- 『夏の思い出』 作者:kurai / ショート*2 未分類
-
全角8532.5文字
容量17065 bytes
原稿用紙約28.1枚
夏、それは色々な思いがあるものです。喜、怒、哀、楽、そのほかの感情。近くにも、遠くにも、様々な思いが。赤の他人の、夏への思い。それに触れてみるのも、面白いものなのでしょう。
-
『その一、単純な決意』
中学三年生の夏休み、そりゃあまさに十人十色でさまざまな思い出があると思う。涙を流した奴も、一生の思い出的なものをつくった奴もいるだろう。ただまあ、俺の場合、俺の進路を決めたきっかけになったことで一生の思い出ともいえるな。俺の夏休みの思い出はこんな感じだった。
八月中旬、田舎である俺の住んでいる町でも、やはり盆が過ぎると遊び歩くような輩はまれで、夏祭りと言う一大イベントが過ぎた後では宿題に追われる奴が多いらしい。昨日までは俺もその連中の一人だったのだが友人内での勉強会にて夏の大ボスは攻略済みだ。別に丸写しした訳じゃない、分からんとこを訊いただけだ。まあほぼ全部だったが。まあ宿題を片付けた俺は自室で暇を持て余していた。なんとまあ、去年までは忙しくて感じなかったと言うのに、なるほど宿題にはそのような効果があった訳だ、褒めてやるよ、教師諸君。そんなことを考えつつ、俺は窓の外を見た。港が見える。俺の住んでいる田舎は、それほど田舎な訳ではないはずだが都会と言うには程遠く、せっかく海に面していると言うのに砂浜は少なく観光向けではない。しかも近くに山、と言うより町自身は山にある。島のようなイメージの町だ。こんなところに気の利いた娯楽施設があるわけもなく、
「……退屈」
と言ってしまうのだ。中三の夏でこれかと思いつつ寝返りを打つと電話がかかってきた。
「もしもし?」
これでも携帯は持っているんだぜ?一応この町も圏外じゃないんでな。
『もしもし?おまえ暇か?てか暇だな?海行こう、海!』
友達の山田か、おまえは名乗らずに用件を言うのか?間違い電話だったらどうする気だ?第一何故俺の予定を知っている。
『うるせぇ、結果オーライだ。それに宿題を終わらせたおまえに予定があるわけねぇだろ』
図星だ。言い訳のしようがない。第一、俺は暇だった。
「いいぜ、行こう」
『りょーかい。よし、人数はそろった。明日行くぞ、集合場所は―――』
「オーケー、了解だ」
ふぅ、海か、夏の定番だな。幸いこの町にも貧相な砂浜くらいはあるから退屈しのぎにはなるだろう。何故今日じゃないのかと言いたいがこの際文句はない。メンバーは勉強会の面子から数人と女子何人かだそうだ。知らず知らずの内に俺はうきうきしていた。大半の理由は女子だ、わりぃかよ。
そんで、次の日。俺は集合場所の海岸沿い公園へ向かった。坂道はいいな、山万歳だ。自転車ひいて帰るときのことは忘れよう。
「お〜い、こっちだこっち」
山田である。こいつは年中元気な奴でまったく、その源は何なのかと疑問に思う。
「おはよ〜」
「うぃ〜っす」
数人の男子と女子が挨拶してきた。暇なんだな、おまえらも。
「よ〜っす、泉ぃ〜」
と一人の女子にあいさつをする俺。相手は幼馴染の泉だ。田舎でもあるからか生徒同士のつながりは強く、女子も男子もあらかた仲がいい。都会じゃ珍しいかもな。
「よし、全員そろったな、じゃあ今日の予定を発表する」
そういえば予定を聞いてなかったな、当日発表では困るぞ。俺の財布は融通が利かないからな。
「今日はまず当たり前だが海に行く、水着忘れた奴はいないな?そして夜まで遊び通して、花火大会だ」
「花火大会?聞いてないな。そこまでやるのか?」
「ああ、夏の定番はとことんやるつもりだ」
他の連中はうなずいてやがる。おい、泉、おまえはそういうキャラじゃないだろう。おとなしくて、内気な、なんかそんな感じなはずで積極性ゼロじゃないのか?おいおい相沢まで、ガリ勉キャラを貫くってこの間言ってたじゃないか。右手にもってるのは何だだと?水着さ、海なら必要だと思ってな。
「おまえも乗り気じゃねぇか」
「うるせぇ」
こうして一行は海に向かった。だいたい男子五人、女子四人ほど、男子はおいておいても女子はそこそこ可愛い娘ばかりである。今回は山田、感謝してやるよ。
