- 『この美しい世界で』 作者:カルデラ・S・一徹 / 未分類 未分類
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原稿用紙約7枚
――――――――――――――――落ちていったそれは湿った大地に花を咲かせた。
見よ、縁側から見る世界の美しさ、誰もいない静寂を。
喧騒はかすみのようにかなたで木霊するだけ、この調和を侵すものはいない。
地に立つ草木は、何人にも妨げられることなくすっくと背伸びする。
極微の蟲を喰らう虫、さらに彼等をついばむ鳥に、あるいは地に墜ちた獣にたかる蟲。
絶対調和、世界の在るべく真実の。
美しい。
ただ一言で足りるだろう。
みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん、と。
うるさいほどの、日中だ。
やがて日が沈み、夜がきた。
夜行性の循環が始まる。
蒸し暑げな森林に揺れる影。
涼しげな清流を渡るのは銀ぎつね。青鈍色の道に沿って、獲物を探す。
ほうほう、と鳴いている。
大きく根を下ろす楠の枝に、梟が留まっている。丸いビーダマのような眼差しを闇の帳に向けて、羽ばたき、無音、滑空。
虫の鳴き声に耳を傾けるのもいいだろう。
今の季節、ちょうどスズムシが鳴いているはずだ。
りいんりいん。
遠く、あるいは近く。
りいんりいん。
月が出た。
真ん丸いお月様。
暗闇にうずくまる山々を、そうっと光のカーテンで照らしていく。
何もかもが、深く、しかし鮮やかに色放ち、自らを誇示する見せ付ける。
こんな日には、杯で、ぐいっといっぱいやれればいい。
銀世界へと踏み出そう。
足跡を残すのは、快感だ。
いまだ平原に立ち入ったものは無く。
雪が結晶の姿で、迎えてくれるはずだ。
誰かと一緒に雪だるまでも作ればいい。
息白く、頬を赤らめ、紅に染まった銀世界を、かじかんだ手でもつないで、家に帰ればいいだろう。
きっと晩御飯はシチュー。
ほっくほくのジャガイモを、たっぷり食らえばいい。
熱い風呂に身を沈め、明日のことを、考えればいい。
春は無い。
みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん、と。
また、鳴き出した。
夏秋冬夏秋冬夏秋冬夏秋冬……
たまに夏が二度続き
夏秋冬夏秋冬夏秋冬夏秋冬……
たまに秋が二度続き
夏秋冬夏秋冬夏秋冬夏秋冬……
たまに冬が二度続き
夏秋冬夏秋冬夏秋冬夏秋冬……
やがて家が老朽化して自壊した。
正面の道路は緑の絨毯と化し。
ほうほう、と鳴いている。
みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん みぃんみぃん。
誰もいない。
やがて日が沈む――――
三億年がたった。
世界は原始に回帰して。
あらゆる文明は露と消え。つわもの達が夢のあと。
そこへ、遠くオリオン星雲から客人が。
出迎えるものはなく、その必要もあるまい。
なぜならば、彼らは満足したからだ。
あぁ、なんと――美しいのか。
誰もいないというのにね。
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2007/02/07(Wed)16:04:20 公開 / カルデラ・S・一徹
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■作者からのメッセージ
カルデラ・S・一徹です。一徹が進化したものです。名前なんで気にしないでください。
それよりも本編。これはかなり前にうpしたものを、ちょちょいといじって再うpしました。というのも、読者の方々の感想から推察するに、どうやら小説(といっていいものかどうか不明ですが)のテーマが分かりにくかった、ともすると完全に分からないらしく、思いが伝わらないことを嫌う私としては、どうにか伝えなおしたいと思ったのです。
なので、再うpはずりぃよ、とか言わないでもらえるといいです。