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『私の悪女』 作者:カオス / リアル・現代 未分類
全角10205文字
容量20410 bytes
原稿用紙約31.85枚
悪女とは何ぞや?私は、『悪女』に出会ってしまった。そして、『悪女』について知ってもらいたい。これは悪女の話。(第二章upしました)
  私の悪女


 はじめに

 悪女ーーー心や行いのよくない女
      男を色香で惑わしかねない女   新明解国語辞典より

 悪女とはなんぞや?

 悪女とは、悪しきことをおこす女

 というのが、世間一般での『悪女』の定義だと推測する。私もそう思う。『悪女」とは、よくない悪い女だと思う。それでも、『悪女」にはなんとも引きつけられてしょうがない魅力がある。多分人が『悪女』に欺かれるのは、そのしょうがない魅力のせいだ。そして、そのしょうがない魅力を持っているのが『悪女』なのだ。
 だから、私はあの『悪女』に惹かれたのだ。
 どうしようもなく、もどかしいまでに。
 だから、私はその『悪女』のことを知ってもらいたくてこの話を綴る。


 第一章  けっこんしき

 彼女は、『悪女』だった。
 紛れもなく、『悪女』だった。

 私のような平凡な人間が彼女のような紛れもない『悪女』と出会ったのは、企業での入社試験の時だった。私はそのとき、大学生で二十一歳だった。彼女も私と同じ二十一歳だった。
 会場は、平凡な人間で埋め尽くされて雪国のきのこ製造工場を思わせた。どれもこれも似たり寄ったりな服装をしているからそう見えたのかもしれない。その、きのこ製造工場のなかで彼女は松茸だった。服装は、周りのきのこと変わらないのに松茸だった。例えるのならば、周りの人間が味のしめじならば、彼女は香りの松茸だった。掃き溜めに鶴という表現でもいいかもしれない。まぁ、彼女は高級だったのだ。しかし、今よくよく考えて振り返ってみるとかなり滑稽なシチュエーションだったろう。雪国のしめじのなかにいきなり京都の松茸だ。これは、もう喜劇としか言いようがない。どちらが、迷い込んできたのかは知らないけれど。
 彼女は美しかった。精巧な人形のように、完璧な絵画のように、荊のある薔薇のように、美しかった。
 黒い髪に、黒い瞳に、紅い唇に、白い肌に、魅了されなかったしめじは、一本も無かった。それは、一種の憧れであり、羨望であり、妬みであり、恨みであり、恋であり、愛なのだ。しめじたちは、それぞれの感情を抱きながら一本の松茸を注視していた。
 
