- 『君の背中を僕は頼りにしてたんだ【完結】』 作者:修羅場 / お笑い 未分類
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原稿用紙約16.35枚
逃走中の犯人が出会ったのは運命的? それとも奇跡的? 今、数千万のお金とバイクが出会いのきっかけを作る。
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覚えてる?
君と僕が、初めてであった日。
出会いって突然、やってくるんだね。
あの時は僕、驚いたよ。
あれは確か、君が……
【君の背中を僕は頼りにしてたんだ】
まず端的に言おう。
僕は今、最大のピンチである。
只今、僕の背後は鮮やかな赤と白黒の車でできています。
僕の後ろは大きな灰色のアスファルトにファンファンと鳴り響く耳障りな音と、無数の赤い光がコラボしている。
なんでこうなったのか。
見当も付きません。
ただ、しつこいほどに言われている言葉を借りて言うのならばこうでしょう。
「そこのバイク! 直ちに止まりなさい!!」
そういって易々と止まる馬鹿は普通居ませんよ。突然ですが、僕は犯罪を犯しました。
美しさって罪ですね。
単に銀行から、数千万のお金とその辺にあったバイクを拝借しただけなのに。
只今、僕のファンの皆さんの代わりに警察に追っかけられています。
かなり、ピンチです。
僕はピンチを笑顔で乗り切ろうとしました。
だって、正義は必ず勝つっていうから。
でも、……その言葉も嘘つきだ。
「君は既に包囲されている。大人しく、盗んだバイクと数千万のお金を返しなさい」
僕と回りはあっという間。白黒の車から出てきた数千近くの青い帽子と制服を着たお巡りさんたちに囲まれて、この一言。
美しさは罪というけれど、…本当に罪だ。
「嫌だね。誰が素直に渡すものですかっ」
少しだけ悪あがき。美しさには、幼さも必要だ。と、誰かが言ってた様な無い様な……。
時たま、追い詰められて後先おじゃんな犯人は素直さが玉に瑕だって時もある。
だけど、僕は違う。粘るときは粘る。
だから、大人しくしてなんていられない。
「こんなん、欲しけりゃ‥取ってみな!」
僕は颯爽とバイクに跨ったままエンジンを全体にして後先考えずレインボーブリッジの真下にある海を目掛けて高くジャンプした。
周りの警官共々、仰天して声も出ないか。
投げ出されたバイクと、それに積まれともに落ちた数千万の金。
この時、誰もが思っただろう。
自分から命を捨てる奴があるか!? と。
または馬鹿じゃないのか!? とか。……その時は、笑顔でこういってやるよ。「馬鹿で悪かったな」って。暫く、上に上がるのに時間をかけてレインボーブリッジの柱をバイクでよじ登り、太陽を背にして跳ね上がってきたお子様ヒーロー的なライダー、つまりバイクに跨った僕は天井からバイクの爆音と共に登場。
「とおっ!! ――……お…」
途中、バイクから間違って股を降ろしてしまった僕の手のひらからは何も残らず容易く、見事に着地した直後、背後でバシャンッと何かが海に落ちる音がした。
「…………あれ??」
ふと手のひらを見ると、今まで握っていたバイクのハンドルが手元から消えていた。ちょっと、自分でもカッコイイと思う登場をして何千といそうな警官たちとなんか地味な一般人の背後に着いた瞬間、颯爽と走ってきたのは地味な一般人の男性。
「ア゛ァ〜〜〜〜〜ッ!!! 俺のバイクがッ…!」
「……別にいいじゃん。てかさ、おっさん。普通、バイクよりお金より先に命の保障を心配するんじゃない?」
僕から見て地味な一般人は多分、バイクの持ち主さんだと思われる。バイクの持ち主さんだと思われる人の一言に心なしか僕は少し苛立ちを覚えた。
馬鹿な行動した奴よりも、盗まれた数千万のお金よりも……優先順位はバイクかよっ!
