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『ワインとガーベラの鼻唄。』 作者:雨音(あまね) / ショート*2 未分類
全角1442.5文字
容量2885 bytes
原稿用紙約6.1枚
ワイン青年とガーベラ少女。ふたりは全く噛みあわないのに何処か繋がった思いを抱いている。

ワインとガーベラの鼻唄(ハミング) 


バーテンダー風の黒服に身を包んだ、未だ成人して間もないであろう青年が、所狭しとワインボトルが並べられた棚をじっと見つめている。
「―――なぁ」
見つめる先に、ガラス戸に映る自身の姿が在る。
青年は僅か、ワインを抱きかかえる両手に力を込めた。

「俺さ、判るんだよ。ワインが順に跳ねていきながら、‘La・La・La‘ってハミングしてんのが」

ふっ、と目蓋を落とした青年の脳裏に、陽気なメロディが流れ込む。
この仕事を志してから随分と利くようになった鼻に、長年眠っていたワイン特有の古びた匂いが香ってくる。
目蓋の奥に映りこんでくる、深い深い紅。
青年にとってのワインは、‘大人‘の象徴であり、‘望む姿‘そのものだった。


陽気なメロディがだんだん、麗らかな旋律に変わってゆく。
古びた匂いがだんだん、甘さを帯びて溶けてゆく。
深い深い紅がだんだん、淡く淡く薄れてゆく。

 ***
無垢な純白のワンピースを纏う、成人まで四・五年はかかりそうな少女が、桃色のガーベラを一輪摘み取ってそっと眺めている。
「―――ねぇ」
眺める先に、ガーベラの向こう・薄蒼色の水彩画ような空が在る。
少女は僅か、ガーベラを握る手に力を込めた。

「私ね、判るの。花畑のガーベラが葉っぱの手を広げて揺れながら、‘ら・ら・ら‘ってハミングしてるのが」


ふわ、と目蓋を瞑った少女の脳裏に、麗らかな旋律がたゆたう。
この花畑に来るようになってから随分と利くようになった鼻に、開きたての花特有の甘い匂いが香ってくる。
目蓋の奥に映りこんでくる、淡い淡い桃色。
少女にとってのガーベラは、‘少女‘の象徴であり、‘変わりたくない願望‘そのものだった。


麗らかな旋律がだんだん、陽気なメロディに変わってゆく。
甘い匂いがだんだん、古さを帯びて溶けてゆく。
淡い淡い桃色がだんだん、深く深く沈んでゆく。

 ♯♯♯
青年は語る。
「今までずっと……義務だのなんだの押し付けられることの無い、自由に、大人になりたいと願って来た。お前もだろう?」
 ***
少女は語る。
「今までずっと……責任とかいろいろ持たされることの無い、庇護下に、子供のままでありたいと願ってた。あなたもでしょ?」
 ♯♯♯
「どうしてだろうな、それなのに」
 ***
「それでもね、ふと」
 ♯♯♯ 
「たとえばワインを割っちまったとき、店長にさ」
 ***
「大人って自分で決めれるんだなぁ、って思うことがあるの」
 ♯♯♯
「‘責任取れ‘って給料からひかれんだよ。いやさ、まぁ当たり前なんだけど」
 ***
「別に羨ましくなんかないけれど」
 ♯♯♯
「子供のとき友達に給食ぶっ掛けちゃったときとか、謝ればあとは親が金だしてくれてたこととか、思い出して」


ふたりの噛み合わない会話は続いていく。
お互いは見えていない。ただ、向こうに誰かが、自分と繋がった誰かがいるということを、知っている。


 ***
「子供の、庇護と規制」
 ♯♯♯
「大人の、自由と責任」
 ***
「どうして、でしょうね」
 ♯♯♯
「どうして、だろうな」




「「そのふたつはいつも隣り合わせに在る」」



暗転、
ワインが順に跳ねていきながら、陽気なメロディのハミングを唄いだす。
暗転、
ガーベラが葉っぱの手を広げて揺れながら、麗らかな旋律のハミングを唄いだす。


‘♪ラ・ラ・ラ  庇護と自由を一度に頂戴♪‘
噛み合うのは我侭な鼻唄。
2007/03/26(Mon)19:15:08 公開 / 雨音(あまね)
■この作品の著作権は雨音(あまね)さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
この春中学生になります〜!
先生方の話からも責任、大人への第一歩的な内容が増え始めて、大人への憧れもある分、未だ大人の庇護下にありたいという気持ちも強いです。
……なんてそれらしいこと言ってますが、実際ダメダメさんですorz

普通の文庫のかたちで書くのは初めてだったので、なにか間違えているところがあるかもしれません。
感想・ご指摘ぜひお願いします。
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