- 『手を伸ばせば……』 作者:ジャンク・アリアド / 恋愛小説 ファンタジー
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全角6908.5文字
容量13817 bytes
原稿用紙約23.75枚
この小説の中の「僕」は“ダークチルドレン”と呼ばれる特殊な身体の持ち主で、あまりにも特殊なため、自由に恋愛が出来ずにいた。ある時「僕」が兄のお供である少女のピアノの公演を見に行き、彼女に恋をしてしまうが、「僕」の兄がその少女に思いを寄せていることに勘づく。少女=「君」でこの小説の中で表されている。「僕」は「君」に思いを伝えられるのか。それとも、諦めてしまうのか……。ドキドキの恋愛小説がここに参上!!最後まで目が離せないぞ!!
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僕は闇の中の住人だから……
光の中へは入れないよ……
でも 君を闇の中へは入れないよ
だって君は光の中でしか笑えないでしょ?
僕は 君のその笑顔が見たいから……
君が僕の 『光』 だから……
手を伸ばせば君に届きそうなのに……
「ナンデトドカナイノ?」
1回目出会いは、ほんのわずかなきっかけで僕は君に“恋”をした。
君は、友だちに囲まれて綺麗な笑みを絶やさずにいたね。
夏が始まるときだった。
後で知ったんだけど、君の名前は「桜山 歩美」。
看護士になるのが、夢だったんだよね?
「素敵な夢だね」と言ったのを覚えている。
でも、その時は声をかけることもなく君は、僕の前から消えていった。
2回目の出会いは、夏の夜だったね。
僕は、兄のお供でピアノのコンサートを聞きに行った。
そのとき、君はステージに立っていたよね。
とても綺麗だった。僕の耳にはピアノの音なんて届かなかった。
君の姿だけが、僕に見えていた。
その後兄は君に、僕を連れて会いに行ったよね?
花束を抱えて……
君の声を初めて聞いた。
君を初めて見た。
あの夏の日に。
急に君は僕に問いかけてきた。
「何て名前なの?」
僕は君に見とれていて、話の展開が分からなかった。
兄は呆れて僕に教えてくれた。
「ほら、お前自分の名前ぐらい言えるだろ」
君は、笑っていたね。
僕は顔を真っ赤に染めていた。リンゴと見間違えるぐらいにね!
僕はようやく理解が出来た。
「ボっ僕はっっっロゼ、君は?」
でも焦っていた、僕の問いに君は笑顔で言ったね。
「私はね、桜山歩美って言うの。よろしくね」
僕にしゃべる暇を与えずに、君は話し続けた。
「ゼイドさんの、弟さんなの?」
そう、兄の名はゼイド。ここらじゃ結構有名だ。
“神の手”の異名を持っているからね。
兄は、僕のことを紹介していたが『あの事』については言わなかった。
当たり前だ、そんなことを言ったら僕の家族はみんな打ち首になってしまうからね。
兄は、君のことを何て呼んでいたの?
兄は音楽が好きだった、自分でピアノ演奏をしてしまうほどに。
そして、多分君のことも……。
なんで僕は、闇の住人なんだろう。
どうして、僕は闇に産まれたんだろう。
太陽に当たっても平気なのに。
家族や一族の人間は僕のことを“ダークチルドレン”と呼ぶ。
直訳して“闇の子供達”だ。
そう、この“ダークチルドレン”は世界に30人ほどいるという。
どうしてか、は知らないけどね。
君と兄は話し続けている。
一時間ほど、僕は兄と君のいる空間から消し去られてしまったようだ。
僕は見ているだけだった。
やっと、話し終えたのか兄は君に手を振った。
君もそれに答えるように、手を振った。
僕は、兄に背中を押されていた。動けなかったのだ。
まるで金縛りにあったようだった。
何とか自分で歩いた。
夜の町並みは、何だか不気味だった。
兄は、帰り道ずっと君のことを話していた。
明日の公演も行くと言っていた。
何だか悔しくなってきた。
僕は闇の人間だから、普通の人とは恋愛なんて出来ないからだ。
兄はそのことを知っていて僕の前では女の人の話なんてしなかったのに。
なんで、いきなり……。
「ゼイド兄さん、なんで……」
兄は僕を見た。あっしまったという顔をしている。
今にも僕が、泣き出しそうだったからだ。
「いやっっ、すまんお前がそんな身体だったてこと忘れてた……」
