- 『黒銀のアリーセ』 作者:春一 / ショート*2 ファンタジー
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原稿用紙約23.6枚
六人目を殺し終えた、その時。
ぱん、という軽く乾いた音がして、俺は己の身体がくの字に折れ崩れていくのを感じていた。
正面の暗がり、部屋の細い出入り口で銃火が瞬くのと、その音が響くのと、全身から力が抜け始めるのは同時だった。
腹を撃たれたのだ――と認識する前、痛みの現れる寸前に身体を動かす。太い柱の影に身を潜めようとした時、凶暴な光に照らされて闇に浮かび上がっていた、憎しみだけをその貌に浮かべた男と、刹那だけ目があった。
鏡を見ているような気がした。
尚も何発か銃声がして、俺の背後の木製の柱の数箇所が細かく千切れ飛び、兆弾してその辺りに転がった二人の屍骸に当たり、ぶちゃりと音がした。その肥えた腹を突き破ったようだ。
この部屋のランプはとうに俺がぶち壊していて、周りの状況を細かく視認することは出来なかった。照らし出すものは、明るいように見えて頼りなさ過ぎる月しか無い。
そして銃声が止み――静寂。男達のすえた体臭や生活臭を楽に塗りつぶす、血液と、硝煙の匂いがひどく鼻についた。
男は無茶苦茶に撃っていたらしく、かちかちと数度、引き金を引く音だけがした。
そこで、火を放たれたように腹が熱くなってきた。――銃創の痛みが、ようやく神経を犯してきたのだった。俺は声なき声を上げて呻いた。背後、柱の向こうの男はそれに少し哂ったようだ。散乱した食器を踏みながら緩慢ににじり寄ってくる。
俺は自分の拳銃の残弾数を思い起こす――ヌルだ。未練たらしく弾倉を覗いても、やはり弾は無かった。そして弾を込める暇などない。
……此処に来て俺は逡巡した。何故だろう。
震える身体で後ろを振り返る、まだ男の爪先は見えない。
血を吐きながら正面を見る、窓硝子の向こうに月が見えた。
そのどちらへ向かうべきかと、瀬戸の際に立ってようやく迷ったのだった。
ああいや――どちらへ向かっても結末は同じだから、どちらでも良いかと思った故の、優柔だったんだろう。血と一緒に、信じられない速度で憎しみまで抜かれていく気がした。無理もない。憎しみは俺の生きる糧だった。生命が失われていくということは、憎しみすら一緒に失うということなのかもしれない。俺の外側にある何もかもを視点とするのなら、つまりそういう事なのだろう。
「ああ、どうしようか。イルゼ」
懐のロケットを取り出さず開けず、片手で触るだけにして問うた。俺は今、自分がどんな顔をしているのかわからない。
無論答えはなかった。脳裏にかすかだけ残った、彼女の残滓めいたものにすらそっぽを向かれた。
気が狂うかと思う。
しかし、取り乱し錯乱する程の意味や意思は、残されていなかった。痛みで気がふれる方が、まだしも有り得る気がした。
代わりに、ロケットを放っていた。それと同時に、俺は渾身を以って正面の窓に体当たりを仕掛ける。
背後の男はいっそ素晴らしいとさえ思える反応と、拳銃の命中精度を見せた。ロケットは銃弾に中心を撃ち貫かれて四散し、俺の身体は窓を割り破った向こう、煌々と月の浮かぶ空へと投げ出された。
――けれどそこは、やはり艦橋の一階でしかなかった。
無様に甲板へ落ち、転がった俺は、這いつくばって其処から逃げ出した。
『黒銀のアリーセ』
わたしが新人だった頃の話。
先輩から譲り受けたお下がりの骨董品、けれど他の人のものとは少し形の違うそれ――。その輝きが怖ろしくて、重たくって、まだ上手に扱えなかった頃の事。まだ二○九回目の訪いの時だ。
海より深い藍色の空の中、焔えるような三日月が浮かんでいた。
霜が降りるほど冷たい闇夜に人影はなくて、それぞれの居住地の明かりだけを投げかけられた甲板――と、呼ぶのが妥当だろう――の上は、ただただ寂しかった。
