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『Reverse Game【はじめに】』 作者:コーヒーCUP / ミステリ サスペンス
全角5593文字
容量11186 bytes
原稿用紙約15.8枚
 あなたはとある場所で、一冊の本を見つけました。そして今、それを開いたのです
【著者の言葉】

 ここに書き記している事を信じるか信じないかは、君に任せよう。何故、僕がこんな本を書いたかというと、どうしても彼女のがんばりを誰かに伝えたかったからである。それ以外の目的は無い。
 今、これを読んでいる者、君は大層な暇人か、あるいは相当な物好きだろう。僕はこの本を書き終えたら、本を誰にも見つからない場所に隠す予定だ。其れを読んでいるという事は、君はこの本を見つけ出せたという事だ。そんな事をするのは、暇人か物好きだと僕は思う。
 これから先、【本文】に書かれていることは嘘偽り無い物だ。とある殺人事件の話を書く。その殺人事件自体は世間に知られているものの、その真実を知るものは僕しかいない。よって、僕はこの真実を誰でもいいので知って欲しい。
 今これを読んでいる君、君には「目撃者」になってもらう。目撃者は事件では重要なポジションだが、君は特に何もしなくて良い。【本文】に書かれていることを読めばいい。「目撃者」というより「傍観者」といったほうが良いかもしれない。しかし「傍観者」というのも味気ない。やはり「目撃者」にしておこう。
 目撃者、君には真実を見て欲しい。誰も知ることの無かった、真実を。僕一人だけが知っているというのは、どこか心苦しいのだ。この本を書いたのはそのためだ。
 長々と変なことを書いてしまった。では、これから君に【本文】を読んでもらおう。ああ、書き忘れたことがある。
 これから先に書かれていることは確かに真実だ。しかし決して口外してはならない。其れを約束してくれ。目撃者、君がこれを約束できないというのなら今すぐこの本を閉じて、元の場所に再び隠してくれ。絶対に破いたり焼いたりしないでほしい。
 約束できる者は読んでくれ。
 では……先に【プロローグ】でも読んでみて。さっきは【本文】を読めと書いたが、撤回しよう。【プロローグ】で事件の始まりを書いておく。まずは始まりを知らないと。
 では目撃者、其の目で真実を目撃してくれ。そして知ってくれ、彼女の努力を。
 じゃあ、ページを捲って。


【プロローグ】

「喫茶店に行こう」
  ある男子中学生が部活帰り、後輩に向けて一言発した。思えば、これが全ての始まりである。しかしながら彼に罪は何一つ無い。彼は後輩たちの「喉が渇いた」「腹が減った」という意見を聞き、それをまとめ「喫茶店に行こう」という結論を出したにすぎない。
 しかも声をかけられた後輩たちは笑顔で同意したし、先輩奢って、などと冗談を言う奴もいた。誰一人として「いや、やめときましょう」などという場の空気を読めない発言はしなかった。
 部活を終え彼らは疲れていたが、笑い話をしながら目的地である喫茶店を目指していた。喫茶店までの距離はたいしたことはない。ただ、部活で疲れてもいたし何より喋りながら歩いていたので彼らの歩くペースは遅かった。彼らが学校出たときはまだ空は明るかったが、段々暗くなってきた。
 彼らが部活帰りに喫茶店に寄ることは良くあることで、道は知っていた。住宅街を抜けると道路があり、その道路の向こう側に安い喫茶店があるのだ。
 彼らが住宅街を歩いてた時間は主婦たちが晩御飯を作っている時間で、住宅街のあちこちから良い臭いがしていた。
 住宅街では遊び疲れた子供が家に入っていったり、彼らと同じ学生が家の前で話をしていたりとあたり前の風景だけが広がっていて、幸せに満ちていた。
 後輩の一人がふと足を止めた。それにつられた他の者たちも足をとめる。最初に止まった後輩がある場所をジッと見ていて、その視線を追うように他の者たちもその場所をみる。
 彼らが見たのどこにでもあるゴミ捨て場。特定の曜日になればそこには大量のゴミ袋が積まれ、腐臭を発生させる嫌な場所。そこに一つのダンボールがこれ見よがしに置いてあったのだ。
 結構大き目のダンボール。それだけがゴミ捨て場には置いてあった。残念ながら、翌日はごみの日ではない。それだけ学生の好奇心をくすぐるのには十分だったろう。
 一人の者が、開けて見ようぜ、と言った。彼は笑っていただろう。だってその中身が何か知らなかったのだから。中身をもしも知っていたら、笑うことは勿論、開けてみようなどと言えるはずが無い。
 全員がクスクスと笑いながらダンボールに近づく。中には何が入っているんだろう、と疑問に思いつつ、その中身に期待をしている。もしかしたら卑猥な本が大量に入っているかもしれない、と胸を膨らませていたかもしれない。そこにいる学生は全員、男だ。そんな想像もしていただろう。
 残念ながらそんな期待はすぐに裏切られることとなる。ダンボールにある程度近づいたとき、数名が「臭っ」と鼻を抑えた。確かにおかしな臭いがする。今までかいだことの無いような腐臭。全員が鼻を抑えて口で息をする。
 おかしい、とその場にいた者は全員思ったろう。この臭いは何だ、尋常じゃない――そう感じたと思う。声にしたかもしれない。
 一人が好奇心か、それとも臭いの原因を突き止めるためか、其の点はよく分からないがしゃがみこみ、鼻を抑えながらゆっくりと、ダンボールをあけた。
 ダンボールはガムテープをして厳重に閉じてはいなかった。だから手ですぐに開けれた。ダンボールをあけた者、そして中身を見た者、全員が悲鳴をあげた。それは夕食前の幸せな住宅街がこれから恐怖に包まれるという事を告げる始まりの音。
 ダンボールの中には少女がいた。服は着ていなくて全裸。恐らくまだ幼稚園くらいの幼い子だ。その子が、両手両足を切断された死体としてその箱に入れられていた。ダンボールには丁寧にビニールがしかれている。
 少女の目を瞑り死んでいたが、決して綺麗な死顔とはいえなかった。何故なら、顔は彼女の血で真っ赤だったし、髪もボサボサだった。血の原因は、額に刻まれた文字である。ナイフか何かで書いたのであろう、少女の額には字が書かれている。
『I am eater』
 そう書かれていた。これが始まりである。


