オリジナル小説 投稿掲示板『登竜門』へようこそ! ... 創作小説投稿/小説掲示板

 誤動作・不具合に気付いた際には管理板『バグ報告スレッド』へご一報お願い致します。

 システム拡張変更予定(感想書き込みできませんが、作品探したり読むのは早いかと)。
 全作品から原稿枚数順表示や、 評価(ポイント)合計順コメント数順ができます。
 利用者の方々に支えられて開設から10年、これまでで5400件以上の作品。作品の為にもシステムメンテ等して参ります。

 縦書きビューワがNoto Serif JP対応になりました(Androidスマホ対応)。是非「[縦] 」から読んでください。by 運営者:紅堂幹人(@MikitoKudow) Facebook

-20031231 -20040229 -20040430 -20040530 -20040731
-20040930 -20041130 -20050115 -20050315 -20050430
-20050615 -20050731 -20050915 -20051115 -20060120
-20060331 -20060430 -20060630 -20061231 -20070615
-20071031 -20080130 -20080730 -20081130 -20091031
-20100301 -20100831 -20110331 -20120331 -girls_compilation
-completed_01 -completed_02 -completed_03 -completed_04 -incomp_01
-incomp_02 -現行ログ
メニュー
お知らせ・概要など
必読【利用規約】
クッキー環境設定
RSS 1.0 feed
Atom 1.0 feed
リレー小説板β
雑談掲示板
討論・管理掲示板
サポートツール

『秘密の楽園』 作者:あひる / ショート*2 未分類
全角5925文字
容量11850 bytes
原稿用紙約19.45枚

「ねえ、1日だけ付き合って」
 それは突然のお誘い。
 せっかく校舎の3階まで登ったと言うのに、無理矢理引っ張られ、校門の外へと連れ出された。
 往復はキツい。久々の運動――という運動ではないが――に息を切らせながら、僕は言った。
「ちょっと待って……もう授業始まるってば……!」
「そんな硬いこと言わないの。1日くらい、いいじゃない。付き合ってよ」
 それはクラスメートの芹沢という女子だった。
 数えるほどしか話したことはなく、おれらの間にはいつでも距離があった。それに彼女は、この頃休みがちだった。今日だって制服も着ず、私服でいた。
 それなのに、なんでだ。付き合うって、どういう意味でだ。
 突然のことに、おれは混乱しっぱなしだった。
 最近で話したのは何ヶ月か前か。あの時は敬語だったのに、どうしてこんなフレンドリーな話し方に変わってしまったのか。
 疑問に思いながらも、おれもタメ口で話し出す。
「高橋君、いつも勉強ばっかじゃん。たまにはこういう日があっても、いいんじゃないの?」
「勉強ばっかって……おれ、そんながり勉?」
「うん。いつまで経ってもモテないぞー」
 正直な芹沢の返答にがっかりしながらも、芹沢の言われるままに足を動かした。
 まあ……こんな日があっても、いいんじゃないか?
 ちょうどバス停に行くとバスがとまっていたので、芹沢が急ぎながらバスに乗った。後ろから香る芹沢の髪の匂いに魅了されながら、僕も後を急ぐ。
「どこ行くの? なんだかサボりって、良心が痛むなあ」
「楽園、よ。楽園。それに五月蝿いぞ。両親だか良心だか、勝手に言ってろ。あ、バスの料金はあんたが払ってよね」
「マジかよ……今月ピンチなんだって」
 芹沢にぴしゃりと言われ、会話が途切れる。
 僕は鞄を持ったまま連れて来られたので、バスに乗る際は財布を持っていた僕が全部払うはめになった。
 バスに乗る際、降りる際、会話をしなかったことを不思議に思う。有り難うくらい言ってもいいんじゃないか。
 けれど、楽園か。なんだか、自由な感じ。彼女の言葉に魅了されながら、バスが

