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創作小説 投稿掲示板『登竜門』 『ミコト伝』
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- 『ミコト伝』 作者：刻 / 異世界 時代・歴史
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全角4547.5文字日本の戦国時代に良く似た世界「出雲」で、禍神《マガカミ》いう脅威と戦う、命《ミコト》と侍《サムライ》の話です。
容量9095 bytes
原稿用紙約14.7枚 -
■伝承
遠い昔、神の造られた地。
創造の神が去りしあとも、そこには森が広がり、獣が生き、人が暮らしていた。
あるとき、去りし創造の神とは別の神がこの地にやってきた。
新しい神は、人々を束ね国を造り、帝としてそれを治めた。
帝はその国を出雲と名づけた。
ある日帝は人々に言った。
「いずれ、大いなる禍《わざわい》の者がこの出雲に訪れるであろう。我が民よ戦いに備えるのだ」
帝の予言どおり、禍の者は従者を従えて出雲を訪れた。
戦いは数年に及んが、帝と民はなんとか禍の者を砕くことができた。
しかし、禍の者と共に帝の体も砕け散ってしまった。
帝なきあとも人々は、残った禍の者の従者と戦わねばならなかった。
砕けた帝の力の一部は人々に宿り、禍の者の従者と戦う力となった。
人々は禍の者の従者を禍神《マガカミ》と呼ぶようになり、帝の力を宿す者を命《ミコト》と、そして命に従い命の盾として戦う者を侍《サムライ》と呼ぶよになった。
禍神と命達の戦いは今も続いている。
◆ ◆ ◆ ◆
昼下がり。
国境に近い街道の飯屋は、その時間でも客は一人しか居なかった。
男が一人、思案に耽るように酒を口に運んでいる。
伸び放題の髪、擦り切れた草履に薄汚れた袴と着物、顔を覆いそうな無精ひげのため年齢も定かではない。
傍らには丈の長い刀が一振り、男の相方を務めるように立て掛けられている。
珍しくも無い、旅の無頼者。
己の身に付けた力を活かせる所、戦場や争いのある所を求め旅をする放浪者。
男はそんな雰囲気を漂わせている。
「お客さん、これからどちらへ」
注文した酒を届けに来た給仕の娘が、暇を持て余してか男に尋ねる。
「西に」
男は短く答えた。
声から感じる印象は若い、二十歳前後だろうか陰気な飲みかたにくらべると意外かもしれない。
「ふ〜ん、じゃあ峠越えだね。あそこは気をつけたほうがいいよ、追いはぎも多いし、それに禍神も出るしね」
自分の発した言葉に嫌悪を感じたのか、娘は眉をひそめる。
「禍神？」
今度は男が尋返す。
「やっぱり、お客さん知らないのね。一人で行く様子だから変だと思った」
男が、ふいに店内を見回す。
それを見て、男の言いたいことが分かったのだろう娘がつづける。
「そう、だからお客さんが少ないの。困ったもんよね」
禍神が出る街道など、わざわざ通る者はまずいない。
普通の人間なら、その名前だけでも禍を呼ぶとしてあまり口にしないのだから。
「でも、もうすぐ退治されるんじゃないかな。峠むこうの宿場にミコト様が来てるってお客さんから聞いたから」
今度は娘の顔も明るくなる。人々にとって”ミコト”とはそういった存在なのである。
「ほう、良かったな」
「すごいのよ、その命様ってまだ十二なんですって。しかもすごく美しいって話よ。お客さんも無事に着けたら見れるといいね。」
そう言って、娘は店の奥へと戻って行った。
先ほどまであれほど晴れていたのに、今は鉛色の雲が空を覆い尽くしている。
「ついてないね」
男がつぶやく。
飯屋を出て数刻、街道は峠の山道にさしかかっていた。
街道とはいったものの治安が良いわけではない、比較的歩きやすい道が街道となっただけだ。
獣も追いはぎも多い街道を一人で歩くのは余程腕があるのか、正気でないのか、または罪を犯した者くらいである。
