- 『珍味・処女(おとめ)』 作者:紙魚 / ショート*2 リアル・現代
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全角2700.5文字
容量5401 bytes
原稿用紙約8.8枚
草(そう)くんの日常。
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珍味
「よう」
扉を開けて中のやつに声をかける。
健全な男子高校生の住処にしては片付いている部屋だ。
しかも広い。
しかし、片付いているにもかかわらず、大量に国籍無視の謎の物品が置かれているため、ものすごく混沌とした雰囲気がする。
「お、来たな。ま、すわれや」
机の前で何かしていたらしい太一は首だけ回して確認すると、そう応じた。
この小太りで快活な変人の悪友とはもう十年近くの腐れ縁だ。
僕がベッドに腰掛けると、太一はなにやら机から取り出しこたつに置いた。
「草(そう)、コレなんか解る?」
コレとは、この木製の少し形が変な椅子のようなものことだろう。
僕を眺める太一は、なぜか、いつにも増してすごく楽しそうだ。
こいつの家は昔から貿易商をやっていって、妙なモノが手に入ると毎度僕を呼び出して見せてくれる。
自慢したいらしい。が、たいていがロクな代物じゃない。
だが、やはり、物珍しさと怖いもの見たさから毎度出向いてやっている。
「椅子か?」
なので、今回もやつのこの質問には適当に答えておく。
説明するのはやつの仕事だ。
「これな、中国あたりの調理器具なんだ。
おまえ、生きた猿の脳みそ食うっての知ってる?
こいつはそんとき猿を固定する器具ってわけ。
この上板の穴に頭を通して固定するの」
やっぱりろくなもんじゃない……。
「んで、頭蓋骨の上半分をこんな感じのノコギリでゴリゴリ削って取り外すんだ。
こう、パカッて感じで」
どこから取り出したのか糸鋸をギコギコ動かしたあと、まるで鍋の蓋でも外す様なジャスチャーをしながら楽しそうに話す。
僕の表情なんか気にならないらしい。
「それから、スプーンでこそいで、こう、ぱくっとな。
当然、猿は暴れるんだが、脳みそをスプーンでこそがれいてくうちにだんだんおとなしくなっていってな。
最後はピクリともし無くなるんだとさ。
まぁ、脳が徐々に減っていくんだし、そりゃ動かんくなるわな。
ちなみに、脳に神経は通ってないからスプーンでこそがれても痛くは無いらしい」
椅子モドキをじっと見つめる。
うっ……。少し想像してしまったじゃないか。
「んなもん、だれがく……」
僕が言い終わらないうちにやつが言葉をつむぐ。
「でな、草。これな〜んだ」
ゴトリ……。
僕の目の前に置かれたそれは、さっきの椅子モドキによく似た、しかし、三倍くらい大きく頑丈な、まるで人間用の……。
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処女(おとめ)
「草(そう)くん、ちょっと手伝ってくれないか」
友達の家からの帰り。聞きなれた声に名前を呼ばれて振り向くと、練(れん)じいと運送屋さんが自分たちより一回りくらい大きなビニルシートをかけられた何かを台車で運んでいるところだった。
「練じい。またなんか仕入れたの」
三人がかりで、何とか店に運び込み、台車から降ろして設置する。三人とも息が上がった。
運送屋さんが帰ったあと、「お茶でも飲んでいかないか」と、練じいに誘われて、適当に椅子を引っ張り出し、勝手に座って、店の中をぼんやりながめながら、すこしまつ。
べつに帰ってもいいのだが、やはり、まだはがされていない、ビニルシートの中身は気になるのだ。
この店の主人の温和な飄々(ひょうひょう)として、ほっそりした身体に古臭いベストがいやに似合うじいさんは、うちのじいさんの茶飲み友達で、道楽で古物商をやっている。
商品は、僕が座っているような、アンティーク調の椅子(いす)から、どこかの少数部族がまじないに使うような人形までさまざまで、自分がオモシロイと思ったものを、どこからともなく仕入れてきているらしい。
それらが雑然と置かれているこの場所は、ちょっとした異世界と化している。
「おまたせ。さっきはありがとうね」
僕の前に冷たい麦茶を置くと、さっそく練じいは、さっき運び込んだ品のビニルシートをはがして聞いてきた。
「こいつが何か知ってるかね」
分厚くて、古く錆びくれた銅鐸のような身体に、両開きの扉と人の頭を付けたような形の器具。
いまは、その扉が開かないように、太い鎖と大きな錠前で縛り付けられている、それ。
初めて見るモノだ。でも、有名すぎるそれを僕は知っていた。
鉄(てつ)の処女(しょじょ)。西洋の拷問器具で、中に入れられた人は、針で穴だらけにされるというモノだったはずだ。
「うん。鉄の処女……。でしょ。むかし読んだマンガに出てた。
針で刺されるん……。だよね?」
ちょとひきつった僕の答えを聞いて、練じいはうれしそうに笑う。
「そうだ。よく知ってるね。でも、こいつはそれだけじゃない。
まず、この顔をよく見てごらん。目の部分だ。穴が開いてるだろ。
ここは覗き穴になっていて中が見えるんだ。なんなら、覗いてみるかね?
つぎに、中の針なんだがね。取り外せるようになっている。どこをどれだけ刺すか自由に変えられるんだ。
そしてね、この扉を閉めると、こいつの底は抜けるようになっている。
つまり、中に入れられたら串刺しにされて、宙吊りにされて、自分自身の重みで肉を引き裂かれるようにできているんだ」
そう言って、それの身体にそっと触(ふ)れる。
僕が思っていたよりも、かなり悪趣味な器具だったらしい。
「遠慮するよ。にしても、悪趣味だよね。しかも名前が処女(おとめ)なんてさ」
素直な感想を吐いてみる。
すると練じいはまじめな顔で、
「わしは、とても人間的な代物だと思うんだがね。
それに、この世代の、こういったモノに、女性をかたどったり、処女や、娘といった名前のついたものは意外なほど多いんだよ。なぜだかは知らんがね」
と、語る。
知らなくていい知識が増えた感じだ。まったくうれしくない。
「せっかくだ。中も見ていかないかい」
そう言うと、練じいは彼女を戒めている古く大きい錠前に手をかける。
ガジャリ……。ジャラ……。
練じいが、古めかしく大きい鍵を回すと、鈍い音を立て錠前が落ち、彼女を戒めていた鎖が解けた。
ギ、ギギイ……。
錆びくれた扉が、重く、暗い音を立てて開いていく。と……。
トサリ……。
「おっと。コレは……。どうしたものかな?」
と、扉を開けながら珍しく困ったような声をあげる練じいを見つめる。
帰ればよかった……。
練じいの肩越しに僕と目が合ったソイツは、死んで、乾いて、ひび割れて、それでも救われない、苦しそうな、痛そうな、泣き叫んでいるような顔をしていた。
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■作者からのメッセージ
拷問器具はロマン。
初投稿です!! こんなネタでごめんなさい。
でも、大好きです!!
想像してタノシンデいただければ幸いです。
処女(おとめ)がきちんとオチているかどうかが気がかりではありますが。