・追記。
 【序文】でつい書き忘れていたことがある。これからの【本文】を分かりやすくするため、書いておかなければならないだろう。この事件の犯人は、成瀬藍那(なるせあいな)である。


【本文】


 今思い出しても、僕はあの日が僕にとって最後の「平和だった」と言える日だと思う。その後は平和なんて言葉は日常のゴミ捨て場にいき、とても平和なんて状況ではなかった。自分の周りから大切な者が消えていくのを、何も出来ずただ眺めているだけの日々となる。
 一々、日付を教えるのも面倒だ。それに多分、目撃者である君が後で新聞か何かで調べれば分かるはずだ。僕からは、残暑が厳しかったある日、とだけ言っておこう。
 その日、僕は文芸部の部室でノートパソコンのキーボードを叩いていた。ブラインドタッチなんかが出来るはずも無く、両手の人差し指だけでキーボードを叩く。其の音が誰もいない部室に響き、妙に虚しかった。
 高校最後の夏休みを終え、これからは本格的に大学受験に取り組まねばならないと思っていた。そう思いながら、僕は最初で最後に部活動に励んでいた。
 運動系の部活は夏の大会が終わった所で三年生は引退となり、二学期からは受験に向けて勉強一筋でがんばる。しかし僕が所属していたのいは文芸部で、思いっきり文科系の部活だった。文科系の部活には、文化祭というイベントあり、僕はそのためにがんばっていたのだ。
 文芸部は文化祭の日に文集を売る予定だった。文集には全四名いる文芸部全員の短編小説を載せるという計画が夏休みに立てられ、そして今、まさにその小説を書いていたのだ。
 放課後。赤い夕日が入り込む部室。その教室の真ん中には四つの机がくっつき合い、一つの長方形を作っていた。全ての机に一台ずつノートパソコンが置かれている。
 窓を全て全開にして、風を通しているのに暑い。僕は何度も何度も、「暑い暑い」と一人で呟いていた。呟いてるうちは良かったが、時間が経つにつれ声が大きくなっていくのは非常に見苦しかったろう。
 当時の文芸部員は四名。僕と同学年の寺江司(てらえつとむ)と、そして二年生の後輩、成瀬の双子姉妹の四人。翌年、僕らが卒業した後、新入生が入部しないと廃部となる。
 キーボードをたたくのを止めて、肩を回したあと、首も回す。ふと時計を見ると五時を過ぎていて、気づけば一時間以上、キーボードを叩いていた。
 なんでここまでがんばらなきゃいけないんだ。心の中でそう愚痴った。こんな小さな部活、文化祭だからといって何か活動する必要なんて無い。
「思い出作り、なんて言葉があるが思い出なんか知らない間にできてるもんだよ。人間が呼吸すると一緒だ。気づけばできてるし、死ぬ瞬間まで止めることはできない。思い出だって、死ぬ瞬間までできるからな」
 こう言ったのは寺江だ。言われてみればそうかもしれない、と僕は彼の意見に賛同したが後輩の成瀬藍那は「そんなのつまんないですよ」と反論していた。
 ポケットからハンカチを出し、額にかいていた汗を拭く。この部室にクーラーがついていればなぁとつくづく思う。
 今書いている小説は適当に思いついたファンタジー物だった。適当な文章でいいし、適当な内容でもいい。文化祭の日に文集が売れることなんて考えてはいなかった。
 大きなため息をついた後、椅子にもたれかかる。なんかもう嫌になってきた。
 文化祭まで二週間をきり、僕は焦っていた。いや、小説の方はもうラストまで書けていてもうすぐ書き終わる予定だ。しかしながら、部員の二人が今は小説など書ける状況ではなくなってしまった。
 成瀬藍那と成瀬愛良(あいら)は双子の姉妹で、二人仲良く文芸部に入部してきた。文芸部なんて部の存在を知っている二年生がいたのかと僕と寺江は随分と驚いたものだ。この部活は僕と寺江が暇つぶしの場所として創ったものだからだ。それに何の活動もしていなかったし、新入生に入部を誘うこともなかった。
 そんな部活に成瀬姉妹が入部したのはややこしい理由がある。彼女らは元々、吹奏楽部だった。二人仲良く部活を楽しんでいたそうだがなぜか上級生たち、つまり僕らと同じ三年生が彼女らに嫌がらせを始めたのだ。
 最初は成瀬姉妹もなるべく先輩たちを気にして、彼らが怒らないように丁寧に対処していた。しかし嫌がらせはヒートアップし、とうとう我慢できなくなった姉妹は嫌がらせを続けた先輩の顔に水をぶっ掛けて更には腕の力を全て使い往復ビンタをくらわせた。それが問題となり退部にされた。
 吹奏楽部自体に嫌気がさしていたので姉妹は退部させられて、せいせいした、という感想を持ったそうだ。だが姉妹は「帰宅部」というのは嫌だったらしい。学生なのだから何か部活に所属しておくべき、というのが二人の考えだった。
 ということで彼女たちは何でも良いからどこかの部活に入ろうとした。しかしながら吹奏楽部を退部させられたという噂が広まり、ほとんどの部活は彼女たちの入部を拒否する。そしてたどり着いたのが我らが文芸部だ。
 部員であった僕と寺江は彼女らのそんな問題は知らなかったし、彼女たちを入部させたのは顧問の海老沢先生だ。彼は特に活動もしていない文芸部ならどんな問題児でもいれても大丈夫、と考えたらしく、普通に姉妹の入部を許した。
 入部した姉妹はひとまず部活に所属できたことに安心した。
 勿論、これは後から成瀬姉妹に聞いた話だ。そんな彼女たちにも勿論、仕事はある。この文化祭、文集を完成させるために彼女たちにも小説を書いてもらわねばならない。全部員の小説が、文集には必要不可欠なのだ。
 しかし、今の成瀬姉妹にはその作業をしろというのは酷な話しになる。だから、部長として僕は困り果てているのだから。
 つい先日、四歳の幼稚園児の女の子の惨殺遺体が近所のゴミ捨て場からダンボールに詰められ、発見された。発見したのは僕もよく知る近所の中学校の生徒だった。
 発見した中学生たちは不幸にも、精神異常を起こしてしまったらしい。新聞の記事で死体の状況を読んで、そりゃあなってしまう、と納得した。その子の死体は両手両足、全て切断されていたうえに額にナイフで彫られたと思われる、犯人からのメッセージが残っていたからだ。
「I am eater」
 額にはそう彫られていた。その部分からは当然、夥しい程の血液が流れ顔が血液で真っ赤になっていたそうだ。そんな死体を見たら、普通の状態ではいられないだろう。
 別に近所で惨殺遺体が見つかったのが大問題ではない。悲しいことに、ここらへんはそういう事件は結構起きる。僕の記憶が正しければ、二年程前にも似たような事件はおきているのだ。
 問題だったのは、その殺された女の子。その子が、成瀬姉妹の妹だったということだ。

