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『一人ぼっち。』 作者:玖犀 / ショート*2 リアル・現代
全角3353.5文字
容量6707 bytes
原稿用紙約9.75枚
椛は自分に一番近い人間で、どんなことになっても私の傍にいてくれる――。そんなのは、私の単なる思い込みだったのかなぁ。家族は無いに等しい雪音の生活が楽しい、と思えるのは親友椛といるときだけだった。それなのに――。
「雪音。何やってるの」
友達の椛にいきなり肩を叩かれ、私は振り向いた。放課後の殺風景な教室に風が吹き渡り、カーテンが宙を舞う。外から運ばれてくる軽やかな春花の匂いが私達の鼻をくすぐった。二人しか居ない教室はどことなくさみしかった。
「椛。先に帰ればいいのに」
 個人的などうでもいい理由で教室に居るだけなのに椛はいつも私の傍にいる。生まれるよりもっと前から、私達は繋がっていたんじゃないかと思うくらい。
「いいじゃん、別に」
 笑いながら椛はそう答える。私も眉を歪ませて笑い返した。
帰る理由なんてない、帰りたくない。いつも一人だから。膨らむ気持ちとはうらはらに燦々と差す太陽の光。眩しすぎて届きそうにない。椛は自分に一番近い人間で、どんなことになっても私の傍にいてくれる――。そんなのは、私の単なる思い込みだったのかなぁ。

 私と椛が出会ったのは三歳のとき。保育園で初めて話の合う子だった。――初めてで、今でも唯一の友達。相談も遊びも勉強もいつも一緒にやって、秘密なんてなかった。少なくとも、私から見れば。運命のように偶然のようにクラスも毎年同じで、関係が浅くなったりすることなんて一度もなかった。私には椛以外の友達は居なかったけど椛には他の親友も居る人望の厚い人だったから、一人のときも当然のようにあった。だけど、居なくなったわけじゃないから、淋しくなんてなかった。

「じゃあね」
 太陽が傾き、夕日に変る。煌びやかに輝くそれは、帰路を真っ赤にてらした。いつもの交差点、いつもの街路樹、代わり映えのない風景。分かれ道で一人になった。
マンション一階の古ぼけた無地の白いドア、誰も居ないくらい部屋。鞄を置いてソファーに寝転びまた起き上がる。そんなひと時に窓から差した紅い光と耳に響く機械音――。
「椛?」
 その名を口にしたのは、今確かに彼女の声が耳に届いたからだ。“助けて”と。聞き間違いだろうと思い、戸棚から炊飯器と米を取り出す。
 味気ない食事、薄暗い部屋、帰ってこない家族達、――慣れすぎた孤独。母親は体が弱くて出産時に衰弱して死んでしまった。父はそれっきり帰ってこない。……きっと、他の女とでも遊んでるんだろう。金だけ送ってきて、姿は見たことが無い。兄が居るけど、寮制の大学に通ってるから、帰ってこない。
 星は瞬き月が光り、そして十二の鐘が鳴る。変らない世界。

 夜が更けて朝日が顔を出した。鳥の鳴き声に目覚ましの音が重なり、不協和音が辺りを包んだ。パン一枚の朝ごはん、一人暮らしに近い生活。金のこと意外は全部自分でやる。面倒くさい。
 ドアを開けてまた同じ道を歩く。交差点の向こうに見えた紅い点。スプレーの落書きで書く赤よりももっと黒い。交通事故なんてここでは珍しくもなかった。

「雪音。昨日椛が事故にあったよ」
 鞄を机に置いた瞬間、クラスメイトからかかる無機質な声。答えようがないその言葉に私は平常心を装ってうなずくだけだった。椛の言葉が頭をよぎる。友達と呼べる人は、今ここにいない。誰とも話さず長い一日が過ぎる。授業はどれもつまらなかった。―――いつものことだ。

 放課後、久しぶりに早く帰った。町に病院は一つしかない。椛が事故にあったならそこに居るはず。お見舞いなんて柄にあわないけど、友達だから……なんて。
 外も中も真っ白、少しだけ彩を見せる生け花と蒼いカーテン、消毒の独特な匂いに染まった空気の病院が私は嫌いじゃなかった。
「関宮椛さんってどこの病室ですか」
 案内所のショートヘアの看護師にそう聞く。
「関宮さんは、えぇっと……。一〇八号室です。此処を右に曲がったところに在りますよ」
 低めの声で紙をめくりながら笑顔も見せずにそう答える。私もそこにいるつもりなんてなかったから、足早に廊下を右に曲がった。

