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『ヒマ人研〜ある日の出来事〜』 作者:神楽時雨 / リアル・現代 ショート*2
全角4567.5文字
容量9135 bytes
原稿用紙約13.75枚
妹はスポーツ万能な高校2年!兄は前途有能才色兼備な高校3年!学校の生徒会を、そして部活動。あらゆる場所に勢力を延ばした兄の目的はただ1つ!『妹LOVE』という盲従が生み出した【妹楽園化計画】の為だったのだ!?
『……!』
『…てよ!』『…起きて!』
 ……すうぅぅ〜!「起きなさいよ!!!」
発せられた怒号と共に俺は飛び起き、そして…二段ベッドの天井に頭をぶつけた。
「っつ!おはよう楓。朝も清々しいほどの愛の篭もった咆哮ありがとう」
 涙目を浮かべながらの俺の挨拶を尻目に、妹である楓は片手に持ってたお玉を(ワカメが引っ付いている!)振り回しながら
「今日朝練だから早くご飯食べてよね?」とだけ告げてため息混じりに部屋から出て行く。
 階段の音が消えてから、よし!と自分で大きく頷き、もう一度寝………なんてことはせずに仕方なくクローゼット内から冬制服を取り出してそそくさと着替えを始める。
「やっぱ去年に比べてだいぶ胸周りが大きくなったな。やはり運動を始めてからの成長は目に余るものがあるようだ。」
 制服と自分のサイズの違いを運動のせいにして俺はのろのろと階段を下りていく。
 一段下りるにつれ朝餉の良い香りが胃が空腹であることを誇張するかのように感じ取れる。
「かえで〜。朝飯できたか〜?」
 四季は起きぬけのような、かったるい声を出しながらリビングへと足を運ぶ。
「テーブルの上に置かれています。もう少し早く起きてよねまったく。少しは妹にも楽させて………ええええぇぇぇ!!!?」
 こちらを振り向いた楓は、俺の服装を見て一瞬で耳まで赤面した。
「なんでお兄ちゃんが私の制服着てるのよ!?」
 ああ、通りで胸の辺りがぶかぶかだったはずだ。今度からは気をつけよう。
 そう誓った矢先、楓からスカートとブレザーを毟り取られた。
「いや〜!やめて、ケダモノ〜!」
 シャツとパンツだけという惨めな姿でシクシクとハンカチを噛み締めて泣く俺を無視して、楓は制服を部屋まで片付けに行ってしまった。どうやってこの場を動いたらいいものか?
 仕方なくその姿のまま朝食を食べていると、未だ顔を赤くしたままの楓が鞄を持って入ってきた。
「今度からは気をつけてよね!」
 ネタでやったのをわかってないのか、それだけ告げると楓は一足先に学校へと走って行ってしまった。
 しょうがない。のんびり遅刻するか……と思いながら再び朝飯を喰おうと振り返った次の瞬間、肘打ちで味噌汁を思いっきりパンツの上へ落として悲惨な目にあっていた。

 一方楓は、すでに家から数百メートル離れた交差点で息を整えていた。
 無論先ほどの一件で顔を赤くして出てきたからだ。先ほどまでは外に聞こえるのではないかと思われていた心臓の鼓動も、今では落ち着きを取り戻しつつある。
 三度の深呼吸の後浅く二回呼吸をして顔を上げる。頬の赤みはすでに取れ、顔には普段と変わらぬ顔つきが戻る。
 信号が青に変わり、周りの人が歩き始める。楓も後に続こうと一歩を踏み出しピッタシ十歩で渡りきる。
信号が点滅し始めると、ほかの歩行者は早足で歩き始め、見える向こう側にはすでに次の信号を待つ人たちが見えた。
「はあ、またお兄ちゃんは遅刻かあ。毎朝起こしてるのに何で学校に遅れるんだろう」
 楓の深いため息は車の通過する轟音でむなしくも消えて言った。
「はーい! 楓チュアーン元気いぃ!?」
 突然背後から掛けられたハスキーボイスに振り向く暇もなく、楓は背後から弾力のあるハグを受ける。
「ミサキ! あんた今日は朝練無いって言ってなかったっけ!?」
 チョーク気味に決められている首に手を掛けながら楓は背後にいるミサキへと声を絞り出す。
 その楓の言葉にミサキはムフフー!と鼻息荒く耳元に顔を近づけながら小さな声で言葉をつなぐ。
「実は今日からヒマ人研の一員となったのだよ!」
