- 『Angel・Doll 』 作者:麗 / ファンタジー アクション
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全角10348文字
容量20696 bytes
原稿用紙約33.45枚
平穏な村に訪れた突然の悲劇から始まった少年達の旅。その旅の中で少年達は世界に隠された秘密を知るそして全ての始まりのきっかけとなった天使像を巡る戦いに巻き込まれていく・・・
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それは雲一つない晴れた春の日の昼過ぎの出来事だった。ある山奥の広く透き通った湖の側にある村で…
ボンッ!!
突如爆発音が響き渡った。しかし村人達は何事もなかったように振舞っている。
女は食事の準備や掃除をし。男は家畜の世話や農作物の手入れをし、年寄りは集まってお茶を飲み談話を楽しみ子供は元気に走り回っていた。
「またやったのね」
自室で分厚い本を読んでいたセミロングの少女は本に栞を挟み部屋を出た。
「相変わらずねぇ」
庭で伸びて寝ている三毛猫をスケッチしていた三つ網の少女は折りたたみ式の椅子に道具を置き、音に驚き飛び起きた三毛猫を抱き上げた。
「ここまで聞こえるとはな」
森で猟をしていた青年は弓をたたみ仕留めた鳥を肩に担いだ。
「レイヤー!大丈夫かー!」
水車小屋から髭の濃い男性が、窓から身を乗り出し大の字に倒れている少年に声をかけた。
「一応無事です」
レイヤと呼ばれた少年は起き上がり体についた汚れを払っている。
どうやら爆破音の原因は彼らしい。彼は軽い傷を負い周囲には白い煙が舞っていた。
彼は今、ある訓練を行っていた。それに失敗し先程の爆破が起きたようである。
「やっぱりレイヤの仕業だったのね」
三毛猫を抱いた少女、リリィがやってきて声をかけた。
「他に誰がいるって言うのよ」
後ろにいたセミロングの少女、ローズがレイヤの体に手を添えると彼女の手を白い光が包み、それと同時にレイヤの傷が癒えていった。
これは大気中に含まれる“マナ”という物質の力でコントロール次第では身体能力を一時的に飛躍させ、まるで魔法のような不可思議なことを起こすことも可能だ。
今までレイヤはこのマナをコントロールする訓練をしていた。
「今日の爆破は過去最高じゃねーの?」
猟から戻った青年、ライザは笑っていた。この4人は幼馴染でいつも行動を共にしていた。
「今日はこのへんにしておきましょう」
レイヤに付き合っていた若い神父が濡れたタオルを差し出した。彼は4人の兄のような存在である。
「今夜は天使祭ですからね、そろそろ準備を始めないと」
「は〜い」
4人は声を揃えた。今日は年に一度の天使祭の日だった。
この村には神の化身と言われるクリスタル製の天使の姿をした像がある。これは億単位の値打ちがあり世界三大秘法に認定されているほどで、大金を積んででも欲しがる好事家も大勢いる。
そのため昔から像を狙った盗賊や泥棒が村に来るため、村人は幼い頃から様々な戦闘技術を学びマナをコントロールできるよう訓練を行っていたのだが…レイヤはマナの扱いが人の何倍も苦手だった。そしてやる気がなかった…
「なぁそろそろじゃないか?着替えて来いよ」
ライザが腕時計を見ながら近寄ってきた中年女性に鳥を手渡した。今夜の天使祭の料理で使われるようだ。
「あ、本当だ!んじゃ!」
なにか大事なことを思い出したレイヤはタオルを神父に返すと家に走って戻っていった。今日はレイヤにとって天使祭とは別の大事な日でもあった。
それから30分が過ぎ4人は村の入り口にある見張り台に集まっていた
「来たよ」
