- 『Dream/Not realize 夢見る頃を……』 作者:緋之烏椿 / ショート*2 リアル・現代
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原稿用紙約5.9枚
時々、僕――日向 宇宙(ヒナタ ソラ)は、どうしてこんなに退屈な日々を送っているのかと不思議に思うことがある。
いつも、つるんでいる奴等のおちの無い、内容の似た話を適当に聞いては、あたかもその話が面白かったというように笑ってみせる。
本当、僕は何をやっているんだ。
そう思うと、こんな毎日と自分に嫌気が差してくる。
中学三年の入試直前の時期に僕は進路に悩んだ。
今現在通っている普通科の高校か、幼い頃からの夢であるF1マシンの整備士になるために工業高校へ行って勉強するか。
本当は夢を追って工業高校へ行きたいという気持ちのほうが何倍も強かったが、両親の反対を押し切ることが出来ず、諦めた。
今では、その時の反対を押し切れなかった弱い自分を呪うくらい憎んでいる。
まさか、こんなにも普通科の高校がつまらないなんて思いもしなかったからだ。
授業は中学の延長みたいだし、機械をいじりまわせる部活も生憎この学校にはない。
退屈な毎日を繰り返していると、そのまま僕の一年という時間は過ぎていった。
艶やかな桃色が蒼に映えて、風に攫われていった。
桜が咲く季節となり、僕は二年生になった。
初日からの寝坊して始業式に遅れるという情けないことで職員室に呼ばれた。
先生は僕の方を向き、自分の机に肘を付きながら、「二年生としての自覚が足りない」とか「新入生への悪い見本だ」とか、だらだらと言っているようだ。
でも、そんなこと僕の耳には入らない。
先生の後方の窓際の机でも僕たちと同じような格好で先生と話をする男子生徒がいた。
その生徒は、今時珍しくピアスやネックレスといった飾り物をせず、制服をピシッと着こなしていた。
確か、去年も今年も同じクラスの山岸なんとかだ。
山岸もお説教されているのかと好奇心で耳を傾けていると、期待はずれだった。
どうやら、二学期に山岸は違う学校へ編入するらしい。
編入先はなんと僕が行きたっかたあの工業高校のようだ。
山岸は話を終えると足早に職員室を出て行った。
僕は、なんとなくそれを目でしっかり追った。
「日向、聞いているのか?」
どうやらこちらも話が終わるようだ。
「日向が反省して、もう二度と遅刻をしないというのならもう帰っていいぞ」
先生は机に置いてあった話の間に冷めてしまったと思われるマグカップの中身をすすった。
僕はとりあえず、二度と遅刻はしませんと言って職員室をあとにした。
こんな誓いを守るのは楽だ。
今朝みたいに遅刻をしてしまいそうな時間に起きたら学校を休めばいいのだから。
まあ、守る必要などないのだけれど。
教室に鞄を取りに戻るとちょうど山岸が帰るところだった。
どうやら他の生徒は皆、部活へ向かったか、帰宅したようだ。
「山岸、お前二学期に転校するんだってな」
僕が話しかけると山岸は猛禽類を思わせるような鋭い眼光で睨みつけてきた。
「盗み聞きなんて悪趣味だな、日向」
盗み聞きなんてしてねえよ。
僕はキレそうになったが、努めて大人な態度をとろうと続けた。
「山岸が転校する高校、本当は僕も行きたかったんだよね。だから、今から行ける山岸がうらやましいよ」
僕が退屈な話を聞くときみたいにへらへらと笑うと山岸も笑った。
でも、その笑いは冷たくて鳥肌が立つような笑いだった。
僕は突然山岸が恐ろしいと感じた。
山岸は笑ったんじゃない。
嗤ったんだ。
「お前さ、自分の立場を弁えろよな」
山岸は口の端を歪めるようにしてもう一度嗤った。
「世間の目とか気にしないわけ? 女のくせに」
山岸はそれだけ言うと教室から出て行った。
言われると思った、「女のくせに」と。
でも、あんなに残酷にはっきりと言われたのは初めてだったけど。
進路を考えているときに山岸と同じことを両親にも言われた。
そして、もしF1マシンの整備士になれなかったときは油塗れになって違う仕事で働く覚悟はあるのかと。
F1マシンの整備士になれる人はほんの一握りだ。
そのうえ、男性より体力が少ない女性がなれる可能性はきわめて低い。
僕、日向 宇宙は女である。
それだけの理由で、夢を叶える努力ではなく、諦める努力をした哀れな少女だ。
だけど、なかなか諦められずにいた。
でも僕は今日、長い間見ていた夢から覚めた。
山岸の一言で。
そして、僕は覚めてしまった夢を二度と思い出すことはなかった。
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■作者からのメッセージ
はじめまして。ヒノウ ツバキと申します。
未熟な表現ばかりなのでそういうところを批評していただけると嬉しいです。