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『地上のうさぎ』 作者:カルデラ・S・一徹 / ファンタジー ショート*2
全角3520.5文字
容量7041 bytes
原稿用紙約15.6枚
 あるところにパッペという若いうさぎがおりました。
 パッペの祖父はピョンといううさぎでした。
 ピョンはとぶのが大変上手なうさぎで、周りの皆から尊敬されていました。
 ですがペッパはうってかわってとぶのはヘタクソで、周りの皆から軽蔑されていました。
「くそ、なんでオレはとぶのがヘタクソなんだ、くそ」
 パッペは、自分に才能を引き継いでくれなった両親をうらみました。
 パッペは、自分といつも比べられ持ち上げられる祖父を妬みました。


 そんなある日。
 パッペのところに、ダットといううさぎがやってきて言いました。
「君はとぶのがとてもヘタクソだね。実は、血がつながってないんじゃない?」
 パッペはムッとしながらも、そうかもな、と簡素に答えます。
「それでオレになんの用だ」
「あいや、君の祖父のピョン氏のことで訊きたいんだけどさ……彼、空を飛べるって本当?」
 パッペはそんな話、聞いたことありませんでした。
「知らないな……」
「ピョン氏が夜な夜な空を飛んでるのを見た人が結構いるんだよ」
 パッペは星屑の海を自由自在に泳ぎまわるピョン爺の姿を想像し、いいなぁ、と思ってすぐにムッとしました。
「君もおかしいと思うよね? うさぎは地面を跳ぶものであって、決して空を飛ぶものじゃないんだよ。ピョン氏はおかしい。皆ピョン氏はいいうさぎだっていってるけど、あんなのうさぎじゃないね。きっとフクロウか何かが変装しているに違いない。そうさ、ピョン氏は虎視眈々とわれわれうさぎを取って食おうとしている悪いフクロウなのさ」

 気がつくと、パッペはダットといううさぎを蹴り飛ばしていました。


 どうしてダットを蹴ったのか。
 パッペは自分で自分のことがさっぱり分かりませんでした。
 しかし相手を傷つけてしまったのは事実で。
 そのことでパッペは一族から追い出されてしまいました。
 もしパッペを追い出さないと、一族同士で喧嘩になってしまう恐れがあったからです。
 一族のうさぎは皆、パッペを追い出すことに賛成しました。ジャンプのヘタクソなうさぎがいるというだけで、その一族は馬鹿にされてしまうからです。
 パッペの両親も、気性の激しいパッペにほとほと愛想を尽かしていたので、それほど反対しませんでした。

 ピョンはパッペを追い出すことに反対しました。
「パッペは何も悪くない!
 きっと悪いのは相手のうさぎだ!
 でなければ彼が他のうさぎと傷つけるはずがない!」
 初めのうちは皆、ピョンはなんて優しいうさぎなのだろうと思っていました。
「ジャンプができないからってなんだ!
 パッペにはパッペにしかできないことがある!」
 ですが何度もペッパを庇ううち、今度はピョンを悪く言ううさぎも出始めました。




 だから、パッペは一族を出ることに決めたのです。




 孤独の雪原で、パッペは一匹の大人うさぎに出会いました。
「ニィちゃん! こんなとこで独りでいたら、オオカミに食われちまうヨ!」
 ポルトといううさぎは大変に強いうさぎでした。
 オオカミだって、一匹ぐらいなら撃退してしまうほどの強さでした。
「ポルタさんは強いんだな」
「オウヨ! この大自然の中でひとりで生きていくには、これぐらい強くないといけねぇ!」
 さらにはポルトは、ジャンプも上手いうさぎでした。
「…………」
 パッペはポルトと一緒に生活をともにするうち、あるお願いをしました。
「なぁポルタさん、オレにジャンプを教えてくれよ」
「んん? まぁ、いいけど……野生のうさぎは別にジャンプヘタクソでも問題ねーよ。ただ強けりゃな」
 パッペは跳ぶ練習を毎日繰り返しました。
 繰り返すうち、だんだんと上手にはなってきましたが、しかしピョンやポルタに勝るものにはなりませんでした。
「しょうがねェ。何事も向き不向きがあるンだ」
 それでもパッペは練習を続けました。