望遠鏡で遠くを見ていたローズのその一言でレイヤは見張り台から飛び降りた。一台の馬車が村に近づいてくる。
「おーい!」
道の真ん中で大きく手を振る。3人も次々に台から降りてきた。
その馬車は豪華でどうやら上流階級の人間が使っているようだ。馬車はレイヤの前で止まり御者台に座っていた若い男がドアを開けると一人の女の子が出てきた。
「ただいまお兄様」
女の子はレイヤに抱きついた。彼女の名はルナ、10年前にある貴族の養女となたレイヤの妹で天使祭の日に戻ってくる。
本当はレイヤも一緒に引き取ると申し出があったのだがレイヤ本人がある事情から断っていた。
「元気だったか?誰かにイジメられてないか?変質者に狙われないか?」
『出た!天使祭名物兄バカシスコン男!』
自分の意思で離れて暮らすことを決めたレイヤだが幼くして両親を亡くしたレイヤにとって唯一の肉親である妹のことは大変心配で、村に戻ってくると一年間の溜まりに溜まった愛情を爆破させるのだった。
これは毎年恒例の行事となっていて、幼馴染3人の年に一度の楽しみでもあった。
そして村人の誰もがこの平和で微笑ましい光景が、これからも続くと思っていた。その日の夜までは…
日が暮れ天使祭が始まった。宴会の準備を行う村人を残し全員大聖堂へと向かう。
大聖堂は周囲を高い崖に囲まれているため、教会の地下通路を抜け吊り橋を渡らないと行くことができない。
しかも地下通路の扉は特殊な細工がしてあり開け方は神父しか知らない。
もし、力づくでこじ開けたり扉を破壊すれば罠が作動する仕組みになっている。それも全ては天使像を守るためのことだ。
「ほらほら一列に並んで」
「お喋りはダメよ」
レイヤ達は儀式の手伝いで大聖堂の外にいた。天使役の女の子達の誘導のためである。
「レイヤ、どうした?」
最年少の女の子を手を引いていたライザが、余所見をしているレイヤに気づき声をかけた。リリィとローズも振り返る。
「なぁ、今村から変な音がしなかったか?」
「音?聞こえなかたっと思うけど…」
ローズが女の子の衣服を整えながら答える。ライザとリリィが崖淵まで行き耳を澄ますが、特に何も聞こえない。
ガラーン…ガラーン…
大聖堂の鐘が鳴り響き扉が開かれた。
「合図よ中に入って」
リリィが先頭の女の子に指示を出す。女の子達は一列に並び奥へと進んでいった。
「これで全員だな」
女の子が全員入るとレイヤ達も中に入った。ハープの静かな音色が流れ女の子達がキャンドルを手に天使像を囲みだした。四人は音を立てないよう最後列の席に座った。
この天使像は、村人ですら天使祭の時にしか見ることができない貴重なものだった。例外はあるものの…。
「これで天使様は今年も我々をお守りくださるでしょう」
三十分後儀式が終わった。女の子達が可愛らしくお辞儀をしている。だがレイヤは儀式が終わったことに気づいていなかった…。
村から聞こえた“変な音”が気になっていた。それは日常生活では聞いたことのない音…気のせいならいいのだが、ずっと胸騒ぎを感じている。
「レイヤ?」
隣に座っていたローズが肩を揺する。側にはルナもいた。
「え?あぁゴメン」
我に返ったレイヤはそこで儀式が終わったことに気づいた。村人達は、天使像に手を合わせたり女の子達を写真に撮ったりしていた。
「おい大変だ!!」
その時、先に外に出ていたライザとリリィが扉を壊れんばかりに勢いよく開け飛び込んできた。
あまりの大声に村人達は驚き立ちすくみ、一斉に二人のほうに顔を向けた。二人の顔は青ざめている…。
「どうしたんですか?」
一瞬の沈黙の後、像の側にいた神父が二人に尋ねた。
「村が…」
動揺し震えるリリィを支えながらライザが叫んだ。
「村が燃えてるんだ!!」
「どうなってんだよ…」
