- 『天国へ送る』 作者:コーヒーCUP / ショート*2 未分類
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全角4855文字
容量9710 bytes
原稿用紙約14枚
両親が死んで一ヵ月後、私は両親に手紙を書き、それを風船に結んで飛ばした。しかし、その手紙の返事がきた。
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両親が死んで、もう一ヶ月もたった。あまりに悲しみに、時が流れていくのを感じる事さえ忘れていた。それに忙しかったのもあり、今になって一ヶ月たったと聞いて、ああ、もうそんなに経つのか、と思っている。
一ヶ月前、あまりに突然に、両親は死んだ。死んだ日の朝までいつも通り優しく、暖かかった。朝ごはんを三人で食べたのも、まるで昨日の事のように覚えている。それなのに、両親は死んだ。その日、両親は二人で買い物に出かけていた。私は学校でいけなかった。学校サボって行こうかな、と両親に漏らすと叱られた。そう私は両親に助けられたのだ。
買い物に行った両親は、歩いて横断歩道を渡っていたそうだ。もちろん信号は青で、歩行者が歩いて、車は止まらなければならない。それなのにだ。両親が歩いていた所に、ワゴン車がつっこんだ。……即死だったそうだ。
私は丁度その頃、学校で五時間目の授業を受けていて、五時間目の授業が終わった所で教室に血相を変えて入ってきた教師から事の経緯を聞き、混乱した。すぐに早退し、両親が運ばれた病院に学校が呼んだタクシーで向かった。
病院には、すでに兄がいた。私たちは霊安室とかいう、死体を入れている部屋に案内された。そして、今朝とはまるで違う両親の姿を見た。
打ち所が悪かった――と医者は言った。どこかで聞いたような言葉だが、いざ言われてみると、ここまで重い言葉なのかと思うほど、重い言葉。
私は、暗い霊安室で、顔に白い布をかぶせられた両親の腕を握った。今朝は暖かく、気持ちよかった。それが、今は違った。冷たく、重かった。私は、泣いた。かすれるような声で、声がかれるまでないた。私の横にいた兄は、私の肩に手を置いてくれた。その手は暖かく、生きている感触がした。兄は私に、泣け、とか温かい言葉をかけてくれたが、そんな兄の声も涙声だった。
それから葬儀などが続いたが、それらは全て祖母がやってくれた。
それから一ヶ月がたった。私は自分の部屋の机で、ピンク色の小さな紙に、両親への手紙を書いていた。 あて先も、返事も返ってこない手紙。そんな物を書いてどうするかと聞かれても、なんとも答えられない。ただ、書かずにはいられない。
時計を見ると、夜の二時を回っていた。部屋は暗闇にしているが、机のスタンドライトだけつけていた。机の上に置いたピンクの紙を見つめる。そしてシャーペンを持って、手紙を書き始めた。
『前略、お母さんにお父さん、元気ですか?
私は、身体的には元気ですが、お父さんやお母さんが死んだショックから、未だに立ち直れません。弱い子だと、思うでしょうか? 兄はすでに会社に通い始めました。いつも私の学校生活のことなどを聞いてきたりと、すっかりお母さんやお父さんの代わりになろうとしてくれます。それはとても嬉しく、感謝しています。同時に、自分と同じ心境にいるのに現実を受け止めている兄は、とても強く頼もしいです。そして、そんな兄に比べると、私はなんと弱いのかと、笑えて来ます。
お父さんとお母さんを殺した犯人は、今は刑務所の中です。とっても恨んでいます。警察の人の話だと、七年もすれば、刑務所から出てくるそうです。悔しいです。
……私は、今、自分がどうしたいのかわかりません。もし良かったら、アドバイスなんかくれないか』
そこまで書いた所で、紙は字で埋まり、それ以上は書けなくなった。そしてシャーペンを置き、その手紙を読み返す。……馬鹿だな、私は、と思った。死んだ両親に相談などしてどうする? 返事など返っててこないに決まっている。
私は自分の情けなさに落胆する。