 私を除いて。
 その時私は、三日後に控えた友人の結婚披露宴の為のスピーチを考えていた。思い出したのが今日の朝だ。しかもご丁寧に、『結婚披露宴NGワードー言っていけない言葉ー』という本を読みながら。もちろん、その友人は今も幸せではないが不幸でもなく。まぁ、それなりに楽しい結婚生活とやらを送っている。多分私と悪女を結びつけたのは、その『結婚披露宴NGワードー言っていけない言葉ー』だ。だから、その友人には毎年桃の缶詰と乾パンを送っている。
「お隣宜しいですか?」
 それが、悪女の私に向けた最初の一言だった。私はその時、スピーチのオチを考えることに躍起になっていて彼女の顔も見ていなかった。だた、条件反射のように
「ああ、どうぞ」
 と言った。それから、後悔したことは書くまでもない。
「結婚式に出席なさるんですか?」
 その時私は、はじめて彼女の顔を見た。
「………美人ですね」
 穴が在るのなら、そこにそのときの私を突っ込んで上からコンクリートで固めで二度とお天道様を崇められないようにしてやりたい。ああ、恥ずかしい。
「……ふふふっ。面白い人ですね」
 その時の彼女の美しさを表現するのなら『月も光を消し、花も恥じらう』が相応しい。とにかく、私はノックダウンされた。
「あの、大丈夫ですか?」
「………ああ!御心配なく大丈夫です。………多分」
 大丈夫な訳あるか。アレは、若気の至りというヤツに違いない。
「それで、結婚式に出席なさるんですか?」
 彼女は、私の本を指差しながら言った。
「ああ、そうです。そこで、スピーチをやるはめになっていまして」
「スピーチですか。それは、名誉なことですね」
「『名誉なこと』ですか………『卒業』みたいなことにならなければ良いのですが……」
「それは、それで幻想的で素敵ですね」
「そうですか?招かれた側としては、迷惑ですよ」
「あら、そんなことは無いですよ。現に素敵でしたよ」
「ああ、素敵だったんですか。………え?」
「わたしの先輩の結婚式で実際に会ったんですよ」
「………。あの、詳しくお聞きしても宜しいですか?」
「どうぞ。わたしの拙い話でよければ」
 彼女は、悪戯をする子供のように笑ってみせた。私はその時の彼女の顔が今でも鮮明に思い出せる。
「その前にお名前を伺っても良いですか?」
 彼女が遠慮がちに聞いてきたとき、私はようやく彼女の名前を知らないことに気付いた。
「あ、そうでしたね。私はつばくらくるわといいます」
 我ながらなんと間抜けな名前だろう。子供のころこれで散々馬鹿にされた。
「えっと、ツバクラクルワ?」
「つばくらくるわ。燕と書いてつばくらと読みます。くるわは、遊郭の郭です」
「ああ!燕廓さんと仰るんですか!」
「ええ、変わった名前でしょ?」
「面白い名前ですね。つけたのは?」
「私の曾祖父ですよ。女遊びばかりしていた人で、いつも曾祖母に怒鳴られていました。私が、生まれた時に男なら『ありんす』と名付けようとしていた人です。それで、私が女だと知らされたら『廓』にしたそうです。それで、また曾祖母に怒鳴られて二日間家に入れてもらえなかったそうです」
 蛇足だが、『ありんす』というのは廓言葉で『ございます』という意味だと曾祖父から教えられた。今思い出しても、曾祖父と曾祖母が離婚しなかったのが不思議なくらいだ。時代的に、抵抗もありそうだが曾祖母の家の方が格が上だったのに、世界の七不思議にも入れても良いかもしれない。
「まぁ、面白い。それで、ご両親は?」
「両親と祖父祖母は、笑ってたそうです。特に私の母、その曾祖父の孫に当たるんですけどこれが『なまなり』なんです。それで、『自分の名前より一億倍ましだ』って言って」
「『なまなり』って?」
「『なまなり』は、生モノの生に成長の成と書いて生成と読むんです」
「それも何かの名詞ですか?」
「生成は、生きながら鬼になった女のことを言うんです。能の般若の一歩手前です」
「鬼の女?」
「いえ、鬼の女ではなくて………それよりも、貴方は?」
 私も生成がなにか良く分かるように説明できる自信は無い。それよりも、彼女の名前に興味があった。
「わたしは、きよみずまんげつです」
「きよみずは、京都の清水寺の清水ですか?」
「そうです」
「まんげつは、満ちる月の満月ですか?」
「萬の萬に月で、萬月です」
「満ちる月じゃなくて、萬の月ですか。良い名前ですね」
「ありがとう」
 この時の彼女ー萬月ーの笑顔は本当に本当に美しかった。
「ところで、清水さん?」
「萬月で良いです。わたしは、なんと呼べば良いですか?」
「燕でも、廓でもどっちでも良いです。呼びにくいんでしたら、ニックネームでも考えてみてください。
 萬月さんの先輩の結婚式の話の続きを聞かせてください」
「ああ、そうでしたね。それから、クルワと呼ばせてもらいます。

