- 『人形祝詩』 作者:結 / ファンタジー 異世界
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全角14938.5文字
容量29877 bytes
原稿用紙約53.25枚
真っ暗な夜。
風が少し強く木岐がざわめいていた。
この日
銀髪の少年は禁忌を犯した。
妹の命を取り返すため…膨大な魔力を一気に放出して、罪を背負った。
その瞬間意識が飛んで、再び目を覚ますとそこに少年はいなかった。
これは、忘れ続ける少年と思い出を創り続ける者たちの物語
おい!結界なんか張って…何するつも…まさか!おまえ!!
そのまさかだよ…結花を取り戻す…今なら間に合うかもしれない…
ふざけんな!妹ちゃんはもうどの医者にも助からないって!…まさか…お前魔術でそんなことしたら、今度はお前が!!
いいよ…僕のすべてをあげるから…戻っておいで…
まて!俺の話を聞けよ!!流!(りゅう)
邪魔しないで…瑛(えい)…すぐ終わるから…そこでまってて…
そう言って激しい光に包まれた。
「…い!おい!!流我!(りゅうが)…流!しっかりしろ!」
「…ん…」
「流!目が覚めた」
「…おまえ誰…?」
そうこれが、始まりだった。
俺は、ただ倒れている親友を揺さぶって…だた必死に名前を呼んでいた。そしてこいつが目を覚ましたら、すべて忘れてしまっていた…
俺の事も…すぐそこで倒れている…いや、こいつ自身を犠牲にして救った実の妹の事も…
そして…自分のことも…
こいつと何日か暮らして分かったことがある。こいつは、満月の日にまた記憶をなくす事が…つまり自分を持ってもすぐ失ってしまう…
これが禁忌を犯したものの代償だ。
そして、あれから数日たった。
俺は気晴らしに外で寝そべっていた。
目を瞑ると鳥のさえずりがよく聞こえる。
すると、足跡が聞こえ近づいてくる。
「あれ?瑛華さん、ここにいたんですか?隣いいです?」
彼女はひょっと顔を覗かせた、彼女の影が俺に少しかぶさって冷たい気がした。
「ああ。いいよ。妹ちゃん。」
「もう。結花(ゆか)で良いのに…」
長い銀髪を二つに結った彼女は苦笑いしながら瑛華隣に座り込む。
年齢は14歳で赤と翠のオッドアイが特徴的である。
俺はあまり彼女のことを名前で呼んだことが無い、本人は名前で呼んでもらうことを承諾しているよう だが、あえて、呼ばない、嫌なのではないが、
昔からそうだったので、その名残だろう。
彼女が流我の妹。
今回命がけで助けた流我の大切な妹。
この二人はいつも仲が良かった。いつも二人で居て楽しそうに笑っていた。
でも、魔法はまったく逆で兄は天才と言われるほどの魔力の持ち主で、妹の方はその逆で落ちこぼれだと言われていた。
彼女は、主に援護回復を司る魔術師だが、落ちこぼれ故、まだ簡単な援護しか出来なかった。
「もう、すっかり元気だね。数日前まで死の綱渡りしていたなんて、信じられないな」
「兄は、とても魔術が得意でしたから。私と違って‥」
「あいつは、天才なだけだよ。だからあんな禁術を使っても、あれくらいの代償で済んだのかもしれない」
そう。流我は天才だった。神に勝るとも言われる魔力の持ち主。
それ故、時折人から狙われる。これだけの魔力があれば何でも出来る。
それがたとえ、死んだものを蘇えらせる事だって…
「よっと…瑛華さん。私、兄と旅に出ようと思っているんです。ここに居ると、またハンター(魔力狩り)が来るし、兄がああだから、守る術も無いですし。」
記憶を隠したせいで流我は長年培ってきた膨大な魔力の知識をほとんど失っていた。
そんな時に流我の魔力目当てのハンターに襲われでもしたら命の保障はない。
ハンター達は流我の魔力を手に入れればどんな願いも叶うと信じ込んでいるので、見つかると何をするか分からない。
「何時かこの場所も見つかるかもしれない。それなら、まだ旅でもして移動し続けていれば相手も私達のこと探しにくくなると思うんです。それに前に兄が言ってました。」
それは、結花3歳、流我7歳のはなし
「おれ!おおきくなったら!結花とせかいにたびに出る!!」
「「わーいわーい!!」」
(いつの話だよ、それ…)
半ば、俺は呆れ果てていたが、結花は、いたって本気のようで、一人で自信満々に盛り上がっている。
「それなので、今から行って来ます!」
俺は、今すぐ出発しそうな彼女を急いで引き止める。
「え!!今?どうやって?もうバスも出てないんだけど」(ここは田舎だからバスしかない)
「あるいて!!兄にも承諾得ています!!」
なんで、そんなに自信ありげなの?というか、あいつOKしたんだ…
そっか、記憶なくしているから妹ちゃんの計画性無さ過ぎ…忘れてんだ…哀れだ…
「え…まじ?此処からかなり距離あんだけど…」
俺は苦笑いしながら答える。
「そうなんですか!!!???」
うわぁ…マジ顔だ…
(馬鹿だ…こいつら)
「まぁ、ここに居ても危険だし、じゃあ、明日行くとして、準備しようか、お金とか、いくら持ってんの?」
すると、彼女はニコッと笑って1000円と自信満々に答えた。
それを聞いて俺はがくっと崩れ落ちた。
(足りるか!!こいつら餓死しに行くのか!!??)