こうして、海で遊んだ昼間はあっという間に過ぎた。内容なんて覚えてないな。何気なく過ごした時間を覚えてられるわけないだろう。そうして、夏としては海水浴より上位にくるイベント、花火大会だ。花火大会といっても手持ち花火を買い集めてやる程度のものだが、夜遊びと言う雰囲気が、なんとなく楽しい気分になる。で、派手なタイプの物は終わり、線香花火をしながらの談話タイムとなった。
「なあ、おまえは進路を決めているのか?」
相沢だ。おまえは進路決めてるんだろうな。
「いや、さっぱりだ、いまさらだがな。その辺の高校にくじ引きでもして適当に入るさ」
「おまえらしいな」
だろ?面倒がりなんだ俺は。なんだろな、後ろに視線を感じたが気のせいだろう、ここらに幽霊が出るとは聞かないしな。
翌日、昼ごろまで寝ていた俺は携帯の着信音によって起こされた。ああ、昨日の記憶はほとんど消えちまったな。
「はい、もしもし」
『もしもし、泉です』
なんと、泉からか、にわかに信じがたいな。
『あの、相談したいことがあるんです……』
そんな言葉遣いをするとは、何事だ。くそ、おとなしかったからキャラ思い出せねぇ。
「はい、なんでしょう」
『あの……、電話ではちょっと……、昨日の公園に来てくれますか?』
もちろんですとも。そういうやいなや、俺はすっ飛んでいったね。幼馴染の女子からの頼みだ、断る理由もないだろう。泉も結構可愛いしな。
「来てくれて、ありがとうございます」
俺は急いできたと言うのに、泉はすでに着いていた。
「いや、で、相談って?」
電話より軽い口調で答える。この方が話しやすいだろうと言う俺の配慮だ。
「あの、私――」
――好きです。そういうかと思った。分かってるよ、悪い妄想だ。
「――高校、都会の方に進学しようか、と思ってるんです」
高校?俺に聞くか?ミスマッチだ。そういうのは相沢に聞け。と言いたかったが、俺は黙って聞いていた。
「私は、医者になりたいんです。でもこの辺りの高校じゃ難しくて、それで、東京の方とかに行こうかと……」
なるほど、まっとうな理由だ。それにしても医者か、難しいと聞いたぞ?詳しくは知らんが。
「へぇ、そうなんだ」
「でも、怖いんです」
「怖い?なにが?」
「みんなと離れるのが」
そういった泉の目は、君と離れるのが、と言ってるようだった。そして、あながちはずれていなかった。
「それに、あなたが好きだから」
やはり、そういう空気だったもんな。
「だから、迷ってるんです」
この時、可愛いと思ってしまった。とても可愛いと。だから口走ったのだ。
「なら、俺も行くよ、その高校に」
「えっ?」
泉は少しきょとんとして、笑った。それだけだった。
そして今、驚きだよな、半年間死に物狂いで勉強したら、同じ高校に入れちまった。言っとくが相当努力したぞ。と、まあこんな訳だ、俺の夏は。こんな告白で医学系に進学できるってんで驚きだな、本当に。さて、こんなところだよ。他の奴の夏はどうなんだろうな。
――――ENDLESS SUMMER―――――
『そのニ、あなたと過ごせた夏』
私の思い出は、高校二年生の夏休みで、今から一年前のことです。あのころから、状況は変わることができたけど将来に直接関係するようなものじゃあありませんでした。 夏休み、ちょうどお盆でその日は夏祭りの日でした。私は友達と一緒にいくことになったんです。
「今日祭りの日だよね?」
そう聞いてきたのは友達の木更さんでした。
「たしか、そうだったよ」
「だよねぇ〜、よし、一緒に行こっ。他にも何人か集めておくから」
「分かった、じゃあ今夜にね」
学校の教室、そこに居た生徒全員がそのお祭りの話をしていました。木更さんに言われたからいくことにしたけど、その時、一緒にいきたい人はいたんですよね……。
そして、夕方になりました。私は浴衣で家を出ました。河川敷を歩いていると、やっぱり人通りが多い気がしました。
「やっほ〜、こっちこっち〜」
神社に着いたら木更さんが大声で呼んできました。他にもクラスの女子が数人、一緒に待っていました。
「じゃ、行こっか」
私が最後だったらしくて、私が来てすぐに出店の立ち並ぶ通りに向かいました。神社の規模は大きくて、はぐれたら大変だな、と私は感じていました。