部屋に風船があると気が付いたのは、手紙を書き終えてから三十分ほどたってからだ。そういえば昼間に駅前に行ったときもらったんだ。
私は急いで部屋のなかでプカプカと浮いている風船の紐を掴んだ。そしてその紐に先ほどの手紙を四つ折りにして結んだ。これで完璧なはずである。
私は音を立てないように雨戸と窓を開けた。窓の外には永遠に続く夜空が広がっていて、冷たい風が吹いていた。私はそんな外の世界に、手紙を結んだ風船を投げ込んだ。普通に言うと、窓から手を出して、風船を離しただけである。
風船は夜空にプカプカと浮きながら、どこか遠くへ行った。それを見送った後、私は雨戸と窓を静かに閉めて、そして眠りについた。
私宛の手紙が届いている事に気が付いたのは、朝、新聞をとりに行ったときであった。まだ六時半で、外は薄暗く、肌寒かった。そんな中で、私は新聞をとって、少しだけ外で一面記事を読んでいた。ふとポストに目をやると、茶色の便箋が入っていた。
それを手にして、便箋の表を見てみると、私の名前が書かれていた。私宛の手紙――。変な想像をしている。
裏を見てみても差出人はかかれていない。私は便箋をあけた。中には紙一枚が三つ折りなって入っていて、それ以外は何も無かった。その紙を取り出して読んでみた。紙を開くとそこにはこう書かれていた。
『前略 元気ですか? 私たちは元気です。手紙くれて、ありがとう。天国にいる私たちはあなたの手紙を本当にありがたく思っている。』
手紙はまだ続いているが、ここまで読んだだけで私は放心状態になった。
まさか、ありえない。そんな事が、起きるはずがない。私はまだ書いてある手紙を読まずに、手紙の裏側を見た。そこには父と母の名前が書かれていた。私は、頭の中が真っ白になるのを感じていた。
しばらく、その手紙を持ったまま、立っていた。そうしている間に向かいの家の男子の同級生が朝の日課のマラソンから帰ってきて珍しく挨拶してきたり、犬を散歩に連れて行く人たちなどが軽く挨拶してきた。私は、挨拶を返す事ができなかった。
自室に戻り手紙を読み直す。私の手はまだ少しだけ震えていた。
『前略 元気ですか? 私たちは元気です。手紙くれて、ありがとう。天国にいる私たちはあなたの手紙を本当にありがたく思っている。
あなたが悩んでいるなら、お兄さんにでも相談しなさい。彼は強い子です。でも、あなたも強い子です。なので、私たちがいなくなったからといって、元気をなくさないで下さい。私たちは、天国であなたの事をい見舞っています』
手紙を読み終わったところで、涙がでた。涙腺が決壊し、大量の涙が噴出してきた。私はそれをそでで拭きながら、しゃっくりを上げていた。もう一度手紙を読み直そうとした。しかし、涙が出ていて、ぼやけて読めない。
一滴の涙が手紙の上におちて、一つの斑点が手紙の上にできた。
私は手紙を送り続けた。方法は手紙を書いて、それを風船に付けて夜空に飛ばすという方法だ。私は両親から来る手紙に返事を書き続けた。一ヶ月ほど、手紙のやり取りを繰り返していた。しかし、ちゃんと分かっていた。
――死者が、手紙を出せるはずがない。つまり、両親が私に手紙なんて送れるはずがないのだ。やはり、こういうことだろう。
誰かが、私の手紙を読み、両親のフリをして返事を書いている。これしか考えられない。犯人を突き止めるべきか、突き止めにべきか。
もし私が両親をなくしたことを利用して遊び半分で両親のフリをしているなら、私は絶対に許さないだろう。しかし、これは遊び半分ではない。両親から手紙は全て、私を慰めてくれるものだった。両親から送られてきた手紙にこんなものがある。
『人間はいつか死にます。それは絶対で、変えられる事はできません。私たちが死んだように、あなただっていつかは死んでしまいます。
しかし、ここで一つ言わねばなりません。世の中には必要じゃないものなんてないんです。それは死も同じで。私たちの死だって、ちゃんと必要なのです。
分かりますか? 私たちが死んであなたは悲しみます。その悲しみを乗り越えなさい。そして、強くなりなさい。でなければ私たちはしんでも死にきれません。死人がいうのもおかしな言葉ですね。