村が燃えている、ライザの言葉に大聖堂を飛び出した村人達は呆然と立つすくんだまま崖上に見える村を見ていた。
確かに村から火の手が上がっている。焚き火なんてレベルではない、明らかに村全体が燃えている…。
「様子を見てくる、皆はココに!」
「1人じゃ危ないって!」
我に返ったレイヤは走り出し、急いで3人も後を追う。ルナもレイヤを追おうとしたが神父が腕を掴んで止めた。
風で揺れる吊り橋を駆け抜け螺旋階段を一気に駆け上がり扉を開けると、教会の中には煙が流れ込んで前が見えない状態だ。
「どうなってるんだ?」
口と鼻をハンカチで押さえ身をを低くしながら進む。どうやら教会自体は燃えてはいないようだ。
恐る恐る窓から外の様子を伺い慎重に扉を開と、とても春とは思えないほどの熱気に襲われた。
「そんな…」
外はとても現実とは思えない光景が広がっていた。家は燃え、花が咲き乱れていた花壇は焼け雑草すら残っていない…。
「お父さん!お母さん!どこー!」
「親父ー!兄貴!返事しろー!」
リリィとライザが広場に向かって走り出した。この2人の家族も村に残っていたからだ。
「おじさん!しっかりして!」
レイヤは井戸の側で倒れていた男性を抱き起こす。男性の側には彼のものと思われる長剣が落ちている。
「ローズ、早く治療を!」
振り返るとローズは青い顔をして男性を見つめたまま動かなかった。
「ローズ!」
声を荒げ必死に懇願するも、ローズは目を伏せ無言で弱々しく首を振った。
「私の治癒術では助けられない…その人はもう…」
「そんな…」
その言葉に今の男性の状況を察したレイヤは震える腕で彼をそっと寝かせた。
「ライザとリリィが心配だ、合流しよう」
今にも溢れそうな涙を袖口で拭い長剣を拾うと、半ば放心しているローズの肩に手をかけ広場へと向かった。
「どうして…あんなに平和な村だったのに…」
そこは更に酷い有様となっていた…。残った村人は宴会の準備をしていたため全員広場にいた。とても直視できない無残な姿となって…。
2人はライザとリリィの姿を見つけたが、どうしても近づくことができなかった。2人の表情から、おそらく2人の家族も…。
「なぁ気づいたか…」
ライザが2人に気づき、泣いているリリィの腕を引っ張りながら近づいてきた。気丈に振舞っているが彼の手は震えている。
「どの人も酷い傷を負っている…しかも、どの人の側にも武器が落ちている」
「傷の状態…そして武器があるってことは、ただの火事なんかじゃない。皆誰かと戦っていたんだわ」
「誰かって…」
「村人同士で戦うわけないだろ!天使像を狙ってきた盗賊かなんかに決まっている!!」
そう言うとレイヤは長剣を握り締め入り口に向かって走り出した。
「おい待て!」
慌ててライザが追いかけてきて腕を力強く掴み引き止める。
「1人でどこに行く気よ!」
ローズとリリィも追いかけてきた。
「まだ犯人は近くにいるはずだ!探して仇をとるんだ!」
レイヤはライザの手を振り払い村を出ようとする。
「落ち着きなさいよ!気持ちは分かるけど危険よ!!」
「この状況だと相手は複数、返り討ちになるだけよ!」
ローズとリリィは必死にレイヤを引き止めた。
「だったらお前らもついて来い!」
だがレイヤは完全に頭に血が上り冷静さを欠いている。
「少しは落ち着け!」
ライザがレイヤの頬を殴りつけ、レイヤは地面に倒れ込んだ。
「20人も残ってたのにこの有様だぞ!どう考えても多勢に無勢だろうが!」
辺りにはライザの怒鳴り声が響き渡る。レイヤは無言で起き上がった。
「おーい!お前達無事か!」
広場に大聖堂に残っていた数人の男性の姿が見えた。彼らも村の様子を見に来たのだろう。
「なんだこれは、酷すぎる…」
男性達が4人の周囲に集まると同時に雨がポツポツと降り出してきた。
