- 『クッキーは苦かった』 作者:風神 / リアル・現代 未分類
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全角15336.5文字
容量30673 bytes
原稿用紙約46.1枚
廃部寸前の明清東新聞部。廃部はなんとか避けたいが、事態はかなり重かった。無気力な海藤駿は、諦めていたのだが……。
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放課後に部室でのんびりと文庫本を読むという、俺らしいささやかでありながらも、少しの幸せに満ちた時間を過ごしていたのだが、一人の乱入者によって、俺のプライベートタイムは一瞬で消えてしまった。
「ちょっと駿! 何のん気に本なんか読んでるのよ馬鹿!」
いきなり俺を馬鹿呼ばわりする、この失礼な女は白井綾。俺と同じ二年生で、同じ新聞部。新聞部と言っても、部員は俺と白井の二人しかいない。この明清東高校には、二つ新聞部がある。一つは、俺が所属する明清東新聞部。もう一つは、生徒の活動に重点を置いた記事を書く生徒会新聞部。部長は、有名な会社の社長の娘だという野々宮玲。なんとも漫画に出てきそうな設定の奴だが、別に金持ちを主張したりはしない。俺は野々宮と同じクラスだが、少々うるさくて正義感が強すぎるのを除けば、普通の女だ。
「馬鹿とは心外だな。本は良いぞ、白井。お前もどうだ、俺と一緒に哲学を研究してみないか?」
「あのさ、この新聞部が廃部になるのが最近決まったでしょ? その事について、何か言わないの?」
白井は、長い髪を苛々させながらかきむしる。女にしては結構背が高く、顔は整っていて、どことなく頼りがいがあるというか、クールな印象を人に与える。実際、今もそう感じた。
そのしっかりした性格だからしょうがないが、俺と白井の所属する明清東新聞部が廃部になるのが決まった事を、大きく受け止めている。受け止めて、かなり責任を感じてる。俺はせいぜいピンポン球を受け止めたぐらいの衝撃だが、白井にとって廃部は、超巨大な鉛の玉を受け止めたぐらいの衝撃なのだろう。
「学校でそう決まったんだからしょうがないだろう。部活アンケートだって二年連続最下位じゃん」
そうなのだ。この学校は一年に二、三回、不定期に部活アンケートを行う。自分が好きな部活や、最近活躍していると思う部活を書き込んで提出するのだ。生徒会が勝手にやっている、まぁお遊び的な行事なのだが、これがやたら盛り上がる。
普段は日の目を見ない文科系の部活は、このアンケートのために、特に文化祭では燃える。それはもう普段地味で細々と燃えている火がいきなりマンション全てを燃やし尽くす程の大きな火に変わるかのようだ。
まぁ、俺はそんなのどうでもいいと思ってる。俺が部活をやっているのは大学に進学する身としては、やはり部活はやっていた方が良いからやっているだけだし、もっといえば一番楽そうな文科系の新聞部を選んだんだから、特に深い感情は持っていない。
話が逸れたが、ただでさえ学校はお金に余裕が無いのに、二つの新聞部に部費を回すような寛大な心は持っていない。当然といえば当然だ。何故二年連続部活アンケート最下位になるような新聞部と、二年連続ブービー賞を取るような生徒会新聞部に部費を回さなければならないんだ! と学校の先生方は怒っておられるのだ。で、両方潰すなんて事は、さすがに七十年の歴史があるんだからもったいないという事で、どちらか一つの新聞部を遺して、廃部になった方の部の部員は、残った新聞部に入る事になったのだ。もちろん、入りたくなければそれでいい。
「私、嫌だよ。これまで二年間頑張ってやってきたのに、二年生の冬で終わっちゃうなんて、嫌だよ。ちゃんと三年生の冬までやりたいし、私が卒業した後も続いて欲しいよ」
「でもな、白井。俺たちゃ所詮は二年間ずーと最下位の部活なんだよ。素直に野々宮んとこに入ってしまえばいいんだよ。こっちは部員二人。あっちは四人だ。合わせて六人の新聞部だ。もう何も言う事は無い。パーフェクトじゃないか」
「私は諦めないよ。何か、何かあるはずよ。七十年続いてきたこの大事な明清東新聞部を潰す訳にはいかないの」
そう言われると弱い。確かに、俺だって何もしなかった訳では無い。今年の文化祭は、遅くまで残ってかなり文章考えたし、誰も知らないような情報を友達に聞きまくったりもした。それはいつしか楽しい事になっていて、青春でもあった。それまでの事といえばそれまでの事だが、そりゃあこのままこの新聞部で卒業するのが一番な事に変りは無い。
「でも、もう決まったしなぁ。顧問の大崎に頼んでみるか?」