「じゃあさぁ‥荷物は?用意したんでしょ?中身見せて?」
「うん!!」
ガラガラ
中に入っていたのは、お気に入りのうさぎのぬいぐるみと、マイ茶碗に枕
それでリュックはパンパンになっていた。
かなり重いし…特に無くても良い物ばかり…というか要らん!!
「あの…俺も行って良いかな?」(このまま行ったらこいつら絶対死ぬ!!)
「え…でも、悪いですし」
「気にしないで。二人のこと心配なだけだから、それに妹ちゃん一人じゃね…あいつは記憶なくして不安だろうし…」
(せっかく、流我が助けた命こんなに簡単に無くさせてたまるか!!)
あくまで笑顔を絶やさない。
俺は何となくこの子には、あまい気がする。
「そうですか。有難うございます!!よろしくお願いします!!」
ペコッと彼女はお辞儀をした。
それを見て俺はホッとしていた‥
「うん。じゃあ、俺が!明日までにすべて計画して荷物もまとめておくから!妹ちゃんは流我のそばで休んでなさい」
そういって、俺は強引に彼女を家に帰らせた。
(よかった…人殺しになんなくて…)
そう、安心した俺は、せっせとその日は、旅の準備をした。
「いい?原則として団体行動は絶対乱さない事!いいね。二人とも!」
そう言った!確かに俺はそういったなのに…
何故二人とも居ない!!ちょっと、目を離しただけなのに子供かあいつらは‥
今から、この街で色々買い物して、情報聞いて、宿探す予定だったのに!!
どうやら、あの二人と旅をすること自体が間違っているようだ。
っと、今更思ってもしかないことを頭の中で考えてみたり、それにしてもどこに!?
はぁ…とため息を吐きながら俺は下っている階段の端に座った。
すると、急に後ろからツンっと突付かれる。
もしやと思い後ろを振り向くとそこには結花の姿が。
彼女はニコッと笑って手に持っている熊のぬいぐるみを俺に見せる。
「どこ行ってたの?あれだけ団体行動は乱すなって言ってたのに」
「ごめんなさい。あそこの店で偶然見つけて買ってたの、すぐに追いつけるかなって…」
(買ったんだ…やっぱ。っていうか、もともとあまりない旅の資金が…)
「それより、妹ちゃん。流我知らない?居なくなってさ」
「え…お兄ちゃん?それなら、あそこの店に」
そう言って結花が指差す方向に確かに流我の姿があった。
珍しい銀の長い髪を一つに結っていてサングラスをかけているからすぐ分かる。
なにやら装飾品の店の店員となにやら話し込んでいるようだ。
あいつ、記憶無くて俺らとも、あまり話しないのに…と思いながら近づいていくと、会話が少しずつ聞こえてきた。
「そうか、紅い石にはそんな力が…なら…」
なんだ、まともに話してるんだ。ちょっと意外。
「おい!りゅ…」
「俺は誰だ?」
は!?いきなり何を言い出す??というか店の親父が困ってる(当たり前)
というか、その台詞明らかに不審者だろう!!
俺はぐいっと流我の服の裾をつかんで引っ張る。
「おい!流我なにやってんだよ。勝手に居なくなりやがって」
「…すぐに追いつけると思った。」
(こいつはまた妹ちゃんと同じ事を‥さすが妹も妹なら兄も兄だよ…)
「ほら!いくぞ宿探さなくちゃいけないんだし!!」
そう言って俺が無理やりにでも、流我を引っ張って連れて行こうとすると、店の親父が話しかけてきた。
「君たち、宿探してるの?なら家がそうだよ。来るかい?」
「行く」
(即答かよ‥流。ちょっとは考えて…まだお金のこととか何も聞いてないんだけど…)
「私も、もうそこで良いよ♪」
妹ちゃんまで!!というかどっから沸いて出てきたの??