「大聖堂に戻ろう。皆に知らせないと…」
落ち着きを取り戻したレイヤの手から長剣が落ちる。カラーンと悲しそうな金属音が聞こえたが、誰も剣を拾うものはいなかった。
雨はまるで、村に広がった炎を消すかのように強く降り注いだ…。
「ただの事故ではなさそうですね」
教会の前には神父と村長と待っていた。
「言わなくても分かります。あなた達の表情を見れば想像がつきますから」
「………………」
彼らは言葉が出なかった。自分達の目で見てきた光景をどう説明すればいいのか分からなかった。
「村人達には私達が伝えます。あなた達は中で休んでてください」
2人は教会の扉を開け階段を降りて行った。男達も黙って後に続き、そこにはレイヤ達4人が残ったが誰もなにも言わなかった。
唯一無事だった教会には静寂だけが残り、そして夜が明けた。
一晩中降り続けた雨のおかげでどの家も全焼を免れたが、とても人が住める状態ではない。しばらくは全員大聖堂を寝床にするしかなさそうだ。
「では、あなた達は犯人の姿は見ていないのですね?」
翌朝、教会では会議が行われていた。大人達は教会に集まり、神父と村長を中心に今後の対策を話し合っていた。
「はい、人影はおろか動物の姿も見えませんでした」
「そうですか、追わなかったのは賢明でしたね。しかし問題はこれからです、犯人の目的が天使像なら近いうちにまた同じことが起こるかもしれません」
「なら戦うまでだ!返り討ちにして捕らえるんだ!」
後列からいきり立った男性の声が聞こえた。
「戦うって子供はどうすんだい!それに、また死人が出るのはゴメンだよ」
どこからか中年の女性が反論をする。先程からずっとこれの繰り返しだ。村人達は怒りで感情的になっており、会議はなかなか進まなかった…。
「これじゃ会議になりませんね、しばらく落ち着くのを待ちますか」
最前列に座っていたレイヤ達は朝早くから調査隊の事情聴取などで疲れていた。ふと窓から外を見ると、そこには片付けと修繕のために材木や機材が次々を運び込まれている様子が見える。
それらを運んでいるのは“ドール”と呼ばれる特殊な人形である。ドールはインプットされた命令に忠実に動き、とても頑丈で火や水に強い耐性を持つためレスキューから力仕事に警備、家事手伝いと幅広く使われている。
また、他にも移動・運搬専用の馬型(陸上専用)ラクダ型(砂漠専用)イルカ型(海上専用)や牧羊用・護衛用の犬型に郵便配達用の鳥型もあり、ルナが乗ってきた馬車を引いていた馬もドールである。
だが、あまりの高性能から強盗などの犯罪に使う者もいて社会問題となっているのが現状だった。
ちなみに人間型ドールの特徴は、透き通った緑の眼球(そのため緑のカラーコンタクトの製造は禁止されている)男性型は180cm・60kg、女性型は165p・45kgで右腕に製造番号があり全て同じ顔をしている。(特注で容姿を指定することも可能だが高額な金がかかる)
そのため、持ち主が自分と他人のドールを見分けるためアクセサリーや衣服などを装着させているが、中には持ち主の趣味でマニアックなコスプレをした女性型ドールも存在する。
「結局なにも決まらなかったね」
「皆興奮してたもんな」
午前11時、会議は一旦終了した。レイヤとローズが教会から出ると、幼い子供の面倒を見ていたルナが手を振っている姿が見える。ライザとリリィと他の数人の村人は、大聖堂に安置されている家族のもとへ向かったようだ。
「これから皆さん湖で昼食の準備をなさるので、集会所の倉庫からキャンプ用の調理器具を運ぶのを手伝って欲しいそうです」
「そっか、もうそんな時間か」
ルナから村人の伝言を聞くと急に空腹感が襲ってきた。集会所は一部が燃えただけで倉庫の中は無事だったようだ。早速レイヤは集会所、ローズは湖へ向かいルナは幼い子供達と一緒に大聖堂にいる村人達を呼びに行った。