「そうね、そうしましょ。じゃあ、明日の朝、早速頼みに行こうね」
「あぁ、頑張れ」
「……」
「頑張ろうな」
昨日、白井に怒られたので、面倒だが先生に部活の事で相談しにいかなければならない。しかし、なんだろうか。何故か学校がさっきから騒がしい。
いや、いつも騒がしいのだが、今日は皆落ち着かないというか、どこか皆興奮さえしている。皆、あたかも非日常な事が起きて喜んでいるかのようだ。
教室に入ると、白井が俺に半分ジャンプするかのように飛び込んできた。避けようとしたが、モロに白井の空中ラリアットを喰らってしまった。
「おっはよぉ駿! ねぇねぇ知ってる?」
「あぁ、知ってるぜ」
「あのねあのね、この高校の体育館の側にある倉庫がボロいから、最近改修工事してたじゃない? でね、昨日改修工事してたら、それはそれは古くて汚くて触るのも嫌な程汚れきったクッキーの缶が出てきたの」
「それはなんともどうでもいい話だな。新聞でポイ捨て防止を訴えるか」
俺がそっけなく言うと、白井はほっぺたをふくらませる。リスのつもりなのだろうか。
「なんだ、リスの真似か。可愛いぞ」
リスの真似をしているらしいので、そう言ってやった。
「違うわっ!」
違ったらしい。白井は一回わざとらしい咳払いをすると、髪をかきあげて、言った。
「そのクッキーの缶ね、どうやらかなーり古臭いものらしいの。缶にクッキーの製造年月が書かれていたの。そのクッキーが製造されたのは、一九八六年十月よ」
今日は二千六年十月だから、なんと。ピッタリ二十年前の物じゃないか。まぁ、丁度二十年前だからと言って、だからどうしたと言う訳でもないが。
「もしも中に腐ったクッキーが入ってる事を想像すると、怖いけど見てみたい気もするな」
「そうよね。どんな味がするのか気になるわよね。でも今はそういう事じゃないのよ」
白井は、ジャーンというエフェクトを自分で流しながら、スカートのポケットから鍵を取り出した。
「自転車の鍵か? ……そうか、今日は俺と自転車を二人乗りしながら帰りたいんだな。そしてあの夕日綺麗だなうんそうねあの夕日本当に綺麗ねあはは的な会話をしたいんだな」
「いや、まぁ、それでもいいんだけどさ」
「え?」
「なんでもない。で、問題はそうじゃなくて。そのクッキーの缶、実は鍵が無いと開かないらしいのよ」
「随分と洒落た缶だな。俺、ちょっと八六年に興味持ったよ」
白井は、また髪をかく。こいつは、どうも一から百まで的確に説明しないと気がすまない神経質タイプだ。俺は、どちらかというと、漠然とでいいのでスピーディに説明してもらった方が楽で嬉しいのだが。
「で、学校側はもしかしたら、二十年前の生徒が埋めた物かもしれないし、あまり力ずくで開けるような事はしたくないらしいのね。それに、別にそこまで興味無いからって事で生徒会に預けたらしいの。で、もし中を開けても、その時は新聞部の新聞で発表するっていう粋な事を考えてくれた訳。ま、それで中がどうでもいい物だったらしらけるけどね」
職員室で、机にちょこんと置いてある汚いクッキーの缶を、難しい顔で取り囲んでいる先生達を想像出来た。これどうしましましょうか? 強引に開けてしまいましょうか。いえ、ダメです。これは昔の生徒が埋めた可能性があります。そっと戻すべきでしょう。でも、このままにしておくのもなんですよね? そうだ、これはいっその事生徒会に預けて、生徒の意見も聞いてみたらどうですか。生徒に? 生徒に預けてどうするんですか! いや、子供は私達が考えもしない事を言ったりしますよ。ですが、もしもピンとする提案が無ければ、強引に開けるのは嫌ですし、そっと戻しておきましょう。という先生達の会話を想像した。
「つーか、色々と適当な物をぶち込んで二十年後また皆で集まって開けようね! っていう奴だろ? 放っとけばいいだろ」
「自分達のグラウンドに汚い缶が埋まってるの、考えてみよ。以外に、結構気にならない?」
考えてみた。……確かに、グラウンドに得たいの知れない物が埋まっているというは気になるし、どうも居心地が悪い。しかし、誰かが埋めた可能性が高いのだから、強引に開けるのは避けたい。
「そうなの。だからどうしても鍵が必要なの」
「あぁ、そうだな……。いや、ちょっと待て」
確かに鍵は必要だろう。だが、俺たちには必要ではない。
「そんなに興味があるのか」
「あのね、私今日生徒会の仕事があるから、朝早く来てたの。アンタと大違い」
一言多いな。だがしかし、なるほどこいつがやけに事情に詳しいのにも頷ける。朝から学校を駆け回って情報を収集していたのだろう。
「それで、うちの顧問の大崎先生に昨日の話をしたの。なんとかならないかって」
白井はいきなり自分の席に戻り、鞄からポッキーを出して、持ってきた。