「ん?おうっ、木更か」
出店の道の人ごみの中、私たちに声をかけてきた団体がいました。同じ高校の男子グループです。
「よっす、大田、なにしてんの?」
この男子グループの大田さんと木更さんは何だったかは忘れたけど同じ部活でお互いに中が良かったんです。そして、仲が良いので、と探してみると案の定、彼はそこにいました。私の好きな人、佐藤くん。
「おしっ、みんな行くぞ」
そう言って大田さんは歩き出しました。佐藤くんと一緒に回りたかったな、そう思っていたら。木更さんも後をついて歩いていったんです。本当に驚きました。その時、木更さんと大田さんは打ち合わせをしていたかのように、違和感なく行動していました。
そうして、男子女子混合グループのリーダー二人は出店にも目をくれず、神社の裏にある森に向かいました。みなさんにも察しがつくかもしれませんが、そこでお化け屋敷を開いた人たちがいました。彼らは毎年、裏の森を使って肝試しを開いていたんです。ここで、メンバーの全員が、今回の目的を察しました。
「じゃ、これから肝試しをするよ〜」
「くじはこちらで用意してある。男女二人のペアを作る。順番に引いてくれ」
「それと、あたし達は決定だから、他、よろしく〜」
そういって木更さんと大田さんはみんなにくじを配りました。二人が付き合っていると言ううわさがあったのですが、本当のようでした。そしてペアは、偶然でしょうか、佐藤くんだったんです。木更さんがニヤニヤしていたのでわざとかもしれませんが。
「ルールは簡単。このお化け屋敷を楽しんで、ここに戻ってくること。時間がもったいないから戻ってこなくても置いてくよ。じゃあ、スタート!!」
こうして、肝試しは始まりました。最初に木更さんと大田さん、そうして次のペア、私たちのペアは最後でした。
「えっと〜。よ、よろしく」
そういって、佐藤くんは笑いかけてきました。
「っこ、こちらこそっ、よ、よろしく、お願いします」
その時私は緊張してまともに喋れなかったんですよね、情けない……。
そして、私たちの番が来ました。
「う〜ん、雰囲気あるなぁ」
「……怖い………」
森の中は暗くて、お化けとか関係無しに怖い空間でした。
「大丈夫?」
「は……い………」
本当に怖かったんです。でも佐藤くんがそばにいるって、そう思っただけで少し楽になりました。私って現金な人ですか?
「結構怖いね、あれ?あれは……」
佐藤くん、笑いながら言っても怖くなさそうです……。って、そうではなく、佐藤くんが気づいたものとは。現実逃避したくなるほどのものですよ。
「火の……玉?」
火の玉でした。それがこちらに向かってくるではありませんか。私は佐藤くんの手を引いて無我夢中で走り出しました。
「あっはっは、よく出来てるなわっ」
どこを走ったのか覚えていません。他のお客さんの悲鳴と、佐藤くんの驚く声を背中に聞きながら明かりが見える方へ走りました。そして、出店の通りにたどり着きました。
「はあ、はあ、…………ふぅ」
「どうしたの?いきなり、作り物に決まってるじゃないか」
「……………………」
そのとき、たぶん私は泣いていました。だからか佐藤くんは少し戸惑って。
「……一緒に見てまわろうか」
そういってくれました。
その後は、本当に楽しかったです。金魚すくいをして綿菓子を食べて、いろんな出店をまわりました。ふっと、佐藤くんが時計を確認して言いました。
「そろそろ花火の時間か、少し移動しよう」
そう言って、彼は穴場に案内する、といって歩き出しました。今度は彼が、私の手を引いて。
彼が案内してくれた穴場、それは神社の、屋根の上でした。
「ここは一昨年見つけたんだ。裏手の倉庫ではしごを見つけてね。以来、僕はいつもここで花火を見てる」
確かに、花火の見える空は開けて見えていたし、なにより下の人々の声が、私たちだけの世界にいるような気分にしてくれていました。
「っと、時間だ」
一輪の花火が、夜空に咲きました。続いて数輪、巨大な、色とりどりの花が。
「きれい……」
ふと、言葉が漏れてしまいました。それを聞いた佐藤くんは、笑って。
「でしょ?この眺めは年に一度、僕たちだけしか見ることは出来ない……」
