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『正義の味方と変身ポーズ』 作者:晃 / 未分類 未分類
全角5606.5文字
容量11213 bytes
原稿用紙約17.35枚
 世界には悪の秘密結社とかいうご大層なものが存在するらしい。そして、それと戦う正義の味方とかいうけったいなものも存在するらしい。
 秘密結社の狙いは正直知らん。でも、自分でもよくわからないうちに、まき込まれ体質の俺は、しっかりその秘密結社と戦う正義の味方とやらにされていた。
 なんでそんなものにされたかって言うのは、説明するのも面倒かつおぞましいので割愛させていただく。
 しかし、付け加えさせていただくとすれば、俺を正義の味方へと引き抜いた奴らの行動は、お世辞にも「正義」という看板を掲げてる連中がやる事とは言えなかった。正直弱みを握って脅すというやり方が可愛く見えて仕方が無い方法だった。
 そんなこんなで、俺は正義の味方四名(+長官一名)と一緒に過ごすうち、とある事に気付いたのだ。

 こいつらは、正義云々とかいうことを名乗っちゃいけない人間達だ、と。



 〜正義の味方と変身ポーズに対する関係性〜



 基地にはその日、珍しい事に全員が集まっていた。ブラック、ピンク、ホワイトこと黒井、桃崎、白神は、真ん中のこたつに集まってトランプに興じている。六月なんだからいい加減しまえよ、こたつ。
 ブルーこと青江は、按摩器に腰掛けて『真夏のミカン』という本人曰くサスペンスものの小説を読んでいる。
 誰一人として、敵のことなんか全くもって考えていない。丸無視である。地球の未来が心配だ。
「大丈夫だよ店長。地球はきっと、人間の手ではなく自然災害によって滅びるから」
 どこら辺がどう大丈夫なんだ、白神。
「今まで散々地球を痛めつけてきたしっぺ返しが来るのよね、きっと」
 こたつを使ってるお前も、確実に二酸化炭素を生産して地球を痛めつけてるぞ、桃崎。
「ま、でもそのときって俺達、きっと天寿を全うして死んでるだろーしな!」
 だからいいってわけじゃないだろ、子孫の事も考えてやれ、黒井。
「なんで紅林は店長って呼ばれてるんだ?」
 それは俺のほうが聞きたいよ、青江。
 しかし、一瞬の沈黙の後、四人はタイミングを見計らったかのように声を揃えて。

