- 『ビーム部、最強の男と僕』 作者:小氏 / 未分類 未分類
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原稿用紙約10.6枚
大桜学園体育会最強の部『ビーム部』。この春、僕はそこに入部した。
大桜学園の校舎は、高等部、中等部ともに巨大だ。したがって、その屋上もバカでかい。下手したらそこいらの学校の屋上より広いんじゃないだろうか。高い柵で囲まれていて、昼休みにもなれば球技にいそしむ生徒たちでにぎわい、眺めがいいため放課後はカップルだらけになる。
そんな学校の名スポットでもある屋上が、ビーム部の部室なのであった。
「おい、カズ! 遅えぞコラァー!」
「遅えぞコラァー!」
春のうららかな昼下がり、それを楽しむ余裕は僕にはない。先輩達が腹を空かせて待っているのだ。
「す、すいません……購買が混んでたもんで……」
そんな言い訳は聞かず、部長の殺陣内(たてうち)先輩が僕の腕からパンとパックの飲み物をひったくる。
「カズ! テメーこれタコヤキパンじゃねーか!」
「じゃねーか!」
殺陣内先輩は制服がブレザーがであるこの学校において、なぜか一人だけ学ランを着ている。応援団すら普段から着ているわけではないというのに、なぜか。そしてそれは岩のようにイカツイ体、鉄下駄、バカデカイ態度とあいまって、昔のバンカラを彷彿とさせる……ってかそのまんまだ。
「カズ! オレが買ってこいっつったのはフライドポテトパンだろーが!」
「だろーが!」
ちなみにさっきから殺陣内先輩の語尾だけ繰り返しているこのチビは、副部長の下柱(げばしら)先輩。殺陣内先輩の腰巾着。金魚のフン。チビで非力で、ずる賢さすらないクズ。一応先輩だけど、僕はこいつを金魚のフンほども敬ってはいない。
「カズ、テメー! 聞いてんのかコラー!」
「コラー!」
殺陣内先輩の拳が僕のアゴを正確にとらえる。必殺・『逆雷我天砲』〈さからいがってんほう〉。殺陣内先輩の技、『四閃六砲』の一つ。この技を受けた者は、例外なくその身と意識を吹き飛ばされる……。
中等部の三年間、僕はイジメられていた。イジメの理由なんて、大抵はあってないようなもの。その理不尽さがイジメの厄介なところでもあるのだが、僕の場合ははっきりしていた。僕は優秀すぎたのだ。
大桜学園には特進クラスがあり、その学力は全国でもトップクラスを誇る。僕はそのナンバーワンだった。
イジメのリーダーは、小学生時代に親しかった友人、テツ。
彼と僕は六年間同じクラスで、同じ塾に通っていた。彼はズバ抜けて優秀で、学校はもちろん、塾のテストでも他の追随を許さなかった。彼は多少嫌味なところがあり、周りからはあまり良く思われていなかった。でも僕は、それが圧倒的な努力量に裏打ちされた自信から来るものだということを知っていた。そう、彼は完全な努力型で、僕はその異常なまでの頑張りを知っていた。ズボラな僕とは違い、目標を持って前向きに努力しつづける彼に、僕は惹かれていた。彼も、ひょっとしたら僕のことを弟のように思っていたのかもしれない。当時そんなに優秀ではなかった僕を何かと気にかけ、助けてくれた。
そんな彼の助けもあって、僕は大桜の特進クラスに入ることができた。それが何よりの不幸だった。
大桜に入ってからすぐに、僕は覚醒した。何がキッカケだったのかはわからない。突然、なにかがガチッとはまったかのように、未完成だった思考回路が突如完成したかのように、頭の中がクリアになった。霞がはれるようでもあった。それが嬉しくて、僕はそれまでよりかなり本気で「努力」をするようになった。いつの間にか、テツは僕の相手ではなくなっていた。
それからはもう言うまでもないかもしれない。僕の急成長に嫉妬し怒ったテツは他の生徒たちと団結し、最初は陰湿に、やがて目に見える形でも、僕にいやがらせをし始めた。
でも僕はそれでも勉強を止めなかった。天性の負けず嫌い。かつて仲が良かったころ、テツは言った。「お前の長所といえば、その根性くらいだな。努力の才能があるんじゃないか」と。そのとき僕は嬉しかった。一つでもテツに認められたのだ、と。だがそれがまずかった。全く動じない僕に対し、テツは露骨な暴力もふるうようになった。
「カズ! その負けず嫌いが、あだになったな!」
