- 『めろんぱん』 作者:くーろこ / ファンタジー 童話
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全角1926文字
容量3852 bytes
原稿用紙約6.65枚
少年は、妹の一言がきっかけでメロンパンを買いに出かけた。最高のメロンパンを作る町「ギルモア」メロンパンに関しては尋常でなくなる少年は、その場所でメロンパンを探し続ける。ちょっと不思議な、ファンタジー系童話のお話です。
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「メロンパンがたべたい」
妹のその一言で僕はギルモアに向った。
何せギルモアはメロンパンではトップを争うほど、メロンパンをふんわり、さくっと、しっとり作り上げる技術に長けていたからだ。
それに僕の全財産では、せいぜい二駅離れた場所までしかたどり着けない。
よってギルモアは僕の住む町から二駅先にあった。
「これも全部メロンパンの為なんだ」
僕は途中、何度も自分にそう言い聞かせた。
妹ほどではないが、僕もメロンパンに関して言えばちょっと尋常じゃいられなくなる性質なのだ。
それは猟犬が、鳥を見ると思わず追いかけてしまいたくなる衝動と似ている。
遺伝子的先天性の衝動。
僕は人気のない電車からギルモアに降りた。
途端、僕の鼻の中にメロンパンの匂いがぶわっと舞い込んできた。
僕は息を呑んだ。一瞬で頭はメロンパンで一杯になってしまった。
「これも全部、メロンパンの為のメロンパンなんだ」
僕は意識を保つように首を振った。
そして切符を取り出して、改札口から外へでた。
改札口にある、すべての物からメロンパンの匂いがした。
僕は少し虚ろな状態でなんとか街中を歩いて、メロンパンを売っているお店を探した。
だけど、どこのお店に入ってもメロンパンは影も形もなくしていた。
「ごめんなさいねぇ、売り切れちゃったの。少し前まではあったんだけど……ごめんなさいねぇ」
七軒目に入ったお店の、体格のいい女性が、対して申し訳無さそうに言った。
僕はその後も挫けずにメロンパンを探し回った。
でもメロンパンはどこへいっても売りきれてしまっていた。それはまるで、あまりにも数が多すぎて、捕獲しつくされ、絶滅してしまった動物のようだった。
「これもメロンパン、メロンパンのメロンパン」
僕はメロンパンには尋常でいられなくなるのだ。
僕は五十軒目(歩くたびにメロンパンを売っているお店がある)にしてようやく、
「めろんぱん? おう、少年、運がいいね。丁度一つだけ残ってるんだよ。ちょっと待ってくれ、今持ってくるから」
と骸骨のようにやせ細った男が、カウンターの奥から、骨壷を抱えるように慎重な足取りで、丸々と大きい、どう見ても果物のメロンを持ってきた。
「ほら、めろんぱん」
男はそっと、カウンターの上にそれを置いた。
僕はそのめろんぱんと呼ばれた物をジッと凝視した。
なんでメロンパンを頼んだのに本物のメロンがでてくるのだ?
もしかしたらこれは新種のメロンパンかもしれない。
「材料は何をつかってます?」
と僕は言った。
男は待ってましたと自信満々に、
「百パーセント、めろんしか使ってないよ」
何か違和感を感じた。
「それってこれが果物のメロンって事ですよね?」
男はとても心外といった感じで、
「そんな事はない。これは正真正銘のめろんぱんだ」
僕はますます訳が分からなくなった。
「そうそう、一つ言い忘れていた。めろんは直接中に詰まってる」
僕は驚いた。多分それが顔に出ていたのだろう。
男は勝ち誇ったように、
「このめろんぱんは、他のどこよりも美味しいぞ。どうだい、一つ銅貨三枚だよ」
僕は間髪いれずに、
「買います」と銅貨三枚を男に差し出した。
僕はめろんぱんの入った紙箱を玄関に置いて、
「メロンパン。じゃなかった……ただいま」
僕の頭からはまだメロンパンが抜け切れていないみたいだった。
「おかえりなさい。わあ、これメロンパン?」
と妹が居間から出てきた。
「うん」
妹はまるで恋する少女のように憂いた溜息をついて、紙箱を見つめた。
僕は靴を脱ぎ終えると、箱を持って居間へと向った。
そして、丸いテーブルの上にそれを置き、台所から、刃が少し太めのキッチンナイフを持ってきた。
「何に使うの?」
妹は不思議そうにキッチンナイフを眺める。
僕は肩をすくめながら、
「だって切り分けるのに使うじゃないか」
妹は少し納得がいかないように、
「ふうん」と答えた。
僕は紙箱を縛っている、赤いリボンをとり(男が結んでくれた)、蓋をあけて中身をテーブルの上に取り出した。
数秒の沈黙。
「なに、これ」
妹はまるで壁の文字を読取るように言った。
「ほら、めろんぱん」と僕は言った。
「兄さん。これのどこがメロンパンなの?」
妹はとても困惑した声で言った。
僕はキッチンナイフを片手に握り締めると、
「まあ、見ててよ」
めろんぱんに何度も振り下ろした。
「あ……」
僕は唖然とする妹に、
「だから言っただろう?」 と言った。
二つに割れためろんぱんから、緑色の七色に輝く宝石があふれだしていた。
それはめろんと呼ばれる、ギルモアのもう一つの特産品だった。
僕だってメロンパンの事では尋常でなくなるけど、メロンとめろんの発音の違いにくらい気がつくのだ。
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■作者からのメッセージ
どうも、作者のくーろこです。
この作品は、「メロンパンを食べたい」というフレーズが最初に浮かび、そこから話を作っていった代物なので、ちょっと話がまとまってるか自信がありません。
最初は童話のイメージは全然なかったのですが、書き終わってブログに掲載してみて、「童話の匂いが漂う」とご感想をいただき、改めて自分で読み直してみると、なるほど童話っぽい。
もしかすると、書いている時にちゃんとしたイメージができていなかったからかもしれません。
まあ、そんなつたない作品なのですが、最後までお読みいただ読者の方々にはお礼を申し上げます。
どうも本当にありがとうございました。