 さて目撃者、君は『カニバリズム』という言葉をご存知であろうか。知る人もいるだろうが、知らない人もいるだろう。知らない方の為に説明しよう。カニバリズム、というのは簡単に言えば、食人、である。つまり人を食べることだ。
 英語で書くと『Cannibalism』となる。生物用語では『共食い』という意味を持つ。
 何故、そんな話を持ち出したかというと、これからこのカニバリズムという文化に魅了された異常者が登場するからだ。だから一応説明しておこうと思った。
 君が無理にこの文化を理解しようとしないでいい。多くの方は理解できないであろう。僕だってその一人だから気持は分かる。
 ただ、世の中には色んな人がいるといいうことだ。人間には必ず〈裏側〉は存在する――それは分かるだろう。誰にだって裏側、つまり残酷面があるんだ。それは人間だから仕方ない。

2007/10/10(Wed)18:33:23 公開 / コーヒーCUP
http://yaplog.jp/gothoc/
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■作者からのメッセージ
 こんにちは。あるいは初めまして。コーヒーCUPという者です。どうぞよろしくおねがいします。
 今回は、以前からやってみたかった事をやってみました。【序章】の追記です。最初から犯人の名前を明かしてみたかったのです。一度でいいから、そういう作品を書いてみたかった。
 自分はそういう作品を書いたことがなく、夢が叶いました。
 ただ、今回の作品。読んでいただいた方には分かるでしょうが、読者に語りかける小説です。これもやってみたかったことです。
 かなり、自己満足せいの高い作品になってしまいました。故に、厳しいご意見、お待ちしています。作者だけが満足するような作品にはしたくないので。
 でぇあ、よろしくお願いします。
 あと、続きますよ。
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