僕たち、と確かに彼は言っていました。
「……来年も見よう、一緒に。また、ここで」
彼は笑ってそういいました。
それから一年、また、花火を見に行きます。まだ好きとは言えないけど、いまが幸せだから。いま、ここに私があることを感謝しています。木更さんに、大田さんに、全ての友達に、そして佐藤くんに。今はまだ怖いけど、いつか思いを伝えるために。
――――ENDLESS SUMMER―――――
『その三、真夏のバカ騒ぎ』
夏休み、俺の夏休みは何も無かったというのが正しいだろう。特に何の変哲も無い、高一の普通の夏休み。バカ丸出しで遊びまくった夏休みだ。
「夏だ〜!!」
俺の隣でバカみたいに叫んでるのは、友達の笹川。俺と同じ、バカ。
「夏だ〜!!」
釣られて叫んだのは、もう一人の友達、田中。頭は良かったはずなんだがなこいつ。
「あ〜うるせぇ。ただでさえ暑いってのに暑苦しい奴らだな」
八月中旬、それまで一緒にバカ騒ぎしていた俺に言えたもんじゃねえがな。
「うるせぇだと?うるせぇ!いいか?今は夏だ、サマーなんだ」
「だからどうした」
「はじけないでどうする?」
「そうだよ、もしかしてスタミナ切れ?」
「クソ暑い中、お前と同じテンションでいろって言うのか笹川。だいたい田中、お前にスタミナで負けるわけねぇ」
「じゃあどうしたのさ?」
どうしただと?この状況を見れば誰にだって分かるさ。
「暑いんなら、そうらっ」
俺は人ごみでごちゃごちゃしているプールに落とされた。そう、俺達はプールに居る。
「ぶはっ、なにしやがんだっ」
「ははっ、今は夏だ。あそばにゃ損損」
そう言って笑っていられるのも、こいつらだからであろう。なにせ俺達は男三人でこの市民プールに来ているのだ。これほどに悲しい事があるだろうか。
「ふう、しかしプールも飽きてきたな。夏の定番過ぎたか?」
そりゃあこんなプールに五日連続で通って飽きないのは笹川、お前くらいさ。もう六日目を迎えているしな。
「まあでもさ、今日はお祭もあるしさ」
そう言って田中は笑ってやがる。
「まあそうだな。それまで遊び倒してやるさ」
はぁ、今年も男三人で祭へ行く事が決定しやがった。チクショウ、もう高一だぞ。神社で女子に会えればいいが、ブスは却下でな。
そんなこんなで、神社。なんだかんだ来てしまう俺はそんなに人が良いのかと思うが、まあいいか。
「よ〜っす、遅いじゃねぇか」
「うるさい、お前が早すぎるんだ」
そこに居たのは笹川だけだった。そりゃあまだ四時半、こんな時間に来るのはガキかバカか、あとは予定をきっちり組んでいるような野郎だけだろうさ。こいつはバカだな。
「田中は後で合流することになってるから、出店でも回るか」
……おいおい、男二人かよ。
それで、六時ごろまで二人で出店を回った。ブスですら見かけないのは俺の運が悪いのだろう。神様なんざクソ食らえ。
「むう、そろそろ財布も底をついてきたな」
それはそうだろう笹川。射的だけでも十数回に上るからな。一個もゲットできなかったのは同情に値するかもしれんが、俺はあえてしないでおく。
「お〜い」
タイミングが良いのか悪いのか、田中がきやがった。
「おっ、良い時に来たな。金貸してくれ」
ほれ見ろ。まあ被害者が俺じゃなくなった事は感謝しておくが。
「え〜またぁ?僕だってもうほとんどお金ないよ?」
「なにぃ?お前、どこでそんなに使ってやがった?」
「う〜ん?さっきまで彼女と回ってたからね」
「はぁ?」
田中、死刑確定な。笹川、意地でも全部しぼりとれ。
「……いまいくら残ってる?」
「えっ?五百円だけど……?」
「全部もらったぁ!」
そう言って笹川は田中の財布を強奪した。ナイス。……、その後その全てを射的で使い切った笹川はいまだ全開のテンションで言い放った。
「よし、財布も空になったし。そうだなぁ、明日は海行くぞ」
俺は耳を疑う事も忘れたね。それで、もう吹っ切れてた。一日ぼ〜っとこいつら見てたら、俺らまで感染しちまったようだ。
「オーケー、行こうか」
今は夏だ。楽しまにゃ損損。男三人で負け組みとか言うなよ。バカやってりゃあだいだいの事は忘れられる。宿題?忘れてたよ。
――――ENDLESS SUMMER―――――
『一人きりの夏』
