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『月の出るある夜に(仮)』 作者:紅 / 異世界 未分類
全角2046文字
容量4092 bytes
原稿用紙約6.7枚
「君が……になったら――」
 誰かが何かを言っている、とおぼろげに私は思った。しかし、目の前には闇が広がるばかりで、それが現実なのか、否か。判別の方法もわからない。ただ、会話を繋ぐのは重要であると本能が囁いた。
「何?」
 かすれた声が出た。もう少し普通の質問をしたほうが良かったかな、と一瞬後悔するが、致命的ではない。
「君が目覚めたら、助けにきてあげる。だから――死なないでね」
「なんで、今助けてくれないのですか?」
「今はただの荷物だからさ。使用許可が下りてないと困るんだよ」
 荷物、という言葉には戸惑いを感じた。それは人間に使用するべき言葉ではないのではないか? それに使用許可というのは暗に自分を何らかの目的で利用するという意図があるのだろう。
 さあ、その意図とは何だろうか。なんてうそぶくのには時間が足りないだろうか。
「あなたは何者なの? ここはどこ?」
「それを君に言う必要はないよ。そして質問する権利もない」
「あら、ひどい。女性の要望は聞き入れてくれませんと。男性として失格ですよ?」
 冗談めいた口調だが、多少は筋が通ってるじゃないかとも思う。
 ふうん、おもしろい。
「いや、君は女性ではないだろ? 少女という部類だろう。自分でもさっき、ロリコンと称してくれていたじゃないか」
「女はいつでも、心の中に幼さを抱えているのです」
 自分は十歳だ。
「でも、僕は質問をほとんどしてない」
「話題転換が早いですね」
 口調が大人びてきたというより、生意気になってきた。
「まあ、初めの質問には答えてもいいよ。だけど、交換条件がある。……当然だよね? 君だってずっとさっきの答えが聞きたかったみたいだし、ね?」
 前言撤回しよう。こいつは一回たりとも冗談めいた口調なんて使っていない。全部を知ってて、私をあざ笑っていたのだ。自分の言葉に自分で酔っている私を。
「今、何が見える?」
「闇。声がすることから、人がいることは理解できます。しかし、現実かどうかは不明です」
「そう。これは夢と認識していいよ」
 沈黙が走る。
「で、約束の答えは?」
「おやすみなさい」
「……あのね。人を馬鹿にしないで。私は眠くなんか無いの」
 しかし、まぶたが下がってくるのは認識していた。
 まあ、俗に言う強がりだ。
(こんな奴の思い通りなんてやんなっちゃう)
 やんなるのは自分にか相手にか……その思考を最後に私は眠ってしまった。 


第一話 
「美羽、美羽! 起きてよ」
 騒々しいと思いつつ上半身を上げると、そこには可愛らしい女の子が一人いた。いや、「可愛らしい」という言葉は適切ではないかもしれない。人によって「可愛らしい」は違うのだから。
 言い直そう。大きい黒目に形の良い鼻と唇、綺麗な黒髪を腰まで伸ばしていて、清楚なワンピースを着ている女の子だ。……って、自分は今頃、友達を何故評価してるんだ。
「何か用? 哀」
「何か用じゃないよっ! 昨日は何がどうしてあんな所にいたの? 私、すっごいすっごい心配したんだよ?」
「昨日?……確か普通にベットに入って寝て、変な夢みたいなのを見た気がする。で、起きたらいつも通りの部屋に現在進行形でいます」
 ただそれだけで何故、この子――相澤哀は騒ぐのだろう? 名前は哀の癖に。
「えっとね、美羽はね、昨晩、外に倒れていたのです。それを見つけた先生方で大騒ぎになって、いつもの部屋にとりあえず運ばれました。起きたら、事情を聞くようにと私に伝えて」
「と言われても、その事実を覚えてません。はい、以上終わり。」
 寝起きの悪い私をたたき起したところから、間違ってる。
「鴉!」
「……黙れ。黒羽美羽という名前は親がつけたものであって、私には何にも不備はない。というか、黒い羽で鴉を想像することに、まず日本人の寂しさを感じません? 他、いるだろ」
 その言葉に哀は頬をぷーっと膨らませて眼を吊り上げた。
「部屋荒らしは鴉さんでもしないと思うけど」
 まあ、確かに狭い部屋がぐちゃぐちゃになってるのは、私の本が悪いけど、そんな目くじらたてることでもないだろう。元はと言えば、こんな狭い部屋をよこした大学が悪い。……あれ? 大学? 何かひっかかる。まあ、いいか。
「はいはい、ごめんなさい。じゃ、おやすみ」
「寝ちゃ駄目!! 今日はお仕事あるよっ!」
 突然、脳が活性化し、「重要事項」を思い出す。そういや、自分は大学残って、研究やってた気がする。哀は研究仲間だった気もする。だからこそ、ここは大学が配布した部屋なのである。
 そして、今日は絶対に遅れるなと言われて……ヤバイ
「なんでもっと早く起こしてくれなかったの?! ああ、早く行かなくっちゃ。ほら、早く着替えていかなきゃ。集合は七時で……今、六時五十分! ああ、どうしよう」
「ちょ、待って、ご飯。そして、いつもみたいに、冷静に――」
「そんなの向こう行ってから!」
 微妙に的外れな返事をしつつ、私は、哀の手を引いて大学まで走り始めた。
 


 
2007/08/27(Mon)10:53:33 公開 /
■この作品の著作権は紅さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
かなり、更新できなくて、すいません。
そして、ようやくの更新のくせに相変わらずの駄作で、再びすいません。
終わりもかなり中途半端……
少しずつ直していきたいと思うので、どうぞよろしくおねがいします。
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