「いる?」
「いる」
一本もらい、食べる。白井はほんの少し食べただけで、口に咥えたまま話を続ける。
「ひょれでね」
「全部食え」
一時停止。
「それでね、他にも部員全然いなかったり、結果を何も出して無かったりして、部費回すのが辛い部活あるの。だから、今回の部活アンケートで最下位になった部活を廃部にしようって事になったの。だから、最下位から消えればなんとかなるかもしれない」
「待てよ。そんなうまい話があるのか。もう、明清東新聞部は廃部じゃなかったのか。それに、アンケートって、それはたかが生徒会のお遊びだろ? なんで学校がそんなお遊びのアンケートごときで、そんな大事な事を決めるんだ」
白井は、ポッキーを箱から一本取り出し、力強く噛んだ。
「……学校からしてみれば、別に消えるのはどこでもいいんじゃない? どこか一つ、部活が消えればいいのよ。それだけ部費は大変なのね。まぁ、どうせ今回も最下位は明清東新聞部だろうし、こういう事を言えば、どこの部活も活気が出るだろうって、先生達は思ったんじゃない? 詳しくは、知らないけどさ……」
なんとも嫌な話だ。でも、ありがち絶対に無さそうな話とは言えなくも無い。
「実はね、私生徒会室に忍び込んだのね。で、色々と怪しい資料を片っ端から見たの」
こいつの好奇心は恐ろしい。いつも何かを求めている。何か気になることがあったら、それを解決させないと気がすまない。まぁ、ただの暇人と言えなくもない。
「お前、いっつも何やってんだよ……」
「いいじゃんいいじゃん。でね、部活の一覧表が載ってて、明清東新聞部の所が横線で消されてたの。それでもう廃部なんだと思ったけど、今日顧問の大崎先生に聞いたら、あれは暫定であって、また確定ではなかったの」
なんだ、白井の早とちりじゃないか。
「でも……。一番可能性があるのは明清東新聞部なのに、変わりはないってさ」
なんだ、やはり廃部当然じゃないか。
「……で、さっきから何を言いたいんだ?」
「察してよ。明清東新聞部を潰す訳にはいかないの。私はこの部に愛着を持ってる。ここが青春の場所なの。それに七十年続いたのよ? 永遠に続けるべきよ、この歴史ある部活は。だから、このクッキーの缶を私達で独占して、新聞で大々的に取り上げるのよ! そうすれば、部活アンケートで上位に食い込めるわ!」
放課後、神聖なる新聞部の部室で、俺と白井は会議を行っていた。
「海藤君。海藤駿君」
「なんでしょうか、白井部長」
「まずは、クッキーの缶を手に入れないと事は始まりません」
白井は完全になりきっているのか、両手を組んで、組んだ手の上に顔をちょこんと乗せている。
「私は争い事は嫌いです。まずは、生徒会に話をしてみましょう。いいですね、海藤君?」
「いいでしょう、白井部長。では早速生徒会長室に行きましょう」
生徒会室に行くと、そこにはクッキーの缶と睨めっこをしている野々宮玲がいた。
「あら、海藤君じゃない。どうしたの?」
「特に様は無いんだがな。まぁ、世間話とでも行こうじゃないか」
「暇だから別にいいけども」
俺の後ろにいる白井が、俺の足をツンツン蹴ってくる。私、怒るわよと警告しているのだ。
「というのは冗談で、ちょっとその缶、貸してくれないか?」
「海藤君もこの中身知りたいの? でも、残念。缶は鍵が無いと開かないのよ」
「いいから、みーせーて」
白井が鋭い目つきで言う。
「あら、白井さんじゃない。……あぁ、海藤君ってそちらの新聞部の部員さんだったの。知らなかったわ」
「そう、誇り高き明清東新聞部の部長さんよ。さぁ、缶寄越しなさい」
白井が手をチョイチョイっとして、寄越せと仕草も加えて野々宮に伝える。
「ダメよ。新聞部の貴方達には貸せないわ。私だってね、部を潰すのは嫌なの」
野々宮は、クッキーの缶を両手で持ち上げ、小さい子供抱くかのように大事に抱えた。相手が男なら、冗談で強引に奪えるのだが、相手が女子なら強引に奪う事はもちろん、冗談も通じないだろう。
「まぁ待て野々宮。お互い助け合いだろう。お前だけネタのクッキーの缶を持っているなんてアンフェアじゃないか。俺たちにも廃部から逃れる手段をくれてもいいんじゃないか? フェアな勝負をしようじゃないか」
「嫌よ。このクッキーの缶の行方は、確かに気になって気になってしょうがないって人は、多分一人もいない。でもね、なんとなく気になってる人は結構いるの。それを新聞で記事にしたらどうかしら。皆、さりげなくは見てくれるわよね? そんな些細な事でも、確実に部活アンケートの順位は上がるわ。絶対、渡さない」