夏、夏、夏。どいつもこいつも浮かれる季節だ。友達、恋人、その他もろもろの人間。そんな奴らと笑い合って楽しく過ごすのが夏だ。じゃあ、そんな人間がいない場合はどうなるか、そりゃあ学生でも悲惨なもんだったよ。
八月三十一日、夏休みも終わりが近く、この時期は数々の思い出を脳裏に焼き付けつつその思い出を作った友達と宿題の大掃除、もしくは諦めて遊び倒す奴が多いだろう。だが、友達のいない俺には関係のない事だ。
「……はぁ〜」
今はまだ午前十時。まあそこそこの暑さである。そんな時、一人で自室にこもり、苦しまぎれの風鈴を眺めていたらため息が出た。宿題なんて退屈しのぎにやっていたら七月に終わってしまっている。つまり、何もやる事がないのだ。
「…………」
そして俺は無言で自分の折りたたみ式の携帯を見つめる。一応、何人かのクラスメイトに携帯番号は教えてあるのだが今まで一度もかかってきた事はない。着信ナシだ。それでも携帯を見てしまうのは、多分誰かからかかってこないかと言う無意識の内に起きた期待だろう。
「スイカ切ったけど、食べる?」
ぼ〜っとしていた俺に、母親が言ってきた。ノックも無しに部屋に入ってくるのは驚くべき事なのだろうが家にそんな法律はない。無論、習慣も無いのだから俺もなんとも思わず。
「食べる」
と返せるのだ。……俺は今高校一年生なので、友達が少ないのも仕方ないと母も最初は思っていたらしいのだが、流石に一学期が終わってもいないとなると心配しだした。だが無言で返している内に母も諦めたようで、今では何も言ってこない。
「…………」
庭先に出て、俺はスイカを無言で食べていた。ただ無心だった訳ではない。一応考えていた事がある。それは、何故俺に友達がいないのかだ。考えてみても、およそ普通の理由は俺に当てはまらない。まず、いじめられてもいない。そして、調子にのってしゃしゃり出る事もない。ある程度の付き合いはもってきたはずだった。実際、クラスでそれほど浮いている事もないし、話す奴はいる。友達だったと思っていた奴も。だが、この夏、そいつらからも連絡が無いのは俺の気のせいだったからであろう。
「ぐへぇっ。た、種が……」
妙な考え事をしていたら、種が喉につまった。俺はなんとか吐き出して、息をつくように天を仰いだ。晴天である。透き通るほどに青い。それが俺には、お前は一人で何がしたい、と言われているようで腹が立ってくる。
「ちぃっ」
全てが嫌になった。空に馬鹿にされているような気がして、俺は逃げるように自室へ戻った。母は無言である。俺は見放されているらしい。俺には誰ともつながりが無いのか、そう思って、携帯を手にとってみる。使う事がないので、まだ真新しく見えた。そこで、なんとなくその携帯を開いてみると、俺をとてつもなく驚く事になった。
「……これは」
電源が切れていたのだ。まったく、馬鹿らしい。俺は充電器につなぎ、電源をつけると、そこには数十件のメール、数件の留守番の伝言が残されていた。俺はこの夏、始めてほっとできた。だが悲しい事件が起こる。
「……あれ?……ちょっ、……おいっ」
制限が切れたのだ。携帯は一定以上使うと使えなくなる、そんなシステムがあるらしいのだが、俺にはよく分からなかった。ただ、謝罪のメールを送ろうとしても送れないのだ。つまり、それであると言う事になる。そこで俺はきめた。新学期、面と向かって謝ろうと。
そして新学期。謝った連中には軽く小突かれたが、笑い会うことができた。奴らは、笑って許してくれた。その時俺は、すごく嬉しかった。人とのつながりを実感できたことが。人と関わる事の無かった夏休みは苦痛であった。だが俺はここに居ると実感できる。一人は辛い。俺が夏に学べたのはそれさ。にしても携帯って、使わなくても電池無くなるのには驚いたなぁ〜。
――――ENDLESS SUMMER―――――
-
2007/07/08(Sun)17:45:34 公開 / kurai
■この作品の著作権はkuraiさんにあります。無断転載は禁止です。
-
■作者からのメッセージ
更新しました。
今回は背景についても気をつけたつもりですが、私の力量では不安が残ります。
いかがなものでしょう?感想お待ちしてます。