この二人一致したら、断固として譲らないからなぁ…しゃーないか…
「じゃあ、一泊だけだからね。それじゃあ、よろしくお願いします!」
「へぇ…結構きれいなトコだね」
結花は、部屋の周りを見渡しながら、嬉しそうにそう言った。
周りには、きれいな花や、シャンデリアなんかもある。
確かにお金は少し高かったがそれだけの価値はあると思えるような部屋だった。
結花はここ最近野宿が続いていたので、少し機嫌を損ねていたが、この部屋を見て満足したようだ。
(それなので、くまのぬいぐるみを買った。追加、名前はココア太郎になった。なんてネーミングセンスが無いこと…)
「まぁ…そうだね。」
そう、適当にかえすと俺はその辺のソファに腰掛けた。
結構フカフカしていてすわり心地が良い。
ふーっと小さく息を吐くと、ふと大切なことを思い出した。
「そうだ!二人とも俺が目を離している間、ちゃんと目の色隠してたよね?」
そう、実は二人はオッドアイで左右の目の色が違う、これは両親の遺伝らしいが俺らは、もともと両親が幼いころに居なくて施設に預けられていた。
それなので、両親の本当の話はよく知らないのでなんとも言えないが‥
「大丈夫!私ずっとカラコンしてるし、今日は落とさなかったから」
「俺も…ずっとサングラス‥してた‥うざいからはずそうと思ってたトコにお前が来た…」
「あ‥そう‥はずさないでね」(あぶねぇ…こいつやっぱ…野放しにしとけねぇなぁ…)
この世界では、オッドアイというものはまだまだ珍しい、居るだけで注目の的だ。
だが、それだけではない。流我は、この世界ではかなりの有名人、俺たちはかなりの田舎の出身にも関らず、かなり名が知れてしまっている。
それが、あいつの能力、代々あいつの家系はあの特殊な能力を引き継いでいる。
それは、あいつの持っている陰と陽の目、その二つの力を合わせるとどんな願いも叶うという。
それ故、こいつの先祖は代々命を狙われ、その多くが亡くなっている。
そして、今は流我がその力を継いだので、その情報が知れ、命を狙われてる。
だが、妹の方はその力はまったく受け継がなかったらしく、魔法の駄目さは天下一品である。
しかし、この世の中の情報網は凄まじいらしく、妹、結花の情報も流れている。
兄弟そろってのオッドアイだと…だから、二人して目の色は隠さないとまるで意味が無い。ただでさえ、オッドアイは珍しいのだから…
しかし、今はその色は同じものではなかった。
昔は、二人とも赤と翠の同じオッドアイだったが、流我は、禁術を使った日から、その代償として、片目の翠の方が色あせ真っ白になってしまっている。
なので、今は二人とも右目は赤だが、左は翠と白に分かれている。
すると、隣から、ガサゴソと物音が聞こえた。
何の音かと音のするほうに視線を合わせて見ると、流我がなにやら自分の杖が入った袋を開けているようだ。
袋の結び目を解くと白金の流我と同じくらいの杖が顔を出す。
「…………」
流我に反応は無い、まるで初めて手にしたような顔をしている。
まぁ、記憶が無いのだからしょうがない。
しかし、本人にこそ記憶は無いものの確かにその杖は、流我が所持していた物だ。
死んだといわれる母の形見で、流我が小さいころに形見としてもらった物。
凄く魔力の高いものにしか使え無いと言われる物。
しかし、過去の流我はあまりこの杖を使わなかった、というか魔法自体使わない。
なぜなら、流我は誰よりも自分を恐れている。
自分には荷が重過ぎるほど魔力を持っているので、下手をするとすべて溢れ出し取り返しのつかない事になる。
それを誰よりも恐れていた。
少し前、あいつが本当に俺に助けを求めてきたことがあった。
本当に少し前の夜の話。
あいつは、夜一人で歩いていると賊に襲われたらしい。
狙いは魔力か金品か今となっては分からないが、妹ちゃんと歩いていたところを囲まれた。
はじめは、何とか妹ちゃんだけを逃がし、急いで彼女は俺に助けを求めてきた。
俺が急いで駆けつけると‥そこには彼を囲んでいたであろう賊たちがみんな倒れている。
見たところ気絶しているだけのようだった。そして、ふと、前を見ると、流我が肩を震わせて小さくしゃがみこんでいた。
かなり怯えているようだった、俺がそっと顔を叩くとビクっと驚いたような顔を向けてきた。
「どうした?」と俺が聞くと流我は分からないの一点張りだった。
