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『甘い毒』 作者:泣村響市 / リアル・現代 ショート*2
全角3656.5文字
容量7313 bytes
原稿用紙約10.3枚
甘い毒を憎らしい弟に盛ろう
 町の端っこにある、放課後や休日に小学生どもの集まる、町に一つや二つはある昔なつかしの駄菓子屋。
 其れが俺の家。
 母親に頼まれて店番をさせられていた俺はじーわじーわと小五月蝿い蝉の声やらがきんちょの声やらに顔を顰めた。レジの奥にある一畳程度の空間が、昔は嫌いじゃなかったけれど成長して一畳では寝転ぶどころか座ったままの活動さえままならない今となっては狭くて暑苦しいばかりで。だったら店番しなきゃいいんだが家族で一番暇な俺は夏休みに入ると毎日のように狩り出される羽目にあう。弟だって暇そうなんだがと告げると母曰くアイツはちゃんと宿題も部活もしてるとのこと。しょうがないじゃん、俺の部活夏休みずっと休みなんだもん。贔屓だ畜生。
 いつでも子供の手によって開けっ放しになっている店先にクーラーなんて文明の利器が存在するわけがなく、ある冷房は団扇と扇風機のみ。なんだこの一昔前の文明の利器はと言いたい。利器なんてもんじゃねぇぞ。宿題も出来やしねぇ。
「くじ」
 レジの前に立っている小学校に入学して二年程度と見られる少年が主語述語ぶっ飛ばして単語のみで物事を伝えようとする。暑くて数学の問題が理解不能で苛々しつつも返答する。
 ちゃりん、と置かれた五十円玉。ああ確か店頭にある籤で五十円のはスーパーボールの……などとすっかり慣れた頭で計算して、スーパーボールを指し、目で「スーパーボールか」と問いかける。こくりと頷く坊主頭。
 レジの裏にあるスーパーボールの籤の箱をどっこいしょと出す。色褪せた陳腐な色合いのぼろぼろの箱。
 慣れた調子で少年は箱に手を突っ込み、数秒ごそごそした後一枚の三角籤を差し出してくる。受け取って手早く千切る。五等。至って普通にしょぼいスーパーボールだ。
 レジの上に釣られていたスーパーボールが錠剤のようにパッキングされたボードを下ろし、少年に「どれがいい」とこれまた視線で問いかける。少年は少々不満そうな顔をして五等のスーパーボールの辺りを睨み、それからちょっと一等の無駄にでかいスーパーボールを愛しおしげに眺め、び、とまだら色のスーパーボールを指した。ぱき、と軽い音とともに押し出して少年に渡してやる。
 ありがとうの言葉もなく店から立ち去っていく少年の後ろ姿に投げやりに見つめ、後ろに並んでいたさっきより幾歳か年上の少年に早く商品を出すように目を向ける。少年は焦ったように下を指差した。
「おねがいしますー」
 ぱし、と小さな手がいくつかの駄菓子をレジに精一杯乗せた。声音から察するに幼稚園児程度の少女らしい。座敷に座っていたのも手伝って全く視界に入っていなかった。
 ああはいはい、ともう覚えている駄菓子の金額をレジに打ち込みながら脳内で計算を済ませ、レジが数字を出すよりも早く合計金額を口に出す。更に手早く袋詰めしてレジに置く。
「六十五円」
 ぺし、と姿の見えない少女の手が百円玉を皿に載せた。その手でお菓子を引き釣り下ろす。
「百円、三十五円のおつり」
 ちゃりんちゃりんと少女の手にお釣りを乗せてやる。「ありがとうございあしたー」と幼児特有の甘々しい声。ぱたぱたと軽い足音が出口へ向かっているのを確認すると、小さな少女が嬉しそうに袋詰めされた駄菓子を抱えて道路へ飛び出していた。危ねぇなぁ、と思いつつも次の少年の駄菓子を受け取る。
 おい少年、三十円足りないぞ。

