- 『春夏秋冬の次に訪れた季節』 作者:城口千純 / ショート*2 異世界
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人類の未来に希望はあるか? 未来への警告。
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見渡す限り氷河の荒野。
もはや誰もいない。
温暖化で多くの生物が死滅し、続いてやってきた氷河期。
一部のしぶとい人類と、生命力の強い下等動物だけが生き残った地球。
幸せだった時代を知る世代は、頭脳だけが生き残り、肉体のほとんどは滅びた。
コンピュータという仮想空間でのみ生きることを許された脳は、快楽を求めて新しいプログラムを日夜創造している。
死ぬことはあっても生まれることのない世界。
生きることに疲れた脳は、自らの意思でその活動を停止しなければならない。
自然死というものはない。
機械によって半永久的に生きることができる。
この世界において、人の死因は自殺のみである。
しかし、物理的な生殖機能はもうない。
プログラムの中で理想的な恋愛をして、互いの体を貪りあったとしても、決して新しい生命が誕生することはない。
あるとすれば、コンピュータで新たな人格を作り上げること。
それは人間と呼べる代物ではない。
人は穏やかに絶滅に向かっている。
滅びとは、そういうものなのだ。
曇った空の隙間から、珍しく太陽の日差しが一筋、大地を照らしている。
揺らめいて見えるのは、冷たい大気のせいだろう。
そのわずかな暖かさを求めて、小さな生命がうごめいている。
彼らは逞しい生命力で繁殖を続けている。
人がかつてそうであったように。
地球にとっては穏やかな季節だ。
静かに時間が過ぎてゆく。
やがて人は滅び、小さな生命が新たな進化を遂げるだろう。
メビウスの輪が再び今を刻むまで。
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2007/07/21(Sat)16:12:48 公開 /
城口千純
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