勾配のきつくなり始めた山道、道は狭く脇は深い谷へと落ち込んでいる。
男がふと足を止める。
彼の前に男が三人、狭い道を塞いでいる。
彼が振り向くと、後ろにも三人。
それぞれが槍と刀を手に殺気だった視線で男を睨でいる。
前に居た一人、痩せた中年の男が声をあげる。
「継見燈馬《つぐみとうま》だな」
返事はない。
腰に差した刀を抜く様子もなく、逃げ出す気配もなく継見燈馬と呼ばれた男は黙って立っている。
しばしの沈黙。
「とぼけても無駄だ。面は分かっている」
たっぷりと間を空け、呼ばれた男は口を開く。
「あんたは？」
この人数に囲まれても臆したは様子はまったくない。
「お前に斬られた須磨泰蔵の弟、九重郎」
なるほど、継見燈馬には九重郎と名乗る男の兄、須磨泰蔵におぼえがあった。
数日前、たしかにその男を斬っているのである。
「それは気の毒にな、でもな悪いのはあんたの兄だ、あんな貧乏な村を脅してはな」
須磨泰蔵はゴロツキども集めて頭領となり、追いはぎや近隣の村を襲って略奪などをしていた。
継見燈馬は脅されていた村に頼まれ、一人で彼等を壊滅させ須磨泰蔵を斬っていた。
「うるせ〜、死んでもらう」
九重郎の怒号と共に、五人の男が燈馬との間合いを詰めていく。
五人とも、身なりは粗末なもののそれなりの腕らしく、その殺気は容易ならざるものがあった。
一人が間合いを整え、正眼の構えから燈馬に鋭く切り込んでいく。
燈馬はわずかに下がって半身となりそれをかわし、男とすれ違った時には刀を抜き終えていた。
男の手から刀が落ち、苦痛の悲鳴と共にひざを付く。
燈馬はすれ違いざまに、男の腕の筋を切っていた。
他の四人も、次々に踏みこんでくるが、全て同じように燈馬に筋を切られ倒れていった。
あっという間に、残されたのは九重郎一人となっていた。
自分の揃えた”てだれ”の者をあっさり倒され、九重郎はすでに戦う気力を無くしている。
「くそ」
言い残して、すでに背を向けて逃げ出している。
燈馬は刀を左手に持って右手を空ると、素早い動作でその腕を九重郎の方へと伸ばす。
鋭い光が、九重郎の首筋に吸い込まれ、九重郎がどっと倒れた。
首の付け根には小柄が刺さっている。燈馬が投げたものだ。
「悪いが、あんたも殺ってほしいて頼まれていたもんでね」
九重郎は兄とともに村を襲ったう事が度々あったのだ。
燈馬は刀に付いた血糊を振り落とし鞘に収めると、うずくまりうなり声をあげる男達を置いて再び歩きはじめる。
もうじき雨が降りそうだった。
◆ ◆ ◆ ◆
継見燈馬と須磨九重郎が峠付近でまみえる少し前のこと、山向こうの宿場街は重い緊迫感に包まれていた。
まだ日も高い昼前の街道沿い、普段であれば旅人と街人の活気に溢れるはずの時間に、全ての宿と店は固く戸と閉ざし、人々は息を潜めている。
その、静まり返った宿場街を、獣の咆哮のような声が貫いていく。
街の外れには戦を思わせるような武装をした数人の武士《もののふ》の姿があった。彼らは二重に円陣を作り、戦場から離れた辺境の宿場街で全身を緊張で満たしている。
円陣に囲われた中には、人の形をした”影”のようなモノがあった。影は、大人の二倍ほどの身の丈を有し、その背中には漆黒の翼を背負い、顔にあたるところには真っ赤な目だけが怪しく光っている。影の周りの地面は血で赤く染まり、首のない者や、体を二つに引き裂かれた武士が横たわっていた。
武士の円陣の後ろには、この酸鼻な場所に似つかわしくない十代前半と思われる少女が、背中まである黒髪を血の匂いの混じる風になびかせながら、胸の前で合掌し、小さく祈りを捧げるように言葉を紡いでいる。
身に着けている物と自身の放つ気品が、彼女の身分の高さを表しているようだ。
いま、円陣の中で”影”と戦っているのは壮年の武士一人だけだった。その者は重い鎧を身に着けず、軽装に刀一振りで、しかし、顔には緊張の色はなく、正眼にやわらかく構え、”影”と対峙している。
”影”は人の目には映ぬ俊敏な動きで、大木の幹を思わせる腕を壮年の武士に繰り出してくる。武装した屈強な武士の体を簡単に引き裂いた力が込めらた腕を、壮年の武士はこれもまた常人の目には止まらない動きをもって、わずかな差で捌いていく。