強く生きてください。皆、あなたが笑顔になる事を待っているはずです』
この手紙の内容からして、両親のフリをしている犯人に悪意は感じられない。どちらかという本当に私を慰めてくれている。
一体誰? もしかして、本当に両親なのか? 私はそんな事を考えながら、いつも通り両親に手紙を書いていた。
手紙の犯人のめぼしは、ある程度ついていた。犯人は両親の名前を知っている人物で、私の家の近くの人。もしくは、私の家族。
『お父さん お母さんへ
私は、全て分かりました。』
ある日、私は手紙それだけ書いて、風船につけて飛ばした。そして急いで玄関に向かった。私の予想が正しければ、犯人は私のことを監視できる人物。私がいつ風船を飛ばしたか、わかる人物。両親の名前を知っていて、私を慰めてくれる人。それは、一人しかいない。
玄関についた私は、外には決して出なかった。しばらくの間、玄関の扉に耳を当てて、じっとしていた。しばらくするとポストに物が入れられる音がしたので、勢いよく玄関の扉を開けて、ポストに手紙を入れた人物を見た。
犯人はかなり驚いており、目を丸くしていた。そして、少しだけ俯いた。私はこの人になんて言葉をかけるべきだろうか。感謝はしている。だから一応、こう言っておこう。
――ありがとう。
そう言われた、向かいの家の同級生の男子は顔を少し上げて私の目を見た。
近くの公園生きた私たちは、ベンチに隣同士で座った。そして彼は話してくれた。なんで、両親のフリをしたのかを。
彼は、その日も日課のマラソンをしていた。朝の五時ごろだったそうだ。割れた風船が地面に落ちているのを見つけ、それに結ばれていたピンク色の手紙を見つめた。
それを読んだ彼はすぐにそれが私のだと気づき、どうするべきか迷った。このまま無視するべきか、両親のフリをしようかと。結果、彼は私の両親のフリをし続けたそうだ。
私が彼が犯人だと分かったのいは、彼がいつもマラソンをしていた事と、手紙が始めて帰ってきた日に、彼が挨拶をしてきたことだった。彼は私に挨拶など、滅多にしない。あの時彼は、私が気になっていたのだ。自分の書いた手紙を読んでいる私が、どうしようもなく気になったんだ。
そして私を監視できる人と考えた時、手紙を窓から飛ばしていると分かって、しかもいつ飛ばしたかまで分からなければならない人。それは向かいの家にすんでいる彼だ。
ごめん、と彼は頭を下げた。私は何も言う事ができなかった。しかし涙は出てきた。
また、ありがとう、と言おうとした。しかし、泣いているせいで涙が出ない。彼は頭を下げたままだった。その姿が、よてもかっこよく、頼もしかった。
その後、私は彼を許してあげた。というか、ただ単に、怒ってないよ、むしろ感謝してる、と言っただけだ。その言葉を聞いた彼は、頭を上げて、そして声をあげないように涙を流し始めた。
あれから数日たち、手紙のやり取りはもう終わった。しかし私の机の上には、何も書いていない紙が置いてある。私はシャーペンを持ち、その紙にあることを書いた。
そして紙を四つ折りにし、風船に結んだ。
音を立てないように窓を開ける。外には人生と同じように、永遠につづく夜空が広がっている。その夜空には死者の数ほどの星がある。
私は風船を外に出して、手から風船を放した。風船は夜空に向かって浮いていった。
今度は誰も手紙の返事を書いてくれないだろう。そ、それでいいのだ。私だって手紙ばかり頼ってはいられない。強くならなければ。
今度は両親に届くだろうか? いや届かないに決まっている。その代わり、きっと誰かが拾ってくれるだろう。私はその拾う人を想像した。手紙の内容を見て、どんあ表情をするだろうか。
手紙には、こう書いておいた。
『どうか、お幸せに。そして、強く生きてください』
私はこの手紙を、天国へ送る。
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■作者からのメッセージ
感動系にしてみたつもりですが、これでは何も感動できないですよね。