でももう僕は、やけになっていた。
「兄さんなんて……嫌いだ!」
夜の町並みは、驚くほど静かだった。
そして、僕は兄を置いて走り去っていった。
兄は、僕を追うこともせずその場に立っていた。
僕は、家のドアを乱暴に開け自分の部屋へ入っていった。
使用人が、文句を言っても無視した。
ベッドへ飛び込み、自分のみの不幸を嘆いた。
『ナンデボクダケ、コンナカラダナノ?ボクダッテフツウノヒトトカワラナイジャナイカ!』
自問自答が繰り返される。いつしか僕は眠っていたようだ。
気付いたら、時計の針は10を示していた。
朝だ。兄と会うのがイヤで、兄が出掛ける時間まで部屋からでなかった。
『モウ、イヤダ!』
部屋はもう怪獣が通ったようだった。
あちこち散らかして、でもまだ物足りない。
君のことが忘れられないよ。頭から離れないよ。
誰かに聞いて欲しい、この気持ちを。
僕は、部屋から飛び出した。
飛び出したのは良いけど行く当てがない。
君の所へ行きたいけど、道が分からない。
でも、僕は少しずつ君へ近づいている気がした。
人混みの中を、君へ向かって。
今すぐ会いたいよ……。会って話したいこの気持ちを……。
君の笑った顔が見たいよ……。
僕は、さらに足を速めた。
これも僕の能力なのか、僕は大きな家の前に立っていた。
ここから君の気配がする……。
門を押し開けた。小さな僕にでも簡単に開けられる。
すぐに警備員らしき人が僕を止めようとしたが、僕はそれに従う気がなく警備員を突き飛ばした。
僕は普通の子供じゃない。警備員から見れば僕は12〜3歳くらいに見えるだろうけど、僕は17歳だ。
本当の年齢よりも若く.幼く見えてしまう。
良いじゃないか、と思うだろうが、僕は聞いてしまった。
母と父がドクターと話しているのを。
『ロゼ君は、特殊な身体で有るため他の人より数倍不便です』
『そんなことは分かってます!!ロゼはあと何年持ちますの……?』
『“ダークチルドレン”は二十歳がデスラインとなっていますが、人によって前後します』
その後急に母が泣き出したのを、覚えている。
僕の勝手な解釈だが、僕が生きていられるのはあと1年ちょっとってところだろう……。
突き飛ばされた警備員が銃をかまえる。
「止まらんと、撃つぞ!」
ガキ一人なのに銃まで持ち出すとは……。
なかなか止まろうとしない僕を見て、警備員は威嚇のつもりで撃ったんだろう。
運悪く、弾丸は僕の頭に命中した。
僕は、体のバランスを失った。
倒れていく間に警備員が呆然と立っているのを見た。
身体に強い衝撃を感じたが、“ダークチルドレン”のDNAが僕を眠りにつくことを許さなかった。
僕は、血が流れているけれど立ち上がった。
自分の足で立っているはずなのに、僕には意識がない。
闇の中へ落ちていった。
そのあとはどうなったのかは僕は知らない……。
でも、闇の中にいるとき確かに聞いた。
君の声を……。
闇の中に急に一筋の光が見えたような気がした。
その光は、声となって僕に届く。
「ロゼ君!ロゼ君!」
その声は……。
僕は、闇の中から引きずり出されたみたいだ。
目を開けたとき、僕は見知らぬベッドに寝かされていた。
……頭が痛い。
僕が目を開けたのを見た君は、僕に駆け寄ってくる。
「ロゼ君!」
ベッドの端まで僕は動こうとしたが、思うように体が動かせない。
君は、すぐに向きを変えて言った。
「今、ドクターを呼んでくるからね」
君は、僕の前から風のように走り去っていった。
僕は一体どうしたのだろう。何故ここにいるのか……。
あの警備員はどうなったのだろう。
僕は自分の頭に触れ、傷の治り具合を確かめた。
撃たれたにしては傷が浅く、今ではもうかすり傷程度だ。
僕はふと疑問に思った、僕は撃たれた弾が頭に掠り脳しんとうを起こしただけなのでは?と。
だから、こんなに傷が浅いのだと。
色々と疑問に思ったのだが、たどり着く結論はなく自分はただの人間だと思いこむようになっていった。
『ソウダヨボクハタダノニンゲンダ マギレモナイニンゲンダ』
けれど、虚しいだけだった。
僕は、君の笑顔を思い出す。言いたいことは沢山あった、けど駄目なんだ。
僕は思いを寄せている人にさえ、何も言えない。いや何も言っては駄目なんだ。
この気持ちを、君に伝えられない……。
伝えては駄目なんだ。
ここは、必ず君を幸せに出来る兄に任せるべきなのか?
