- 『葬列』 作者:灰人 / ショート*2 リアル・現代
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原稿用紙約2.25枚
「この分だと明日は雨ですかねえ」
振り返ったが男は地面を向いている。棺は前方で斜めに傾いでいた。
「墓地までは遠いんですか?」
だらだらと葬列は続いている。
「遠くもなく、近くもなく。ただあることはあるんでしょうね。皆さん向かってるようだから」
横を歩いていた太った男。なんとなく気の利いたことを言われた気がして、私は彼をぶん殴った。
「雨が降ればいいのになあ」
再び振り返ると、男はバイク用のジェットヘルメットを着けているところだった。私は靴を履き忘れてきたことに気付いた。しかしもう自分の家がどこにあるのか思い出せなかった。メキシコの夏をこさいだような風が地面の塵を巻き上げる。ミミズがちぎれて黒くなっていて、蟻が集っていた。
「知ってます? ノアの大洪水とか。人間に絶望してやったくせにそれでも人間を残すなんて、神様も懲りないんですねー。まあとにかく何もかも洗っちゃうってのは、コレ、気持ちいーんだろうなあ」
彼は喋りながら浮き輪を広げて、空気を入れ始めた。輪型が途中でちぎれて、数字の3の形になってぶらんとしていた。
痩せた婦人に追いついた。ハンカチで瞼を拭っている。零れ出ているのは灰だった。
道がけっこうな坂になり、息切れがしてきた。棺はさらに傾いだ。胸の中では紙風船がぺこひゅこと動いて、私の五臓に○| ̄|_←こういう形の血球を送っている。
「まだ遠いんですかね」
婦人は写真を取り出して眺めていた。
「息子が死んだんですよ。可愛い子でした」
写真を見ると少年が死んでいた。
先頭の集団はどうやら墓地に到着したようだ。棺は傾いでもうほとんど垂直になっていた。彼らは墓穴に入って行った。葬列はにわかに活気付いた。押し合いへし合い、私も墓穴に入るのに夢中になった。忘れられた誰かの棺が音を立てて倒れた。
了
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