その夜にすら溶け込まない、わたしの黒い制服を乱暴に叩く風は、自然のそれなのか、遠くで羽根を廻す巨大なプロペラから流れてくるものなのかわからなかった。まわりに人目がないのはわかっているのだが、わたしは少し憤然としながらスカートを抑えていた。
――それにしても不思議な所。
上空から全景を眺めたところ、今わたしの立っている此処は、飛行船と家屋群がひとつになった、空の孤島めいた場所だった。
浮かんでいるのはあのプロペラのお陰らしいけれど、移民船にしても度が過ぎている。此処に住む人々は、その脚で立つべき陸地を、まるごと全て喪いでもしたのだろうかとぼんやり思う。
どこまでも広がる木製の甲板の上を、しばらく歩いた。
――匂いを今ほど感じ取る力の無かったわたしだったから、ちまちまと慣れない徒歩で探したので、少し閉口した。探し当てにくかったのは、風の強い場所だったせいもあるだろう。
最後は結局、単純に紅い血の痕を辿ってそこを見つけた。
小さな納屋か何かだった。建て付けの悪い鉄扉を開くと、そこにはうっすらと均等に埃が積もっており、放棄されて建物だけが残っているのか、物が保存されている様子はなくて、がらんとしていた。そしてその床に、奥へ物を引きずったような痕と共に血液がぼたぼたと垂れていた。
その出入り口を入った正面、突き当たりに、誰かが壁にもたれて座っていた。
お腹をひどく傷つけたらしい。もう動くことのないであろう右手が患部をおさえていて、口からたくさん血をこぼしていた。
身体の大きな男の人だった。死相は殊の外やつれすぎていて、動いて生きている間に、死ぬこと以外にも何か大変な事件があったのだろうと伺えた。裾がぼろぼろに擦り切れたコートを羽織っていて、脇に黒光りするリボルバー式の拳銃が投げ出されていた。自分で命を絶ったのかもしれない、と思う。
「逢魔が刻です今晩は――、聴こえますか」
わたしは口を開かずに、おそるおそるそう尋ねた。
「――何だ? 君は」
案外クリアーな声が返ってきた。身体はもう動かせない段階だっていうのに、これだけきちんと答えられるのは素直に凄いと思った。自殺をしたのではないなと結論づけて、わたしは安堵しながら言った。
「ああ、良かった。間に合いました。わたしはヒトのアストラルをきちんと回収させていただいている者です」
正しく導くと言え――と言われているが、それは何故か、わたしが言うには傲慢な気がして避けていた。自信がなかったのだ。
そうしてその半死体に、引きずっていた大剣を脚を開いて構え、突きつけた。簡素な装飾のついた柄をしっかりと握り、銀光を灯す刃物の切っ先を左心の上に密着させた。大剣は重くて手が震え、今にも間違って心臓を潰してしまいそうだった。
「やっぱりか。――好きにすると良い。どうせ俺はもう動けない。抵抗もままならないんだ」
「ああ、知っています。けれど貴方を私一人の都合でどうこうする事は有り得ません。ちょっと貴方が、生きている間にしたことを話してくださると嬉しいです。因みに、嘘を話されても真実を話されてもどちらでも構いません」
男の人は苦笑したようだった。
「まだ魂を狩られていないのに、死んだ者扱いなのか」
「狩るだなんて……、そんなつもりはないのですが。そもそも貴方は、厳密には既に死んでおられますし……」
「ああ悪い、気にしないでいいさ。俺の生きていた世の中では、どうも君みたいな奴は悪者扱いだったんだ。すまない。ただ仕事してるだけなのに、そう後ろ指差されたら嫌だよな」
「いえ……」
「で、俺の話だったかな。まあ、する必要もないと思うぞ? 人をもう何人も殺してしまった。間違いなく地獄行きだろうさ」
わたしは首をかしげた。ジゴクっていうのは何なんだろう? わたし達が行うのは、アストラルを彼等の住める世界に連れて行ってあげることだけだ。ただ、死んだ時の心の持ち方が、混乱していたり、曖昧なままだと、そういう色づけの世界に住むことになってしまうので、正しかろうと間違っていようと、はっきりとした色づけの世界に住んでもらう為に現世での意思確認をやるのだった。これはわたし達の責務である。