どうやら、あいつは本気になると意識が飛ぶらしい、それなので、妹を逃がしてから記憶が無いらしい。
でも、あいつは何かに恐れながら小さくこう呟いた…
「僕が…やったんだよね…?」
あいつは、いつも優しくて穏やかで‥それでいて誰よりも妹思いで、相手のことを思っている人だ。
それなので、その分、人を傷つけるのがとても嫌いで恐ろしく思っている。
そして、今回の自分の行動にかなりショックを受けているようだった。
そしてこの時、この杖があいつの手に握られていた。
いつも袋に入れっぱなしで一度も開けたことの無い杖をあいつは持っていた…
それから、しばらくあいつは、俺の家に来ていた。
そしていつもこう言う。
「僕…この頃少し念じるだけで念じたことが現実になるんだ…大きな力が溢れてくる…力を使うのが…こわいんだ…」
(あれ以来、あいつ一度もアレを使ってないからなぁ…あんま思い入れないだろうけど、大切なものであることは間違いないわけだし。何か思い出さないのかな??あ!手に持った。)
そして、小さく縦に振って見せた、すると小さな光が生じた。
「なんだ…?わぁ…すっげ!!俺、魔法使えるんだ。」
意外な自分の才能に流我は少し感激したように驚いていた。
「…お前は確かに魔法は天才的才能を持っていたよ。でも、あんまり使うなよ」
それを聞いた流我は、不機嫌そうな顔になった。
「なんで?せっかく使えるのにもったいないじゃん?俺は、この力もう少し試してみたい」
(「僕が…やったんだよね…」)
「駄目だ!使うな!」
魔法を抑え切れなくて初めて使ったとき、魔法はあいつを傷つけた。
あの時の言葉を思い出して俺はついカッとなって叫んでしまった。
それを聞いて流我は、さらに不満をあおった様だった。
「なんで?そんなの俺の自由じゃないか!?」
そして、俺はこの言葉でつい言ってしまった。言うつもりなんて少しも無かった言葉を…
「前のお前はそんな事言わなかった!!」
「…………」
「ちょ…ちょっと、瑛華さん…兄さん」
これには、彼女も耐えられなくなったんだろう。小さな声で口出ししてきた。
それを聞いた俺は、ハッと我に返った。だが時すでに遅し。
「…なんだ…結局、お前が必要としてんのは、前の俺なわけね?」
「…!!ちが…う」
「違わないだろ?…俺は俺がわかんないんだよ…知らない…」
「兄さん…」
結花が様子の変な兄に近づくと流我は、冷たい目線で彼女を見下ろした。
そして、低い声で話す。
「…おまえもだよ…兄さん!にいさんって!俺には記憶が無いんだ。そう呼ばれても今の俺は困るんだよ…
もう…俺はお前の知っている兄じゃないよ…」
そう言い残し、流我は宿から出て行った。
悲しかったのか、薄っすら涙を浮かべながら…
そのときの顔があの時の顔にそっくりだった。
「力を…使うのが怖いんだ…たすけ…て…瑛…」
あれから、どれくらい経っただろう?
一刻ほどか?分からないが…俺はただ呆然に立ちすくんでいた、その時間がとても長く感じられた。
ふと、我に返って妹ちゃんをみると、小さくなって泣いていた…
ああ…おれは…今のあいつより前のあいつの方が良いと本当に思ってしまっていたのだろうか…?
辺りはすっかり暗くなっていた…
真っ暗な闇の中少年は一人彷徨っていた…
行く当ても無く…ただ歩くことをやめない…
どれくらい歩いていただろう…?
すっかり忘れてしまうくらい時間が経ってしまって、辺りは完全に闇と化していた…
しかし、見た事もない狭い道に歩みを進めると、そこには悲しいくらいに月明かりが満ちていて、ほんのり明るかった。
少年は、ふと明かりの差すほうを見上げて小さくつぶやいた。
「あの星(月)には…俺の居場所は…あるのかな…?」
誰もいなくなった街中で少年はただ居場所を探していた…
その頃瑛華と結花はまだ宿の部屋に居た。
窓をただ見ながら、雨が滴り落ちるのを眺めていた。
ああ…この雨を見てると…お前とあったことを思い出す…
これはまだ別のお話。今から10年前俺が8歳の時の話。
空は黒い回りも黒ずんだ液体が散乱している。
瑛華はボロボロの状態で立っていた。雨がどしゃ降りに降り出し、歪んだ視界をつくりだす。
周りには倒れている人々の数々。
下をうつむきながら悲しく強く声に出す。
「おれは…ころしてなんか…ない!」
雨音が激しすぎて瑛華の声は誰にも届くことは無かった…
