- 『オルゴール』 作者:荷稲 / 恋愛小説 ショート*2
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全角3052文字
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原稿用紙約9.8枚
私(語り部)は、彼(私と同学年であり、背は私より少し高めの人物)を好きになる。私は、彼と話すだけで幸せだった。告白なんて私の中ではとんでもなかった。しかし、親友(私と幼稚園からの親友。髪は長く、こげ茶色)は彼を好きになる。親友はスタイルもよし、頭もよしで優しい。到底普通の人間では適う筈のない完璧な人。誰もが親友よりも何もできない私をとる筈がない。つまり、彼は私ではなく親友を選ぶだろう。そう思い私は彼を諦めるが――
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私は、彼方に恋をした。
だけど、彼方は気づかない。
もたもたするうちに、私の親友は、
彼方を、好きになった。
――オルゴール――
私の、恋の、物語。
私は、オルゴールが好きだった。彼方も、オルゴールが好きと、言ってくれた。
意見が合っただけで、嬉しかった。
やがて、気づく。
嬉しいのは、彼を好きだからだ、と。
「あのね、私、彼が好きなの。」
「……そう、なんだ。」
親友は、確かにそう言った。彼女の口ぶりは優しいのだが、私の耳には、酷く、乱暴に届いた。私の脳は、その言葉を耳に入れるのを拒否した。でも振動は、それを許してはくれなかった。高い波のように、振動は私の耳に届いた。
「私、彼のいろんなところが好きなの。例えば……」
話している声はやがて聞こえなくなる。何故か。それは私の頭が真っ白になったから。覚えているのはだいたい此処まで。後は……殆ど覚えていない。ただ、頭に思い浮かんだことは、彼女(親友)は、男子にモテること。スタイルもよし、頭も良い、おまけに優しく、心が広いと来た。
もう、私の恋は終わった。
静かにそう思った。
教室には、工作の時間に皆が作ったオルゴールがあった。私は一人、教室でオルゴールを聞いていた。
「この曲、いいよね。俺も好きなんだ。」
「!!」
「そんなに驚いた?」
クスクス、と軽く笑いながら私の隣の席に座った、彼。私の、大好きな、彼。
「……私も、この曲が好きなんだ。なんだか……心に響いてくる。」
「俺も!同じこと考えてたんだな。つくづく気が合うよな、俺等。」
「うん」
教室の廊下には、親友がいた。
昼休みのトイレ。トイレには、数人の女子と、私の親友と、私。
「酷いよ……私が好きなの知ってて、彼と一緒に話すの!?」
「話すくらい……!!」
「最低」
「ターゲットは決定したね。」
彼女達の言う、ターゲットとは、虐める相手。今まで虐めていた女の子は、飛び降りて自殺した。彼女達は、ニヤケ顔のまま、トイレを出て行った。もちろん、彼女も。
やっぱり……彼女(元・親友)に逆らうのは、無理だったんだ。優しい……彼女に。
「はは……私って、本当に馬鹿……」
どうせ、彼女にはかないもしなかったんだ。彼女が鳥なら、私は海底の奥深くにいる小魚。とっても邪魔な存在。居ない方が良い存在。
「……彼に、思いだけでも、届けば良かったな。」
そう口ずさみながら、トイレを後にした。
でも、心の中には、まだ彼を好きな自分がいた。そんな自分が、諦めが悪くて嫌いになった。
教室の机には、<死>の文字。教科書はなく(後でゴミ箱を見てみると、ぐしゃぐしゃと化した元教科書があった)、ノートは落書きだらけ。
クスクスと聞こえる女子の笑い声。
そうだ、ターゲットは私だったんだ。
それから、私の生活は一変した。
その日の靴箱には、靴の片方が無く、<死>の紙。
その次の日は、シューズが無く、変わりに<死>の紙。
その日の教科書は、外で灰と化していた。焼却場には<死>の紙。
その日の体育の時間には、ジャージも、体育用のシューズも無く、<死>の紙。
その次の日の下駄箱には、<死>の字が沢山書いてあった。
その日の教室の黒板には、私の嘘の情報。その情報の下には、<死>の文字。
その日、「<死>の字は流行っているのか?」と考えた。
