- 『十月十日の夢』 作者:JKD / ショート*2 未分類
-
全角5895文字
容量11790 bytes
原稿用紙約20.8枚
僕は俊介。僕には彼女がいる。彼女の名前は楓。
楓と付き合うことになったきっかけは、友達の哲也の元カノだったから。
哲也がまだ楓と付き合ってる時に、紹介してくれたのがきっかけで楓と友達になった。
その後すぐに哲也が楓と別れたのを知った。
振ったのは哲也の方だった。
最初はなぐさめのつもりで優しく接していたんだけど、次第に僕は楓を好きになっていた。
そして、僕と楓は付き合うことになった。
楓と一緒にいる時間は人生最高に楽しい時間だ。
ずっと二人で一緒にいたい。そう願っていた。僕も、楓も。
お互い付き合った時と想いは変わらずに、時は流れていった。
あるデート前日の夜。
僕は次の日がデートなのに中々寝られなかった。
いつも通りのデートなのに、何故かすぐに寝付けなかった。
緊張しているわけではない。
僕は寝れないので、楓と付き合って何日たったかを数えた。
すると、明日で十ヶ月と十日だった。
僕は十と十で良い日だなあと思った。
そしていつの間にか眠ってしまった。
次の日
僕は初めて寝坊をしてしまった。
デートの時間まで、あと十分しかない。
僕は急いで着替えて、急いで待ち合わせ場所まで走った。
だけど走っても待ち合わせ場所に着かない。
死ぬ気で走ってるのに前に進まない。
むしろ待ち合わせ場所が遠くなっていく。
楓がどんどん離れていく。楓がいなくなっていく。
僕は走るのをやめて、その場で泣いてしまった。
「ねえ、あなた。この子の名前決まった?」
「ん〜…。俊介っていうのはどうかな?」
「俊介。良い響きだわ。俊介にしましょう」
僕はその会話を聞いていた。
僕は夢を見ていたんだ。
お母さんのお腹の中で長い夢を見ていたんだ。
そう、それは十月十日の長い夢。
でも僕の夢はこれで終わりじゃなかったんだ。
僕はその後元気に18歳まで育っていったが、十月十日の夢のことはすっかり忘れていた。
「おい、俊介聞いてるのか?」
「聞いてる聞いてる」
「その反応は聞いてないだろ」
「わかったよ。それで、いきなりなんだ?」
「あのさ。俺、彼女出来たんだよね」
「…マジで?」
「そんな嘘いわねえよ」
「まあ哲也はモテるから珍しくないか」
「それでさ、俺の彼女今度紹介するから借金チャラにしてくれよ」
「ん〜…、紹介って言ってもお前の彼女だから手出せねえしな」
「そこんところ頼むよ」
「まあ1000円ぐらい良いか。俺はバイトしてるからな。お前と違って」
「俺はバイトしたくても出来ねえの!」
「まあ、彼女いたらバイトする暇ないもんな」
「そうそう、わかってんじゃん」
「じゃ、俺はそろそろバイトだから行くわ。紹介すんの忘れんなよ」
「わかった。じゃあバイトがんばれよ」
「お前もそろそろ働いた方が良いぞ」
「俺のことは良いから、早く行かないと遅れるぞ」
「おっと、そうだった。じゃあな」
哲也は格好いいわけではないが、女にモテる。何故だか俺にもわからん。
そんなことはどうでも良く、俺は少し早足でバイト先に向かった。
数日後
「こいつが俺の彼女の楓だ」
「どうも、初めまして。哲也の友達の俊介です」
「おい、俊介もしかしてあがってんのか?」
「そんなことねえよ」
「楓。こいつが小学校からの腐れ縁の俊介」
「名前はもう言ったからもう良いだろ」
「………」
さっきから彼女がしゃべってないのに気づいて俺は哲也に合図を送った。
「あ、楓もしかして緊張してる?」
「………」
哲也が話しかけても全然しゃべらないので、俺は哲也を呼んで二人で話した。
「お前もしかして、あの子無理矢理つれてきた?」
「いや、この前お前と会った時はもう楓にはOK取ってたぞ。今朝も確認取ったし」
「そうか。じゃあしゃべんの嫌だったらメアドだけ交換して解散しても良いぞ」
「わかった。言ってみるわ」
どうやらOKらしく、彼女とメアド交換したあと家に帰って昼寝をした。
起きた時にはもう20時をちょうど回ったところだった。
携帯を確認すると、彼女からメールが3件入っていた。
1件目
「先ほどは本当に失礼しました。こんな私なんですけど馴れたら話せるようになると思うんで、友達になってくれませんか?」
2件目
「今忙しいのかな?さっきの事怒ってるならごめんなさい」
3件目
「私のこと嫌いなら一言メールください…。20時までにメールが来なかったら、もう私からメールはしません」
俺はこのメールを見た瞬間に返信した。
「ゴメン昼寝してたんだ。会った時にしゃべれなかったのは、緊張してたからでしょ?俺も緊張してて、あんまりしゃべれなかったから全然気にしてないよ」
1分もしないうちに彼女から返信が帰ってきた。
「昼寝してたんですか。何度もメールしてすいませんでした。私とお友達になってくれますか?」