『ま、どうでもいいか』

 そう言ってまた私事に戻る。以前はいろいろ突っ込んでいた俺だったが、最早それも面倒臭くなって、今では全面的に気にしない事にした。大体悪の秘密結社アルマジロは、問題を起こすも俺らが行く前に、国家権力の象徴(警察)に捕まってしまう。まともに戦った事は数回しかなかった。
 その数回で、こいつらが強い事は知っている。しかし、その戦い方がせこかったのも、同時によく憶えている。敵が名乗っているうちに攻撃するなんてザラにある。一人が名前を名乗って、敵が大人しく聞いてくれているうちに、背後から忍び寄った他の連中が一斉に叩くなんて光景も、もう見慣れた。使う武器は、金属バットに催涙スプレー、チカン撃退アラーム、消火器などなど。ちなみに必殺技は使わない。あるのだろうけど使わない。ひたすら武器を使って叩いて叩いて叩くのみ。わかりやすいが、子供が見たら恐くて泣くぞ。
 卑怯じゃないのか? と聞いたとき、鼻で笑った青江曰く、大事なことは『いかにして迅速かつ証拠を残さず敵を倒せるか』らしい。なんで証拠を残さない必要があるんだ。お前らまさか、敵を倒す事にかこつけて犯罪おかしてるんじゃないだろうな?
「気にしてたら負けるわよ、店長」
「そうそう。なにがおきても敵に責任なすりつければいいわけだし」
「そうするために、敵はしっかり倒さなきゃいけないんだぞ」
「ま、適当にやってれば良いんだよ、適当に」
 上から、桃崎、白神、黒井、青江である。
 それらを聞いた瞬間、俺は何かもうどうでもよくなったわけで。
 自分でも適応能力は高い方だと思うし、周りからもそういわれた。俺がこんなやる気と本気と正義感にかける正義の味方集団に、神経をすり減らす事無く平然としていられるのも、そのお陰かもしれなかった。
「西高ってもうすぐテストでしょ? 青江って勉強しなくていいの?」
「俺はオールマイティーだから大丈夫」
「古典以外はね……古典の時間俺は現代人だからとか言って寝てるから、テストで零点取るんだよ」
「白神君と青江君って、学校同じだったのか? て言うかすごいな、零点って。そこまで行くといっそ清々しいぞ」
 こうして話している様子を見ると、全員正義の味方(仮)だとは思えない。どこにでもいる普通の高校生って感じだ。そしてテストで零点取る奴、本当にいるんだな。
「あ、そう言えば店長、さっき長官に呼ばれてたよね。何かあったの?」
 ふと話題が変わって、ジョーカーのカードをもてあそびながら白神が問う。四人の視線がこっちに集まるのを確認して、俺は答えた。
「あれな。何か変身装置っていうの、渡されたんだ」
「変身装置? ボタン一つで自動で変身出来る奴か?」
 あのテレビの特撮でよく見る。
 俺達は、一応正義の味方なわけで、たとえ暇つぶしに悪に寝返ってみるかー良いねソレあははーという会話が行なわれていようとも、一応、仮にも、正義の味方なわけだから、姿を隠す必要がある(らしい。理由は知らない)。
 で、支給された変身スーツを着用するわけだけど、此処で問題が起きた。あの、体にぴったりフィットするスーツとヘルメットを「バイクのライダーみたいで嫌だ」と、青江を除く三人が我ままを言い出しやがったのだ。
 しょうがないから、俺達の変身スーツは、なぜかそれぞれの色の浴衣と、キツネ、タヌキ、ウサギ、ひょっとこ、おかめを象ったお面になったのである……縁日かっつーの。
 そんな格好で金属バットだのなんだの持ってれば、もうそれは正義の味方ではなくて、お祭り帰りのチンピラだ。何度、敵と一緒に味方である警察に追われたことか。
 閑話休題。
 衣装が決まったはいいが、実際テレビの様に上手くいかなかった。ボタン一つで変身できるほど、科学は進歩していなかったのである。
 という訳で俺達は、敵が来たとの報告があったら、いつも持ち歩いてる変身セットを、公衆トイレなり何なり、どこか目立たない場所でこっそり着替えて、走って現地へ向かうのである。 
 正直格好悪い。
「て、訳で長官が、科学技術班に無理言って作ってもらったんだってさ」
「へぇ。技術班の人たちも大変ね? また徹夜かしら」
 あまり大変と思っていなさそうだ。
「そうそう、長官が変身ポーズ決めとけってさ」
 青江はいつでもどこでもマイペースだ。騒ぐ三人を放っておいて、本から目を上げずに淡々と話を続ける。
「変身ポーズ? なんだそれ」
「正義の味方がよくやるだろ。あの「へ〜んしんっ!」ってやつ」
「ああ……」
「なんでも、悪用されないためなんだと。パソコンにロックかけんのと一緒だわな」
「つまり、その変身ポーズと掛け声がパスワードって事か」
「そう言うこと」
『変身ポーズ!?』
 騒いでいた三人が、一斉にこちらを振り向いた。目が無駄にキラキラ輝いている。超楽しそう+嬉しそうだ。
 例えて言うなら、新しい玩具を手にした子供みたいな。きっとその玩具は、ボロボロになるまで離されないのだろう。
「じゃあ、やっぱりここは店長のから決めようよ!」
「おお、そうだな。俺らのリーダーなわけだしな!」
「いや、俺のは自分で決めるから別にいい……って、聞いてないな」
 頼むからいらん親切は止めてくれ、白神。そして悪ノリするなよ、黒井。桃崎は、きっと親切心なんか欠片も無く、おのれの「楽しみたい」という欲求を満足させるためだけに行動するのだろう。親切心か一パーセントくらいは含まれているであろう白神とは、微妙に違う。
「変身ポーズは両腕を頭の後ろでクロスさせつつ足もクロスされるんだよ!」
「それで腰を前後左右縦横無尽に激しく回すのよ!」
「それでその場で三回転半ジャンプをかましながら、着地と同時に腰を低くして両手を並行に伸ばして――」
「掛け声はあれよね!」
「ああ、あれしかないよな!」

「の○太の恐竜二〇〇六!」
「八九四四(はっくしょん)!」
「七九四(無くし)た夢を取り戻すべく俺は今日この都を出る――さようなら、平安京」

「いや、せめてそこは揃えろよ」
 本から顔を上げる事無く成行きを見守っていた(?)青江が冷静に突っ込む。
 突込みどころが違う気もする。それ以前に、そんなことできるか。三回転半ジャンプって何だ。
「うーん。変身の言葉は大事だぞ? 俺はあれでかっこいいと思うんだが」
 黒井が言った奴って言えばあれか、八九四四(はっくしょん)か。お前一回頭見てもらったほうがいいぞ。
「この際だし、全部混ぜちゃう?」
 どの際だ。物事をややこしくして面白がるのは桃崎の悪い癖、というより、性格だ。
「あ、いいねそれ面白……かっこよさそうだし」
 白神には一片でも親切心が含まれていると信じた俺が馬鹿だったよ。お前も自分が楽しみたいためだけにやってるな?
「じゃあ混ぜるとどうなるんだ? 七九四(無くし)た八九四四(はっくしょん)を取り戻すべく俺は今日この都を出る――二〇〇六?」
 なんだその微妙なチョイスは。無くしたはっくしょんってなんだよ。そんなもん一生なくさねえよ。
「ちょっと変じゃない? だって今二〇〇七年よ?」
「んー、いいと思うよ。どうせ店長のだし」
 本人の許可取る気無いだろお前ら。
 一瞬の沈黙の後、三人はタイミングを見計らったかのように声を揃えて。

