- 『PRESENT FOR...』 作者:SAKAKI / SF ミステリ
-
全角3433.5文字
容量6867 bytes
原稿用紙約11.85枚
西部で暴れ回る強盗団が、ある神父との出会いをきっかけに不思議な力を得た。彼らはしだいに、兄弟・友人どうしで醜く争い始める。謎の神父に宿る不思議な力の秘密とは……?
-
アメリカ西部開拓時代。カリフォルニア州のハックマンというイギリス系移民の家で、彼らは『仕事』をしていた。
女性の悲鳴と共に銃声が聞こえて、音は何も聞こえなくなる。
「へへへ……」
革手袋に包まれた手で『ピースメーカー』と呼ばれるリボルバー拳銃を一回転させて、ホルスターに収めた長身のハンサムな男――ドイツ・オーストリア系だろうか――に、もう一人の男が後ろから近づいて話しかけた。
「ジュアン、そろそろ……」
ジュアンと呼ばれた男は驚いて振り向く。二人共、テンガロン・ハットを被っていた。
「ああ、ジーク。そろそろ行くのか?」
安堵の溜め息をもらした彼は、自分の弟に聞いた。ジークと呼ばれた男も、拳銃をホルスターに収める。
「おう、急ごうぜ」
グレーの瞳を輝かせて、端整な顔のジークは先に走り出した。
がら空きの馬小屋に繋いである、自分達の茶色い愛馬に飛び乗った彼らは、ジュアンを先頭に馬を急がせた。
「結構あったな……、あのジジイの家はよ」
金の擦れる音を聞いたジュアンは振り向いた。馬の尻に鞭を打つ。
「ああ、これで何日かは仕事しないで済むな、兄貴!」
ジークは満面の笑み。
「おうよ!」
ガッツポーズに腕を固めたが、危うく落馬しそうになってしまった。
「危ねぇ……」
額の冷や汗を拭った彼だが、前に突然現れた人影に驚いて急停馬。
「おい、邪魔だ。どけよ!」
ジークが大きな口で叫ぶ。くせのためか、高い鉤鼻が更に高くなる。
彼らの前に現れたのは……
だいぶやつれ気味の神父だった。
彼は二人に話しかける。
「黙れ。少しは聞き分けのありそうな、前の男に聞くがいいか?」
しわがれてはいるが、妙に迫力のある声の老いた神父は囁く。
「何だ?」
大きな目を見開き、威圧するかのようだった。
「お前達は、何のために略奪を働く?」
ジュアンはきょとんとした顔をする。
「何を言いやがる、俺達は――」
「いい、ジークは黙ってろ」
手を彼の前に出し、制止する兄。
「俺達はな、生きるためにこんなことをしてるんだ。人を殺し、金目の物は全部頂く。それを売り捌いた金で、何日も何日も生き延びてきた」
それを聞いた神父は、手を口に当てて一瞬、考えた。
「では、そのために、こんな力はいかがかな?」
神父は目を見開いた。そして、その目が白い輝きに包まれた。視線の先には、大木がある。
「そんな……バカな!」
ジークが叫ぶ。
だが、叫ぶのも無理はない。
何てこった……木が、木が根こそぎ消えちまった。
「どんな細工しやがった?」
ジュアンがピースメーカーを抜き放ち、撃鉄を引きながら神父に向けた。
「ふ……ちょっとした超能力さ。ちゃんと覚えさえすれば、君達にも使いこなせる」
神父は彼らと目を合わせた。なぜか、威圧的な感じがする。
「これが……欲しいか?」
手を差し伸べる。二人共、黙ったままだ。だが、拳銃はホルスターに収めていた。
「何かの……罠じゃないだろうな」
彼は弟と話し合いを始めた。神父は、冷厳そうな目を彼らに向けている。
「ああ、俺もそう思うぜ」
ジークは、無精ひげを撫でていた。
「そうだな、でも……」
「あの力が手に入れば……」
二人は拳を突き合わせる。
「その能力……俺達にも分けてくれ」
それを聞いた神父は微笑んだ。怪しく、北叟笑むかのように。
「では、私の手に君達の手を乗せろ」
差し伸べられた手に、彼らは自分の手を乗せた。
「これでいいか?」
神父の目は、ジュアンの目と合った。
「いいぞ。それでは、目を閉じなさい」
神父の言に従い、彼らは目を閉じる。神父の目が再び輝き出し、彼らの手も輝き始めた……
「終わりだ。これで、私の力の一部が使えるようになったはずだ」
「一部?」
ジークが聞き返す。
「そうだ」
神父は答える。
「何でだ?」
彼の問いに、神父が答えることはなかった。
「さて、試しにやってみるか」
それを聞いていなかったかのように有頂天のジュアンは、神父の向こう側にある三本並んだ大木のうち、真ん中の大木を見つめる。ジークがその後を追って、神父を追い越した。