僕は、兄の顔を思い出す。君を語るときとても幸せそうだったあの顔を。
駄目だ、譲れない。どんなことも身体のせいで僕は我慢してきた。
でも君を思う気持ちだけは……我慢できない。
そんな時、ドクターを連れて君が入ってきた。
君の顔を見たとき、伝えられない気持ちは行き場をなくし、僕の心の奥へと沈んでいった。
いっそう、虚しさがつもった。
君は心配そうに僕を見つめる。
目が掠れてきて君がよく見えない。
「大丈夫?どこか痛いとこがあるの?」
僕は、『大丈夫だよ』って笑って言うつもりだった。
けれど声が出ない。
君は僕をのぞき込む。
僕は、自分の頬に涙が一筋流れていくのを確かに感じた。
涙に気づいた君は、ドクターに「速く見てあげてください」と言いドクターの手を引っ張ってくる。
朦朧とした意識の中で、ドクターを見た。どこかで見た顔……。
だれっだったかなと思いながら、僕は君を見ようと首を回す。
だが、僕はドクターを思い出し首をドクターに戻しす。
「貴方は、Dr.ドグドル…、ドグドル先生ですか?」
ドクターは、振り返りその顔をしかと僕に見せてくれた。
「いかにも、ワシがドグドルだが」
僕は驚きの表情を隠しきれない。君は「知り合いなの?」と聞いてくる。
「いんや、この坊主と会うのはこれで初めてだよ」
僕の代わりに、先生が言う。
そりゃ先生と会うのはこれで初めて、だが僕は知っているおそらく全世界の“ダークチルドレン”も知っているだろう。
僕たちの救いの手……。先生は世界に批判されながらも“ダークチルドレン”を救おうとしている人だから……。
僕は、聞きたいことが沢山あったが、先生に安静にしてろと言われおとなしくしていることにした。
僕の中で“希望”という名の光が産まれた。それは、ほんのわずかな光。でも僕の闇の中では眩しすぎるほど明るく光る。
僕はその“光”を逃さないように掴もうとした。でも握ったのは闇だけ、光は手の中には無かった。
西暦1930年7月24日、夏の日差しが眩しく照りつける日のことだった。
先生は言いたいことだけ言って、僕の話を聴かずに部屋から去っていった。
「ロゼ君、ゼイドさんに電話して迎えに来て貰おうか」
君が、こっちに来る。
「電話番号教えてくれる?」
紙とペンを用意しながら聞く。
「***−△△△−●●●だけど……」
君は手早くメモすると受話器を取りに立ち上がる。
だが、立ち上がった君の手を僕は掴む。兄さんの顔だけは見たくなかったのだ。
17歳なのに、おそらく君から見たら僕は12.3歳ぐらいにしか見えないだろう。
震える声で君に訴える。「兄さんは呼ばないで……」としきりに訴える。
君は、キョトンとした感じで僕を見つめた。「分かったよ、ロゼ君しばらくここにいても良いよ」
笑顔で、受話器を置いた。その笑顔が僕は何より嬉しかった。
すべてを察してくれてか、それとも子供のダダだと思ってその言葉を言ってくれたのかは分からない、けれど君の側にいられる理由ができた。
僕は、寝る時間と風呂何らかの事情で一人になるとき以外は君の質問に答えなければいけなかった。いや、答えなくても良いのだが君と話していたいから質問に答えていた。
「ロゼ君って、学校はどこ?」と君の質問に、僕はどう答えて良いのか正直迷った。
「学校には、行ってないんだ」正直に答えると、君は不思議そうな顔をしたが別の質問を考えているようだった。
なんで、学校に行っていないのか義務教育ではないのかと思っているのかもしれないが、僕は世に言う‘不登校’なのだ。周りの人はすぐに成長するが、僕の場合今まで言ってきたように実年齢より幼いのだ、怪しまれるに決まっている。と言った理由で言ってはいない。僕だって学校には行きたいが、首切り台だけはイヤだった。
その他の理由もあるが、こうゆうことにしておこう。
そんなことより、僕は君のことをもっと知りたい。
一番気になっていたのは、君の名前だ。
君は『オウザン・アユミ』って名乗っていたけど、何処の世界に『オウザン』なんて名前の人がいるんだろう……。少なくとも今まで僕が生きていた国の人ではない
と思う。早く帰ってこないかなと僕は考えていた。頭の中は君のことでいっぱいだ。
時計は、12時を指している。僕は時計を見たとたんに空腹を感じた。
そうか、お昼の時間だ。今君は夏休みで学校が午前で終わるからそろそろ帰ってくる。
今日は思い切って君のこと名前で呼んでみようかな……。きっと笑ってくれるよね。
僕の妄想は膨らむばかりで、自分が“ダークチルドレン”だって事を忘れていた。
いや、僕は自分の不幸を忘れ去ろうとしていたのかもしれない。
思い出してしまえば、きっと君の元へは居られなくなる。
やっと君に近づけたんだ。でも君までの道のりはまだまだ遠い。
階段を駆け上がる音がした。君が帰ってきたんだ。僕は急いで起きあがると、君が入ってくるのを待った。案の定君は、すぐに僕が居るこの部屋へ来てくれた。