何度、死のうと考えただろう。
何度、飛び降りようと考えただろう。
何度考えても……
何度実行しようとしても……
何度も、私の頭の中で、彼が邪魔した。
私がターゲットにされてから、何ヶ月が経っただろう。私が信じていた人に裏切られてから、何ヶ月が経っただろう。
そんなことを考えるようになったある日、彼女が話しかけてきた。……泣きながら。
同情するな、自分。と考える自分。そんな自分に、勝てる筈は無かった。
「どうしたの?何があったの?」
あえて冷静なフリをする自分。周りを見渡して、私をターゲットとする女子がいないか、何度もよく確かめた。
彼女の重い口が、開いた。
「私……調子に乗ってたんだ……」
「?」
「……て……ひっぐ……った……」
最初は、何のことを言っているのかも、分からなかった。でも、言っている意味が、ようやく分かって来た。
その意味が分かったから……今、ずっとずっと走っている。学校の校舎から外へ出て、とても遠い、彼の元へ。
もう彼は家へ帰ってしまったから……追いかけるようにして……ずっと……走ってる……
私の友に言われた言葉を、思い出しながら。
――
「本当は……気づいていたの。貴女が……彼を好きなのも。」
「じゃあ……どうして……?」
「貴女が……羨ましかったの。私、優しい、って言われてるけど、本当は嘘っぱちなの。本当は心の中で【ウザイ】って思ってたりするの……でも……」
「貴女だけは、一度もそうは思わなかったの。」
「……え……?」
「貴女が……優しかったのよ。とっても嬉しかった。……だけど、私は彼を好きになった。でも、貴女の方が先に彼の【良い所】を見つけていた。先に彼を好きになっていた。始めてイラっと来た。それで……私は、私にイラついたの。貴女にイラついた自分に、イラついた。それが許せなくて……貴女に、彼を好きになったと、言った。」
「……」
私は、黙って聞いている。
「あの時!!【私も彼が好きなの】って言ってくれたら!!潔く私は諦めた。でも!!貴女は私を傷つけたくないがために!そういわなかった。それがもっとムカついて!それを……貴女にイラついたのを……自分に隠すために……貴女を……皆に言ったの……御免なさい……御免……」
私の友は、大声で泣き出した。私は……どうしていいのか分からなかった。 ――
はっきり言って、ムカついた。
自分のために、私を犠牲にしたんだから。
土台にしようとしたんだから。
でも、あの状況で……許せないはず無かった。
――
友が泣きやんだ頃……友は、ゆっくりこういい始めた。
「あのね……私……彼に告白したの。好きですってね……」
心に、槍が刺さったみたいだった。ズキズキして……痛かった。
「そしたら彼、なんていったと思う?」
……どうせ、OKなんでしょ。何よ、自慢?
「『俺には好きな奴がいるから駄目』……だってさ……だから……ずっと今まで泣いていたの……フられて悲しくて……」
もう一本、槍が増えた。痛さが増した。ズキズキどころの話じゃない。血がドクドク出ている感じ。凄く痛い。息が苦しい……もう、彼を好きになるのは駄目だ。好きな人がいるなら話は別。勝てる筈がナイ……
「『俺の好きな奴は、お前の親友。お前の親友に、伝えてくれないかな。俺は、お前が好だってな。』」
あんな卑劣な奴等の……どこがいいのよ。
「でも、私はすぐ答えた。『私の親友はいっぱいいる だから誰に言ったらいいのか分からない』ってね。」
「そしたら、彼、『お前が今、虐めてる奴かもよ?』っていったの。」
「え?」
「『そいつは――
彼の背中を見つけた。
彼を呼ぶと、彼は少しびっくりした顔になって、やがて笑顔になった。
「聞いた?」
「……聞いた。」
「私、オルゴール好きなんだけど。」
「俺もだよ。じゃ、質問。答えは?」
「 」
―― 親友の、最後の一言は。
『オルゴールが、好きなんだよ。』――
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2007/03/21(Wed)11:03:46 公開 / 荷稲
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