 国語のテキストをレジの上に置いてシャーペンを弄っていた。ぶーわぶーわと古い扇風機に前髪が煽られる。店には小学校低学年くらいに見える少年が一人でさっきからうろうろとしているだけで、何時ものようなきゃいきゃいと甲高い声は聞こえてこない。昼時なのも手伝っているのだろう。
 それにしてもお昼まだかなどと考えながらシャーペンを弄り続けた。真っ黒に日焼けした少年はうろうろとうろうろとコンクリ剥き出しの床でサンダルを擦っている。暇潰しなのかと思えばその顔は真剣そのもので、なにやら商品をさがしているらしい。随分熱心な瞳で棚の前にしゃがみこんだり、背伸びをしてうえのほうを覗き込んだりしている。
 しかしもうそろそろ昼時だし、一旦帰らせないと親御さんも心配するんではなかろうか。
「おい。何探してんだ?」
 レジの向こうから声をかける。少年はびくぅ! と気の毒な程飛び上がり、怯えたような目で此方を見た。まるで人形が喋ったのを目撃してしまったような仕草だった。まぁ確かに、出された駄菓子やらの金額とおつりぐらいしか喋らずに黙々と客を捌くか宿題に向かうかしかしていなかったから、子供の目から見たら決まった動きしかしない人形みたいなイメージをもたれても仕方が無いのかもしれない。何時も店番をしている母親はもの凄くなれなれしく子供達に喋りかけるので、そのギャップもあるのだろう。
 少年は油を差し忘れた機械のような動きで此方の方向に向き、小さな声でぼそりとなにやら呟いた。
「毒」
「……どく?」
「毒、ありませんか」
 そんなもんあるわけねぇだろ、といいかけたが、口を閉じた。少年はまるで不治の病の妹の手術代のためにやむなく人殺しをし、とうとう警察に捕まってパトカーに入る瞬間に妹に「兄さん、何でこんなことしたの」と憎しみの篭った涙を流された兄のような表情で俺を見上げていたから。いや、ちょっと違うかな。悪戯がばれて笑い事で済まずに母親に思いっきり怒られそうな時の顔、だ。
「誰か殺すのか? それとも自殺か?」
 知る気も無い登場人物の心情を表す一文を探しながら囁くように呟く。少年はまたしてびくりと震えて、俺を見た。
「おとうと」
「弟? 弟を殺すのか?」
 こくり、と少年は頷く。ぼそぼそと聞き取りづらい声によると、去年生まれた弟はまだ小さくて、母親も父親も弟に掛かりっきりのため憎らしくなったのだそうだ。確かによくある話だが、少年の瞳には確りとした憎しみが篭っていた。殺意だ。怖っ。
 おいおい少年、その歳でその物騒な考えはどうなのよ、と思った。けれどそうして毒を探して駄菓子屋へ来てしまうあたりがなんだか微笑ましかった。あ、いや、微笑ましくは無いか。けれど、此処で少年に人を殺すのはいけないだのと説くのは無駄な気がして、じゃあしょうがないな、と呟いてよっこいしょとレジ裏から出た。
 履物が無いので、裸足のままコンクリむき出しの何か砂がざらざらする床を歩く。
 去年生まれたばかりの幼児でも食べれる駄菓子。水出しジュースかな、と水出しジュースのコーナーで立ち止まる。粉末の入った小さな袋。いちご味のそれを手にとって少年に渡す。
 後ろを付いて着ていた少年は不思議そうな顔をしてそれを見つめた。
「誰にも秘密だぞ。此れを買ってる奴は、みんな誰かを殺そうとしてるんだ。これを何回も飲むと段々体に毒が溜まっていって、そのうちぽっくり死んじまうんだ。弟に飲ませろ。その代わり、一日一袋ずつ、何回も」
 低い低い、いつか見た時代劇の越後屋みたいな感じの声をイメージ。なんだか俺、悪役っぽい。口元をゆがめて少年の持っている袋を指先で弾く。びくり、と少年が震えた。
「弟、死ぬ?」
 鬼気迫る人殺しの目をした少年に、ああ、死ぬさ。死ぬともさ。と答えてレジへ戻る。少年は意気揚々と一袋、レジへ置いた。十円。いつも通りの声音で告げる。越後屋じゃなくて、駄菓子屋の人形みたいな兄ちゃんの声で。少年は十円玉を差し出して、その水出しジュースを抱いた。時計を見て慌てて店を出た。危なっかしく道路へ飛び出るのを見送って、家に繋がる背後の引き戸から顔を出して居間で素麺を喰っている弟に飯はまだかと告げた。
「自分で作れ」
 冷ややかな声に顔をゆがめて、仕方が無いから素麺を茹でに台所へ向かった。

 夕方になってきゃいきゃい五月蝿い客足も途切れて、ふと思って水出しジュースを手に取った。昼間少年に渡したものと同じ、いちご味。ちゃっちいピンクいろのアルミの袋。中では薄いピンクの粉がさらさら流れている。
 台所から水を入れたコップを持ってきて、口をあけてさらさらと流し込んだ。ピンク色の粉がくるくると廻って水におちていく。中々溶けないので面倒になって未だ水面に幾らか粉が残ったままのコップを煽る。
 偽者みたいに甘ったるいその偽者の毒を飲み干して、ぐてんとレジ台にしなだれる。
 あの少年は気付くかな、と思った。明日も買いに来るのだろうか。明後日も買いに来るのだろうか。何時気付くんだろうか。その時俺に騙されたと思うのだろうか。
「いや、確かに此れは体に悪い」
 飲み続ければ、弟君の寿命が縮むことは必須なのだよ、少年。
 そして弟くんが早死にしたら、俺も殺人犯だ。いえーい、殺人犯だー。
 わーい、とだれたまま両手をあげて居ると、すぱーんと引き戸が開き、背後から強烈な蹴りがいれられた。咳き込む俺を尻目に弟は冷ややかな瞳で吐き捨てた。
「夕飯だ。食え」
 畜生。俺もコイツに毒を盛っとくべきだったか。
2007/08/17(Fri)18:23:44 公開 / 泣村響市
■この作品の著作権は泣村響市さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
あの粉末ジュースが好きでしたがこの歳にもなって飲んでいたらお祖母ちゃんに「体に悪い」と怒られました。確かに着色料ばんばんで悪そうですよね。

誰でも買ったことがあるんじゃないでしょうか、あれのコーラとか。無いですか?
ほのぼのしている割に登場人物の心情は殺伐としてる感じを目指しました。
というかまた淡々とした感じに…

こう、ハイテンションな話を書いてみたいです。

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