田畑や家畜小屋が村から離れてたため無事だったのは村人にとって不幸中の幸いだった。昼食のカレーライスができる間、子供達は手の空いてる者が面倒を見ている。
だが、この後も葬儀の準備や村の復興や今後の対策などやること決めることは多く、これはほんのひと時の息抜きでしかない。今までのような平穏な生活は、当分おあずけになるだろう。
それから時間は過ぎ夜になり、大聖堂では葬儀がしめやかに始まった…。
その夜、村人は全て大聖堂に集まり葬儀を行っているため村は静まり返っていた。
そんな静寂の中に1人の人間の足音が響き渡っている。しばらくして足音は広場の中心で止まった。
雲の間から月が姿を現し広場を照らす、そこには1人の少年が立っていた…。
「ここで一体なにがあったんだ…」
その少年、レイヤは葬儀を抜け出し瓦礫と化した広場にやってきた。そこは悲しくなるくらい静まり返っていた。
「父さんゴメン…約束守れなかった…」
レイヤの脳裏に辛い過去の光景が浮かび上がってきた。それは幼い頃に両親が亡くなった時の光景…
その日はとても天気がよかったので、レイヤは両親と赤ん坊だったルナと一緒にピクニックを楽しんでいた。
そこで、像を狙って村に進入しようとしてた不審な男達と出くわし口封じに襲われた。その時レイヤは、草むらでルナを抱きしめ涙を堪え震えていただけだった…。
両親のおかげで男達の計画を阻止されたが、男達も腕が立ち不運にも相打ちとなり、その怪我が元で両親はその日の夜に息を引き取った。
「レイヤ、今度はお前が父さん達の代わりに村を守るんだぞ…」
父が死に際に言った一言がこだまする。レイヤは泣きながら約束をした、そしてなにもできなかった自分を恨んだ。そんなレイヤを村人達は励まし支えてくれていた。
皆で当番を決め、毎晩順番にレイヤの家に泊まって世話をしてくれた。誕生日には村人総出で祝ってくれ、熱を出した時は村中が大騒ぎになり、悪さをした時は容赦なく怒られた。
レイヤはそんな村人達を大切に思い守ろうと、必死に修行をしていた。だが、両親の死というトラウマから心のどこかで逃げ出したい・戦いたくないという気持ちがあり、その気持ちがマナをコントロールできない要因となっていた。
「おい誰もいないぞ」
聞き覚えのない男の声が聞こえた。村の入り口のほうからだ。耳を澄ますと話し声が聞こえる、それも大勢だ!
「あそこに1人いるぞ」
レイヤに灯りが向けられる。そこには見るからに柄の悪そうな男達がいた。
「ねぇボク〜♪天使像のある所まで案内してくれる♪」
いかにも“その人種”と思われる男が近づいてきた。普段なら悪寒を感じ逃げ出すとこだが、彼の発した一言で逃げる気は起きなかった。
「天使像…」
「そうよ〜♪昨日もお願いに来たけど誰も案内してくれなかったの」
男はレイヤが好みのタイプなのか抱きつき体をベタベタ触りだした。
「そうか、お前達が…」
レイヤは男を突き飛ばし剣の柄に手をかけた。今後の襲撃に備え村人達は武器を携帯していた。
「おいおい兄ちゃん、そんな顔すんなよ。こっちだって被害者はいるんだぜ」
「そうだぜ、そのせいで撤退するハメになったんだ」
「言ってしまえば正当防衛だよな」
「像のとこまで案内してくれれば危害は加えんよ」
男達はレイヤに詰め寄ってきた。当然自分達のしたことに罪悪感など感じてないセリフばかりが浴びせられる。
「ふざけるな…」
「あぁ?」
「ふざけるな!!」
レイヤは正面に立っていた顔中にピアスをつけた男を殴り剣を抜いた。男はよろめき膝をつく。
「テメェ!ぶっ殺してやる!」
殴られた男は逆上し、隣にいた小柄な男が持っていた剣をひったくるとレイヤに襲い掛かった。
