- 『トイレでの悲劇』 作者:Surume / リアル・現代 お笑い
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原稿用紙約9.45枚
今日はボーリング場に行く約束がありました。そして、地下鉄で集合場所に向かいますが……
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「今日の十二位は、てんびん座。 事前の確認を忘れて大変なことになりそう。慎重に行動するのを忘れずに」
星座占いってよく考えると矛盾だらけだな。日本の人口を一億二千万とすると、割る十二で一千万。単純に考えて日本には約一千万人のてんびん座の人がいることになる。約一千万の人が同じような運命をたどる事なんてありえるはずがない。
それにテレビ局によって内容が全く違う。さっき見てたチャンネルの占いだとしし座が一位で「何もかもうまくいく一日」だったのに、この占いだと十一位で「何もかも最悪な一日」。ほんと矛盾だらけだな。はは。
大丈夫だ、今日はきっといい一日が送れるはず。内心落ち込んでる自分を心の中で必死に慰めながら、てんびん座の俺は朝食を食べていた。
今日は、朝から友達とボーリングに行く約束があった。まあボーリングといっても、ほとんどの時間はボーリング場の建物の中にあるゲーセンで遊ぶことになるんだろうけど。
俺の友達はゲーセン好きな奴が多く、ボーリングのついでにゲーセンで遊ぶという考えではなく、ゲーセンのついでにボーリングに行くというのがほとんどだった。普通にゲーセンに行けばいいと思うのだが、
「ボーリングをやると、ゲーセン用のメダルがサービスされる」
「あそこにしかないゲームがある」
「ボーリングも少しやりたい」
などの理由でそうしないらしい。
俺はゲーセンはあまり好きではない。UFOキャッチャーはなかなか景品を取ることができないし、レースゲームはいつも芝生に入り込む。音ゲーは、全くリズムが取れない。ゲームが苦手なわけではないが、どうもゲーセンに置いてあるゲームとは相性が悪いみたいだ。だからボーリングのついでにゲーセンで遊ぶの方がいいのだが。
どちらにせよ、高校受験が終わった俺にとっては、久しぶりに友達と遊べることが楽しみにしていた。
待ち合わせ場所はボーリング場の前。そこまでは一人で地下鉄に乗っていく。
今の時間は九時十分、待ち合わせの時間は十時。そこまでは大体三十分ぐらいでつくので十分間に合う。切符を買い、改札を通り、ホームへと向かう。休みということもあって、人影は少ない。そして地下鉄の本数も少ない。次の地下鉄が来るまで十分ほどあるのだ。
さて、何しよう。ホームに売店があると立ち読み出来るのだが、この駅のホームには売店がない。暇だ……。そんなことを考えているうちに、接近メロディー(列車の接近を伝える音楽)が流れる。
地下鉄に乗ってから五分ほどがたつ。それにしても地下鉄は空いている。同じ車内には数人しかいないのだ。そのせいか、俺の反対側の席に座わっている高校生ぐらいの二人組みの女の話し声が余計にうるさく聞こえる。そんな二人の隣で、七十か八十ぐらいのおばさんが死んだように寝ている。本当に死んでいるんじゃないかと不安になる。
そんな時俺は突然便意を催した。しかも、ただの便意でない。なんだかちょっとゆるい感じの。同時に腹の下辺りに鈍い痛みを感じていた。
――下痢だ。俺はそう思った。
原因は恐らく朝食べたケーキ。食べ終わった後に気づいたのだが、期限が二日ほど切れていた。確かに少し変な味がしたような。ちゃんと期限を確かめてから食べるべきだったかな。
ボーリング場につくまでは二十分以上かかる。それまでもつだろうか。二十分以上も我慢するのは正直かなりつらい。俺は少しでも便意がおさまることを願ったが、時間が経つにつれておさまるどころか、強くなっていく一方だ。五分ほど経つと我慢ができる状態ではなくなり、仕方なく途中の駅で降りることになった。
地下鉄から降り、トイレへと向かう。できるだけ腸に刺激を与えないように歩く。とても走ることはできなかった。トイレは改札の外にしかない。そのため駅員に頼んで一度改札から出してもらうことに。駅員さんは普通に改札の外に出してくれた。よかった。もし、絶対に出してくれなかったらどうしようかと思ったけど。
さあトイレはどこだ。トイレを探すことに精神を集中させる。トイレは改札よりも少し離れた場所にあった。必死に歩く。もしトイレが空いてなかったらどうしよう、その時はマジでもらすかも。そんなこと考えるな。きっとトイレは空いている。大丈夫だ。