”影”の腕をかわし、壮年の武士が短い気合を発し斬こんでいく。気合と共に、彼の刀の刀身が柔らかな青白い光を放ち、刃先がわずかに影に達する。しかし、打ち込みは浅く、こちらも致命傷を与えるには至らないようである。
円陣を囲む者達に、両者の動きは目で追えるものではなく、その他の者が加勢できる状態にないようだった。
”影”と壮年の武士の一騎打ちは、わずかな時間ながら膠着しお互いに動けないでいた。風の音と、円陣の外で言葉を紡ぐ少女の声だけが響く奇妙な静寂が生まれる。
少女の声は次第に大きくなり、額にはわずかだが汗が浮かんでいた。
「そろそろか？」
壮年の武士が待っていた時が近づきつつあるようだった。
少女は”影”ような異形の者”禍神《マガカミ》”の存在を消滅させる力を持つ”ミコト”であり、今、その力が開放されつつあった。
壮年の武士は”ミコト”を護る”サムライ”である。
このときミコトに気を取られたサムライに隙ができた。わずかであったが、禍神は素早く動きサムライをすり抜け、黒い疾風となって円陣の外にミコトに迫る。
「しまった、麻那様！」
サムライが後を追うが、間に合うものではない。
禍神は円陣を組む武士を草を刈るように無造作になぎ払い、ミコトである少女に肉薄する。
この時になり少女は祈りは終え、閉じていた目を開き、禍神を射抜くように見つめた。 禍神とミコトとの距離は十分に縮まり、振り上げた腕が少女に襲い掛かる。
「発！」
少女の短い気合と共に、強烈な光が禍神と少女を包む。直後、大きな咆哮が宿場街まで響きわたっていった。
◆ ◆ ◆ ◆
宿場街に続く下りの山道を、継見燈馬《つぐみとうま》は足早に降りていく。
先刻から降り出し雨は、小さな川となって山道を下り、雨雲に覆われた空は、夕暮れを前にして日没後のような闇に覆われ、遠くでは微かに雷鳴も響いている。
「かなり荒れそうだな」
一瞬歩みを止め、風上の方角の空を遠く見つめて燈馬は独りつぶくと、またすぐに歩みを進めた。
少し歩くと、宿場街の明かりが雨に溶けてぼんやり確認できるようになった。雨雲の暗闇は、本格的な夜の闇へと移りはじめている。
山道の深い森を抜けようとしたとき燈馬は、雨音に混じって微かに人の声を耳にしたように思った。
一瞬立ち止まり、気配を確認する。
「気のせいか？」
歩みを再開しようとしたとき、先ほどよりのハッキリと呻くような人の声が道脇の森の中から聞こえた。
燈馬が声のする方へと近づいていと、大きな木の根本に倒れている小柄な人影を見つけることができた。
そばに行くと、声の主は小柄な少女だった。
「おい、大丈夫か」
声をかけてみるが返事はない。
燈馬は小柄な少女の体を抱えて少し起こしてみる。
歳は十代の前半だろうか、青白く精気の感じられないが、かなり美しい顔立ちに一瞬見入ってしまう。
抱きかかえた腕には、濡れた着物を通した体温が感じられた。
「おい、しっかりしろ」
声をかけるが、微かな呻きをもらしただけで返事は無かった。
周りを見渡してもほかに人影はなく、森の奥へと闇が続いている。
「置いても行けない、とりあえず街まで連れていくしかないか」
少女を抱きかかえ燈馬は街道に戻ると、雨でぬかるんだ道とは思えない速さで街へと走りだした。
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2007/09/24(Mon)03:01:39 公開 / 刻
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■作者からのメッセージ
だいぶ前に冒頭だけ投稿した物に加筆しました。
しかし、まだ出だしです。
まとめて投稿したほうが良いのでしょうが、とりあえずアップさせていただきました。
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