もう…いい加減…嫌になっていたのかもしれない…
コンナ生活ニ…
毎日。毎日、死刑寸前の罪人を集められ、そこで俺がどれだけの力を発揮するか研究所の奴らはどこかで
俺を監視している。
罪人たちは、みんな俺が持たされている逃げるための裏口の鍵が目当てで、本気で俺に襲い掛かってくる。
ただ生きたいために…
殺される…そう思ったら体が勝手に動いた感じがした。
手が足が勝手に相手を傷つける…
俺も死にたくはなかったから…自分の身を守った。でも、俺は一度も人殺しをしたことはない。
いつもいつも、身体は勝手に動くけど、気付いたら自分で自分の手をこれ以上動かないように押さえ込んでいた。
これは、俺の意地なのかもしれない。たとえ、俺自身ではなくなっても人殺しは絶対にしないという。
人殺しは嫌だ。自分に悲しい目や憎しみの目を向けられるのも嫌だし、そして何より自分なんか死んでしまえ、
そんな事を思っている人がいると感じることは誰しもとても悲しいことだと思うから…
それに同じ人である俺が他の人の命を消すことはけして許されることとは思っていない…
ある日俺はここから初めて抜け出したいと思った。
いわゆる脱獄だ。もうこんなのタイラレナイ…そう思った、あの日俺は夜中に研究所を抜け出した。
そして逃げている最中に、見知らぬ男女の二人組みに出会った。
この世界で「瑛華」(俺)のことを知らない人間はいない。瑛華がとても残酷な人殺しだと皆そう思っているし、知っている。
この事は大きな町になれば写真つきの張り紙もしてあるし、ネットでも公開されている。
俺の幼い首には多額の賞金がかけられていた。
だから、その二人組みも、俺が瑛華だと顔を見て気付いたらしく、その瞬間お金目当てなのか俺を殺そうと襲ってきた。
だけど…
雨の音しか響かないこの暗闇の中
「だれ?」
かすかに雨音に混じって少年の声がした。
かなり、外に居たのかズブ濡れで髪が肌に張り付き雫が滴り落ちていた。
見た目かなり小さい、5才くらいだろうか?その子は俺を見上げた後、すぐに下を向いて言った。
「パパ…?ママ?」
その言葉に絶望した。少年が冷たい目で俺を見てくる。
パパ、ママと言われた二人はピクリともしない。
でも死んではいない。ただ気絶させただけ…
しかし、そんな小さな少年がそんな事分かるはずも無い。
そして冷たく言い放った。
「…ひどい…お兄ちゃん…瑛華って人?」
「…………」
しかし何も言い返す事が出来なかった。
なぜなら、それをイエスかノーで答えるならどちらを答えても半分しか正解は無いのだから…
俺は何時だって何も言うことが出来ない。
本当のことを言ったって、誰も信じてなんてくれない…そんな事分かっている。
だから何も言わなかった…どうせ信じてくれないなら言わない方がマシだ…
本当のことを言うと俺はみんなが思っている瑛華ではない。
元は違う名の俺という人間だった。それが10年前ある研究の実験にされた。
両親の居ない子供の実験。それは、過去の人間の力や魔力などを移すことが出来ないかというもの。
この星では年々魔力や力などが衰えている。
あと100年後には魔力も力も消滅してしまうと予測された。
それを恐れた人々は過去のその人物と同じ波長の人間にその能力を移し変えられないか実験してみることにした。
それで俺は過去の殺し屋との波長が合った。
その名前は瑛華
瑛華は昔、人を殺し続けていた。
その理由は誰にも分からないけど…
依頼された人はもちろん、自分の周りの誰一人信じようとはしなかった。
魔力の剣術の神業だった。それもそのはずだ、瑛華は人を殺して生きてきたのだから…
だがなぜたくさんの人を殺すのかその理由は誰にも分からなかった。
そんな瑛華も8年前死んだ。
その偉大なる力は研究者たちにとっては、消して失ってはいけないものだった。
いつか、この国が他の国と戦争でも始めたら、俺の力はかなり偉大なものになる。
その頃の研究所の人たちはそう考えたらしい…
だから瑛華の波長と合った俺はすぐに奴の力を受けた。
その結果、年を重ねるごとに、力は強くなっていくし、顔もだんだん奴に似てきた。
その日を最後に俺は瑛華になっていった…
そうなったら最後、この世界に生きるものは瑛華がまだ生きている。
そう思うしかなかった。
顔も剣術も声すらも全てがそっくりな俺を誰が瑛華ではないと信じるだろうか?