ただ、その話をヒトのアストラルに教える事はタブーとなっていた。
「なんでもいいから、お聞かせください。でないとこの剣が重くて落としそうで貴方の心臓に刺さりそうです……。因みにこの剣は、アストラルそのものを砕き去る力を持っています――」
半ば本音でそう言うと、男の人は流石に焦ったようだった。――剣の意味は、本当は肉体とアストラルを確り引き剥がしてあげる事にある。
「わかった、わかった。――さて、何処から喋ったものかね」
「適当にどうぞ?」
ヒトの話を訊こうと思ったら、相槌だけ打つ壁になれ――とは、この大剣を貰った先輩の言ったことだった。
男の人は、面倒くさそうに頭を掻く。
「まあなんだ、そう大した話じゃないんだ。個人的な怨みで、意味がないとわかっていながら憎い奴を殺した。その途中に向こうからも撃たれたんで、俺は今死んだ。それだけだ」
「えっと……、それではさっきと変わってませんし……」
思わず突っ込んでしまった。
相槌だけ打つ壁――そうなる事は、生前あった事を語りたがるヒトにはいいのかもしれない。自殺してしまったヒトは残らずそうで、死んだヒトの概ねは同じくそうなるのだという。けれどこの人は、珍しくもその逆のような気がした。
このままでは曖昧な世界の方へ流れてしまうと焦り、わたしは更に尋ねる事にした。
「ううん――、どうして怨んでいたのですか? 殺してしまったヒトの事を」
「…………」
男の人は言葉につまったようだった。すぐにはぐらかしに走らない辺り、なんだか正直な人だなあと思う。
けれど、その人は言った。まだ見えはしないが、苦虫を噛み潰すような顔をしたのだろう。そんな口調だった。
「結婚しようって言い合っていた奴が、いたんだ。そいつを無理矢理寝取られた上、殺された」
「殺されたっていうのは、貴方がですか?」
「いいや、彼女がだ。自分の事は勘定に入れてない」
「……そうだったんですか」
なんと言ってあげたら良いのかわからなくて、わたしはそれきり黙った。けれど、無理に聞き出した事に後悔はない。――これがわたし達のすべき事だから。男の人は続けた。
「自警隊の連中の間でな、まわされたらしい。女っ気のないところだからだろう」
……聞いていて吐き気がこみ上げて来たが、わたしは静かに頷いて先を促した。
「多民族の混じったこの船じゃ、自警隊はありがたい存在だ。当然船長からも保護されてる。個人的な恨みである以上、単身で奴等の所に乗り込むにしても、全然力が足らなかった。三年かかって身体を鍛えて、銃の扱いを覚えた。それで今日、就寝時刻を狙って行った訳だ」
「…………」
男の人は獣のような狂気を含んだ――けれど何処か自嘲を混ぜた、複雑で悲しい笑みを浮かべた。そう見えた。
「頭の天辺から足の爪先まで、全員殺すつもりだった。だけど、十四人いた内の六人を撃ち殺して、二人に深手を負わせただけになったな。倒れた先から股間を撃ち抜いてやったんで、時間を喰ったらしい」
「…………。なんだか胸がむかむかします」
「君が話せと言ったんだろうが」
真っ青な顔をしていたのだろう。大剣を下げたわたしに、男の人は気配だけで苦笑いした。
わたしは窓を開け、さんの埃を払って、スカートを抑えながらそこに座った。鞘など初めから無い大剣は、抜き身のまま剣線を下にして壁に立てかけた。冷たくても夜風に当たっていた方が、少しはましだろう。びゅうびゅうと吹き付ける夜風に、わたしの髪は白いヴァイデの様に流れた。
「もうやめるか?」
「いえ……聞きます」
「じゃあ続けよう」
苦しみだけをその貌に浮かべた死体が、仕切りなおしだと語っていた。
「――殺した事には全然後悔はなかったんだ。たださっき、殺した六人に謝りに来られてな。彼らは君に似た格好の奇麗な女の子に、何処かに連れて行かれる途中だった」