「全然OK。いつでもメールしてくれて良いからね」
「ありがとうございます。それじゃあまたメールしますね。おやすみなさい」
「おやすみ」
メールが終わり腹が減ったことに気づいて、飯を食べてまた寝た。
「あ、楓ちゃんからメールだ」
バイトが終わってメールに気づいた俺は、急いで返信した。
「ゴメンゴメン、バイトだったからメール返せなかったよ」
「俊介さんバイトしてたんですか?偉いですね。私なんて全然働いてないのに」
「まだ高校卒業したばっかだから大丈夫だよ。焦らない焦らない。哲也とはうまくやってる?あいつと最近連絡取ってないんだよね」
「俊介さんは優しいんですね。ありがとうございます。すいません、私ちょっと用事あるんで後でまたメールしますね」
俺はこのときまだ楓の異変に気づくことが出来なかった。
いや、まだこのときは真剣に楓のことを見ていなかった。
真実を知ったのは、それから数日後だった。
哲也と久しぶりに遊ぶことになり、何気なく楓のことを聞いた。
すると哲也は激しく取り乱した。
そこで俺は詳しく聞いてみると、楓とは1週間以上も前に別れたとのこと。
そう、俺に楓を紹介してから1週間もしないうちに別れていたのである。
そして最後に「俺が振ったんだ」と静かに一言だけ言った。
俺は何で哲也が振ったのかわからなかった。
まあ、カップルには他人にはわからない何かがあるんだろう。
俺はその日の夜、楓にメールをした。
「俺バイト先の店長がうざくてさあ、辞めようと思ってるんだよね」
「辞めたらダメですよ。私俊介さんのことちょっと尊敬してるんだから。大変かもしれないけど乗り越えなきゃ」
「そうだね。変なこと言ってゴメンね。楓ちゃんも何かあったら何でも言ってね」
「ありがとうございます。俊介さん頑張ってくださいね」
「うん頑張るよ。それじゃあおやすみ」
「おやすみなさい」
ちょっと不自然だったが、これでいいだろう。
俺なりのなぐさめみたいなものだな。
地味に達成感があった。
俺はこの後すぐに布団に入って寝た。
その後も楓とはメールのやりとりをしたが、楓から俺に哲也のことを言うことはなかった。
もちろん俺も哲也のことは聞かなかった。
そして最近は楓もやっと馴れたのか、メールの文章もタメ口になっていった。
そして、楓とメールのやりとりをしているうちに俺の心に変化があった。
それは、楓のことを慰めているつもりが、楓に対して愛情を持ってしまっていた。
楓は普通に顔も悪くないし性格は良い。
好きにならない方がおかしい。
そして俺は決意した。
「今度どっかに遊びに行かない?実際俺ら会ったのって一回しかないからさ」
「そうだよね。じゃあどこにする?」
「じゃあ今度の休みに俺の家来る?」
「良いの?じゃあお邪魔するね」
「わかった。じゃあ今住所送るね」
「うんわかった」
すんなり話しが進んだので何か変な感じだった。
でも覚悟を決めてその日を待った。
ピンポーン
ドアを開けるとそこには楓が立っていた。
「ゴメンね。ちょっと遠くて迷ったの」
俺は迎えに行くのを忘れていた。
迎えに行くという事は最初から言ってなかったが、普通は男が迎えに行くのは当たり前である。
告白しようと決意をしていたのに最初から失敗してしまった。
「俺の方こそゴメン。俺が迎えに行けば良かったのにね。ほんとにゴメン」
「いや、謝らなくて良いよ。私が迷ったのに連絡しなかったからさ」
「じゃあとりあえず上がってよ」
「おじゃましまーす」
「あ、誰もいないから大丈夫だよ」
「えっ、一人暮らしなの?」
「いや、親に友達が来るからちょうど出かけるように言っといたの」
「なんかゴメンね」
「お互いに謝るのやめようよ」
「そうだね。さっきから二人とも謝ってばっかだね」
「俺の部屋行く?俺の部屋嫌だったら居間でもいいよ」
「じゃあ俊介さんの部屋行きましょうよ」
相変わらず俺のことはさん付けである。
俺は2階の俺の部屋に連れて行った。
「じゃあそこら辺で待ってて、お茶持ってくるから」
「はい…」
俺の部屋で女の子と二人っきりって言うのも変な感じだな。
まだ彼女じゃないのに。
しかも、かなり緊張してきた。
緊張で手が震えていたせいか、コップを落として割ってしまった。
ガシャーン
「大丈夫ですか!」
いきなり楓が出てきたのでビックリして後ずさりしてしまい、ガラスの破片が足に刺さってしまった。
「イタッ!!」
「そこから動かないでください。今ガラス拾いますから」
「ゴメンね。来てもらってこんな事になって」
「いえいえ、でも何かこういうのって夫婦みたいで良いですね」
「!!」
楓からそういう話が出るのは意外だった。
俺はその言葉でさらに緊張してしまった。
「あの、掃除機はどこですか?」
「え?え〜と、え〜と掃除機は無くて、ホウキしかないんだ」