野々宮はこれでもかというぐらいに鋭い目で俺と白井を睨んでくる。普通なら、大丈夫だ白井。俺に任せろ! という意気込みで攻め続けるのがカッコいいのだろうが、生憎俺はそこまで頑張ろうとは思わない。
「ねぇちょっと野々宮さん。鍵無くて開かないんでしょ? じゃあ、私達に譲ってよ」
白井なら、部室に持ち帰った瞬間、技術室からハンマーかドリルでも拝借してぶっ壊しそうで怖い。
「嫌よ。この缶の行方は、生徒会副委員の私が決めます」
いや、委員長に決めさせてやれよ、と心の中で突っ込む。
「いいじゃない、どうせ貴方どうする事も出来ないんでしょ?」
「だーから。白井さん。今、この缶の事と記事をどうするかって事を考えてたの。邪魔しないでくれるかしら」
駄目だ。このままじゃ日が暮れる所か地球が終わってもこいつらは対立し続けそうだ。野々宮がおとなしい人で、いいわよ貸してあげるわよお互い頑張りましょうねとか言ってくれると嬉しかったのだが……。
俺は、たかが缶ごときでここまで面倒な事はやりたくない。
「白井。野々宮さんがダメって言ってるから諦めろ。ていうか、缶は生徒会に預けられたんだ。缶の持ち主は野々宮さんじゃないけど、今のところ所有権は生徒会の野々宮さんにあるんだ。
「……わかったよ、もう」
部室に戻り、一息つく。
「ねぇ駿。どうしようどうしよう、ねぇどうしよう」
「さぁ、どうしょうか」
「なんか新しいスクープある?」
少し考えてみる。特に無い。
「嘘でも書いてしまえ」
「ダメよ。それこそアンフェアじゃない」
「まぁ、そうだけど」
よく考えてみると、白井は部活リストでうちの部が、横線で消されていたと言っていた。それは確かに暫定にしか過ぎないが、この新聞部が廃部に一番近いというのは逃れられない事実だ。それを最後の悪あがきでなんとかしようとしたけど、結局は無理だったのだ。あのクッキーの缶以外に、特にスクープは無い。
「駿、何か無いの? 私達には時間が無いのよ」
今日は三月二日。新聞は十日までに仕上げる約束となっている。春休みは二五日から始まるから、今年度最終号となるわけだ。確かに時間は無い。前も言ったが、このまま潰れないで行くのが一番良い。だが、必死こいて頑張ろうとは思わない。
だから皆が驚くような新スクープを探そうとも思わない。俺はどうやら熱血の血は流れていないみたいなのだ。
「白井、諦めろ。無理だろ、これは」
「駿の馬鹿。いくじなし。怠け者。アンタなんか三年生からは野々宮の下でやっていけばいいじゃない!」
「お前はどうするんだ」
「潰れても勝手に明清東新聞部を続けるわよ。同好会として」
学校に対して毎日がアンチテーゼという訳か。それはなかなか辛そうだ。
まぁ、特にする事は無くなったわけだ。
「俺は帰るぞ。じゃあ、また明日な」
俺は鞄を持ち上げ、白井に軽く手を振る。白井は、どこか哀しげな顔で俺を見ていた。
家に帰り、自分の部屋のベッドに寝転がる。これまでの事を思い出してみる。
新聞部の廃部。別にあってないような部ではあった。活動といえば、毎日部室で白井と雑談するのがほとんどだった。実際考えてみれば、学校の新聞なんか書く事は特に無い。新学期に一回、夏にあった文化祭に一回、そして冬頃に一回の計三回。今年はなんと新聞は三枚しか発行していないのだから、そりゃあ学校も廃部にしたくなる。
ただ、正式な新聞は三枚だが白井は精力的なので、自分で独自に新聞を作っていたが、俺はそれには参加していなかった。それは学校新聞ではなく、白井完全オリジナル新聞だったのだ。内容は全く学校は関係無いものだった。なので、俺と一緒に作った先生達が認める学校新聞はたったの三枚という事になるのだ。
だが、どうだろう。本当にこのまま無くなってしまうのだろうか。実感があまり湧いていないのだ。
しかし、このままだと確実に今年度で我が明清東新聞部は廃部だ。三年生からは、あの部室でゆったりと白井と雑談する事も、さややかで慎ましいながらも、思い出してみると楽しかった文化祭での張り切った特大号。俺は地味な学校生活を送っているので、青春といえば新聞部というしかない。そうだ、俺の青春の場は新聞部だ。
「駿、帰ったのか?」
つかの間の静寂を速攻で破ったのは、兄の海藤悟。
「あぁ、今帰ったぜ」
「どうした。なんか複雑な顔してるぞ」
「え?」
なんと。心のどこかに新聞部の事が残っていないといえば嘘になるが、まさか顔に出ていたとは。
まぁ、隠す事も無いだろう。俺はこれまでの事を軽く説明した。
「なんだ。ちょっと待ってろ」
予想に反した反応であった。兄の事だから、ふーんそうかだからどうしたみたいな事を言うのかと思ったのだが、何やら真面目な顔で俺の話を聞いていた。ていうか、兄は何故自分の部屋に戻ったのだろうか。
兄はすぐに戻ってくると、封筒を俺に差し出した。