「ああきっと、それはわたしの先輩方かと思います」
うんうんとわたしは首肯する。同じ時刻に出発した先輩が何人か居た筈だ。もう訪いを終えたのかと、わたしは内心焦ったが、つとめてそれを顔に出さないように心がけた。男の人も、それで納得が言ったようだった。
「成る程な。まあ――拍子抜けしたよ。まだやるのかって身構えたのは、俺一人だった。よっぽど俺の顔は醜く歪んでいたんだろう。ずっと後ろめたく思っていたんだと、泣いて土下座をし始めた奴さえいて、どいつも言い訳をしなかった。俺は泣いていたその顔に拳を振り下ろすことも出来なくなっていた。だから思ったね。俺のあの燃えるような憎しみは何だったのかって。――イルゼは何のために死んだのかって、な」
最初から気になっていた事柄が氷解した。殺されたのだというのに、この男の人から自虐と清々しさの綯交ぜになったような情動が感じられたのは、つまりそういう訳だったのだ。彼は続けた。
「いや、意味なんてなかったんだろう、きっと。結局人を殺してまで、好きな女を失ってまで俺が知ったのは、どいつも性根から悪人である奴なんか居ない――裁くことを賞賛される悪なんてのは、生涯の敵なんてのは、この世の中の何処にも居ないって事だけだ」
わたしは首を傾げた。
「え、あ。いえ――お知りでなかったのですか?」
わたしよりも年上に見えるこの人が、そんな前提めいたことを知らないだなんて。正直なところ意外だった。これが女性と男性の差なのだろうかと、優越めいた考えがふと浮かんで、わたしは軽く自己嫌悪した。
男の人の屍は「頭ではわかってたさ」と言った後に少し沈黙して、話をがらりと変えた。
「……あいつと付き合い始めた頃、俺はすごく自分が不甲斐無い奴だと思っていた」
「どうしてですか」
「稼ぎがな、なかったんだ。自分なりに頑張って仕事を探していたんだが、面白いようにどこからも雇われなかった。自給プラントの管理人とか、駆動部の整備士とか色々受けたけれど――ともかく全部受からなかったんだ。今思えば、そうひた向きにやる事だけが意味のある事だったんだと思うがね。イルゼに支えられてばかり居たその頃は、ひたすらに自分が情けなかった。独りよがりな悲壮感に浸って、人生のどん底だとすら思ったよ」
けれど、そこは一番深いところではなかったのですね――わたしは心中でだけそう呼びかけた。
「だからいつも、心のどこかで思ってた。これは俺が悪いんじゃない、平々凡々とした俺を取り巻く状況が、俺を駄目な奴にしてるんだ――と、そんな抗弁じみた文句を抱いてた」
「…………」
「同時に考えてた。ここで俺を打ち砕くような困難が降りかかってほしい、ってな。そうなれば前に進む根本的な力が、無理矢理にでも現れてくれるかもしれないと、確証のないことを願った。隣に居るあいつを無視してそう思っていたんだ。笑ってくれ。もう本当に、俺はそうされる事くらいでしか救われようのない奴だ」
「それで、本当に、災難は訪れたのですね」
わたしは笑う代わりに、冷たく言い放った。
「でもそれは、貴方が望んだからそうなったことではない――。ご自分を責める必要はありませんよ」
空寒い夜風がその時だけ止んだ。
男の人の屍はくっくと何故か哂う。ぽっかりと空いた静寂に、その卑屈な声が上手く収まった。わたしが眉をひそめると、男の人は、死に体に宿るアストラルとは思えない大きな声でこう叫んだ。
「何処に――何処に! 何処に、こんな事になってから自分を責めない奴が居る! だがな、くだらない、当たり前の事に気づこうともしなかった俺に、その事を気づかせる為にあいつは死んだっていうのか!? いいや違う! 誰も悪くない! 本当はこの、甘ったれた俺ですらも悪くないとあんたは云う!!」
わたしの頬を、何かが伝っていくのがわかった。男の人は尚も叫び続ける。