「けど、バス2本でつく楽園もどうかと思うが」
 目の前にあるのは、小さな遊園地だった。
 平日だからか、人は少ない。そんな小さなものなのに、彼女は大はしゃぎで中に入っていった。
 金を払うのは、誰だと思っているんだ。
 そう思いながらも、「たまに……はね」そう考えてしまう自分がいた。
「高橋もおいでよー! 楽しいよ、ほら、ねっ」
 だってこんな彼女の元気な顔見て、嫌がることはできないだろ。
 いつのまにか呼び捨てだし。
「はいはい、ちょっと待ってろよ」
 それに、こんなに大きな声出したの、何年ぶりだろ。こんなに走り回ったの、何年ぶりだろ。こんなに笑ったの……何年ぶりだろう。
 遊園地。ジェットコースターにお化け屋敷、コーヒーカップに小さなパレード。見るもの全てが新鮮で、子供染みたものでも笑いが漏れてしまうものばかりで。
 やはり最後は観覧車。
 小さな遊園地の中心に聳え立つ観覧車は、中々迫力があるものだった。
「定番だよね、観覧車は」
 観覧車に乗りながら、彼女が呟く。その言葉の続きは、「恋人たちには」ではないのか。
 雲を染めゆく茜色。夕方にもなり、人出は増えていった。
 やはりこんな小さな遊園地でも、遊園地は遊園地。恋人たちの、デートスポット。
 観覧車の小さな窓から、彼女は羨ましそうな目つきで恋人たちを見ていた。
「あ、ごめんね。こんな遅くまで連れ出しちゃって。これ終わったら、帰ろうか」
「別にいいよ。おれも、芹沢のおかげでこんなに元気になれたしさ」
 けれどおれとは反対に、芹沢の顔色はいいといえるものではなかった。
 それはいつも、教室にいるときでもそうなのだが、よく見つめるほど疑問は深まる。
 今日だって、何もしていないのに息が切れたり、急にトイレに駆け込んだり。彼女は笑うが、無性に気になった。
 そして空気に呑まれてか、おれはとんでもない質問をしてしまった。
 なんだか芹沢に申し訳ない気持ちになった。
「ねえ、なんで……おれ?」
「え? なんでって……」
 もうすぐ観覧車は終わる。終わったら、楽園に別れを告げなくてはいけない。
 彼女は照れる様子もなく、ただ困った顔をしていた。
「ごめ……変な質問しちゃ」
「ううん、突然あたしが変な誘いをしちゃったから、驚いたんでしょ」
 彼女は弱々しく笑った。
 そんなことない、そう言おうとしたが、最初はおれもそう思っていた。
 なんで、なんでおれ? どうして、こんないきなり?
 動揺していたのは、バレバレだったか。
「いや……その……でも……」
「特に貴方がいいって言うわけじゃなかったの、ごめんなさい。変な期待させちゃって」
「き、期待なんてしてないしっ!」
 でも、本当は期待していた。だから「なんでおれ?」そう言ってみた。
 だって、気になるだろ。
 たくさんいる中でどうしておれかって……。
「けど、良かったよ。高橋選んで。すーっごく楽しかった! 死んでも、いいくらい」
「死んでもって、大袈裟だろ。はは、おれも良かった。芹沢に選んでもらって」
「本当、本当だって。あ、もう終わりかー」
 アナウンスと同時にメロディーが流れる。
 あーあ、これで今日も終わりか。どこからか溜め息が漏れた。
 観覧車から出ると、夜の匂いがした。
 それと同時に「閉館です」のアナウンス。
 まだ6時だぜ、早い閉館。腕時計を見ながら、毒づいた。
 この時間が、とまればいいのに。
 いつしかそんなことを考えるように。
「終わっちゃったね。1日、めっちゃ早かったね」
「ああ、そうだな。本当に……時間が流れるのが早かったよ」
 ゲートを出て行く群集に紛れながら、会話をした。
 はたから見れば、恋人同士に見えるのだろうか。
「どうする? 帰り。送っていこうか?」
「ううん、いい。家、反対方向じゃん。帰りのバス代くらいなら、持ってるし」
「本当? それならいいんだけど。変な男につかまらないように、気をつけて帰れよ」
 手を振ってやる。
 無理矢理にでも送っていった方が良かったかな。けどな、気があるとか思われたら恥ずかしいし。
 けど、もう話すことはないだろうな。
 始まりが遅く、終わりは早い。
 今日1日だけの付き合い……だからもう終わり。最初で最後の、夢の1日。
 呆気ないものだよ。
「ちょ、ちょっと待って!」
 そんなことを考えていると、近くで彼女の声がした。
 髪を振り乱しながら走ってくる。
「ど、どうした? なんか変な奴に絡まれたか?」
「そんなことじゃなくて……やっぱ、今日で最後だから、言いたくなって……」
 今日で最後、か。
 やっぱり終わりか、お終いか。今日だけだもんな。
 その言葉に寂しさを覚え、なんだ? と問う。
 その途端、唇に生温かいものが当たる。
 すぐに分かった、これは接吻だ。
「せ、芹沢!?」
「あたし、本当に高橋選んでよかった。有り難う。今日の思い出、絶対に大切にする」
 そして芹沢は、もと来た道を一生懸命に走っていった。
 これが芹沢の本当の気持ちなら、おれの気持ちあって確定している。
 明日、言おう。
 今日なんかで最後にさせない。
 決意を固め、まだ感触が残る唇へと手を移動させた。
 軽く触れ合っただけなのに、なんで……こんなに。
 すると指先にべっとりとした濡れを感じた。
 外灯に照らす。
「血……?」
 赤黒い液体は、確かに血だった。
 おれのものではない、なら……彼女の?