「なんだ、これは」
「封筒だ」
「あぁ、そうか封筒か」
「そうだ、封筒だ」
なんの会話をしているんだ。
「なんか、結構ごつごつしてるんだけど、中に何入ってるんだ?」
「開ければわかるだろ。俺はお前に借りた漫画を返しに来ただけだ」
そう言うと、兄は俺の漫画をベッドに放り投げると、何も言わずに部屋から出て行った。
「……」
開封してみた。そして、驚いた。
「これは……鍵?」
翌日、朝学校に行くバスの中で、考えた。
なんとなく鍵を持ってきたが、いまいち状況を飲み込めない。
まず……。この鍵はなんだ。クッキーの缶の話をしたら兄がこの鍵を持ってきたのだから、多分クッキーの缶を開ける鍵だろう。だが、何故兄が持ってる? 兄は現在二十二歳だ。二十年前は二歳だ。埋めてる訳がない。
わからない。謎だ、つくづく謎だ。しかし、それはもうこの際置いておこう。これがあれば、多分あの缶はこの鍵で開けれるのだろう。
俺は、地味で慎ましい生活が好きだ。部活はよく考えてみると、確かに自分では気づいていなかったが、結構愛着はあった。それが今やっと気づくのだから、俺もなかなか薄情だと思う。
でも、だからといって白井程の情熱があるかといえば、そうではない。あいつは、それこそ部活のためなら何でもしそうだ。実際、潰れてもあいつは同好会として続けると連呼している。
だが、この無気力で面倒な事が嫌いな俺も、たまには気力を振り絞って、エネルギーを振り絞って自分達の青春の居場所を守っても、良いんじゃないか。
そんな事を考えてると、もう俺は学校についていた。早足で玄関に行き靴を履き、教室に入る。
「白井、ちょっといいか」
「なによ」
明らかに機嫌が悪い。いつもポッキーは雀のようにちびちび食べるのに、今はバリバリと食べている。
「どうした、食べ方を変えたのか? 奇遇だな。俺も最近、変えた事があるんだ。聞いて驚くなよ? なんと、朝食のパンにつけるのが、バターからジャムになったんだぜ」
その瞬間、白井の華麗な蹴りが背中に入った。もう少し足の角度が高ければ見えたんだが……。無念だ。
「……っ。見んなよ!」
「馬鹿野郎。見たくても見えなかった。あぁ、理不尽だ。何故ギリギリで見えなかったのに、更に怒られるんだ。俺は納得いかない」
「私達、そろそろ絶交しましょうか」
ここで俺は鍵を白井に見せつける。えっへん。
「え、それって……」
「鍵」
「なんだって?」
「鍵」
白井は一気に顔を紅潮させる。
「もしかして……クッキーの缶を開ける鍵?」
「正解」
「凄い! どこで手に入れたの?」
「教えない」
「まぁ、いいや別に。手に入ればそれでいいんだし」
いいやと言われると、教えたくなる。
「俺は親切だから、教えてやろう。なんと、何故か俺の兄が持っていた」
「やっぱ教えてくれたわね。……ていうか、なんでアンタのお兄さんが持ってるのよ」
ハメられた。完全にこいつは俺の性格を見抜いている。この際突っ込まない。
「それは俺も知りたい所だが、教えてくれなかった。まぁ、缶を開ければ解るかもしれないぞ」
「そうね。じゃあ、放課後にこっそり缶を取りに行きましょう」
取りに行くか。盗りに行くの方が合ってる気がするが。
「ちょっと。そんな目で見ないでよ。缶の中を写真で撮ったら、ちゃんと戻すわよ」
「ていうか、缶は生徒会室に置いてあるんだぜ? 生徒会室は最近、野々宮が鍵を閉めてるらしいじゃないか」
「いつも思うんだけど、なんであいつ副委員といえども、二年のくせにそんな権力持ってるのかしらね」
「三年が無気力なんじゃないか」
「アンタみたいのが多いって訳ね。……まぁ、大丈夫。私だって生徒会の生徒よ? 鍵は借りれば良い事」
そうか。こいつは保険委員会に所属していたんだ。保険委員の、委員長だ。
「しかし、勝手に持ち出しとなれば、問題になるぞ」
「……そこまでは考えていなかったわ」
さて、困ったな。こちらは缶を開ける鍵を持っているが、缶は無い。あちらは缶があるが、開ける鍵が無い。野々宮の事だから力任せに缶を壊して開けるって事はしないだろう。それは一応、二年一組を一年間一緒に過ごしてきたから、あいつの性格はなんとなく把握してるからそう思う訳で、なんとなくしか知らないのだから、もしかしたら野々宮は、いざとなったらなんでもやるような奴かもしれない。
白井は、うんうんと唸っている。するといきなり、ポケットから米金糖が沢山入った袋を取り出した。
「……どうした、いきなり」
「食べる?」
「あぁ、もらっとくよ」
白井はまず自分の口に幾つか放り込み、また幾つか手で掴み、俺の手のひらに置く。食べると、俺には少しくどい感じの甘さが口に広がる。
「そうだ」
