- 『胸に痛く、痺れた 1』 作者:灰田 / リアル・現代 恋愛小説
-
全角2054.5文字
容量4109 bytes
原稿用紙約6.4枚
最愛の恋人を無くした由紀。全てが嫌で絶望の淵に立っていた彼女の前に現れたのは、恋人の二卵性双生児の弟だった・・・。破天荒で自由気ままな弟に降りまわされながらも、しだいに信頼感を持つ由紀。恋人うりふたつの弟に次第に心奪われる由紀だが…。
-
隆志と一緒に死ねれば良かった。
そうすれば、孤独を味わう事など無かったし、変な焦燥感に刈られる事も無かった。隆志とずっとぬくぬくと愛を育めたかもしれないのに。天国で。
まだ真新しい隆志の墓の前に立ちすくみ、どこからか来る風が私の髪の毛を揺らす。お墓はそっと触れるとヒヤリと冷たくて、まるで隆志の指先みたいだ、とまた独り思い出に浸ってしまった。
人って簡単に死んでしまうのだ。あんなに大きく、立派で、常に私の一番に輝いていた隆志も、大型ダンプカーの前になってしまえば無力なのだ。結局そんな物なのだ、所詮人なんて。
体の損傷が酷く、結局私は最後まで隆志の亡骸は見れなかった。隆志の両親が、「見ても由紀ちゃんが傷つくだけだから」と一点ばりで私が見るのを必死に阻止した。きっと私の為にしてくれたその考え、その行為は、余計私をイライラさせ、余計に隆志の存在を恋しくさせた。
どんなに酷くグチャグチャでも、私は受け入れたのに。
隆志はスーツの似合う男で、いつも私はその姿に心奪われていた。隆志は笑うとエクボは出て、背の高い隆志の胸に頬を寄せ、心臓の音を聞くのが何故か溜まらなく好きだった。
常に私の光だった隆志。なのに、こんなにも簡単にいなくなってしまうだなんて。
親族は全員帰ってしまった。先程までは、黒い身なりの人でいっぱいだったこの場所も、私一人になれば殺風景で寂しい所なんだな、と思った。
皆帰ってしまったが、私だけは最後まで残っていた。離れたくなかったのだ。ただそれだけだった。
「隆志、痛かったよね。」ずっと撫でている目の前の墓を必死に隆志に見たてて私は話しかけた。
「あたし、限界だよ。隆志のいない人生なんて、ありえない」胸が一杯になり、喉が痛かった。俯き、これが夢ならばどんなに幸福なのだろうか、などと考えながら私はずっと隆志に話しかける。
そういえば、こんな事あったよね、とか、昔の事を意味も無く繰り返す。そんな事したって、隆志は帰って来ない。そんな事重々承知なのに。
じゃり、と靴音がして、ふりむく。私は一瞬、思考が停止した。隆志が後ろに立っていたのだ。
すぐに立ちあがり、隆志に近づく。
「隆志、隆志、会いに来てくれたの?そうよね、全部嘘なのよね」 隆志の頬を撫でながら私は涙を流した。ぼろぼろと、わあわあと。
しかし隆志は私の腕をそっと掴み、凄く悲しい顔をした。「隆志じゃない、竜太だよ」
私はハッとして表情を強張らせた。私の前にいたのは隆志ではなく、隆志の二卵性双生児の弟の竜太だった。
顔が真赤になるのを感じる。恥ずかしい、ただそれだけだった。
「俺達、そっくりだからね」すっと私の横を滑りぬけ、竜太君は隆志の墓の前にしゃがみ、手を合わせた。
竜太君が着ているスーツには鮮やかな水色の絵の具が少し付いている。竜太君は画家をしていて、良く海外などに行っている。ここ最近もずっと海外で、隆志の死を知ったのも最近らしく、告別式にも来なかった。
竜太君のそういういい加減な所が私は大嫌いで、いつもへらへらとしている竜太君が苦手だった。というか嫌いだったのかもしれない。
隆志が真面目で誠実で優等生タイプな分、竜太君の破天荒で自由奔放な姿は悪い意味で際立っていた。いつしか、隆志が「竜太がダメだから、親の期待は全部俺に注がれてたなぁ」と漏らしていたことを思い出した。
そのせいで隆志が昔から辛い思いをしてたのも知ってたから、余計に竜太君が嫌いになっていっていた。
「今日,抜けられない用事が会って、今来たんだ。由紀ちゃんがいなかったら隆志の墓分からなかったよ」
自嘲的に笑う竜太君。抜けられない用事ってなんだったのだろうか。ぼんやりとそんな事を思いながら、竜太君の茶色い頭を見ていた。「今日は静かなのね。いっつもちゃらんぽらんしてて、うざったい位なのに。遅れる位なら、来なくても良かったわ」
私はわざと勘に触るような事を言った。怒って、先程の失態も、今までの私の竜太君への態度も全て責めて欲しかったのだ。
でも竜太君は何も言わず、ずっと手を合わせていた。「何か言いなさいよ」責める口調になるつもりが、弱弱しく、今にもおれてしまいそうな声になった。
「いつもは俺、大人らしく無いから、こういう時くらいは普通でいなきゃいけないと思うんだ。」
私を見上げ、竜太君は至極真面目な顔を私に向けた。その顔は、まるっきり隆志そのもので、私はまた胸がきしきしと痛くなり、呼吸が狭まる気がした。
寒い風が通りぬけた。竜太君の耳には、銀色のピアス。あ、シャツにも微妙に絵の具がついている。
「由紀ちゃん、俺が嫌いなのは分かるけど、今の由紀ちゃんの悲しい心をこれ以上黒くしちゃ駄目だ。」
まっすぐな眼。形の良い唇。竜太君全てが「隆志」なのだ。
私はふとかんがえてた。この人はある意味隆志に一番近い存在なのだ、と。
新しい風が来るのか、空の奥から低い重低音が聞こえる。
-
2006/12/11(Mon)15:00:53 公開 /
灰田
■この作品の著作権は
灰田さんにあります。無断転載は禁止です。
-
■作者からのメッセージ
今日は,初めまして。灰谷と申します。
初めてなので、見苦しい点多々あると思いますが、
どうか宜しくお願いします。