 わたしの先輩は、高校時代の同じ部活だったんです。部活は茶道部で、着物の似合う楚々とした人でスポーツも勉強も出来て憧れる人も多かったんですよ。だから、『卒業』そのものの結婚式になってしまったんでしょうかね。先輩の名前は、池上恭子って言うんです。皆も、わたしも『恭子先輩』て呼んでました。後輩の面倒をよく見てくれるけど、凄く厳しい先輩なんです。わたしも、よく怒られました。でも、頑張ったらその分だけ何て言うんでしょうか、優しくしてくれる? 違います。認めてくれる先輩なんです。わたしが入部した時には、もう三年生で受験だったんですけどそれでもちょくちょく部活に顔を出してくれましたね。先輩が来ると皆、パッと笑顔になるんですよ。わたしも、笑顔になっていました。でも、わたし茶道部の中で一番デキが悪かったんです。それで、先輩が来た日には扱かれました。もう、バシバシ注意されましたね。それだから、先輩の色々が分かったんですけど。
 先輩は、志望の大学に合格して高校を卒業しました。その時、茶道部は大泣きでしたよ。わたしも顔の穴から、色々液体を流して先輩の制服にこすり付けちゃったんです。皆も擦り付けてましたけど。それから、わたしも先輩と同じ大学に入学したんです。学力的にも問題は無かったし、家からも通えるので。
 それで、わたしが二十歳の時に先輩が結婚式を挙げることになったんです。相手は、三歳年上で二十五歳の将来有望な古生物学者の卵だったんです。優しくて、砂遊びが好きな子供って先輩は言ってましたよ。ふわふわした、春の綿毛みたいな優しくて暖かい人でした、わたしの印象ですが。結婚式には、茶道部の皆、先輩の友達、高校の恩師が出席していたんですけど。そこで、『卒業』になってしまったんですよ。これは、一種の伝説になっているんですよ。わたしの母校の茶道部の部室では、もうその時の写真まで飾ってあるんですよ。
 事件が起きたのは、誓いのキスの時です。神父さんが『それでは、誓いのキスを』の所で、式場のドアがバーンと開いて紫のスーツの黒髪で眼鏡をかけた男の人が入ってきたんです。新郎とは、真逆の人でしたね。新郎が春の暖かい光なら、その男の人は冬の凍てつく吹雪でしたから。でも、どちらも先輩の結婚相手と言われれば納得できますよ。どちらも、先輩にお似合いでしたから。
 会場は、水を打ったように静かで誰もが入ってきた男の人を見ているんです。わたしも、見ていたんですけどね。やっぱり、男の人が先輩を連れて行くんだ!とわたしは確信していましたね。ドキドキしているのは、先輩のハズなのにわたし、先輩以上にドキドキしていたと思いますよ。それでも、ちょっと楽しみでした。先輩が攫われて行くのが。生でこんなドラマチックな出来事に逢えるなんて、わたしは幸せものだ!って。
 そうしている間にも、男の人は二人の方に歩いて行ったんです。二人の三メートル位手前で止まると、手を差し出して大声で言うんです、
『来いっ!』
 て。もう、わたしはニヤニヤしていたに違い在りませんね。いよいよ、先輩が攫われる!そう思うと、鼻血まで出そうになる始末ですよ。でもね、驚いたのはその後ですよ。それで、会場中がパニックに陥りましたね。でも、茶道部の同級生と先輩の何人かは凄いニタニタしてしましたよ。何ででしょうか?未だに謎です。
 その男の人が差し出した手に白い手袋がのせられた時、ついに来た!と思いました、けどまさかそれが新郎の手だなんて。会場中『え!?』ですよ。なんで新婦じゃなくて新郎なんだって。それから、男の人がスーツのポケットから指輪を取り出して新郎の指に填めて、新郎が填めていた指輪を男の人に填めて、
『誓いのキスで、止めているんですよね?』
 と男の人が言うまで、開いた口が塞がらなかったんです。
『………あ、そうです』
 神父さんの惚けた答え。
『じゃぁ、これは誓いのキス』
 そうそう言って、男の人が新郎にキスしたんです。強烈なパンチを喰らったみたいですね会場中。
『誓いのキスも済んだし、行こう。皆様、御機嫌よう』
『あ、うん。それじゃ』
 男の人が新郎の手を握って、式場を出て行こうとするんです。ここまでなら、まだ耐えられたんですが最後は強烈でした。
『おい!結婚祝いだ持ってけ!』
 先輩が投げたのは、ブーケでした。それを男の人が受け取ると新郎に渡して、新郎が言ったんです。
『あ、ありがとう』
『近いうちに会いに行く』
 先輩がそれを、言ったのを聞いてから二人は走って式場を出て行きました。もう、なにがなんだかわかりませんよ。先輩は、普通にウェディングドレスのまま煙草吸っているし、新郎は攫われたままだし、神父はなにが起こったかさえ理解できていないようだし。会場はもう、台風が通ったあとのようでした。
 後から、先輩から詳しく聞かされたんですが、あの二人(新郎の方を春、男の人の方を氷室)は禁断の愛に走っていて皆に認めて貰いたくてもそれが出来ない。それで、先輩が人肌脱いであげたそうです。勿論、代金は全て二人持ちで先輩は一銭も出していないのです。『タダでウェディングドレスが着れたから、それで良い』と先輩は控え室で語ってくれました。それから、今二人は海外に留学しているそうです。先輩も、何回か遊びに行って『いちゃいちゃしていて、見ている方が苛つくくらいに甘い生活を送っている』と酒の席で零していました。