「お前は菓子食べないと頭が冴えないのか」
「別にそういう訳じゃないけどさ……。でも、本当に気になるわね」
「もしもあの缶にクッキーが入っていたらのことか? 意外に辛そうだが」
「そうかもね」
そっけなくそう言うと、白井は何かを思いついたように言った。
「何も野々宮に頼まなくてもいいのよ。先生に頼めばいいのよ」
あぁ、なるほど。そりゃあそうだ。どうも錯覚してしまうが、あいつは所詮二年の副委員長だ。
白井は一人で職員室に駆け出して、先生達に話を持ち出した。
先生達は、缶の鍵があるならと、快く生徒会室の鍵を貸してくれた。早速、俺達は生徒会室に行った。
「よし、許可を取って部屋に入ったし、缶を持ち出すことも許されたわ。完全に正当な方法で、ついに缶を開ける事が出来るのね! これで来年も部活を続けられるわ!」
「よかったな。来年も俺と一緒にいられるな。そんなに、俺と二人の時間を過ごせるのが嬉しいのか。なんだ、それなら新人は募集しなくていいな」
「早速、開けるわよ」
「無視かよ。……よし、開けるぞ」
鍵を鍵穴に入れた瞬間、生徒会室のドアが開いた。
「ちょっと、何やってんのよアンタ達!」
まずい。野々宮玲だ。
「あーもー! タイミング悪いな」
白井が机をドンと叩き、立ち上がる。
「あのね、私達先生に許可とって缶を開けようとしているの。今、所有権は私達明清東新聞部にあるのよ。さぁ、出て行きなさいよ」
「何よ貴方。やっぱりそういう汚い女だったのね。人の物奪おうとして。力ずくで明けようって言うの?」
「そうだな。この缶も鍵も二十年前の物だから、力を入れないと開かないかもしれないな」
「鍵……?」
野々宮が、怒りを露にした顔から、キョトンとした顔になる。
「そう、鍵だ。手に入ったんだ」
そう言うと、野々宮は徐々にこちらに近づいてきた。
「鍵を、手に入れたんですか」
頷く。
「そう……。どう手に入れたのか、気になりますね」
ふ、真実は闇の中にあるのさ……とカッコいい台詞を言うチャンスだったのだが、なんと野々宮は俺と白井の隙を見逃さず、素早く缶を手にとり、そのまま走り出した。
「おい!」
さすがの俺も声を上げる。しかし、時既に遅し。もう野々宮はどこかに行ってしまった。
「……取られてしまったな」
果たしてこれが取られてしまったといえるのかどうか不明だが。もともと、所有者不明のクッキーの缶なのだ。
俺は冷静に突っ立っていたのだが、どうもこの女は血の気が多い。いきなり机を両手で思い切り叩く。
「白井、落ち着け。怒ってもしょうがない」
「悪いね。カルシウム不足かしらね。でも、後少しだったのに……。いるのよね、ああいうタイミングの悪い女」
「でも、困ったな。あのままじゃ、さすがの野々宮でも力任せに開けそうだぞ」
これは俺の予想だが、タイムカプセルかもしれないあのクッキーの缶は、そりゃあ強引に缶の形状を壊してまで開けたくないし、人の埋めた物を見る事も嫌うだろう。だが、その野々宮があそこまで焦ってなんとかしようとしているのは、何かを感じる。何か、あいつにはあるんじゃないだろうか。
「嫌だよ……。このまま何も成果あげられなかったら、潰れちゃうじゃない……」
「まぁ待て。まだ、可能性があるかもしれないじゃないか。無理と完全に決まった訳じゃないんだから、まだ何パーセントかは可能性はあるかもしれないぞ」
「あら、アンタらしくない台詞ね」
「そうか? まぁ、もう時間も遅いし今日の所は帰ろう。明日、また考えよう」
「わかった。あ、でも私は今日保険委員会の仕事があるから、残るよ」
こいつ、色々と忙しい奴だな。
「じゃあ俺は帰るぞ」
そう言って振り向くと、白井は「待って」と言い、俺を呼び止めた。
「どうした?」
いきなり胸に何か押し付けられた。……金米糖? さっき白井が俺にくれた、あの金米糖が沢山入った袋を、白井は俺に押し付けている。
「くれるのか?」
「付き合ってくれたから、一応。それに、あんまりお菓子食べると太るし、アンタがこれ処理してよ」
「俺も一応部員だからな。俺だって、自分の部が無くなるのは気分が悪いさ」
袋を受け取り、俺は学校を後にした。
翌日、学校に行って教室に入ると、野々宮と目が合った。
「野々宮。クッキーの缶はどうした。家か?」
「学校の物を家に持って帰れると思う?」
「そうか。じゃあ学校にあるんだな。……で、なんでお前はそんなに缶が必要なんだ。いや、そんなに部活が大事か」
野々宮は、普段の凛々しい表情から、どこか哀しげで弱々しい顔になった。
「……だって、皆期待してるじゃない。野々宮さん頑張ってねとか、野々宮さんなら良い新聞書けるわよねとか、野々宮さんの新聞部は優秀なんでしょ? とか。別に私凄い人じゃないのに、皆期待してくる。それに……」
