- 『これも『愛』の形』 作者:アドミット / ショート*2 お笑い
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全角3959文字
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原稿用紙約12.25枚
通信用小型電子末端:通称・携帯電話の視点から語る、グダグダなコメディ。それ以上でもそれ以下でもない。携帯電話曰く――まあ、これも『愛』の形なんだろう。
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第一話「愛ってなんだろ」
私は時々思うことがある。
愛とは何なのか。それは、人として生きる上で解決することの無い永遠の命題。
いや、人ですらない私にそれの答えを見つけることは出来ないのか。
いくら考えようとも、愛を明確に表す言葉は見つからない。辞書を引くも、ただ永久ループをたどるだけの言葉。
心理学的にも、哲学的にも、愛についての講釈はさまざまである。
この物語もまた、そんな愛についての講釈を語った物語にしか過ぎない。
まず、自己紹介をしておこう。
今、どこにでもあるような民家の扉を開け、足を踏み入れる少女の腰に下げられたホルスターに入った私は、拳銃ではない。
皆が通信用小型電子端末:通称・携帯電話と呼ばれる代物だ。名前など携帯電話にあるわけが無いので、そこは割愛しよう。
「ただいま〜」
自分の家だと言うのに、律儀に挨拶してから靴を脱ぐ少女。
彼女の名は、麻生(あそう) ヒトミ。日本人特有の黒い髪をストレートに伸ばし、鋭く射抜くような三白眼が特徴的な十七歳の少女である。
顔面は泣く子も黙る、といった風体だが、性根は根本優しい(多分)女の子だ。
プロポーションについても、詳しい数値までは言えないが、同年代に比べれば頭角を現していると言っていいだろう。
そんな彼女の自室は、玄関の直ぐ脇にある階段を上った二階の一室だ。
今日は、友人を招いて勉強会をやると言っていた。そんな折、母親からの買い物を頼まれて外に出ていたわけだが。
帰ってきて直ぐにヒトミが聞いたのは、自室から聞こえてくる卑猥な嬌声であった。
『あ、あぁぁっ。だ、だめぇぇ……!』
『もうこんなに濡らして、下の方が大洪水じゃないか。本当にいけない娘だな、君は』
悶えるような少女の声と、言葉を使って淫猥に責める男の声。
「……」
冷静に沈黙を保つも、ヒトミの表情はこの世の者とは思えぬほど歪んでいた。
今更だが、あの二人を残して出掛けるべきではなかったのかもしれない。
『欲しいんだろ? 俺のがさ。なんなら、自分の口で言ってみな』
『ほ、欲しくないもん……』
『そう。でも、その強がりもいつまで持つかな。言っちゃえば、楽になれるのに』
自室の扉の前に佇み、硬直が解けずにいるヒトミ。
私でさえ、中でどんな行為が行われているかは想像のつきようも無い。
ヒトミは深呼吸をすると、覚悟を決めてドアノブに手をかける。
決意を決めるまでにも、どんどんエスカレートしてゆく室内の行為。
『どう、欲しくなった?』
『うぅぅ……。く、ください……』
『聞こえないなぁ〜。もっと、大きな声で』
『文也君のを、くだ――ッ!』
少女の意思が砕けるよりも早く、ヒトミが勢い良く扉を開けて室内に踏み込む。
「人の部屋で、お前らは何やっとんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ヒトミの怒声が麻生家に木霊する。空気が振るえ、直下型の地震でも起こったような縦揺れが麻生家を襲う。
近所迷惑極まりない。
「きゃわわわわわわ!」
怒声が何処かへ消えた後、続けて聞こえてくるのは少女の慌てる悲鳴。
「おいおい、入ってくるなり何なんだ?」
淫猥な行為を行っていたと思われる男は、冷静な声音でヒトミをたしなめる。
多分、ヒトミには目の前で行われていた行為について理解できなかっただろう。私にも分からないさ。
机の上に転がるティーカップと、少女の目の前にお菓子をちらつかせる男がいるだけの、特に変わった様子も無い部屋だ。
「……あんた達、何をやってたの?」
とりあえず、問いただして見るヒトミ。
「何って、お仕置き」
ケシャリと言い放つ男。
少女は、零れた紅茶をタオルで拭き取っている。ヒトミのお気に入りであるライトグリーンのカーペットに染みがつくのは、必至だろう。
ただ、お仕置きと言われて、納得できるほどヒトミの性格は惚けてはいない。
「お仕置きって、何のよ? まさか、高校生にはあるまじき……」
「……ぷっ。ヒトミ、お前、何を想像してたんだ? もしかして、溜まってるんじゃないのか」
ヒトミの問いに、男はしばし思考を巡らせた後、唐突に笑いを噴出す。
君の論法で行くと、私も溜まっているということか?