 ミサキの誇らしげな言葉に楓は顔を青ざめた。
 ちなみにヒマ人研とは、部長に生徒会長である楓の兄『四季』を頭目として組織されている日常においてヒマな奴を適当に見繕って善行悪行その他もろもろを行う、楓たちの高校内でのみ活動する非部活動組織なのだ。
 もちろん『非』という文字が付くだけあって活動を強要されることはなく、頭目監視の下に活動を行っていれば全責任を頭目である四季が肩代わりしてくれるという部活動である。
 ちなみに創立宣言は四季の生徒会長就任記念に校内放送で部活動設立の宣言を行い、すべての教室の窓からいっせいに打ち上げ花火を発射させたのが最初の活動内容であった。
 いやぁ〜、とチョークを決めながらしみじみとミサキはあの時の放送内容を語り始める。
「昼飯の時間にいきなりスピーカーから楓の兄君の声が聞こえて設立宣言したんだっけ? その後はいつの間にやら仕掛けられていた爆竹やロケット花火が大噴射! 校内大パニックになったわよね?」
 ミサキの言葉に楓はイヤイヤながらも首を縦に振る。
 二人はその後しばらく同じポーズのまま歩いていたが、やがて飽きたのか腕を放して並んで歩き始める。
 それにしても。との前置きで楓は隣にいるミサキにヒマ人研に入った理由を聞いた。
 ミサキはついと立ち止まって鞄の中から一房の書類を取り出して一枚を楓へと手渡した。
 その内容は… 「入部案内?」
 語尾疑問系で発せられる言葉にミサキは二度三度と頷いた。
「その通り! 今日は全部活動が一斉に入部希望者を集い集める我が校の三大行事の一つ『部紹介』の日!」
 右手でガッツポーズを作りながらミサキは背後に火柱を上げて意気込みを見せる。
 しかし… 「それとヒマ人研の入部と何の関係が?」
 楓の質問にミサキはポケットから一枚の紙切れを取り出し、楓の前に突きつけた。内容は…
「ヒマ人研における規則細部事項一覧?」
 題名と思われる一番上に書かれている大文字の文章を口に出して読み、次いで下の文章に目を走らせる。
『 細部事項
 その一 活動は校内でのみ適用される。
 その二 部長監視の下に活動を行うべし。
 その三 法律と校則はギリギリまでのラインで守るべし。
 その四 責任は校内において会長が肩代わりするものとするが、退学処分の決定は覆せないのであしからず。』
 さらにその下に<上記の項目を絶対遵守する者にのみ発行する♪>と書かれ、さらには認印として理事長、校長、OB会長、そして生徒会長の計四つの判が押されている。
 呆れ顔で内容を読み終えた呆れ顔の楓に、ミサキはウインクしてみせる。
「どう? 楓の兄君も良く堅物で有名なあの三人から判子もらえたよね? 学校内でも兄君モテモテだしね!?」
 楓は学校内での兄の所業を知らないわけではない。テストは全科目オール満点。運動神経は学校が持つすべての記録を更新。そんな兄に世間の目は当然注目される。
 スポーツ系の業界からは引っ張りだこだし、企業からのオファーも厚い。昨日も夜遅かったのはどこかの電子産業の試作品のテストに立ち会ったからだ。
 実際、幼い頃に両親と他界した楓にとって、一番印象に残っている姿は、常に兄の広くそして大きな背中だった。
 兄は両親の残したお金で株をやり取りし、若干十四歳で業界のトップクラスの実績を手にしている。
 そんなおかげで今まで労せずこの学校生活を過ごせているのは一重に兄、四季の存在があるからだといっても過言ではない。
 しかし「お兄ちゃんはただ単にシスコンなだけのような気が……」
 そう。妹である楓の存在が、幼い日の四季の人生をここまで捻じ曲げたのである。
「一応家事全般は幼い頃から私が担当してたからあれだけど、思春期の乙女の制服を朝着てくるなんて…そんな…」
 楓の最後の言葉が終わるか終わらないうちに、ミサキが「着いたよ?」と言葉をかけてきた。
 顔を上げれば確かに目の前に見えるのはいつも楓が通っている学校『瑞穂学園』が見えた。
 ミサキは一足先に学校へと向けて走り出していた。ふと一瞬の間をおいて楓も走り出した。