どんなけだ? どんなけ差があるんだ?? 数千万のお金とバイク。
あくまで自分優先。男性は眉間に皺を寄せて僕を軽く睨む。文句ある? 僕は呆気に取られた顔で、バイクの持ち主さんだと思われる男性に尋ねた。
「てーか、"おっさん"、じゃない。"お兄さん"、だ。間違えるな」
いや、そうはいうけどどうみても20代後半から30、50代後半の顔だろ? 顎に少しそり残した無精髭と、額に数本の皺。そして眉間にも皺。皺と皺を合わせて、幸せ。
なーむー。……なんちゃって。兎にも角にも、間違えるなって、その身なりで間違えないほうが難しい。
嫌な事ははっきり言おう。だから、僕は即答する。
「無理」
無理なものは無理。ということだ。ほんの少しだけ天を仰ぎながら僕は何の変哲も無い周りと少し離れた一部を見回して、一定の空気の流れだけを整える。サスペンスドラマの犯人が明らかになる前の静けさに似たような静寂さがその場に広がったところで、いったんここでCMです。
「……ていう訳で、――…さらばっ」
一旦休憩、はいりまーす。元陸上部のエースの僕は颯爽と自慢の足で空気の見えない壁を突っ切る様にその身の全体に強くて重い風を当てながら本日、二回目の命綱無しのバンジージャンプ。
「……あ、オイッ!」
「ちょっ、…待ちなさいっ」
誰も予想をしていなかった、というか一部の人が予想していたらしいが…。僕の思いきった行動に誰もが仰天し、第一声をあげる。お巡りさんは目を丸くして、地味な一般人は口を半開きにして、早まるな! 的な言葉が来るのをちょっと期待してたのに……なんでだ。警官と地味な一般人は止めもせずに華麗に飛び降りる僕の後を見届けた。
もう一息。
もう一息、言ってよ!! なんつーか、僕って正直…臆病者なんですよ。
人目につくのも嫌いで、いつも周りの人たちから離れて生活してた僕でもやっと人前に出れたって言うのに…結局、そっちだけで盛り上がってるのか。
「なんて事だ! これじゃ、犯人逮捕が出来ないどころか、昇進しないじゃないかっ」
「大丈夫ですよ、先輩。心配しなくてもそれは今に始まった事じゃないですから」
「…………お前。それは慰めてるの? 穢してるの?」
「……あのー…。そんなことより犯人の行方、追わなくていいんですか?」
上で云々言われる言葉がアスファルトの下に響いて、橋の下まで届く。一方の、飛び込んだ僕は一方で上は上の状況を見計らいながらそのまま隠し待たせてたボートの中に一人、胡坐を掻きながら腕を組んで座って云々思いを膨らます。
「うーん……あー………もー………」
借りた数千万のお金もバイクも皆、無事にボートの上に移動してある。だから、この一人用のボートに乗せたのは少し窮屈に感じる。
これからどうしよう…。それを第一に、暫く僕はボートに揺られて深々と考え込み始めた。
「どーすっかなー……」
ラスト、1分。ラスト、1分でCMが明ける。それまでに僕はどうしたものか。後、残りの20分間で僕はどうしよう。僕はどうなるんだろ。
簡潔なるか? それともまた、次回! って、成るのか? どうなんだ。とりあえず、残りの20分間を何とかして埋めなければ。
僕は頭を抱えた。必死に抱えた。
残り僅かな時間を埋めるがために、僕は必死になった。
番組の途中ですが、ここで臨時ニュースです。なんて、報道する事もなしと来る。じゃあ、どうする? このまま終わらすか?
否、終わらしたらそれでこそ最後だ。
テコ入れ? いやいや、その前に入れるものも無いだろ。
よく考えてみたら、これは時間との競争だよ。人生なんて30分アニメ、ドラマの序章みたいなものだろ。
そうすると、あれだ。30分アニメ1本作るのにかなりの大人数で作り上げる。それと同じで、大体の映画もスタッフが大掛かりでやってる。
これを僕は一人でこなす努力をしている。なんせ主人公だから。
だから、どうするかな…。はい、CM明けまーす。
「とわあっっ――…ッ!!!」
二度目。僕はバイクに跨り颯爽と、アクセル全開エンジン全開レインボーブリッジの柱を駆け上る。将来はギネス更新。
二度あることは三度ある。いや、まだ二回目だ。
二回目のヒーロー、太陽を背にして橋の上まで跳んできた。実は犯罪者。
仕方なく。もう、自棄糞。同じ事を繰り返してみた。今度はしっかり手元にハンドル付で。
高々と双曲線を描き、逆行で影になってる僕の後を下で見上げている青々とした中に小さく地味な色が混じった地上を見下ろしながら、橋の元へ急降下。
勢い余って、急ブレーキの掛けそびれた黒いタイヤ跡で双曲線を描きながら爆音と共に再登場。
「――……よし」
我ながら感心するバイク捌き。因みに無免許。これなら、バイクの乗り回しには慣れるだろう。
「よしじゃねェッ!」
「………ん」
僕の感心している邪魔をするのは何処のどいつだ。ドイツ人? 地を踏み閉めて近づいてきたのは異国人でもなく外国人でもなく日本人だ。青い制服を着たお巡りさん。一人は怒ってて、もう一人は笑ってる。何? お笑いコンビ?