 これが、わたしの経験した卒業です。面白かったですか?」
 萬月さんがそう言った時、私は困った。はっきり、書いて予想を遥かに上回っていた。
「……起きたら困ります」
 それが、私の精一杯だった。責任転嫁で、私に害が及ぶかもしれない。それだけはごめんだ。
「ふふふ。でも、楽しいですよ?」
「それは、当事者だけで、付き合わされた人はとんだ迷惑でしょ」
「そうですか? わたしは、とても楽しかったですよ」
 子供のように無邪気に微笑む萬月さんに、私はなんと言って良いか解らなかった。
 だから、
「はははっ。そうですか」
 笑って誤摩化すことにした。

 これが、私と悪女の出会い。

 
第二章  よくないうわさ

「おはようございます。廓さん」
「ああ、おはようございます」
 運命とは誠に奇なるものだと、最近思う。どうしてかと理由を述べると、私の向かいでパソコンを立ち上げている絶世の美女が清水萬月さんだからだ。
 一昨年の春 私は目出度く某出版会社に入社した。そして、萬月さんも入社し私の前でパソコンに向っている。こうも、縁があると少し寒いものを感じるのだが恐いのでなかったことにする。そうはともあれ、今日は金曜日。明日の休日の為長い一日が始まる。

「清水さん。これ、郵便局行って速達で出してきて!」
 上司がオフィスの外まで聞こえる大声で叫んでいるのを聞きながら、私の指は忙しくキーボードの上を走る。上司からおつかいを頼まれた萬月さんは、椅子から立ち上がると上司から封書を受け取って、小走りに出て行った。その顔が、少し嬉しそうだったのは気のせいだろうか?
 デスクの上の時計は、十一時半を回ったところだ。あと、少しで昼食そう自分に言い聞かせながら切れそうな集中力を保とうとする。
「ねぇ、今日のお昼なにがいい?」
「え? アポが取れてない!」
「誰かお茶ぁ!」
「ここ、誤字があるんだけど…」
 …………。
 駄目だ、五月蝿すぎる。月末なのも五月蝿い原因かもしれないが、これではろくに仕事もできない。
 私は、集中力の持続を諦めて引き出しから目薬を出す。これは確か、駅前の薬局で買ったものだ。そんなことを思い出しながら片目に三滴ずつ差す。
「ぁ〜」
 と親父臭い唸り声出したのは、決して私ではない。断じてとは言えないが………。目から溢れ出る余分な目薬を拭き取るため、ぎゅっと瞑って手探りでティッシュを探す。………見つからない。その時、私の手が柔らかいカサカサしたものに触れる。
「ほい。ティッシュ」
 余分な目薬を拭き取り、目を開けるとそこには円舞瑕瑾(えんぶ かきん)が居た。私は、あからさまに嫌な顔をした。
「なんだよ、その嫌な顔は」
「ああ、何だお前かよ」
 円舞とは、少なくとも長い付き合いに不本意だが入ってしまう。確か、今年で十三年になる。こいつと学校が違ったのは、ほんの少しだけだ。
「おい、燕。親友に対してそれは、酷いんじゃないか?」
「誰が親友だ。ただの知人だろ」
 はぁーと私は深いため息を吐き出す。
「酷いなぁ、唯一無二の親友に」
 そう言って、私を睨む円舞は可愛らしい顔をしている。萬月さんが世にも美しい人ならば、円舞は世にも可愛らしい小動物だ。それに、可愛らしいのは顔だけでなく背丈も可愛らしい。 
 140センチ。
 これが、円舞の現身長だ。昔は私とそんなに変わらなかったのに、いつのまにやら二十センチ以上違っている。とっても可愛らしい容姿の円舞を動物に例えると、茶色の兎になるだろう。色素の薄いふわふわした茶色の髪、ふにふにの大福みたいな頬、くりんとした黒く丸い瞳。どれを、とっても可愛らしい。
「お前可愛いよな。今更だけど」
 私は頬杖を付きながら、目線より少し高い所にある円舞を見ながら言ってみた。すると、案の定円舞は頬を真っ赤にさせる。
 
