- 『胸の中の思いで』 作者:りゅうりゅう / リアル・現代 ショート*2
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全角1338文字
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原稿用紙約4.1枚
上京したての『ボク』の理想と現実と哀愁のショートストーリーです。
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今日、夢を見た。当たり前だった日の夢…。
ボクは今年から大学生になった。親の反対を押し切り、上京という形で都会に出てきたんだ。
合格発表で僕の番号があったとき、それはもう嬉しかった。柄にも無く握りこぶしを作って、天高く振り上げたくらいだ。
そして出発の日、両親は少し不安そうだけど、めいいっぱいの笑顔で送り出してくれた。
「がんばるんよ」
心配と不安、そして励ましのこもったその台詞に、ボクは「大丈夫」と繰り返し答えた。
一人で飛行機に乗るのは二度目、受験に行ったとき以来だ。空港まで見送りにきた心配性な母に笑顔で手を振りながら、飛行機に乗り込み出発した。
無事現地に着いたのだけど、あいにくの雨。両手いっぱいに荷物を持っていた僕には、雨を防ぐ手立てが無かった。
そこまで強い雨じゃなくぽつぽつとしたものだったけど、到着した日に雨っていうのは少し悲しかった。……確か受験の日にも雨が降っていたなぁ。
アパートに着いて、まずは両親に電話をかける。
「一人でもちゃんとやっていくんよ」
母はやはり心配そうで、でも勇気づけようとしてくれた言葉が嬉しかった。実家ではあんなに口やかましく命令してきたのに、反則だよ。
この言葉と、まだ家具も何も無いがらんどうの部屋を認めたとき「ああ、独りぼっちなんだ」と初めて認識した。
周りには頼れる親戚も、友達も誰もいない。人は通りにごった返すほどいるのに、僕は独りぼっちだ。
上京すれば親に縛られず、自由になれると思っていた。好きなものを食べ、好きなものを買い、好きな時間に寝て好きな時間に起きる…。
だけどこれは浅はかな願いだったのかもしれない。襲い来る孤独という名の恐怖、未来への不安、焦燥…。
初めて寝る自分以外誰もいない家。
いつもの時間に寝たのに、ずいぶん早くに目が覚める。
次の日も、そのまた次の日も…。
少し慣れてきた一週間目のある日、両親とペットと暮らしている夢を見た。
晩御飯を家族みんなで食べ、食後のお菓子の争奪戦をしたり、そして犬に抱き着いていじめたり、早く風呂に入れと怒られたりした…。
その夢は、ボクが上京する前の十八年間、毎日過ぎ去った唯の日常だった。当時はほとんど煩わしいことだったというのに、何故だかひどく心地いいものだった。
――目が覚める。目の前にはボクの思い描いた、少しくすんだ天井ではなく、あまり慣れていない、無機質な白い天井だった。
差し込む光によって目が覚めたみたいだ。まだカーテンのついていない窓からは、橙色のやわらかく暖かな夕日がボクを照らし出している。
どうしようもない虚無感がこの胸に溢れてきたけど、これも自分が望んだことの結果。いつか思い出が色あせ、この生活に慣れるその日まで、ボクは耐えていこうと思う。
『本当に大切なものは、失ってみて初めて分かる』というのは、きっと本当なんだろうね。
ボクはがんばろうと思う。たとえ独りぼっちだとしても、がんばれると思う。
いつか本当の意味で一人立ちするまで、この思い出が色あせるまで、きっと耐えていける。いや、耐えてみせる。
――それは、暖かな人たちに囲まれた、この夕焼けのような思いでが、ボクの胸の中で生きているから……。
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2006/11/11(Sat)19:33:09 公開 /
りゅうりゅう
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■作者からのメッセージ
はじめまして、りゅうりゅうと申します。今までコメントも投稿もしたことがないんですけど、どうかよろしくお願いします。
ぜひ辛口な評価で鍛えてください。