「無免許運転および、窃盗犯容疑でお前を逮捕する」
「………あ」
「えー? つーか、お巡りさん。…」
怒りん坊のお巡りさんは僕の手首に手錠をかけた。僕は手錠をかけられてもなんとも思わない。だけど言葉をいったん切った。
僕は大人しく自首する事を考えようと決めた。
なんてことはなくて、違う。
怒りん坊のお巡りさんはどうやら鈍感のようだ。この時、笑ってるお巡りさんと僕だけはある異変に気付いてしまった。僕は手錠に繋がられたままお巡りさんに連れられて、まるで宇宙人捕獲絵図みたいな絵柄になっていた。
「何だ、今更弱音か? まったく、手間かけさせやがって…来い。所で話を聞く」
「……先輩」
「…うん、何だお前まで」
僕は目で言って止めた。それ以上、言ってはいけないと。微笑むのを崩さないままお巡りさんは静かに頷いて、怒りん坊のお巡りさんを背後に居る青い塊の中へ誘導させた。
「………あ、いや、なんでもないです」
「………?」
怒りん坊の顔は一瞬にして間が抜けた。間抜け面っていうか今の状況を理解していない感じの顔だった。
この時、僕は思った。ここは長く持たないと。
このレインボーブリッジは……後、数分で崩れ落ちると。
何でかって、それはそういう決まりなんだ。決まりには逆らえない。
決まりには僕にも、数千近くのお巡りさん達でも、どうする事もできない。
因みに元から地味な一般人には無理だと分かっている。
実際のレインボーブリッジはそんなに脆くないし、バイクで登れるほどじゃない。
だけど、出来ない事をしてしまったもんだから余計、脆くなったのだ。
僕等が気づいてしまった異変。
それはレインボーブリッジを支える図太い柱が脆くなった事だ。
何度も僕はその柱で颯爽とバイクを乗り回した。
つまり、バイクのタイヤが加速する時の摩擦により柱が徐々に削れて行くという事だ。
そのまたつまり言うと削れてった柱は……維持する事が出来なくなる。出来なくなった柱はいつか脆くなって崩れ落ちる。
「そこ、脆くなってるから気をつけて」
「は? ――……っ、…ぐわあああああああああっ!」
僕と笑っていた警官は揃えて忠告を残した。タイミングを計ったように徐々に背後からドミノ倒しのように崩れ落ちるレインボーブリッジの効果音を聞いた三人は静かに後ろを振り向いたらすかさず猛ダッシュでこれなら犯人逮捕も楽勝と想われる速さで腕が千切れそうなほど風に乗り走る。走って、走って、走りまくる。
「うわあああああっ!!!!」
怒りん坊の警官の雄叫びにあわせて、背後から数千の警官たちの雄叫びが奈落の底に崩れるように響いている。
「ぐわああああああああっ!!!!!!」
まるで地球最大の汚らしい生き物と想われる、通称Gを発見した直後のすかさずの行動。そう思ってちらっと振り返ってみたら本当にレインボーブリッジの下にある海にドボン、ドバンと音を立てて溺れていた。
怒りん坊の警官は冷静さを失いながらも僕を小脇に抱えて、笑っていた片方の警官の腕を引っ張りながら陸上部の僕と同じくらいに風を切って走る。
一歩間違えれば、僕等も後数分でああなるんだ。僕等は直感した。
「うっわー…早いねえ」
「勿論ですよ。先輩はこう見えても、昔は陸上部エースだったんスから」
「へー……」
小脇に抱えられながら、腕を引っ張られながら右横と背後で真ん中で一生懸命に走る警官を間にこんなほのぼのトーク。トークの合間に断末魔が流れてるが、気にしない。その前に、こいつも陸上部エースだったのかと少し嫉妬。
「あああああああああああああッ!!!!!!!!」
どうでもよいが、どうにかして。煩いのよ、この断末魔。僕とこの笑ってるお巡りさんとは仲良く出来そう。僕はそんな気がした。
「頑張ってくださいねー、先輩」
「つーか、どこまで行くんだろね」
語尾に「(笑)」とでも付けそうな最後の一言を言い残して「次回に続く」「続く」とか「To be concluded」的なエンディングのテロップを流せば後が綺麗に収まる。気付けば、後の20分も終わりに近づいていた。
「まだまだ――…じゃ、ないですかね」
こうして僕は罪を晴らさぬまま、暫く面白いお巡りさん達と走ったのである。走行しているうちに前方に大きな夕日が橋の下に沈んでいくのを目先に僕等三人は夕日に姿を滲ませながら、姿を歪ませる。
揺れる夕日の中に溶け込むように、僕等は新たな出会いに向かうのであった。
【終】
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2007/04/11(Wed)11:48:17 公開 / 修羅場
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■作者からのメッセージ
(2007/04/03 公開)完全ギャグ路線で突っ走りな文になる予感……。
こんなんで良ければ、お楽しみ下さいませ(笑)
2007年4月11日を持ちまして、滅茶苦茶ではありますが終了します。
ここまでのお付き合いありがとうございました。
続きそうで続かない。それが短期連載の終わり方(ぇ