「ロゼ君ゴメンね、補修があって遅くなっちゃった」
君は笑いながら謝る。でも僕は君を許さないよ。何故かって?それは君に会う時間が一分でも減ったことが許せないんだ。
まぁ、君はそんなこととは知らないから黙っていよう。
「お帰りオウザン」
やった、君を名前で呼べた。僕は君の反応を伺った。
君は驚いたような表情をしていたが、いきなり笑い出したんだ。
何がおかしいのか分からない僕は、取りあえず一緒に笑ってみた。
「そっか、こっちと日本では違うんだっけ」
笑いながら君は言う。何が違うのだろう。日本とはなんなのか。
「あのねロゼ君、気付いているとは思うけど、私は違う国から来たの」
「違う国?」
「そう、こっちでは名前・ミドルネーム・姓の順で名乗るけど、私が生まれた国では姓・名前の順で名乗るの」
君が言っていることがよく分からなかったが、君の名前は『オウザン』ではないことが分かった。
「つまり、私は歩美・桜山なの」
やっと分かった、君の名前は『アユミ』だったんだ。
僕はあわてて謝る。
「ごめん、名前間違えて気を悪くしたよね……」
君は、まだ笑っている。僕は顔が紅くなるのを感じた。
「ぜんぜん、怒ってないよ。だって日本では姓で呼ばれることだって有るし、文化の違いを私が分かって無くて、変な風に名のちゃったしね」
君は、笑うのを止めたが、基本的に君は笑みを浮かべている。
「さぁ、お昼を食べに行こうか」
君は、僕に手をさしのべた。僕はその手を大事な物でも扱う風にそっと、優しく掴んだ。またこれで1つ君について分かったような気がした。
……ちょっとここで一息ついて、僕の家族のことを知って欲しい。
1930年7月28日
太陽は衰えることなく、道行く人々に照り続けている。
夏本番だ、と遊びに行ったりカップルで何処かにいたりと町は大騒ぎだ。
……唯一人を除いて。
金髪、蒼い瞳、背は170センチぐらいの青年が道を急ぎながら歩いていた。
歳は27ぐらいだろうか。
彼の名は『ゼイド』。ロゼの兄として生きている人。
幼少の頃から音楽の才能に恵まれ、今ピアニストとして最高潮を迎えていた。
この町で彼の名を知らない人はいない。断言しても良いだろう。
ピアノを弾かせればどんな堅物でも手を叩いて「ブラボー!」の一言を言わせてしまう。
人は彼をこういって褒め称えた。『神の手を持つピアニスト』
彼は、ロゼとは血がつながっていない。ロゼは親がどこからか預かってきた子供。
でも彼は本当の弟の様に可愛がった。
本当に可愛かった、今でも……。
でもその気持ちと裏腹にロゼをおそれる気持ちもある。
いつかは自分が殺されてしまうのではないかと。
そんな気持ちを抱き始めたのはゼイド15歳の時。
まだ3歳だったロゼをメイドに預け出掛けたときだった。
この日はピアノの発表会で、『トロイメライ』を弾いた。
成功したときは嬉しかった、家であんな事が起きているなんて知らずに。
家に帰ると、不思議といつもと違うような感じがした。
いつもロゼを抱えて出迎えてくれるメイドが来ないのだ。
「ただいま」
大きな声でそう言ったが誰も来ない。まさかと思い家の中に入ってみるとそこには真っ赤な血だまりが出来ていた。
「何だこりゃ…」
焦りながらも冷静になろうと、ゼイドは必死に自分に言い聞かせる。
『ここでパニックになってもしょうがないだろ』
電話を片手に警察の番号を押す。
「こちら○○警察署です。事件ですか?救急ですか?」
電話の相手はのほほんとした様子で聞いてくる。
「人が殺されている場所は……」
「判りましたすぐに行きます」
そう言って空いては電話を切った。意を決して俺はメイドの死体がある部屋へ向かう。
もう原形をとどめていない。この様子じゃロゼも……。
そう思ったとき赤子の泣き声がした。吐き気がしながらもメイドの死体を通り越し、血だまりに浮いているロゼを抱きかかえた。
「無事だったんだなロゼ……」
ゼイドは思いっきりロゼを抱きしめた。
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2007/05/31(Thu)15:12:24 公開 / ジャンク・アリアド
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■作者からのメッセージ
初めまして、ジャンク・アリアドです。
初投稿なので、色々と間違いが多いだろうと思いますが宜しくお願いします。
連載していこうと思っています。
ゆっくり慎重に分かりやすく書いていきたいとおもいます。
訳が分からないことがあったら、お申し付け下さい。
どうぞ、最後まで見てください。
宜しくお願いします。
なかなか更新が出来ず出来たとしても1行、2行ぐらいになってしまうと思いますが、ご理解頂けると嬉しいです。