『ま、どうでもいいか!』

「って、よくねえし! 当事者の俺が満足してねえし!」
「そんな……店長の意向が通ると思ってるの!?」
「甘いぞー、店長。人生は厳しいんだ。青江君もそれで良いよな?」
「いいんじゃないか?(どうでも)」
「青江えええぇぇぇぇっ!」
「四対一。店長の申請は却下されました。日本って民主主義だし」
 本人の意見くらい尊重しろよ!
「じゃあ、次は副リーダーな青江君の決めるか」
「え」
 この展開は予想していなかったのだろう。あまり表情を出さない青江にしては珍しく、焦りが見える。しかし、ノリに乗っている三人は、そんな青江を気にする事も無く(というか単純に気付いていないだけだが)ワイワイと話を進めていく。
「やっぱり青江ってクールな感じがするから、それを全面に押し出すのが良いんじゃないかしら?」
「クール? アイス? 北極?」
「ホッキョクグマか……」
 連想ゲームさながら、次々と出てくるアイディアと言う名の嫌がらせ。黒井はただいつも通り悪乗りしてるだけだが、他の二人は真剣に物事を面白くしようと努力している……いやな連中だ。
「そうか、じゃあやっぱりたらこテイストにするか」
 なにを。
 話し合いが進むに連れて、どんどん酷くなっていくのをとりあえず青江が中断させた。
「俺は今まで通り普通に着替えてくから良いいよ。な?」
「だってそれじゃあ面白くないじゃん」
「白神、本音が出てるわよ」
「戦隊物らしくないだろぉ? 全員で変身とかしてみたいし。な、店長!」
 青江が助けを求めるような目つきをするのに、俺はにっこり笑ってみせた。
「そうだな」
「っ紅林!」
 うるさい。さっきのお返しだ。
「きまったわよ青江。青江の変身ポーズは、腰を九十度回転させてセクシーポーズ(任意)をとり、右手を高々と振り上げてフラメンコとフラミンゴのポーズ」
「上半身を上下に激しく揺らして髪を振り乱し、立てひざで両手は天に向かって真っ直ぐ伸ばして、すかさず掛け声!」
「掛け声は『そんな馬鹿な!』だ!」
「お前らが馬鹿だ!」
 ……ナイス突込みだ青江。でも、こいつらは全く気にしてないぞ?
 お礼(お返し)に俺達も何か恥かしい奴を考えようと思ったが、この三人ならきっとどんなポーズでも――どじょうすくいだろうが考える人だろうが自由の女神だろうがダビデ像だろうが、きっとノリノリで、喜んでやるだろう。嫌がらせにはならない。
「しょうがないか。次の敵が来るまで、なるべく早めに長官に頼んで、設定リセットしてもらおう」
 ぎゃーぎゃーと言い争いを続ける四人――というか、青江にそう言うと、奴は驚いたように振り向いた。
「……なんだよ」
「いや、馴れたなお前」
「馴れなきゃ俺はきっと今ごろ胃潰瘍か神経衰弱で死んでる」
「……そうか。長官、リセットしてくれると思うか?」
「……どうだろう」
 楽しければそれでOK、明日にゃ明日の風が吹く思考の、お気楽極楽能天気体質なこの三人に負けず劣らず、快楽主義者で面白がり屋である長官が、あっさりリセットしてくれるかどうかは謎だが、とりあえず頼んで見ない限りどうしようもない。
「ま、どうせ敵なんて滅多に」

 ビーッビ―ッ

 こないし、という俺の言葉をかき消して、木霊したのは敵が来ましたよと言う合図。
 固まる俺と青江。
 目が一等星並みに強い輝きを帯びる他三人。
 ……なんでこんなときに来るんだ!? 普段は音沙汰も無いくせに、一体何の用があって!? タイミングの悪さは、狙ったものか、それとも偶然か。敵ながら天晴れと言いたくは無いけど言わざるを得ない。
「ほら、さっそく今言ったとおりの手順で着替えて! 二人共!」
 わくわく。
 三人の頭上にそんな書き文字が見える。桃崎、頼むからビデオに納め様としないでくれ!
「い、いや……なあ?」
「ほらほら、市民の平和が脅かされてるよ!」
 普段散々仕事をくだらない理由でサボっといていきなりなんだ!
 じりじりと迫ってくる奴らと、同じ距離を保ったまま俺達も後ずさる。そのまま部屋の中を一周しそうな勢いだ。
 虚しく響き渡る敵襲来の合図を聞きながら、とりあえず最初に目の前の敵をどうにかしなきゃいけないと、俺は戦う体勢に入った。

 どうやら今日も、秘密結社のほうは警察に任せることになりそうだ。

2007/06/02(Sat)18:20:12 公開 /
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