「え〜と、あっ!ありました。後は細かいやつだけですからもうちょっと待ってください」
「うん、ありがとう」
「………」
「………」
「はい、終わりましたよ」
「………」
「どうしたんですか?もう大丈夫ですから部屋行きましょうよ」
「………」
「あっ!わかった。足にガラスが刺さってましたもんね。じゃあそのまま座ってください」
俺はその後も無言で彼女の言うことに従った。
というより、緊張でしゃべることが出来なかった。
「はい、ガラスとれましたよ。後は消毒だけですからね」
「!!」
「あ、痛いですか?ちょっと我慢してくださいね」
「………」
「はい、終わりました。これで完璧ですね」
「あのさ」
「はい?」
俺はいきなり楓を抱きしめた。強く抱きしめた。
「ちょっと、いきなりどうしたんですか?」
「俺はお前のことが好きなんだ」
「えっ!?」
「おかしいかもしれないけど、好きなものは好きなんだ」
「なんでもっと早く言ってくれなかったの?」
「最近好きだって気づいたんだ」
「離れてよ」
「!?」
「離れてってば」
「ゴメン…」
俺は終わりだなと思った。
でも、楓が言いたかったのはそんな事じゃなかった。
俺がガッカリしながら楓を離すと、何かが起きた。
俺の唇が温かく包まれている。楓の唇が俺の唇を覆ってる。
その瞬間、俺たちの周りだけ時間が止まった。
静かだった。
その数秒が一瞬にも感じられたし、永遠にも感じられた。
非常に短く、そして長い時間だった。
「ねえ、部屋行こう」
「うん」
部屋に行ってまた激しいキスをした。
俺は胸に手を伸ばした。
「ダメ!!」
「えっ、ゴメン」
「今はまだダメ…」
「うん、ゴメンね…」
「いや、謝らないで。いつか必ずやらせてあげるから」
「うん、わかった」
そこにタイミング良く親が帰ってきた。
「私そろそろ帰るね」
「あ、送っていくよ」
「うん」
親に女の子だとバレるとややこしいので、親にバレないように外に出た。
二人とも無言で歩いていた。
「じゃあここで良いよ」
「なあ、俺たちって恋人で良いんだよな?」
「当たり前でしょ」
「うん………じゃあな」
「じゃあね」
楓は別れ際にもう一度キスして帰って行った。油断して家に戻ると、親にバレてしまった。
親に楓のことを説明して自分の部屋に行った。
俺はベッドに倒れた。
部屋にはまだかすかに楓の匂いがする。その匂いで俺は一瞬にして眠りに入ってしまった。
ずっと二人で一緒に居たい、そう願っていた。俺も、楓も。
お互い付き合った時と想いは変わらずに、時は流れていった。
あるデート前日の夜
俺は次の日がデートなのに中々寝られなかった。
いつも通りのデートなのに、何故かすぐに寝付けなかった。
緊張しているわけではない。
俺は寝れないので、楓と付き合って何日たったかを数えた。
すると、明日で10ヶ月と10日だった。
俺は無意識に10が並んでるので明日は良い日になりそうだなと思った。
そしていつの間にか眠ってしまった。
次の日
俺は初めて寝坊をしてしまった。
デートの時間まで、あと十分しかない。
俺は急いで着替えて、急いで待ち合わせ場所まで走った。
だけど走っても待ち合わせ場所に着かない。
死ぬ気で走ってるのに前に進まない。
むしろ待ち合わせ場所が遠くなっていく。
楓がどんどん離れていく。楓がいなくなっていく。
俺は走るのをやめて、周りを見渡した。
すると、自分の死体が転がっている。
そして十月十日の夢を思い出した。
あの夢はこのことを言いたかったんだと一瞬で感じ取れた。
楓がいる。俺のそばに立っている。
中身のない抜け殻の俺のそばに立っている。
楓がどんどん遠くなっていく。
「ねえ、あなた。この子の名前決まった?」
「ん〜…。俊介っていうのはどうかな?」
「俊介。良い響きだわ。俊介にしましょう」
俺はその会話を聞いていた。この会話を聞くのは二回目だ。
そしてこの二人は俺の親だ。
でも俺は今まで何を見ていたんだ?しかも赤ちゃんなのに今自分の意志がある。
「何を見ていたのかって?」
「教えてやろうか?」
親父もお袋も何を言ってるんだ!?
「それは十月十日の地獄さ」
「お前は下界で最も重い罪を犯した」
「だからあの世がお前に裁きを下した」
「それが十月十日の地獄だ」
「これは永遠にループし続ける人生」
「お前はこれからもずっと同じ事を繰り返すんだ」
「そして確実に最愛の人と別れることになる」
「これ以上の苦しみはないだろう」
「そしてもう一回眠った時に、この記憶は消される」
「じゃあな俊介」
「十月十日の夢を永遠に………」
-
2006/12/09(Sat)00:06:52 公開 / JKD
■この作品の著作権はJKDさんにあります。無断転載は禁止です。
-
■作者からのメッセージ
これが今の自分の最高の小説だと思います。
厳しい意見を参考に、これからも精進していきたいと思います。