「なんでポルタさんは追い出されたんだ?」
 ジャンプの練習が終わって、パッペはポルタに聞きました。
「まぁ……なんだ、喧嘩っぱやかったからだ。口喧嘩だけで済ましとけばよかったのに、相手がオレの娘の悪口を言うからな、ついカッとなって蹴っちまった」
「……後悔、してるのか」
「蹴ったことは後悔してねえよ!
 ただ、馬鹿なことをしたとは思ってる。
 今頃娘は毛も生え変わって立派なうさぎになってるはずなんだ。
 遠くから見るしかできないのが、辛いな……」




 そんなパッペはある噂を耳にしました。
「……ピョン爺が、死んだ……?」
 パッペは急いで里に戻りました。
 するとそこには、冷たくなったピョンの姿があったのです。
「……パッペか……」
 泣き疲れた様子で、父親が言います。追放されたのに戻ってきたことは、もうどうでもよかったのでしょう。
「昨日だ。昨日、ピョン爺は星になった」
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
 パッペは急いで里から離れました。
 何で死んでしまったんだ、ピョン爺。
 何で星になってしまったんだ、ピョン爺。
「ちくしょう、ちくしょう……死んでしまったら、星になったら、もう、もう二度と、追いつけないじゃないかぁああああああああああああああああああ!」
 パッペは一匹雪原を跳ねていきます。
 ヘタクソなジャンプで。
 何度もバランスを崩してこけました。
 何度も木にぶつかりました。
 それでもパッペは跳ぶのをやめませんでした。








「人間だ!」
 パッペはポルタの声で目が覚めました。
「見てみろよ……ほら、あそこに……黒い筒を持ってる……あれを向けられたら、どんなに早く跳ぶうさぎでも死ぬんだ……」
 猟銃を持った人間はうさぎの里のほうに向かっていました。
「まずい……このままじゃ、皆があぶない……」
 そこでポルタは一計を案じました。
「いいか? 俺が囮になる。里とは反対方向に逃げるから、人間が俺に筒を向けて、それでバカンというとてつもなく大きな音がしたら、走り出すんだ、里に。それで……」

























「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 パッペはさっと外に躍り出ました。
 物音に気がついた人間がこちらを見ます。
 パッペは反対側へと跳躍。
 パッペは、自分のやったことが決して間違ったことではないと思いました。
 里に走っていくほうが速いほうに決まってる。
 そのほうが成功率が上がるからだ。
 そしてポルタさんは走っていってこの危機を里の皆に伝えてきっとそうさ迎え入れられるに違いない何せ里を救った英雄なんだからなそうだ英雄にはやっぱりジャンプの上手いうさぎがなるべきなんだそうでないといけない。
 決して間違ってなんかないさ。
 パッペはちらりと人間のほうを振り返ります。
 はは、なんてのろまな人間なんだやっと黒い筒を構えやがったなんだ楽勝じゃないかこれだけ距離があるんだあの先っちょから何かが飛び出してきたってそうそう当たるものじゃないうんそうだ当たるはずがないんだやったオレも生きた英雄だ里を救ったんだよしそうなれば森に逃げよう逃げ込んで大きく迂回すればのろまな人間は決して追いかけてこれないだろうし、








































 追いかけなかったら、やつは、どこに行くんだ?

















































 バカン。






















































 どうしてパッペは立ち止まったのか。
 パッペは自分で自分のことがさっぱり分かりませんでした。
「……やっぱり……ジャンプが、ヘタクソだったから、だ、な……」
 きっと自分は星にはなれないと思いました。
 何せ、ジャンプがヘタクソなのですから。
2007/04/22(Sun)23:52:47 公開 / カルデラ・S・一徹
■この作品の著作権はカルデラ・S・一徹さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
なんか思いついたので続編〜。やっぱ掌編〜。
こういうのって星の〜に加えないといけないんですかね?
主人公とか時間とかテーマとかも違うんでまぁOKということでひとつ。
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