「あれ?レイヤがいない」
葬儀が行われていた大聖堂では、レイヤの姿がないことにローズが気づいた。
「しょうがない、探しに行くか」
「でも、残ってたほうがいいのでは?」
角に座っていたリリィとライザがそれを聞き立ち上がるが、ルナがそれを止めた。
「いやいいよ、外に出たかったしな」
4人はそっと裏口から大聖堂を出た。大聖堂の周囲は静かで近くにはいない、となると村しかない。4人は村へと向かった。
そこでなにが起きてるかも知らずに…。
「コイツ強いな…」
その頃、レイヤは盗賊相手にたった1人で戦っていた。彼は右手に剣を握り締め盗賊達を睨みつけている。
最初は1人ずづの相手だったが彼の剣術の前に次々と負け、残った下っ端達が彼の周囲を取り囲んだ。これでは彼が不利である。
だが彼は決して臆していなかった。例えマナが使えなくても、家族同然の村人を殺された怒りからか、恐怖や不安は微塵もなかった。
「いた!…ってどうなってんのよ!」
そこに聞き覚えのある幼馴染の声が聞こえた。ローズの声だ。
「なにやってんのよ!」
幼馴染の中では最も足の速いリリィが駆け寄ってきた。
ライザとローズも後から続き、自分がいたら足手惑いになると判断したルナは、火事で脆くなった建物の影から様子を見ていた。
「コイツらが村を襲った犯人だ!」
「そういうことなら加勢するぜ!」
成り行きとはいえ加勢することになった3人は、それぞれが最も得意な武器を出し構えた。
ローズは杖、リリィは槍、ライザは斧を。
「ガキ共がいきがってんじゃねー!!」
レイヤの背後を囲っていた数人の男が3人に襲い掛かった。広場での戦いは更に激しくなっていった…。
「大変…」
それを見ていたルナは急いで大聖堂へと向かうことにした。だが!
「おやぁ〜可愛いお嬢ちゃんがいるじゃないか」
「どこに行くのかな〜危ないからお兄さん達が一緒に行ってあげるよ」
盗賊の仲間だろうか?2人の見覚えのない男がルナの前に現れた。だが、広場で戦ってる4人がそのことに気づくことはなかった…。
「チィ!主力メンバーを置いてきたのはマズかったな、たった4人相手になにやってんだ!」
30分ほどが過ぎ、盗賊のボスは怒りが最高潮に達した。部下達はたった4人(しかも2人は女)の子供に全て倒されてしまったからだ。
殴られ、蹴られ、投げ飛ばされ、辺り一面に満身創痍の部下達が散らばり、もはや戦えるのはボスのみとなっていた。
「どいてろ!この役立たず共が!」
ボスが4人の前に立ち塞がり、両手を使わなければならないほどの大きな剣を握り、そして…その場で真横に勢いよく薙ぎ払った!
剣は避けて当たらなかったものの、その風圧でレイヤは吹き飛ばされた…。いや、レイヤ“だけ”が吹き飛ばされた…。
「なんだ、その兄ちゃんはマナが使えないのか。それであの強さとはやるじゃないか」
風圧の正体はマナだった。剣を薙ぎ払うと同時にマナで強烈な風圧を起こしたのだ。
それを察知した3人はマナで全身をガードし耐えたが、マナを使えないレイヤにはそれを防ぐ術がなかった。
「下がってろ!コイツはマナが使えるみたいだ!」
ライザとリリィが前に出て、ローズが倒れたレイヤを抱き起こした。
「嫌だ!俺も戦う!」
「無茶よ!生身の体でマナを使った攻撃を何度も受ければ死ぬわ!アイツは手加減なんかするタイプじゃない!」
「それでも…見てるだけなんて嫌だ!」
ローズの手を払い除けレイヤは立ち上がった。
だが足はガクガクと震え、花壇の角にぶつかったのだろうか頭部には血が流れている。傍目に見ただけでもダメージは大きいようだ。
「いい目だぜ兄ちゃん、ウチのボンクラ共にも見習わせたいぜ」
ボスは剣を高々と揚げ地面に勢いよく剣を刺した!