彼氏いない歴17年――私がヒトミの傍にいるようになったのは二年ほど前からだが、話の内容から知る限り――のヒトミなら分かるが、携帯電話の私には関係のない論法である。
それはさて置き、若い男女がこの部屋で何を行っていたのか。
「ヒトミちゃぁぁぁぁん! 文也君が苛めるよぉ〜!」
カーペットの染みを拭き切れないと悟ったのか、拭くのを諦めて少女が円らな瞳を潤ませながらヒトミにすがり付く。
「苛めるとは人聞きが悪い。人の食べ物を盗もうとする泥棒猫を、ちゃんと躾していただけだろ。ください、の一言ぐらい言えよな」
ヒトミを味方につけようとする少女に、男が反論を試みる。
話を要約するに、次のようなことがあったらしい。
勉強会というよりも、ただ単にヒトミの宿題を写しに来ただけの男の名は、鳳 文也(おおとり ふみや)という。
名前などどうでもいいわけだが、この男の容姿端麗さは男と思っている私でさえ嫉妬せずにはいられない。
どこやらの俳優みたく線が細いわけではなく、一八〇を超える身長とガッシリとした肉付き。普段は惚けたような顔をしているが、頼りになる時は頼りになる男なのだ。
勉強に関しては同年代の中でも最低に位置する上、容姿に感けた女垂らしとしても名を馳せている。
そして、文也に苛められていたと訴える少女は、小道 雪野(こみち ゆきの)。
名の通り小柄で雪のように肌が白く、肩ほどまで伸びたロールと少し潤みがちな円らな瞳を特徴とする、俗に可愛い系と言われる華奢な少女である。
ヒトミとは正反対のベクトルで男子の人気を勝ち取ってはいるものの、そういった方面には疎い。
二人の性格的に考えて、この二人を一つの部屋に押し込めるのは止すべきだ。
彼らの紹介はこれぐらいにして、本題に移るとしよう。
ヒトミが出掛けた後の室内。
勉強と言うよりも、ヒトミの宿題を写しに来ただけの文也は、小腹が空いたと称して持ち込んだお菓子をつまみ始めた。
それを見た雪野も、横から文也のお菓子を掻っ攫ってゆく。そこから、文也のお仕置きタイムが始まるのだ。
「おいおい、何か断ることはないのか?」
「ふいっ? 断るって、何か頼まれてたっけ?」
天然か、それとも確信犯か、雪野は惚けたように問い返してお菓子を口の中に詰め込む。見た目は、食い意地の張ったハムスターに近い。
文也も文也で、心が狭いことにお仕置きを実行に移す。
「なあ、ちょっと両手の親指を揃えて机の上においてくれ」
いきなりな申し出ではあるが、何も知らぬ雪野は言われた通りにする。
握った拳の親指だけをくっ付けてそろえ、机の端っこに置く。そこにすかさず、文也が紅茶の入ったティーカップをソーサーごと置くのだが。
雪野は、紅茶を零さずにティーカップをどけることが出来ず、身動きが取れない状況になる。
「金縛りって言ってな。こうすると、何も出来なくなるわけだ」
文也は皮肉めいた口調で言いながら、再びお菓子に手をつけ始める。
「そろそろ退けてよぉ〜。私もお菓子が食べたいッ!」
「その前に、ちゃんと断りを入れるべきじゃないのか? ください、ってな」
「ぶぅ〜。文也君のケチンボ……」
「ケチで結構。俺は、人に物を取られるのが嫌いでね。爪の垢だろうが、髪の毛の一本だろうが」
まあ、そんな風に売り言葉と買い言葉の応酬が続いたわけだ。
しかし、文也の爪の垢を煎じたところで大した物は得られないと思うのだが。髪の毛は、呪いをかけるために使えるので貰っておこう。
最終的には、お菓子を動けない雪野の目の前にちらつかせ、下さいと言わせようとしていたところにヒトミが返ってきた。と言うわけである。
「あんな、本当に心が狭いわね……。雪野も雪野で、一言ぐらい断ってからにしなさいよ。親しき仲にも礼儀ありって言うんだし、もう少し良識と言うものを何とかかんとか――」
話を聞き終えた後、つい流れに乗ってヒトミのお小言が始まる。
これが始まると鬱陶しいほど長いのだが、それをあっさり無視して雑談に移る二人も、相当の覚悟と度胸があると見える。
そんなことが出来るのも、小学校の頃からの付き合いだからだろうか。
「で、リューちゃんはどうしたのよ? 今日は来ないわけ?」
「文也君、二言目にはリューちゃんだね。本当に、仲がいいよね二人とも」
文也のボヤキに、ケラケラと笑いながら答える雪野。
リューちゃんというのは、今のところここへは来ていない三人の幼馴染のことだ。
正確には、宇津木 竜斗(うつぎ りゅうと)。小学生の頃から腐れ縁を続ける、切っても切れないグダグダな四人組の一人である。特に文也とは仲が良いのだが、二人の馴れ初めについてはいずれ話そう。
「来るとは言ってたけど、遅いわねリューちゃん」
ヒトミなりのノリか、可笑しなあだ名で呼ばれてしまう竜斗に同情を禁じ得ない。
「人のことを勝手にリューちゃん呼ぶな。まったく……」
噂をすれば何とやら、本人のご登場。
無造作ヘアーと漆黒の双眸。特徴、と言われて何かが思いつくでもない、極普通の極在り来たりな少年、それが宇津木 竜斗なのだ。
「おう、ヒトミ。勝手に上がらせてもらったから」
「まったくって言いたいのはこっちよ。この中には、良識のある人間はいないのか?」
先刻まで良識について講釈していたヒトミは、自分の家のように上がりこむ竜斗にため息と愚痴を返す。
他三人は、皮肉も無く素直にうなずくのであった。
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2007/06/23(Sat)20:08:02 公開 / アドミット
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■作者からのメッセージ
長編を一つ終えて、次のネタが思い浮かぶまでショートを書いて忘れられないようにするちょっとずるい作家のアドミットです。
何気にやってみたかった、と言うのもあります。それほど面白くはないと思いますが、多分シリーズ物になっていくのではないかな?と。
それでは、笑ってやってくだせぇ。青い恋の始まりでぇ〜ございやす。