「それに?」
「私のお父さん、昔は生徒会新聞部の部長をやってたの。私はお父さんを尊敬している。尊敬するお父さんの部活を、私の代で潰すなんて、そんなの嫌よ。皆はたかが学校の地味な部活でしょって言うけど、私はそんな事全く思ってない。大事な部活なのよ。潰したくないの」
その点は、白井と同じ理由か。白井と野々宮は、自分達の部を守りたい、自分達の代で潰したくないという同じ意思を持っているが、握手をする事は絶対にないんだろうな。もちろん、俺だって引く気は全く無い。
「……そうか。でもな、俺たちだって缶が必要なんだ。貸してくれないか?」
行った後に俺は、自分に呆れた。貸してくれる訳が無い。
「馬鹿ね。あれは今、どうするか私が考えてるの。貴方達は関係無いのよ」
だそうだ。もう何も言わない。
時はすぎて授業中。俺は考えた。最初は、廃部と決まったならまぁしょうがないだろうと諦めていた。しかし、それは白井の早とちりだったのだ。廃部の候補に上がっているのだ。しかし、候補の中でもダントツでうちが廃部の可能性が高いのは否めない。俺は人生において、疲れ果ててまで頑張ったり、別に命に関わる事でもない限り、エネルギーを使いたくない。
もちろん、今回の事は命に関わらない訳であって、もしも本当に廃部になったとしても、俺は白井のように机を思い切り殴ったり、学校を走り回って先生になんとかならないか相談したりは、絶対にしないだろう。
……でも、前も言ったけど、たまにはカッコ悪く頑張る事も良いかも知れない。それが、野々宮に白い目で見られそうな事でも、自分のため、白井のため、明清東新聞部のために、たまには気力を出して何かやってもいいのではないか。
今思ったが、どうも俺は廃部騒動が起きてから、同じような事をぐだぐだ考えている。自分でもよく解らないのだが、俺は無気力だ。無駄は好きじゃない。だから廃部になってもそれはしょうがないと諦める心があるのだが、どことなくそれでいいのかと思っている自分がいるのに、最近気づいたんだ。二つの意見があるというのは、どうも居心地が悪いな。
俺はこれまで、やらなくてもいい事や、些細な事ならなるべく干渉しなかったり、適当に流してきた。
今回の事も、ほとんど活動無しの部活だが、三年生、いや受験生が近づいてくるにつれ、廃部になる事を考えると、どうも恋しくなってきた。人生で一番楽しめるのは中学生、高校生だという。俺は大人は楽しいかつまらないのかわからない。人にもよるだろうし。だが、世間一般で一番楽しいと言われている高校生の俺、青春の中にいる俺。その青春は、特に何もしていない俺にとって唯一学校を感じれる場所だ。これは、些細な事では無いんじゃないだろうか。
気づくとまたぐだぐだ考えている自分がいる。俺って、結構くどい性格してるんだな。
俺は放課後、一人で職員室へ向かった。
「先生」
「おう、海藤か。お前がわざわざ職員室に来るなんて珍しいな」
「はい。クッキーの缶の事なんですが」
俺がそう言うと、担任の田口は少し笑った。
「あれか。教頭がどうせタイムカプセルだろうからって、持ち主に悪いとかで土に戻すらしい」
「そうなんですか。……それで、今はどこに」
「今か? 野々宮が職員室で保管して下さいと頼んできたから、さっきまで職員室に置いてあったけど、今は教頭がグラウンドに戻しに行った所だ」
まずい。これはまずい。俺は田口に会釈をすると、職員室から駆け出した。
俺は慌てて学校を飛び出した。飛び出して、俺は今グラウンドに出た。
今、驚いた事が一つある。この無気力な海藤駿が、ボロいクッキーの缶のために、なんと学校を猛ダッシュして、今もグラウンドを走って、グラウンドの端っこに見える教頭めがけて走っている。
教頭は俺に気づくと、なんだあの生徒はという顔で俺を見てくる。俺はさほど大きくないグラウンドを走り、教頭の所に着いた。
「どうした? そんなに急いで。先生は新倉庫にスコップを取りに行くから、何か話しがあるならそれから聞こう」
のんびりとした教頭だとは聞いていたが、本当にのんびりした教頭だ。生徒が凄い勢いで自分に走って来たら、普通は驚いてなんだどうした何かあったのかと聞くのが普通だ。でも、今はそれが有り難かった。
教頭が新倉庫の方へ歩き出したのを見て、俺は足元にあるクッキーの缶に目を落とした。
ついに、ついにこの時が来た。俺はこの時喜びを感じた。なんだか久しぶりに、素直に嬉しいと感じる事が出来た。幸せさえ感じたかもしれない。
俺は、静かに鍵穴に鍵を入れて、回した。錆びてて開きにくいと予想していたが、確かに軽く回しただけでは開かない。力を入れると、音がした。やった、ついに開いた!