「なにはともあれ今日も一日がんばろう…」 小走りから走りに変わる瞬間、楓はそう呟いた。

 四季は自前改造した学園指定の制服に袖を通し、遅刻上等の如く準備を整えていた。
「ふっ…楓の朝の挨拶も俺の遅刻を妨げる事はできなんだ」 楓に失礼この上ない呟きと、玄関を開けるのは同時。
 踏み出す一歩は、見る人が見れば歴史を作る偉大なる一歩にも見えたことだろう。それもそのはず、今日は楓たちが話していた部紹介の日。
 楓の所属している弓道部以外の部長から、すでにヒマ人研への入部要請がきていた。
「おそらくは灯澄君が楓に頼むようお願いでもしたのだろう。楓はシャイだから口に出せないというのに…」
 ブツブツ今日の部紹介の内容を考えながら門を出た四季に、隣人の透さんが庭から声をかけてきた。
「あら?おはよう四季君。もう学校始まる時間じゃないのかしら、急がなくてもいいの?」
 透さんの御節介に苦笑しながら、四季は腕時計を見て時間を確認する。無論明らかに登校時間は過ぎている。
「確かに過ぎてますけど生徒会長は少しの遅刻はカウントされないんですよ。一応楓には起こしてもらってるんですが、どうにも起きれなくて」
 頭を掻きながら照れくさそうに告げた四季を見て、透さんは笑みを見せながら手を振って見送ってくれる。
「まあ。楓ちゃんも大変ねぇ。早く行って楓ちゃん安心させてやんなさいよ?」
 笑いながら行ってきます。とだけ告げて四季は学園に向かって再び一歩を踏み出していった。
 交差点を渡り四季の姿が見えなくなるまで見送ってから、ふと透は一つの疑問を口に出す。
「それにしても、四季君の制服は他の生徒に比べて大胆よねぇ? 生徒会長だけの特注品なのかしら?」
 しばらく考えていたが、やがて面倒くさくなったのか太陽へ向かって大きく伸びをして家の中へと戻っていった。
 校門まで後数十メートルの地点に差し掛かったとき、四季はとっさに近くの電柱へと身を隠した。
「なぜこの時間に奴がいる!?」

 さて、ここで話は楓が部室に着いた時まで遡る。
 普段なら部長が一番に部室へと入っていて、後からきた二年の部員に道具の手入れをさせているはずだ。
 楓はそう思い、部活の場である弓道場へと足を踏み入れた。
「ごめん!」 開口一番の部長のセリフが謝罪の一言だった。
 理由は簡単なことだった。今日の部紹介のことを忘れていただけのことだ。
 それも楓からその件を聞くまで考えてすらいなかったというドジっぷり。
 これが弓道部、楓達の部長を務めている三年の『水沼 灯澄』という存在であった。
灯澄はこの三年間この調子で学校生活を送ってきた。そんな彼女が部長になれた訳は一重にその行動力にあった。
大事な事は忘れるくせに細かい事に気付き後輩にも先輩にも好かれ続ける。イヤな顔一つせずに物事を引き受ける。
絶対に期待を裏切らない。それらの集大成が灯澄という人格、そしてすべてだ。
無論、楓は灯澄の事を尊敬している。彼女は弓道の実力も県大会出場レベルの実績を持っているのだ。楓にとっては自身の完成形に近いと言っても過言ではない。その彼女が頭を下げれば部員としても、彼女を慕っている後輩にしても灯澄を許さずにはいられない。
「細かい点は我々の練習の一部を公開する感じでいこうと思うけど、最後にサプライズを用意しようと思う」
灯澄の提案に、というかサプライズという『単語』に疑問を感じた。
2008/07/07(Mon)22:36:20 公開 / 神楽時雨
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■作者からのメッセージ
とりあえずはじめまして。
前に書いてたのちょっと忙しくて放置してたら消えちゃってて。
この短い文章ですが読んでくださりありがとうございます。
見てのとおり内容的には学園物?の話です<笑
一度は見て感想を書いていってくれると嬉しいです。更新はたぶん不定期ですが、時間があったら逐次書き足していきたいと思っておりますのでよろしくお願いします。
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