瑛華は人殺しだ。それ故恐れているもの憎んでいるものは、この世界に星の数ほどいるだろう。
皆俺ヲ人殺しダト思ワズニハイラレナイ
今の世界俺のことを知らないものは居ない…
名もなき小さな子供でさえ俺のことを知って恐れている。
そんな俺に居場所などなかった
でも…それでも居場所がほしかったから、いや生きたかったから…俺は研究所を逃げ出してただ歩いた。
ひたすらに…そしたら、あいつにあったんだ…
晴天の青空の下、とっても眩しくて…とっても気持ちが良い
「なんだよ。瑛華此処にいたのか?」
芝生に寝そべっている、俺を覗き込むようにして、流我は明るく話しかける。
「流…なんだよ…」
「なになに?ちょっとしょげてる?」
面白半分にからかってくる、流我を見て少しむっとした。
「…………」
しかし図星を言われて俺は返す言葉もなかった。
黙り込む俺を見て、流我が軽く笑って見せた。
「ああ。もしかして、昔のことでも思い出していた?此処で俺が拾ってやったことでも」
あの頃は髪が長かった…
あの頃は何もかもが赤く染まっていた…
あの頃は…独りだった…
うち来いよ
瑛華…
そう言って銀の髪を一つに結った少年は俺に笑って手をさしのべる。
変な奴だ。最初はそうおもった。
俺のことを知らないはず無いのに…俺に来いなんて…
まさか、俺をお偉いさんに引き渡すのか、はたまた信用させて殺すのか…?そんなことを考えずにはいられなかった…
でも、その笑顔は嘘がなくてきれいにみえた…差し出すその手はとても優しくけがれがなかった…
この時、俺はこいつに警戒しながらも久しぶりに嬉しいと言う感情をもつことができた…
「…お前偉そうだな昔も今も」
「当たり前だろ?感謝しろよ!あのドシャ降りの中俺が拾ってやらなかったら、お前は今頃凍え死んでいたんだからな」
「…お前に逢わなかったら、俺はあの日掃除や洗濯料理三昧の日々は無かったけどな…」
呆れたように言ったが、俺の顔は自然と微笑んでいた。
初めてあいつの家に行ったとき
そこに広がるはごみのカーペットと洗濯物の山
「なに…これ?もしかして俺がかたづけんの?」
「もちろん♪それ終わったら夕飯な」
そう笑顔で言い残すとさっさと去っていく
「おい!!ちょ…まて!!お前妹いんだろ!??なんで俺が全部」
いない…
でも、この時はしょうがないと思った。いきなり住まわしてくれるだけでも感謝しなくては…
それにしても俺があの有名な瑛華だと知っても動揺も何もしなかったなぁ…あいつ…それどころか…
「俺、世間で有名な人殺しの瑛華だぞ。それでも、俺に家に来いって言える?」
これは、人を寄せ付けないための脅しだ…俺は、自分では瑛華ではないと嘆いているけど、こういう風に何も知らない人間が簡単に
近づいてこれないように、時折こうやって壁を作る。
でも、彼は、意外そうな顔をしてこう言った。
「嘘でしょ?君の目は人を殺せるような残虐の目してないよ。君は人殺しを嫌うタイプじゃないの?」
その瞬間、俺の目が見開いた。
こんな奴初めてだ。初めて俺を見つけてくれた…瑛華じゃない俺を…
「ていうか、僕君に来てほしいんだよね」
「え…?」
そして、彼の部屋にご招待された俺。
カシャカシャとテキパキ家事をこなす俺。必要ってこのことかよ。少し感動してしまったのに…
ずっと一人だったから、必要最低限以上のことが出来るが、それは男としてどうなんだろ…
そう思っていると、背後から何かが爆発したような音がした。
「なんだ!なんだ!!」
何かと思い音の方へ向かっていったら…
電子レンジが爆発していた。あと大量の卵が散乱している。
「なんで…こんなことに…ってかあれが妹ちゃん…あ!流我が来た」
「何してんの?結花料理はもう二度としなくて良いって言ったのに…」
(うわぁ…二度とすんなって言ってる。まぁ。妹ちゃん料理下手なんだろうな。でも、なんで大量に卵なんか、そんなにゆで卵好きなのか??)
「ごめんなさいい!!お兄ちゃん。あたしどうしても、お兄ちゃんに美味しい玉子焼き作ってあげたかったの!!」
(卵焼きは卵を薄く焼いて巻くんだよ…料理分かってんのかな?)
「いいよ…でも、電子レンジは暖めるだけだからね」
「なら!オーブントースターなら良い??」
(そうゆう問題かよ…)
「いいんだ…もう、二度と作らなくて、今日からそこの瑛華という人にすべてやらせるから」
(俺かよ!!ってか最初からそれが狙いだったのか!!)