「椛」
 ノックをして白い清潔感溢れるドアを開けた。そこには、頭に包帯を巻いて窓の方を向いてベッドに座っている椛がいた。
「椛?」
 いつもなら、一度で振り向いて私の名を読んでくれるはずなのに、といぶかしくおもって彼女に近づいてもう一度言う。
「――――誰?」
 返ってきた思わぬ言葉に、私は動揺をかくせなかった。一陣の風が彼女の髪を撫でる。暗い瞳が私に向けられる。
「椛、私だよ、雪音だよ?憶えて……ないの?」
「自分の名前も分からないのに」
 問いかけに返ってきた言葉は私の心に深く突き刺さった。
 ――彼女なら、どんなコトになっても私を忘れないでいてくれると思っていた。やっぱり思い違いだったみたいだよ。
 堪えきれない涙を見せたくなくて、急いで病室から出て乱暴にドアを閉めた。走って病院を駆け抜ける。脆すぎて、すぐに壊れてしまう。私の心は、私達の絆は。

「居場所がないよ、椛」
 ボソリと呟いた言葉は、宙の風に乗ってかき消された。椛は、記憶喪失になっていた。看護師に聞いたら“事故にあった際に、車のボンネットに頭をぶつけたのが原因”だそうだ。彼女は言語以外の全てを忘れてしまっているようだった。
 家に帰りたくなかった。かといって行きたいところもなかった。公園は私を入れてくれそうにない。学校には行きたくない。彼女がいなくなって、自分の小ささに気づいた。彼女が私の空間を広げていることに気がついた。彼女以外に頼れる人なんて、友達なんていなかった。


――翌朝、椛は退院した。だけどその記憶に私はいない。誰もいない放課後の教室で私は一人うずくまった。椛は毎日病院に親と通っている。一日一日が彼女の記憶から消えていくようで、毎日会っても“初めまして”だった。哀しくて、虚しくて、味気ない毎日が今までよりももっと増していった。
「椛、ごめんね」
 よくある後悔をした。あの時私が彼女の帰りを見届けていたら、事故にあった瞬間私が彼女の傍にいたら、彼女はもしかしたら記憶をなくすことなんてなかったかもしれない。
 夕日は傾きすぎて地平線の彼方へと堕ちようとしている。誰もいない帰路。病院へお見舞いに行っても彼女は私を知らない。何よりも、それが私を傷つけた。
「さよなら」
 そう言ったら、椛の耳に届くかな、なんて思った。沈んだ夕日に上る下弦の月。互いに光を放って月は紅く染まった。シロツメクサは風にゆれ、一輪だけ花を咲かせている。まるで自分みたいで、シロツメクサをむしり取ってしまいたくなった。

 マンション屋上、気持ちよい風、肌寒い空気。自分はなんて馬鹿げた事をしようとしているんだろう。自分の背の三分の二ほどのフェンスにもたれて吐いた微かな白い息が空気に消えていく。
「遺書なんてかっこつけすぎだよね、椛。読んでくれる人なんていないし」
 お気に入りの髪留めを握り締める。私は誰の記憶にもない。いつから輪廻は狂ったんだろうか。それでも運命は変えられなくって、時が全てを解決してくれるわけでもなくて。
 自殺なんていうのはある意味で一番自分の存在を明示してくれるものだ。誰かに自分のことを知ってほしかった。他人じゃないって思ってほしかった。――最後まで、友達でいてほしかった。自己中で、マイナス思考で、共通する話題は悪口ばかり。こんな自分にも友達がほしいという気持ちはあった。
 足音が聞こえた気がした。四階のあの暗いサラリーマンだ、と思い込む。

 そろそろ手を離そう。風が吹いたら飛んでいける。路地裏のたんぽぽみたいに。
「雪音!」
 その時聞き覚えのある声が後方からかかった。そんなはずない、そう思って振り返ろうとしたその瞬間、思わぬ強風が私を襲った。死にたくない、その瞬間そう思えた。風にあおられ足をとられ誰の物ともつかぬ声が耳に響き、背中から落ちていく。アスファルトに叩きつけられる一瞬前に見えたのは私に手を伸ばした椛の涙だった。音はなく、激痛だけが体を走り抜ける。
雪みたいに音もなく溶けていく。私の横に、一人ぼっちのシロツメクサが居た。激痛は絶えず体を襲い、感覚がだんだん無くなっていく。眼から一筋の水が流れ出て、視界は消えた。

「ごめんね」
椛の言葉は宙を舞って、消えた。違う。消えたのは、私の感覚。何も無い真っ暗な世界で私はまた――、一人ぼっち。
                     ―了―
2007/05/13(Sun)17:56:03 公開 / 玖犀
■この作品の著作権は玖犀さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めまして。玖犀と申します。
一応第二作目なのですが・・・。
現代の家族が居るのに一人に近い少女の人生を描いたショートショートになってます。
最後の方のシロツメクサの文を考えてほしいなぁなどと思ってます。
何か受け止めてくださる思いがあれば十分です。
読んでくださった方有難うございました。
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