「ったく、何学校サボってんのよ、あんたは!」
「ごめんなさい、本当ごめんって。今日の部分は友達に聞くから、テストには影響ないって! 内申には……分からないけど」
 家に帰るとやはり説教だ。
 今日も似合わないロングスカートを着て、母さんが仁王立ちしていた。
 五月蝿いなと思いながら必死に言い訳をしていると、いいタイミングで電話が鳴る。
「電話出てくるから、終わるまであがっちゃ駄目よ。そこで反省してなさい!」
 ぴしゃりと言いつけ、電話に出た。
「もしもし、高橋です」だって。ぶりっ子で言うなよ、47いったくせにさあ。
 心の中でぶつぶつ言っていると、母さんの視線がこちらを向いた。怒ってはいない。きょとんとしている。
「芹沢、さんだって。あんたに」
「芹沢? クラスメート、クラスメート」
 芹沢からか。なぜだか胸が躍った。
「はい、代わりました」
 だが、それはおれの聞きたい声じゃなかった。
「あっ、高橋君? あのね、芹沢茉里の母ですけどもっ……!」
 電話の向こう側は、えらく興奮しているようだった。
 なんで芹沢のお母さんが、おれになんか。嫌な予感が脳内を過ぎる。
「中央病院! 娘が、呼んでいるんです! お願いです、来てください!」
 中央病院、息切れ、血、母の状況。
 何か、胸騒ぎがする。
「ちょっとあんた、どこ行くの!」
「急ぎなんだ、説教はあと!」
 中央病院は、比較的おれの家から近い。自転車でぶっ飛ばせば15分くらいで着く。
 けれどその15分も、おれにとっては苦痛だった。
 彼女は、何かの病気なのであろうか。
 あんなひどい興奮状態の母親、芹沢がどうかしたのであろうか。
 けれどさっきまであんな元気だったんだ、そんな訳はあるまい。