「ああ――、イルゼを殺した奴等は悪党なんかじゃなかった! だとすればイルゼを殺したのはこの世の中だろう!? けどその世界にすら、悪意ある意図なんてなかったんだ! そもそも俺の方を向いて、見てすらいなかったんだからな。……それじゃあ俺は、憎しみを奪われた俺は、何を糧に生きたら良かったっていうんだ……!!」
身体が、物として朽ちる前に――、
生きる理由が失われたから、“俺”が死んだんだ――。
そういう、まさに甘ったれた事を、屍は変わることのない表情で語った。
わたしは、どうしてか涙を止めることが出来なかった。
「貴方は、もっとご自分の小ささを思い知るべきです」
唇を噛み締めて云い、親の仇を睨むように見つめ、改めて、わたしは男の人の屍に向かって大剣を構え直した。『此処だ』と思う他なかった。正負のどちらかはよくわからなかったが、彼の情動がまざまざと現れていたからだ。
物事を肯定しながら、認めながらでなくば、生きることはままならない。憎むことでしか前に進もうとしなかったこの男の人が、こんな若さで死ぬことは、当然の帰結といえばそうだった。
けれど。
この人は、自分の小ささなんてきっとわかっている。俺は、俺は、と何度も繰り返すのは、必死に、自分はここに居るぞと訴えているからだ。
それがどうしようもなく悲しかった。
哀れだと見下げたのでもなく、何もわかっていないと呆れてあげることも出来なくて――。
全て知りながら駄々を云い、適度なところで諦めもつかず、いつしか無理矢理押し込められた止められない列車の中で、何処にでも居る労働者が拳銃の使い方を学んでいる所がまぶたの裏に浮かんで、胸が締め付けられた。
「――もう一度確認しましょう。貴方の敵は、此処に居ない」
わたしは出来る限り静かに速く、
「そして、生きる理由なんていうものは、あなたの隣にずっといらっしゃいましたよ――」
「――――」
何か言いかけたその人に構わず、左から右へと大剣を振るった。粗雑な動作だったにも関わらず、男の人は簡単にこときれて全ての温かみを喪った。
横一線に断ち切られたかに見えた首は、けれど繋がっていて。わたしたちにだけ見える明るい斬り痕、その線から小さな光の粒が一つだけ転がり落ちた。
それを懐にしまい、乾き始めていた涙を袖で拭いて、わたしはそこを後にすることにした。
建て付けの悪い鉄扉を無理に開いた時、背後の屍がバランスを失って横倒しになった。わたしはどきりとして振り向き、確りと胸の中のものを確認した。安堵すると、甲板に歩み出た。
巨大な雲海を抜けている最中のようだった。氷の粒すら混ぜた霧は、死そのものの様に怖ろしく、そして冷たかった。それに隠れて月が見えなくなっていた。
「怒られてしまいますね――」
死に逝く人に妙な干渉をしたからだ。最期の言葉は本当に余計だった。
けれどあまり、無意味な事をしたなと、後悔する気持ちはなかったように思う。引きずっていた銀色の剣を闇に溶かして消し、振り乱された髪が凍るのにも構わず、先の見得ない上空を見つめた。
そうして、甲板を一蹴り――、
涙の痕が霜へ変わる前にと、わたしは月を目指して舞い上がった。
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2007/06/10(Sun)21:25:50 公開 / 春一
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■作者からのメッセージ
春一といいます、こんにちは。
長編の息抜きに書いたものです。またもやステロタイプというか。
自分なりに納得の行く形にまで、修正を加えました。同じ話を何度も上げてしまうことをお許しいただければと思います(低頭
作中の主人公という立場を使って、思いついた時に、また短編として別の話を書くかもしれません。その際は此処に続けて投稿します。
感想など、あれば宜しくお願い致します。