目に力を込める。神父がやったように。
目の前が真っ白になり……
再び視界が戻ると、左側の木が消えていた。
「まだ訓練が必要、ってことか? 神父さんよ」
彼は振り向いたが……そこに神父の姿はない。だが、森の中で轟くような声が響く。
『それを上手く使えれば……人間の真価を試せるぞ』
意味がわからない、ジークは思った。
「何だったんだ?」
弟もわけがわからないようだ。
神父も、あの大木と同じように消え去ったのだろうか……
二人は気付く由もなかった。
この能力こそ、滅びの門への鍵だったということに……
――グッバイ、マーシャル――
とある街に二人は立ち寄った。西部劇さながらの街風景だが、どこか寂しげだ。
「おうおう、誰もいないじゃねぇか」
ジークがゆっくりとホルスターに手を置き、馬から下りた。
「俺達がいるからだろ」
兄はピースメーカーを抜き出す。路地裏にたむろす彼らの仲間が出てきた。
「おう、メルと……そいつは?」
大男といった風体の男が、メルと呼ばれた軍人ような男の後ろにいた。
「こいつぁ、俺がこないだ見出してきた新しい仲間だよ。これで――」
「九人だ」
ジークが遮る。
「俺の名前はファリスだ」
大男は名乗った。片言の英語だが、聞き取れないわけでもない。
「ファリス……悪魔みてぇな名前だな」
ジュアンがクックと笑う。
「あ……くま?」
意味がわからないようだ。
「まぁ気にすんな」
メルが大男の肩を叩く。肩を叩いたつもりなのだが、ほとんど二の腕。
「わかった」
彼らがしばらく談笑していると、誰かが近寄ってきた。
「おい、貴様ら」
両方の腰にホルスターを提げて、それには大柄の拳銃が一挺ずつ収められていた。
「保安官さん、ごきげんよう……」
メルはテンガロン・ハットを手に取り、恭しくお辞儀する。
「ふざけるな。貴様らのお蔭で、町民が家から外に出れないんだ。今すぐここから立ち去れ」
保安官は、抜き放った二挺拳銃をその両手に握っていた。
「そんなこと、すると思って――」
気付けば、周りにはショット・ガンやリボルバー拳銃を手に取った町民が集まっていた。
「町民も、限界に来ているんだ。もう一度言って、立ち去らぬというのなら……」
両手に握られたリボルバーの撃鉄を、保安官は引いた。
またジュアンがクック、と笑う。
顔色を変えた保安官とメルが、彼に目を移す。
「どうした?」
「俺が……滅ぼしてやるよ」
大きな口が更に広がるかのようだ。目が……輝き出す。保安官はくぐもった声を上げた。自分の首に手を当てる。
ジュアンがゆっくりと保安官に近づくが、彼の動きに合わせるかのように、町民もゆっくりと後ずさった。保安官は動かない……いや、動けなさそうだ。
彼の手と腕も輝き出して、その手が保安官の身体を……通過する。筆舌に表しがたい断末魔と共に、保安官の姿は吸い込まれるように消えてしまった……
「グッバイ、マーシャル」
ジュアンがキザったらしく呟いた。
「う……うあああ!」
発狂した男の町民がリボルバーを発砲したが、狙いが定まっていないためか、銃弾はジュアンの身体を逸れていく……
彼の高笑いが、町中に響き渡り、自分愛用のピースメーカーをホルスターから抜いて、銃弾を放った。その銃弾も、奇妙な輝きに包まれて、白い弾道が見えるくらいだった。
それなのに、メルやファリスに驚いた様子はない。
「やっちまったな」
メルは呟く。
「ああ……やっちまった」
ジークが呟いたが、友人の盗賊の中性的な顔を見る。
「何で……?」
彼の顔は、まさか、という恐怖にすり替わった。
メルの視線が大きな小屋に注がれ、彼の目も輝き出した……
――トレジャー――
大雨が降りしきる中、彼ら盗賊団は宝目当てに新たな屋敷に乗り込んだ。警備は誰もおらず、老いた夫妻が住んでいるだけだった。
「バアさん、覚悟してくれ。俺達も仕事なんでな」
引金を引いたファリスは、血の飛び散った寝室を見渡した。
「ここかな……」
他の同業者の話によれば、夫妻の家には地下室があり、そこに多くの財宝が保管されているらしい。
-
2007/01/13(Sat)12:30:28 公開 / SAKAKI
■この作品の著作権はSAKAKIさんにあります。無断転載は禁止です。
-
■作者からのメッセージ
今度は戦争モノから一転して、ミステリに挑戦してみました。
あなたの想像を超える、奇怪なストーリーになるかもしれません(嘘つけ