何とかトイレについた。個室は六つあり、そのうち五つは空いていたしかし洋式トイレは使用中。和式トイレしか空いてなかった。あまり和式は使いたくない。かといって待っている余裕もない。仕方なく和式を使うことにした。
個室に入り、鍵を閉める。そこまで広くなく、少し暗かった。多少隅にごみが落ちていたりしていたが、それほど気にならなかった。名古屋に住んでいてよかったと思った。
以前東京に行った時、駅のトイレで大をしようとしたことがあるのだが、あまりの汚さと臭いに驚き結局するのをやめて、わざわざ近くにあったコンビニいったことがあった。今のような状態なら頑張ってしただろうと思うが、きっと嫌な思いが残っただろう。
まずジーパンを下ろして、便器にしゃがむ。左手でジーパンが落ちないよう押えて、もう右手で携帯が落ちないようジーパンのポケットの辺りを押える。何とか間に合った。
下痢でこんなに辛いと思ったのは初めてかもしれない。いつもならすぐ腹の下の痛みが治まるのだが、なかなか治まらない。尻の位置に気をつけながら、横の壁にもたれて少し楽な体制を取った。
五分ぐらい経っただろうか。大分痛みが治まってきた。ほとんど出し切ったようだし、そろそろ尻を拭こうと思ったときに紙がないことに気づいた。
普通地下鉄のトイレには、トイレットペーパーなどの紙が置いていない。また痛みがぶり返してきた感じがした。
さあどうする。トイレの入り口に行けばちり紙販売機がある。しかし、買いに行くためには一度個室から出なければならない。どうやって外に出ようか。ジーパンを一度はいてから外に出のは、キレがいい時ならまだ問題ないかもしれないが、下痢のとき汚さずはくのは難しい。ジーパンを下ろしたまま外に出るのは、人がいなければ全く問題ないが、もし見られてしまった場合、精神的ダメージはかなり大きい。
今のところ人はいないようだが、誰も入ってこないという保障はない。
――ダメだとても外にでることは出来ない。
周りを見回す。紙の代わりになるようなものがないか必死に確かめる。なんと、隅にあったごみの中に入り口で売っているちり紙と同じものがあった。しかもまだたくさん残っている。助かった。いつもならこういったゴミを捨てていく人を許すことができないのだが、今回ばかりはそのちり紙を捨てていった人に感謝をした。もしもその人がいなければ、今頃俺はずっとここに閉じこもっていたかもしれない。ありがとう。
無事に尻も拭き終わり、ジーパンをはく。期限切れのケーキを食べたことも、紙を用意せず個室に入ってしまったのも、俺が確認もせず、軽率な行動をしてしまったことが原因だ。ちゃんと確認をして、慎重な行動をすればこんなことにはならなかった。案外あの占いもバカにはできなかもな。はは。そんなことを考えながら、足でレバーを押し、水を流す。
個室のドアを開けて、外に出る。するとそこには俺と同じぐらいの女が立っていた。
――もしかしてここ女子トイレ?
俺はそう思った。そしてその女は、トイレ入り口付近にある防犯ブザーを無言で押した。明らかにヤバそうな音がトイレ内にも鳴り響く。ピンチ。しかしこの女、なんて早とちりな奴なんだ。俺の顔が変態にでも見えたのだろうか。まあ確かに女子から人気なかったしな。むしろかなり引かれていた。男子からはなんか妙に人気があったけど……。
というか防犯ブザーが鳴っているということは、すぐに駅員もやってくるということ。この場から早く立ち去らんと死ぬ。最悪の場合警察送りに……。そんな面倒なことはごめんだ。
なんとかトイレから脱出することができた。さあ駅から早く逃げよう。出口に向かって必死に走る。すっきり出たので思いっきり走ることができる。なんか幸せ。
なんとか駅の外から無事に出ることができた。外の光がやけに眩しく思えた……。それにしても、こんなことになるとは。
どんな状態でも確認することは大切だなということを改めて感じた。
という夢を見たよと、友達に笑いながら話していた…………。
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2007/03/30(Fri)16:08:59 公開 / Surume
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初めて書いた小説です。
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