「すみません、遅れてしまって」
 病院の受付での待ち合わせだった。けれどそれらしき者はいない。
 代わりに看護婦さんがいた。比較的若い。
 するとおれを見るなり、腕をつかまれた。
「高橋君? そうよね、高橋君よね。ほら、こっち来て!」
「あのっ……芹沢が、どうかしたんですか?」
「何も聞いてないの? もー……!」
 看護婦さんがイラついたように叫んだ。
 病院は静かにするものなのに、看護婦がこんなんでどうするんだ。
 看護婦さんに連れられて来たのは、1つの病室だった。その病室は「芹沢茉里」の部屋。
 おれが「芹沢!?」というのと同時に、その扉が開いて中から担架に乗せられた芹沢が出てきた。
 そしてものすごいスピードで違う部屋に移った。
 関係者以外立ち入り禁止の場所だ。上部に何かが書いてあるのだが、英語なので読めない。
「あの、看護婦さ」
「あの子ね、いまヤバいの。今日が最期かもしれないし」
「えっ……?! でも、遊園地、行ったし……一緒に遊んだし……」
 今日で終わり?
 信じられない。だっておれは、一緒に遊んだんだぞ?
 元気いっぱいに、走り回る彼女を見たんだぞ?
「遊園地、行ったんだ。やっぱ、分かってたのかな。今日で終わりだって……」
「彼女は、病気なんですか? どうして、こんなことに? だって、だって……」
「興奮するのは分かるけど、これが現実。彼女さあ、今日病室から抜け出したんだよね。脱走、脱走。服と共にいなくなっていてさ。帰ってきたのは、さっき。なんだか道端で血を吐きながら倒れてたらしいよ。いい人に拾われて、良かったわ」
 硝子越しから見える彼女はとても弱っていて、今までとは変わり果てた姿をしていた。
 色々とチューブをつながれていて、酸素マスクもしてある。
 額から流れる汗も、今は色っぽいとも言えない。
「あの子はあの子なりに、頑張ったんだ。未知の病気にかかってもさ、学校行くんだって言って、辛い抗癌剤治療もやった。結果は駄目だったけど、一時は学校行けるまでに回復したんだ。けど、やっぱ時間は猶予をくれなかったの」
 いつのまにか隣に座っていた芹沢の母親らしき人が、顔を手で覆っていた。
「お医者さんも……っ、看護婦さんも、お友達も……みんな頑張ったけど、何も変わらなかった……! それを知ってしまったのよ、茉里は……」
 母親が泣き崩れた。
 看護婦さんが宥めるように言った。
「お母さんも頑張りになられましたよね。毎日付きっ切りで看病して……」
 僕は突然のことでなんだか分からなかった。
 涙なんか、流れなかった。
 だって、芹沢はいつも微笑んでいた。弱いところなんてなかった。
 それなのに、どうして。
「ねえ貴方、どうして彼女が病院を抜け出したか、分かる?」
 僕は必死に首を振った。
 分かるわけ、ないじゃないか。
 何も無知なおれに、彼女の気持ちなんて……分からないよ」
「貴方に逢いたいからよ」
 僕の耳がぴくんと反応した。
 違うよ、だって僕じゃなくても良かったって言った。
「彼女、言ってたもの。高橋君の話。嬉しそうにね、話していたわ。まだあまり話したことはないけれど、とても優しくて頭がいいんだって」
「でもっ……」
「だから、死ぬ前にちゃんと会って話がしたかったんじゃないの? ほら、愛する彼女からのラブレター」
 看護婦さんが、おもむろに胸ぽけっとの中から手紙を出した。
「病院に帰ってきてから、あたしに言ったのよ。今から言うことを、高橋に伝えてって。すごい辛かったと思うのに、吐き気に襲われながらも考えたの。読んであげて」
 おれは受け取ると、すぐに中身を引き抜いた。
 便箋に並ぶ字は、看護婦さんの字だけど、その手紙には芹沢が溢れていた。
“あたしは嘘吐きです。本当は誰でもよかった、なんて嘘。ターゲットは決まっていました。一生この思い出、大切にします”
 僕の為に……病院を抜け出して、辛いながらも楽しんで。
 馬鹿だなあ、もう。芹沢は。
 初めて、流れた涙。
「浅倉、もう駄目だ。植物状態だ」
 硝子越しから聞こえる、お医者さんの声。
 浅倉と言うのは、この看護婦さんだろう。
「そう……じゃあ、仕方ないわ。予告したより半年も多く生きれたのだから、もうしょうがないわ」
「しかたないって……何が?」
 看護婦さんは悲しそうに微笑んだ。
「人工の酸素。今まで彼女は、それに頼って、彼女は今の間生きていたからね」
「それじゃあ、殺すってことかよ! 芹沢を、殺すのかよっ!」
 どうしてだよ。
 どうして外しちゃうんだよ。
 もっと、生かそうよ。
「ごめんね、これがあたしの仕事なの。そんなこと、言わないで」
 残酷だ。
 残酷すぎる。
 医者の手が動いた。
 母親が目を瞑る。僕が叫ぶ。看護婦さんが耳を塞いだ。
 病室は、奇妙な機械音に包まれた。
――芹沢が、死んだ。
 明日、言おうと思っていたんだ。
 あんなに元気だから、学校来ると思っていたんだ。
 明日会ったら、この自分の気持ちを伝えようと思ったのに。
 ごめん。
 今日、言っておけばよかった。

 遊園地。そこはおれと彼女の秘密の楽園。
 学校からバス2本でつく、楽園。
 最初で最後の、秘密の楽園。
2007/07/09(Mon)20:04:59 公開 / あひる
■この作品の著作権はあひるさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
読者様にも、芹沢が病気だって気付かれないように書こう!
ということで書いたのですが、あまりにも気付くような点が少なすぎて、病気だって分かったときにインパクトないなーと思いました。
それと、誤字雑字なので変な部分があれば注意をお願いします。
この作品に対する感想 - 昇順
感想記事の投稿は現在ありません。
名前 E-Mail 文章感想 簡易感想
簡易感想をラジオボタンで選択した場合、コメント欄の本文は無視され、選んだ定型文(0pt)が投稿されます。

この作品の投稿者 及び 運営スタッフ用編集口
スタッフ用:
投稿者用: 編集 削除