そういうと、流我は妹を笑顔で見送った。
(こういうのも妹想いって言うのかな??なんか二度とが強調されてたような…)
「あ…瑛華。いたの?じゃあ、あとは、言わなくても分かるよね♪」
そう含みのある笑顔を振りまきながら流我は俺の肩をポンと叩き去っていった。
その瞬間、嫌な感じがした。
「これ…やっぱ俺がやんの…?俺家政婦じゃないんだけど…」
今思ったらあいつとの出会いはかなり強引なものだった。
でも、馬鹿らしいがそれが俺にとっての救いだった…
だから…今度は俺が…
ガタっと椅子の動く音がした。
「妹ちゃん。俺探してくる。」
「え…じゃあ、私も」
「いいよ。もう遅いし、雨降ってるし。大丈夫だから先に寝てて」
そう言い残すと俺は宿を出た。
外に出てはみたが、何処にいるかなど分かる訳が無かった。
流我なら、魔術で特殊なジンクスを持っているので、昔から気配や予感で人のいる場所が大体分かるらしいが、俺は魔力がほとんどゼロに近いので
そんな能力は持ち合わせていなかった。
でも何となく歩いてみた。
あいつが好きな月がよく見える方向に…
そしたら居た…
皮肉なものだ、これがあるせいでこいつの記憶が無くなっていくのに…
でもやっぱりすきなんだ…
「流我」
呼ぶと少し肩を揺らし驚いた感じだった。
「やっぱり、ここだったんだ」
そういうと俺は流我の隣に座り込んだ。
そこは屋根も無く地面は芝生の何にもない場所。
でも月がよく見える場所。
雨が降り続いてそれが服に染み込んで身体に纏わり付いていた。
「やっぱりって…俺が此処にいるの分かったの?」
少し驚いたような表情を見せて、俺に話しかけてきた。
「なんとなく。お前、月好きだったから…」
「うん…きれいだよね。でも、隠れちゃった…」
寂しそうに上を見る瑛華につられて俺も空を見上げると、月が雨雲に隠れていた…
「今日満月だったのにな…」
そうか…流我満月が好きだったっけ…でも、それが君の記憶を奪う唯一のもの
正直この時俺はホッとしていた。
今回は忘れないですむと…寂しそうな顔をする彼の隣で俺は残酷にも喜んでしまった。
でも、君が見たいなら叶えてあげたいな…
きっと、それを見てもまた君は忘れるんだろうけど…
「かえろうか?瑛華」
「え…うん…あの…」
「なに?流我?」
さっきはごめん…きみたちは本当に俺を知ってたんだね。
そうだね。今君より知ってるかも
俺、今…自分がどんな人間なのかも分かんないけど…
一緒に居ても良いの?
もちろん!俺ら家族って言ったのお前だからな。
優しい声が響いていた…
たった数秒の言葉がまた僕等を繋いだ。
君に初めて逢ったあの日、俺は長かった髪をばっさり切った。
君に初めて会ったあの日、俺は久しぶりに笑った。
君に初めて遇ったあの日、俺は自分を取り戻すことが出来たんだ。
俺は居場所を見つけた…
君は居場所をくれた…
戻ってきてくれて…
ありがとう…
一方。
結花は、一人宿の部屋に居た。
寝ていいよと言われたが、二人が心配で眠ることなど出来なかった。
椅子に座ったまま結花はため息を吐いた。
「どうしよう。探しにいこうかな。あれから2時間だよ。でも入れ違いになったら心配かけるし…」
そう思っていると、窓の外から声が聞こえてきた。
「案ずるより産むが易しってね。心配なら行けばいいよ。でも、もう帰ってくると思うけど」
「え…?だれ?」
声のする方向を見ると窓のすぐ傍の屋根に10歳くらいの長い青髪を下ろし風になびかせている女の子がいた。
背中には長い大鎌を差していた。
年の割にはしっかりしている感じだった。
でも、丸い青目がとても可愛らしく印象に残った。
その少女は窓をコンコンと軽く叩いた。
どうやら入りたいらしいと結花はとっさに悟ったので、急いで結花は鍵をまわして開けた。
カチャっと開く音と同時に女の子は部屋に入ってきた。
「あぁ。濡れちゃったよ。雨降るなっての。」
髪や身体に纏わりついた雨の雫を鬱陶しそうに簡単に払っていた。
それを見て気の毒と思ったのか、結花は何か拭く物を渡そうと思った。
そして、その辺にあった布を…ちょこっと拝借
「あの…よかったらどうぞ」
そう言って結花はタオルを渡すつもりだった。
「これ何?誰かのローブ?」
「あ!ごめんなさい。これでした。」
そう言って今度こそタオルを渡したつもりだった。
「なに?台ふき?同じ落ちは2回は通用しないんだよ」
「あ…ごめんなさい、ごめんなさい。タオルタオル何処だろ?」
そう言って慌てふためいている結花を見て少女は笑った。
「あはは。あんた、面白いね。瑛華も面白い人達と付き合ってるんだね」
「え…瑛華さんの知り合いですか?」
「すっかり濡れたな。流我、帰ったらまず風呂入ってそれから」
流我と瑛華は体中を滴る雨の雫適当に払いながら自分達の宿の部屋に歩みを進めていた。
そう言っているうちに部屋に着いたので瑛華は部屋のドアを開けた。
「ご飯食うか…何作ろうか…って!!」
そこには見覚えがある人物が…
「よう!瑛華久しぶりよく生きてたな!」
「おまえ…まさか藍菊(あいぎく)」
驚きを隠せない瑛華は彼女に指をさした。
それの指が恐ろしさで震えている…過去に何があったんだ??
