでも精神を侵略されそうな世界が大混乱になるんじゃないかってくらい世界最大のピンチに追われている最中にいきなりやってきた何かが右からやってきたので私はそれを左に受け流す。
お昼ごはんのから揚げ君とおにぎりをお腹いっぱいに溜め込んで長い長いお昼休みに食後の仮眠を軽く取るはずだったのに目覚めたら14時30分つまり午後2時半ってこの時計おかしくありませんか?
だって寝始めたのは12時10分からで私の腹時計がお知らせした時刻は13時10分で5時限目の英語に合わせて起きるはずだったのに……。
自分の時計を信用した私が馬鹿だったよ。
しかも起きぬけに見るのが天国ではなく地獄。私と校長を取り囲む左右前後で懸命に学問に育んでいそうな他の生徒は視界に入れているはずなのにあえて何も口出しをしない。
要らない気遣いご苦労様。そんな生徒を他所に校長と私―山田花子のバトルは展開されていった。
「教科書26ページ全文をノートにでも書き写して目を覚ませ」
んな無茶なこと言わないでくださいよ。
余計に睡魔が襲ってくるでしょう。バトルと言っても校長のいう事に対して私が心の中で反論するだけの受け流しである。
今の私は昨日の夜12時から今日の午前3時にかけて今年こそはがんがん売ってがんがん撮るぞって気合十分の夏のイベントの準備をするために自作で衣装を作り上げたり同人誌の締め切りに間に合わせるために原稿書き上げたりしてかなり徹夜してたんですから理由も知らないで威張る余所者は少しの間だけでも良いから黙ってて。
そうじゃなければ勝手に授業を進めて長い長い昔話を読み上げてれば良い。
私はまた静かに永眠の様な安らぎの世界に溶け込んであげますからあんたは黙ってて。
「聞いているのか?」
「……ふふぁ〜い……」
校長の少し力の入った疑問に力の抜けた返事を天井に浮かして直ぐに机の上に上半身を突っ伏して私は仮眠に入る。
毎度のこんなやり取りを英語、数学、地理、国語というどれも頭が混乱し解決策がなくなったらとりあえず諦めてまた後で考えれば良いかと思われる三教科と長い長い本気の昔話を聞くことにより更に私の永眠は深さを増していく。
そこからついたあだ名が眠り姫。だからハンドルネームも眠り姫。
「そんなんだから菊池先生の英語も駄目になるんだ。……分かってんのか?」
「せんせー。山田さんが熟睡に入りましたー」
他の科目の教師名と教科名を挙げて説教を開始する気? 冗談でしょ。しかも英語の菊池先生って見た目がごつい体育会系の赤信号先生のことでしょう?
私あの人を説教に上げてもらいたくないなあ……。
何かよく分からない変な病原菌が移りそうで怖いのよ。熱血病特殊ウイルスとか。
後ろの席にいる通称・ウシ君という男子生徒がわざわざ手を上げてまで校長もといティーチャーに投げかけるのが質問ではなくて報告というお決まりの流れ。
こんなやり取りはいつものことだから先は目に見えているのに教師が少なすぎる代わりに校長自ら授業を教えてやると言い出して挑んだ担当のクラスが悪かったんだと今更になって後悔しているようですが運が悪かったんだと思って生徒には優しく厳しいという対応がウリの貴方のまま頑張ってくださいな。
でも、そんな校長も一部の生徒に痺れを切らして残り少ない髪の毛を散らす様な怒りを覚えたらしい。何故だかうちの学校の校長含む教師の全般は自らの申し出キャラが多いようだ。
「先生、キレてますか?」
「キレてない……」
鉄分が少ないから髪の毛が減るんですよ先生。校長は深く溜息をついて6時限目の講義を終えた後、最悪なことに私の授業態度が悪いとかいう告げ口やイベントが中止になる事よりも更に重大な居残りをさせられる事となった。
*
「せんせー。質問です」
「なんだ?」
何の前触れも無く目と鼻の先に置かれた何の変哲も無いA4サイズの白いプリントに記された一文を指しながら見上げた視線の先に映る”せんせー”という人物に問いかける。
だけどこの問いに対してせんせーという存在の人物が本当に答えてくれるのかなんて分からないけど、とりあえず問いかけてみる。
そんな適当な事を言ったら誰でも良いのかと思う事は間違いではない。
だって本当に誰でも良かったんだから。
ただこの疑問に対して誰かが答えてくれればそれで良いと思う。
完全な答えや曖昧な答えとか、これが正しい間違っているなんてそんなものは最初から期待していない。
単純に君の声が聞きたいだけ。
単純に君の気持ちが知りたいだけ。
「これ、なんて読みますか?」
ここに居るのは目上の人だったり同年代だったり色んな人が居る。誰が”せんせー”なのかは自分でも分からない。
答えてくれる人が居れば誰でも、同年代でも年上でもせんせーと言えるのかな。
心の中の雨雲に軽き日差しを伸ばしたいが為にどうしてもモヤモヤしてスッキリしない気持ちを質問に変換して外に出すっていう行動を当たり前に起動する口と身体はとても不思議な装置だと思う。その装置を起動させてから演じ始めた誰かの疑問に相手をしてくれるかは分からないけど思い切って声をかけてみる。
この行動に受け流してくれても良いし単純に一言だけ答えてくれても完結に答えてくれても細かく薀蓄を話してくれたって構わない。こちらから特に要求はしない。
あ、でも答えて欲しいっていう時点で要求してるから駄目かな?