 とても可愛い。

「だ、誰が可愛いだ! せ、せ、成人に言う言葉がそれか!」
 噛む姿も可愛らしい。携帯のカメラでシャッターを切る音が聞こえるが、円舞には言わないことにする。言ったら、もっと可愛いことになるから………。
「やっぱり円舞、お前は可愛いよ。可愛いということは、社会的生存競争の武器になるぞ」
 グリグリと頭を撫でることが、普通になったのは何時からだろうか? そんなことを、考え円舞の頭を撫でる。また、シャッターの音がしたが言わないことにしよう……。
「う、五月蝿い! べ、別に可愛くない!」
 う〜ん。このまま此処に居られては、仕事に関わる。さっきの上司が少し前に鼻血を吹き出してティッシュを鼻に詰めこんでいる。円舞には用件を済ましてもらってさっさと戻っていただこう。
「ところで、円舞なんのようだ?」
「あ、えっと………」
 途端に、また顔を赤くさせて下を向いてしまった。なんか、いじめているようで嫌だ。ましてや、『人をいぢめるのが大好き』という趣味の人種ではないし。周りからは、『何を言ったぁ〜』ビームが私目掛けて向けられている。背中にビームがちりちりと当る。
「円舞。もう少しはっきり言え」
「き、今日お昼外食か?」
「……ああ、外食だが?」
「じゃ、一緒に行こう。いい店見つけたから」
 とダッシュで出て行こうとする、が
「待て、私はその場所を知らないぞ」
 ガシッと私がその肩を掴んで止める。
「あ、そっか」
「十二時五分に一階のロビーで良いな?」
「分かった」
 そういうと、円舞は元気に出て行った。小動物みたいで可愛い。また、シャッターの音がした。
 しかし、私の背中に集まるビームは円舞が出て行った後も攻撃の手を緩めなかった。


「ほぉー。和食か…」
「うん。中々いい所だろ?」
「まぁまぁだな」
「相変わらず手厳しいな」
「厳しくないと出版の会社は、やってられないだろ」
「うん………まぁ、そうだけど」
「ほら、中入るぞ」
 私が円舞につれられてやってきた、料理屋は古風な日本家屋を少し改装した所だった。店の前には黒板で出来た看板がちょこんと置かれている。外装で点数を付けるならば、七十ぐらいだろう。まぁ、問題は味なのだが………。
「中は古いままだな」
 円舞は私の後ろを歩きながら、呟く。店のレジから作務衣の店員がやって来る。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
「二名です」
 円舞だと、いろいろと面倒なので私が答える。
「お座敷とカウンターどちらがよろしいですか?」
「だって、どっちにする?」 
 後ろの円舞に聞く。流石に私の一存で決める訳にも行かないだろう。
「ああ、お座敷でお願いします」
「かしこまりました。こちらへ」
 そういって、店の奥に案内される。奥は暗くてひんやりとしていた。昼間だというのに静かすぎる。
「お決まりになったら、そこのボタンを押してください」
 座敷は、まぁまぁだ。テーブルの下が、掘り炬燵になっているようで正座しなくて助かる。しかし、水でなく熱々のお茶なのが嫌だ。
「で、何の話だ円舞」
「ば、バレてた?」
「何年知人やってると思ってるんだ」
「やっぱり、親友だよね?」
「知人だろう。で、話は何だ」
「待て! その前に決めるから!」
 と、円舞は真剣にメニューを睨み始めた。和紙に筆ペンか何かで書かれたメニューには、ファミレスのメニューのような写真は一切ない。シンプルだ。
「………燕は何にしたんだ…?」
「私かい? 私は、『椿』に決めたよ」
「げッ……それ、高くないか?」
 椿 二千五百円 
   豆乳饂飩 マグロの刺身 ユバの刺身 などが付く
「まぁ、そうだな」
「何でそんなに、お金あるんだよ!」
 ぷぅ、と頬を膨らませ怒る円舞。かなり、小動物的だ。 
「実家に寄生してるからだ」
「…………普通、言わないぞ」
「普通はな。決まったか?」
 思いっきり円舞が目を反らした。そして、決まりが悪いように指を動かす。
「まだ、決まらないのか?」
「き、決まった………」
「じゃ、注文するから。何にしたんだ」
 こういうことも、私がすることになっている。いつの間にか、こんなルールが出来ていた。
「笑うなよ……」
「分かったよ」
 私は正直者で嘘はつかない。 
「エビフライ定食にする…………」
 とうい、嘘をいつもついている。
「ぷっ」
「笑うなっていっただろう! この嘘付き!」
 私を指差しながらぷんぷん怒っている円舞を見ると、もっと笑ってしまった。
「だから、笑うな! 嘘付き!」
「え、円舞一つ訂正する」
「何を?」
「私は『嘘付き』じゃなくて『ウソハキ』だよ」
 嘘を付くのではなく、嘘を吐く。自分に嘘は付かない。けれど、まわりに嘘を吐き散らかす。それが、嘘吐き。
「………さっさと、頼め!」
 円舞は言う。