それと同時に衝撃が地面を走り、衝撃は目の前のライザとリリィの足元を抜けてレイヤの体を貫いた!
それを受けた瞬間、レイヤの意識は途絶えた…。
気がつくとレイヤは大聖堂に寝かされていた。目の前には心配そうに覗き込む村人達の顔が並んでいた。
「気づいたよ良かった〜」
村人達は安堵の表情を浮かべている。中には涙を流してる者までいた。
「あいつらは!天使像はどうなった!」
我に返り起き上がったレイヤは近くにいたリリィの肩を掴み尋ねた。
「帰ったわ、ルナが神父さんを呼んできて天使像を渡したの」
「そんな…俺はまた約束を守れなかったのか…」
衝撃的な答えにレイヤの目に悔し涙が浮かび上がった。
「いいえ、あなたは村を、そして天使像を守りました」
背後から神父の優しい声が聞こえた。レイヤが振り返るとそこには…
「それは…天使像?渡したんじゃ?」
レイヤには状況が把握できずにいた。奪われたはずの天使像が何故ここに?
「あいつらに渡したのは偽者よ」
横からローズが説明をした。レイヤの治療で疲れているのか目に下に隈ができている。
「覚えてる?5年位前にレイヤが悪戯でガラスの塊で作った偽者の天使像よ」
そう、神父が渡したのはガラス製の偽者だった。
どれも本物そっくりで村人達は見分けがつかず、しかもどの像もデザインが微妙に異なっていたため余計に混乱しており、その半年前にリリィが描いた天使像の絵がなければどれが本物か分からずにいたくらいの力作だった。
しかもその数は5つ、その中の1つを渡したのだった。
「あれを…捨てたんじゃなかったのか?」
当然レイヤは村中の大人から叱られ偽の像は没収された筈だったのだが…
「いいえ、どれも捨てるには惜しい出来だったので、こんな時に備え教会の倉庫に保管していました。おかげで助かりました。ありがとう」
「ありがとうレイヤ」
「お兄ちゃんありがとう」
「あの時は拳骨食らわして済まなかったな、ありがとうよ」
村人達が次々にお礼を言い出した。レイヤの目から番う涙がこぼれた…。
朝になり復興工事が再開された。レイヤは1人湖のほとりに寝そべっていた。
「お兄様」
そこにルナがやってきて声をかけた。
「どうしたんだ?」
「おにぎり作りました」
ルナの手には小さくて、少々いびつな形のおにぎりが並んだ皿が並んでいた。
「なぁルナ…」
やや塩気の濃いおにぎりを食べながらレイヤは尋ねた
「家は楽しいか?」
「はい、お父様もお母様も優しくていい人です。
「そっか、良かったな」
湖は何事もなかったかのように静まりかえっている。
「おーい!レイヤー!」
そこにレイヤを呼ぶ声が響き渡った。声の正体はライザである。
「村長と神父さんが話があるって、リリィもろーずもいる。ルナも一緒に来な」
「なんだろう?3人は教会に向かった」
「村を出ろって、どうして…?」
彼らの話は唐突なものであった。
「盗賊に渡した像が偽者だとバレるのも時間の問題です。その前に本物の像を持って村を離れてもらいたいのです」
「もちろん村人全員をグループを作り村から離すつもりだ、行き先は全員違うが偽の像も持って行く手筈だ」
これが2人が話し合った結果、たどり着いた結論だった。
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2007/07/14(Sat)20:06:20 公開 / 麗
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■作者からのメッセージ
はじめまして麗と申します。読んでいただき、ありがとうございました。
アドバイスやご指摘などありましたらお願いします。未熟者ですが今後ともヨロシクお願いします