緋色の弾丸｜オリジナル小説投稿掲示板『登竜門』

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『緋色の弾丸』作者：白姫 / 未分類未分類: 全角1900.5文字
容量3801 bytes
原稿用紙約6.2枚
　序

　クエロ街の外れ、灰色の廃墟ビルの建ち並ぶそこに"彼"は居た、麻薬レートで成り上がった愚かな男に銃口を向けながら。男は、でっぷりと太った身体に、恐らく金のつまっているであろうアタッシュケースを抱きしめて小刻みに震えている。
「やぁ、ランドックさん。はじめまして」
　未だ銃口を男のこめかみに突きつけている"彼"は、この軽い台詞とは裏腹に流れるような黒髪の間から絶対零度の視線を送りながらそう言った。
「僕はある人に頼まれてね。ちょっと聴きたい事があるんだけど」
　言葉を続けながら、"彼"はその漆黒の外套に映える銀色のリボルバー型の銃身をわずかに起こし、撃鉄を上げた。
「な…ななんだ、お前は！　こんな事をしてただで済むと…」
　一発の銃声がとどろくと、太った男は肩を押さえて蹲った。口から銃創の激痛を吐きながら。後生大事に抱えていたアタッシュケースの中身は見事にぶちまけられ、金銀の通貨が"彼"の足下にばらまかれる。
「僕は無駄な事は嫌いでね。さっさと質問に答えないと、腹から糞垂れ流すことになるけど」
　男はビクッと身を堅くした。
「あんた…一体何が目的なんだ」
「あんたの元居た組織のお偉いさんが金を返して欲しいんだとさ、あんたの首つきで。生きてたら尚良し」
　"彼"は契約内容を男の前で晒した。みるみる男の顔が青ざめていくのは、銃創の失血だけでは無いだろう。今度はがたがたと震え始めている。マフィアに捕まった者の哀れな末路を知っているのだろう。
　絶対零度の目線は変わらず、"彼"はリボルバーの回転式弾倉を取り出し弾丸を入れた。その銃弾は燃えるような緋色だった。
　男の恐怖に青ざめていた顔が彼の銃に入る弾丸を見て更に強張る。
「おま…おま…おまえ、まさか『魔弾の射手』なのか！」
　『魔弾の射手』はすっと目を細めた。
「な、なぁ『魔弾の射手』よ、こっちに付かないか。金はいくらでも出す、どうだ？」
　血で汚れた顔を引きつった笑顔で繕いながら話す男は、愚かすぎて滑稽だった。
　『魔弾の射手』は撃鉄を上げ、銃口を男に向けた。
「あんたと喋るより、豚の糞を眺めてたほうがよっぽど楽しそうだね」
　言い放ち、彼はトリガーを引いた。
　ガォン!　という銃声と共に男はどさり、と倒れた。
　『魔弾の射手』は足下を見た。彼の足下には眩しい金銀貨が零れていた。
「金は拾わせるべきだったな。手を縛る前に」
　転がっている男の手には、『魔弾の射手』が呪導弾を発射と同時に生成した鉄鋼系呪導式で紡ぎ出した鋼線が絡まっていた。
　当の本人は、夢の中で天国に行っているのだろう。いや、地獄か？
　『魔弾の射手』は一つため息をつき、硬貨をアタッシュケースに入れ直す。すると彼は、さっと辺りを見回し金色の１万J硬貨をポケットに滑り込ませた。
　もう一度辺りを見回す。よし、誰も見ていない。
「誰も見ていない、じゃない」
　ゴッと『魔弾の射手』の頭に鉄拳が落ちる。彼は思わず頭を押さえてうめき声をあげた。
　うめき声を上げている彼の後には、身の丈ほどの槍斧を背負った男が立っている。銀髪を後で束ね、あきれたような視線を送る茶色の切れ長の目には眼鏡が掛かっていた。
「ほら、ポケットに入れた物を出しなさい。シャールック」
　ようやく鉄拳の痛みが回復してきたシャールックは、ポケットからアルミ製の１J硬貨を取り出して差し出している彼の手に乗せた。
　更に男の口元が引きつる。
「ほ、本当だ、クラウス。嘘なんてついていない」
　こちらも負けず劣らず口元は引きつっていた。二人の間に沈黙の稲妻が走る。
　はぁ、とため息をついて折れたのはシャールックの方だった。ポケットに手を入れ、先ほどポケットに入れた金貨をクラウスに返す。
　散らばった金貨を拾い終えたシャールックは、外套の中から携帯受像器を取り出してスイッチを入れる。
　すると、受像器の真ん中にある立体投影機から金髪碧眼の女性が浮かび上がる。混血を示すとがった耳にはこの街を統括するマフィア『エルグランド商会』の幹部で有る事を示す真っ赤なルビーをあしらったイアリングがぶら下がっている。
「エリダナか？　シャールックだ。ターゲットを捕獲、そして金は取り戻した。場所は例の廃墟にある」
　エリダナはルージュをひいた唇の端を少し上げて微笑を作った。
「流石、何でも事務所さん。仕事が速くて助かるわ」
　ピクッとシャールックの眉がけいれんする。
「報酬は事務所の口座に頼む。今後も『なんでも事務所』をよろしくどうぞ」
　嫌味と共に受信機の電源を落とす。
　

続く。。。; 2007/06/17(Sun)16:58:15 公開 / 白姫
■この作品の著作権は白姫さんにあります。無断転載は禁止です。; ■作者からのメッセージ
　初投稿です。拙い点も多いかと思われますが、読んで頂けたら幸いです。

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