「ん! 美味しいなここ」
「だろ。とくに、この海老の衣なんかサクサクで」
「生憎、私はエビフライを頼んでいなくてね」
「それは、残念だ」
「……また来れば良いか」
「そうだな」
「で、話だ」
「うっ。………あとじゃダメ?」
「さっさと、話せ」
「分かったよう」 
 そう言いながら、円舞は食事を進める。どうやら、そのまま話をするらしい。
「燕の友達で、清水さんいるでしょう? その清水さんの話なんだけど……」
「萬月さんがどうかしたのか?」
「言い難いことなんだけど………」
「話せ」
「はっきり言うぞ。はっきり言っちゃうからな。…………専務と営業部長と不倫してる」
「不倫の二股ってことだな」
「そう。というか、驚かないんだね」
「他にも、A社の『ナカガワ』とか言う既婚者とも不倫してるって言ってたぞ」
「へぇ〜。…………って何で知ってるの!?」
「本人から直接聞いた」
「だっだら、話は速い。………清水さんとの交友止めた方が良い」
 そのとき、私は『にや』っと嗤ったことだろう。
「それまた、何故だい?」
「決まってるだろう? 良くない。不倫で三つ股なんて………」
「良いじゃないか、面白いぞ」
 豆乳饂飩は、のどごしもさっぱりしていて美味しかった。ただ、だし汁はもっと薄い方が良い。
「面白いって! 面白いだけじゃすまないぞ! それに、なんか悪い噂もあるし……」
「『悪い噂』? どんな?」
 円舞は、最後の一口を噛まずに呑み込んだ。後から、デザートと食後の紅茶とコーヒーが運ばれて来る。私は食後はコーヒーだが、円舞は紅茶だ。どちらも、ホットだ。
「昔、付き合っていた彼氏が二股掛けていた男に殺されたって噂。しかも、殺した方の男がこれもまた、もう一人の男に襲われたらしい。そういう、噂」
「それで、萬月さんは何ともない。…………『悪女』だね。それも、とびっきりの」
 円舞が紅茶にドボドボとミルクと砂糖を入れる。あんなに入れたら、もはや紅茶ではない。しかも、円舞はそれをとても美味しそうに啜るのだ。なんとも気味が悪い。
「………円舞。ミルクと砂糖入れ過ぎだ。舌可笑しくなるぞ」
「なんにも入れないでコーヒー飲んでるお前に言われたくない」
 私は、コーヒーも紅茶もいつもストレートで飲むのが習慣だ。砂糖もミルクも一切入れない。
「で、噂は本当なのか?」
「それが、解らない。兎に角、交友を止めた方が良い」
「そうかい。噂の真相か………面白そうだな。もしかしたら、もっと面白いものが出て来るかもしれない。危ないがな……」
 にやっと嗤うニンゲンが、心配そうに私を見上げる円舞の黒い瞳に映っている。ミルクも砂糖も一切入っていないコーヒーは、澄んだ水鏡のようだ。それもまた、私を映す。悪くないのに責められているようだ。
 最後の一口を胃に流し込む。
「………燕」
 円舞が今にも泣きそうな声で言う。
「大丈夫だ。危ないことにならなければ良いんだろう?」
「…………………」
 コク、と小さく頷くのを見てから椅子から立ち上がった。伝票の脇には円舞の代金が置かれている。
「ほら、行くぞ。急がないと間に合わない」
「うん…………」
 コツコツと靴音だけが響く。

 外は、カラリと晴れて気持ちがよかった。午後もまだあると思うと憂鬱だが、仕事だからやるしかない。
「さて、午後もお仕事頑張りますか」
「………よし! 燕!」
 いきなり、円舞が喋り出すから吃驚した。
「な、何だ円舞?」
「噂の真相を探れ!」
「は?」
「清水さんの噂の真相を探るんだ! そうすれば、すっきりする。うん!」
 これが、空元気というヤツか…………。
 それでも、元気がないよりは良い。
「行くぞ燕。信号まで、競争だ!」
 走り出す円舞の小さな背中を追いながら、やっぱり『悪女』は面白いと私は思っている。
 空がやけに蒼い。
2007/08/11(Sat)21:33:53 公開 / カオス
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