日暮の日差しが窓から差し込んできて真っ赤に燃えて見える眩しい光に照らされた誰も居ない教室に生徒と教師。1対1のお勉強プラス二人きりイコール居残り最中。
もともと生まれつき猛勉強する気力は無いけれど妄想する気力は有り余るくらいある自分が居残りなんてありえないと思っていたのに何故かこうなった。
そうなった原因は小学生の頃から合格点で挑んできた英語検定の結果にあって高校に上がった途端その学力はガクンと急降下し始めたらしい。
それが最もな原因で今日の始まりに呼び出された職員室の中では英語検定の結果が運悪く担任の手元にそれが届いてしまったらしく担任は深く溜息をついて合格点ではない点数を取ってしまった本人を目の前にお前の脳を鍛え直してやると立ち直りの早かった赤いジャージが目立つ赤信号モリモリ筋肉質の体育会系教師が自ら申し出て、それを聞いた自分からしてみれば思わぬ落とし穴にはまってしまったみたい。
そして今はそんな担任の熱血過ぎる説得講義を素直に鵜呑みしてしまった自分自身に今更ながら深く反省しているところ。
恋愛に歳の差など関係ないという少女漫画の法則に則り憧れシュチュレーションにある放課後の個別授業という言葉に豊富すぎるくらいの想像を越した妄想力を広める全国の日本の腐女子代表は激しく落ち込みモードの梅雨入り。
嫌らしいハプニングもときめくアクシデントもまったく起きる気配が無いくらい白け過ぎて静かな放課後の教室で普段から全く眼中に無く憧れでもなんでもない担任と二人きりという最悪なポジション。
嫌らしいアクシデント違いでこんな嫌らしさなんて望んじゃいない。だから本日は酷く落ち込みモード。気分最悪。
今月の運気は良くも悪くも無い普通だったのに朝の占いは信用できない。どうしてこうなったのかこっちが知りたいくらい落ち込んでいる今の気持ちを直球にしてぶつけて良いのなら今すぐここでやらせてくれ。
でなければこの担任を何処かに流して下さい、神様仏様!
ぶつけられた素直すぎる質問に暫く黙り込んで教卓の上に突っ伏した頭を間に挟むように両腕の肘をついて抱えだして静かに瞼を閉じて深々と何かを考え込みだしたと思ったら今度は何も口に出さなくなった”せんせー”。今より更に白け出した教室の空気。
「せんせー?」
相手が黙り出してから1時間が経過したので流石にこれ以上は白けないでという願いもあって少し心配しかけたというより目覚めてという意味で声を試しにかけてみる。
すると顔を急に上げた顔から仕方なく答えてやるから聞いておけって眠たそうな目を一瞬だけこっち側に向けたまま卓上に乗っかっていた上半身を起こしてからのっそり亀のように身体全体を後ろに90度回転して大きく広がるくらい緑色が混じった様な黒にも見えなくも無い黒板という横に長い長方形の板と向かい合わせになる。
向かい合った黒板の前に置かれている白いチョークを摘み上げ、それを板に押し当ててコツンコツンと時たまキキーッという音波の様な物を響かせながら白い粉の粒粒が集まって出来る白い線を四方八方に曲げたり伸ばしたり折れたり真っ直ぐだったり止めたり跳ねたり色んなラインを引き伸ばす。
こうして出来たのが色んな形の白い文字が殴り書きで横にずらりと連なって目の前に姿を表す。
2時間もかけてやっとのことで仕上がった答えが「Iloveyou.」これか。
そっかー……。貴方はそんな事を2時間かけて考えてたのね。でもね、せんせー。
「次の日本語を英文に書き直しなさい。Q1.次にあなたは告白をするでしょう」
こっちが聞いたのはその英文の三個手前にある問いの答えを聞いたんだよ? 出来たらそういう事は口で言おうよ……。
少し心の中でそう思ってもあえて反論は飛ばさないで置いた。
だってこれは彼が出した答なんだもん。
……でも、まさか……英語で告白されるとは思ってもみなかった。
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2007/10/26(Fri)20:47:21 公開 / ナナ米
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■作者からのメッセージ
初めまして、ナナ米です。七個目じゃないです、ナナ米です。
前作をわけて投稿してしまったのでそれじゃ話の流れが分からないだろうと思い本来『午後の授業+校長の苦悩』だったものをこちらの『(元)放課後+教師と二人きり』に書き直し(というより完全にこちらの大きなミスだったので焦って作成)ました。
ではでは改めまして、よろしくお願いします。