すると、すかさず大鎌が飛んできてその柄の部分が見事に瑛華の指に命中
「いてぇ…お前な…」
あまりの痛さに瑛華はうずくまる。
「人に指差してはいけませんって習わなかった?瑛華さん」
ニコッと含みをおもい切り込めたような笑みで瑛華を見てくる。
(なんか…さんが強調されていたような…)
「お前…相変わらず…だな…」
痛さで声が鈍る。
「あの?やっぱり瑛華さんの知り合い?」
まだ事情が分かっていない結花が割って入ってきた。
「ああ。こいつ俺の昔のん…知り合い…いや?同士かな」
「そうだね、まぁ…僕としては嫌な…な」
そういうと藍菊は皮肉っぽい顔をした。
「ところで、お前なんでここに居るんだよ!ちゃっかり、くつろぎやがって…」
「いいじゃん。偶然僕見つけちゃったんだもん。瑛華がこの町に居るの。だから、遊びに来てやったのに、こんなにやっさしいお友達は
いないよぅ♪」
「…どこが…」
するとまた大鎌がブーメランのようにして瑛華めがけて回転しながら飛んでくる。
綺麗に間一髪の所で瑛華の横を通過した。
その時の摩擦が髪をかすり、髪の毛が少々切れた。
そして、鎌はそのまま床に刺さった。
「何か言ったかなぁ…瑛華?」
また不気味なくらい顔が笑っていた。
サーっと血の気が引いた。しばらく放心状態で硬直していた。
おっかない心の声が聞こえる。これ以上言えるもんなら言ってみろと…
「言ってない…」
俺は、こう返事するしかなかった…
すると、疑問を持った流我が問いかけてきた。
「ねぇ…気になったんだけど昔って言ってたよね。瑛華この子かなり幼く見えるんだけど」
「ああ。お前忘れちまったか…妹ちゃんは覚えてるよね。例の研究の…」
「あ…そうなんですか?」
その先の答えが返ってきそうも無かったので流我が少し叫ぶように聞いてきた。
「なんだよ!研究って同士って」
自分だけが分からなかったのが気にくわなかったのか、めずらしく怒鳴っていた。
「ああ。ごめんごめん、俺らが小さい頃に人の能力を移すヤバイ研究している奴らがいたんだ。
藍菊はその時の同士」
「まぁ…正確には人形(ドール)が適切だけど」
藍菊は手を後ろに回し、両手を頭の後ろで組んだ。
「まぁ…そんな事でこいつはその時の後遺症で成長が止まってしまったんだ。本当は俺らとそんなに変わらないよ」
「うそ…」
はっきり言ってそれは信じられなかった。今現在不老不死は完成してないのだから無理もないのだが…
でも、そう考えると妙に大人びているのも納得がいく。
「そう…」
以外にあっさりした反応に藍菊が意外そうに流我に話しかけてきた。
「あんた。淡白なんだね。もっと驚くと思ってたのに」
「だって、それでもあんたも瑛華も変わんないだろ?」
「へぇ…そんな事言えんのはあんた達だけだと思うけど?この世界は私らみたいのを化け物呼ばわりするからな」
「まぁ…私達も似たようなものですからね」
「妹ちゃん。余計なこと」
「???そういえばあんた流我てんだよね?瑛華、まさかあの流我って落ちは無いよね?」
「…………」
沈黙これすなわち肯定
「え…マジ?…ふ…あはは」
いきなり笑い出す藍菊にそこに居るだけもが驚いた。
「おかしい…でも、納得はしたかも…なるほどだからか…よし決めた。あたしも連れて行け、これからの旅」
「は?なんで?」
するとまた…今度は大鎌の刃その物が瑛華の頭のてっぺんから振り下ろされた。
今度こそ殺されると思った瞬間。鎌はギリギリで止まった。
「瑛華異存は無いね♪」
頭に心なしか怒りマークが見える。気がする…
答えなど最初から選択肢などなかった。
「はい…」
(変わってねなぁ…こいつ…)
それをまじかで見ていた、流我と結花は、ただ…ただ唖然とするしかなかった。
(怖…)
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2007/10/14(Sun)18:41:05 公開 / 結
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