- 『ゴーストバスター部、本日の会議』 作者:小氏 / ショート*2 お笑い
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原稿用紙約5.35枚
大桜学園高等部 ゴーストバスター部 第七回会議
大桜学園西校舎――つまり高等部の校舎にある「生徒指導室」は、ゴーストバスター部(通称:バスタ部)の部室である。
八畳ほどの狭い教室には長机が二つあり、パイプ椅子が四脚ある。そしてその四つの席は、ゴーストバスター部のメンバーで埋まっている。
部長:神崎蒼太。三年生。バスタ部最強の戦士にして、メガネのクールガイ。
副部長:森野イズミ。二年生。背が低い。
書記:阿倍琴音。一年生。苦手なものはカエル。
隊長:湯河原次郎。一年生。実は長男。
「それでは、会議をはじめよう」
神崎が切り出した。
「イズミくん、こたびの議題を」
「はい」
イズミが立ちあがる。小学生に間違われるというだけあって、その身長はなかなかの低さだ。ちなみに学園全体に調査を行ったところ、彼女に思いを寄せている男子生徒は、実にその70%にも達した。ちなみにこの調査結果は、「日本人男性の98%がロリコンである」という次郎の持論と多少ながらも矛盾するため、調査を行った次郎自身が闇に葬ったのであった。
「本日の議題は、『ろくろ首について』です」
「私から、よろしいですか?」
琴音が神崎の方を見ながら挙手する。
「許可しよう」
「ろくろ首は、何のために首が伸びるようになったのでしょうか?」
「フム、面白いな。次郎くん、君はどう見る?」
いきなり振られ、次郎はビクッと反応する。その際に膝が長机に当たり、動いた長机は神崎の腹部に当たった。
「ぐはっ」
「そうですね……例えば同じように長い首のモノ――キリンは、木の高い位置にある葉を食べるために首が長くなったといいますから……おそらくはろくろ首も、高いところにある『なにか』を『どうにか』するために首が長くなったのではないかと」
イズミが感嘆のため息をもらす。
「流石だね。次郎くん。動物博士の異名は伊達じゃないね」
「恐縮です」
「琴音ちゃんはどう思う?」
「私もイズミ先輩と同じ意見です」
「え?私と?」
「はい。伊達じゃないと思います」
「あ、そっちかあ……ところで、神崎先輩はどう睨んでるんですか?」
「私かね……私は……ついさっき気がついたのだが、人間、とっさに大きなダメージを受けた場合、『ぐはっ』くらいしか言えないのではないだろうか」
全員キョトーンとしている。
そこで、なぜなにガールこと琴音が、停滞した空気を破って質問した。
「先輩、それってどういうことですか?」
「ん、つまり、かの板垣退助氏は暴漢に刺された際、『板垣死すとも、自由は死せず』などと気の利いた言葉は言えず、実際は『ぐはっ』くらいしか言えなかったのではないか……そういうことさ」
後輩たちは驚愕した。神崎が優秀な男であることはわかっていたが、まさか歴史に潜む矛盾点すらも発見してしまうとは。しかも、ろくろ首について話しているときに。
世紀の発見に、琴音は興奮気味に発言する。
「では、『板垣死すとも、自由は死せず』という名台詞は、後の時代の歴史家がでっち上げたものだということですね?」
神崎はあくまで冷静だ。
「いや、それよりも、板垣氏の同志たちが、彼を神格化し、その影響力を死してなお強めるために偽造し、流布したと考えるほうが妥当だろう。自由民権運動の英雄の死も、その気高い目的まえでは単なるプロパガンダに過ぎなかったというわけさ」
イズミなどは、最早うっとりとした眼で神崎を見つめている。
「先輩……好きです……」
なんか告白までしちゃってる。
カオスだ。
わりと始めのほうから気づいていた方もいるかと思うが、この空間はカオスだ。
そんなカオスを破るべく、『上げ足キラー』の異名も持つ次郎が、満を持して口を開いた。
「でも……即死じゃなかったら、失血死するまでの間に、それくらいは言えたんじゃないんですか?」
「………………」
「………………」
「流石だね。次郎くん。動物博士の異名は伊達じゃないね」
あ、そっちかあ……。
「恐縮です」
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2007/06/02(Sat)02:03:52 公開 / 小氏
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■作者からのメッセージ
短い話を書いてみたくて書きました。
批評しづらい作風になってしまったかもしれませんが、どうぞ可愛がってやってください。