テツはそう言って、その日も仲間とともに校舎裏で、無抵抗の僕を殴り続けた。
「お前が、大人しく、してれば! 俺だって、こんなことせずに、済んだのに! この!」
気のせいだろうか……僕には、その声が泣いているように聞こえた。もしかしたら、テツだってホントはこんなことしたくないのかもしれない。ただ、引っ込みがつかなくなってしまっただけなのかも……僕の頭をそんな考えがよぎったとき、『ガラン』という、いやに重たい音が聞こえた。
「おうテメーら! なにしてやがる!」
「やがる!」
僕を含め全員、声の方を見る。そこにはやたらデカイ男と、その男にコバンザメのごとくはりついているチビがいた。
「なんだアンタ、関係な……」
テツが答え終わる前に、デカイ男の拳がテツの鼻をへし折り、その体を後方に五メートルほど吹き飛ばした。後からわかったことだが、その技は『弩天壊鳴砲』〈どてんかいめいほう〉というらしい。
「な、なんだコイツ……」
他の連中は、逃げる間も、悲鳴を上げる間もなくその男の餌食となった。
「俺はアンタでもコイツでもない! 大桜学園体育会最強の、ビーム部主将! 殺陣内吾郎だあぁー!」
「おう、少年、イジメられてたのか」
「たのか」
「……ええ」
「強くなりたいか?」
「たいか?」
「……」
「俺と来るか?」
「来るか?」
「あの……」
「なんだ?」
「だ?」
「ビーム部、でしたっけ」
「おうよ」
「よ」
「頭、大丈夫ですか?」
それは中等部の卒業式のあとのできごとだった。ああ……そうだ、結局あのあとボコボコにされたあげく、僕はパシリとして無理やり入部させられたのだ……。
今は? 今の僕は……そうだ、フライドポテトパンと間違えてタコヤキパンを買ってきてしまい、またしばかれたのだ……。ああ、なんだか夕日が眩しいや。いったい僕は何時間ノビていたんだ?僕はアゴをさすりながらゆっくり上体を起こす。周りのカップルは僕を横目に見て笑っている。
「わらってんじゃねぇ!」
あれ? 殺陣内先輩がいる……。今にもカップルたちに襲いかからんとしているぞ。と、けが人がでないうちに……。
「殺陣内先輩? なにしてるんですかこんなとこで」
「お? おう、起きたか。お前がなかなか起きんからな、ずっと待っとったんだ」
ああ、いい人なんだよな。ほんとは。ただ、怒りの表現がストレート過ぎるだけで。
「下柱先輩は?」
「リベンジマッチだそうだ」
そういえばなぜあの時、当時高等部の先輩方が中等部の校舎裏にいたのか。下柱先輩は、ある同級生に告白しようと、あの場所に呼び出していたらしい。確か、森野イズミ先輩だったっけ? とても人気のある人だ。殺陣内先輩は、子分の一世一代の勝負が心配で、付き添いに来ていたとのこと。そこで偶然、イジメられていた僕を見つけたんだとか。ちなみに下柱先輩は玉砕したらしい。更にちなみに言うと、告白内容は「俺に毎朝味噌汁をつくってくれないか?」だったそうな。プロポーズかってーの。
「ねえ先輩」
「なんだ?」
「なんでビーム部なんですか?」
「簡単なことだ。ビームを出さないやつより、出すやつのほうが強いだろう?」
いや、そんなこと疑問形にされたって……。
「じゃあ、体育会最強の部っていうのは? もしかして、他の体育会の部活全部と戦ったんですか?」
「おう、俺がな」
「……先輩が最強だからってことですか?」
「おう」
ヒクソン=グレイシーが最強なら、グレイシー柔術こそが最強の武術だ。という類の発想だろうか。
「夕日、きれいですね」
「おう」
本当にきれいな夕日だった。
そういえば僕は、いまだに彼らがビームを放ったところを見たことがない。
「先輩、いつかビームを出してるところ、見せてくださいね」
「出るかそんなもん」
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2007/06/09(Sat)21:38:41 公開 / 小氏
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■作者からのメッセージ
一人称形式は初めてなので、なにかと問題点はあるかと思います。ご指導よろしくお願いします。
ジャンルはお笑いとなっていますが、それほどのネタの量ではないかもしれません。