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『太もものサイズ七十五cm』 作者:ライズ / お笑い ショート*2
全角2327.5文字
容量4655 bytes
原稿用紙約6.4枚
何もとりえがない。力がない。デブイ。そんな最悪な主人公。その主人公が、のりのフタによって生まれ変わり……!? これまでにないお笑い、ショートショート!!
 俺は体力がない。その代わりに脂肪がある。体力がなくても脂肪がある。昔から運動嫌いの俺。中学生になった時、プールも全部休んだし、マラソン大会も休んだ。部活は吹奏楽部。理由は運動をしなくてすむから。……でも音譜の読めない俺にはむいていなかった。ド、レ、ミ。どれがどれだか分からない……。きっと俺ほど馬鹿で運動オンチな男はいないだろう。女子と腕相撲やったって、十秒以内に負けちまう。……でも運動なんかしたくない。力なんてなくたっていいんだ。力がなくても生きていける……食べもん食って寝てりゃぁ生きてけるのさ、常識だよ。俺のお気に入りの言葉は『何とかなるさ、大丈夫』いつもこの言葉で何もかも乗り切ってきた。友達がいない時だって、『いつか出来るさ、大丈夫』弁当がない時だって、『帰ればあるさ、大丈夫』ご飯にかけるのりのフタを開けられない時だって、『力を出せば大丈夫』そうやって自分を励まして、ずっとずっと乗り越えてきた。……思えばこの我慢が、俺の悲劇を救ったのかもしれない。
 ……八月十二日。清々しい朝。いつものように服を十分もかけて着替える。なぜ十分もかかるのかって?ふふん、それはおなかをすかせるためさ。朝ご飯を食べるのを我慢する事で、食べた時のうまさが増す。弁当を忘れたって大丈夫なように、隣のおじさんが俺に教えてくれた事だ。これは案外使える。
「おぉ、ふっくらしてるねぇ、ご飯君! 君を今からデコレーションしてうまさを増してあげようではないか!」
 それはご飯にのりをつけることである。のりといっても、当たり前だが図工とかで使うのりじゃないし、あのおにぎりを巻くのりでもない。つぶしたのりだ。それをご飯にかけて食べる。俺にとっての常識である。これがなければ一日は始まらないと言っても過言ではない。
「ふぅ、のりはどこかな? 隠れても無駄だぞぉー……あ、あったあった」
 俺は机の上の紙のせいで見えなくなったのりの入った入れ物を落とさないように、身長にテーブルに運んだ。そして顔をにやつかせながらのりのフタを開けようとした。その時の俺の顔は、きっと動物が好きな物を見つけて狙っている時の顔と同じだっただろう。のりは、俺にむかって「早く食べて」と言って、体中をピカピカ光らせているように見えた。それに答えるかのように、のりのフタをつかみ、力いっぱいにフタを回した。
「あれ……フタが開かない……!!」
 何と、フタが開かなかった。俺は心に魔法の呪文を唱え、力いっぱいにフタを回す。……今回はいつもより手ごわく、なかなか開かなかった。……その時ふと思った。俺はのりのフタを開けられないほど、弱くなってしまったのか……。まさか、うめぼしのフタも開けなれないんじゃ……。
 予想通りだった。うめぼしも、きゅうりも、らっきょも、どれも開ける事が出来なくなっていた。これは俺に力が足りないせいなのか……。力がないからフタも開けられないし、女子に腕相撲負けるし、友達できないし、俺のギャグもうけないのか!? そうだとしたらやばいじゃん、俺!! どうにかしないと……今すぐに!!
 ……思えばのりのおかげで、俺に力がついたのかもしれない。
「……お、おじゃましまーす……よ?」
 俺が行ったのは、筋トレをするところ。百キロのバーベルをあげているマッチョばかりで、俺は驚いた。世界にはこんなにマッチョが存在したのか!? 肉の代わりに筋肉がついている!! ……はっきり俺はマッチョになりたくない。マッチョにならない程度で筋トレをしたかった。……中学生だけど。
「うす、お前か、筋トレをしたいって奴は、うす」
 マッチョをかきわけ、ひとたまりでかいマッチョが出てきた。……ただの汗臭いおっさんにしか見えないけど……汗が光って見える。ま、まぶしい!!!
「あ、は、はい」
 目をぱちぱちさせながら俺は答える。マッチョのおじさんは目を光らせた。
「お前はまず、百キロのバーベルの棒をあげとけ、うす」
「り、了解……」
「返事はうす、だ! うす!」
 何なんだここ……。俺はとりあえず「うす」と答えて、百キロのバーベルの棒を持っていた。……なんて重いのだろう。俺の力では無理だ。でもマッチョのおじさんが怖いので、とりあえず続けた。
 やっと一日目の筋トレが終わった。俺はもうやめよう、と思った時、後ろからマッチョのおじさんに肩をつかまれた。……ものすごい力で。
「明日もこいよ、うす」
 あまりの迫力に答える事も出来ず、結局明日もくるハメになった。あぁ、筋トレなんてやめとけばよかった。そう思い始めた次の朝……。
「や、やったぁぁぁぁぁ!」
 俺は嬉しさの声をあげた。何と……フタを開けれたのだ! 一日の筋トレでこんなにも変われるなんて!! 俺は嬉しくて嬉しくて、もう少しだけ頑張ってみようと思った……。俺の力が強くなって、うけなかったギャグも少しうけるようになったし、女子の一部に腕相撲で勝てるようになった。一日一日の変化が嬉しくて、毎日毎日筋トレをしに行った。
 ──そして高校生になった。筋トレはもう中三でやめてしまったが、家で筋トレを続けている。今では学校でギャグもうけるし、力も強いしで、すごく楽しい毎日を過ごしている。友達も増えた。すべてはのりのフタのおかげだ。のりのフタのおかげで俺は生まれ変われた。神様! いや、それ以上だ! 今の俺には怖い奴は誰もいないし、怖い物は何もない! ……いや、母ちゃんだけは怖いけどな。……高校生の今! 母ちゃんにけんかで勝てるくらい強くなるために、筋トレに励んでいる。……あと、太もものサイズを七十五cmからもうちょっと減らすために、ひそかにダイエットもしている。
2007/01/15(Mon)21:12:33 公開 / ライズ
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■作者からのメッセージ
ちょっと変な話ですね……すいません(え
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