蓋を開いて、三十秒程中を物色した。
「……」
そして、静かに蓋を閉じた。教頭が戻ってくる。俺は、なんでもありませんと言い、教室に鞄を取りに行き、複雑な心情のまま家に帰った。
翌日、学校に行くと、白井がうかない顔で席に座っていた。小さいビスケットを少しずつ食べている。
「どうした白井。ビスケットはな、豪快に食うからうまいんじゃないか?」
俺はビスケットの袋から一枚取り出し、口に放り投げる。
「あ、ちょっと。残り少ないんだから取らないでよ」
「悪い。……うん、結構うまい」
「駿ってさ、いい年してビスケット好きよね」
白井が少しだけ笑ったように見えた。
「お菓子はあまり食べないんだけどな。ビスケットは好きだ」
「そう。それなら、今度作ってあげる。……いや、今度友達と作るから、余ったらあげるよ。感謝しなさいよ?」
「楽しみにしてる」
さて、言うべきだろうか。クッキーの缶の中身について。
実際の所、どれだけ皆がクッキーの缶について興味を持っているのだろうか。俺の友人からさりげなく聞いたところ、別にあんまり気になってはいないが、もしも新聞で中身がどんな物か発表されたら、意外に気になって見るかもしれない、だそうだ。言ってしまえば、まぁ興味はあんまり無いけど、まぁどんなのか知っておかないとなんか落ち着かないから新聞見てみるか、ぐらいのものだ。
だが、それでも部活アンケートはもう少しで実施される。もしも皆が新聞を見ていたら、どうせ投票する部活なんて大して無いんだから、明清東新聞部に投票してくれるだろう。だから普通は白井に言った方が良いのだが……。
あのクッキーの缶の中には、まず一枚のテストの答案があった。それはでかでかと十二点と書かれていた。そして、名前の所には一年四組海藤英喜。これほどに驚いた事は無い。多分俺はかなり目を見開いて、それはもうアホ面になっていたであろう。それ程に衝撃的だった。まさか、まさかこの騒動の発端となったクッキーの缶の持ち主が、俺の父さんだったとは。
その他には、友達との写真や、使い古したノートや、思い出としてはありきたりな物が多かったが、ふられた時に勢いで書いたらしい日記や、どうやら父さんは野球部だったらしく、野球のボールがあった。ボールには初戦敗退と大きく書かれていた。このクッキーの缶には、苦くてちょっと痛々しい、誰にも見られたくない思い出の品も入っている。
……駄目だ。これは駄目だ。これは父さんの、海藤英喜の楽しくもあり辛くもあった高校生活三年間の全てが入ってる。父さんがどういう時に取りに来ようと思っているのかはわからない。もしかしたら、もう忘れてるかもしれない。
だが、これは公開するような物じゃないんだ。写真なんか論外だ! どういう物かも、公開する事じゃない。俺は、新聞にこの事は書きたくなかった。
父さんの思い出の三年間が入っているクッキーの缶。それを新聞で「ついに中身発覚! 中身はやはり昔の生徒の思い出の品。クッキーの缶はタイムカプセルでした!」なんて事は絶対に書きたくない。
これは、父さん一人の物だ。誰にも知られてはいけないんだ。
「……なぁ、白井」
「何よ」
「あのクッキーの缶の事だけど」
白井は、食べていたビスケットを静かに飲み込むと、哀しそうな顔で言った。
「うん、全部知ってる。土の中に戻したんだってね。もう、終わりだね。来年からは、同好会かな……」
潰れたら、もちろん部室は俺達には与えられない。あの思い出の部室が、俺達から消えるのだ。
「また早とちりか。まぁ、所詮はクッキーの缶だ。もっと凄いスクープがあるぜ?」
「何?」
「昨日、教頭と軽く挨拶を交わしたときに気づいた。あの教頭、カツラだぜ?」
そう言うと、白井は勢いよく立ち上がった。
「マジで? それ大スクープよ」
久しぶりに見た笑顔。
「いや、嘘。ていうか、そんな事載せたら失礼極まりないだろ。怒られる所じゃない」
「へ?」
「まぁ、あれだ。諦めないで、また何かスクープを探したり面白い記事を書いて、なんとか部活アンケートで最下位から脱出しよう。な、頑張ろうぜ?」
「……」
黙りこむ白井。何か変な事を言っただろうか。
「白井?」
「その台詞、全然似合わない!」
俺は白井の蹴りを腹に喰らった。痛い。痛いけど……
今回は一瞬だけど、見えた!
「だから見るな駿の馬鹿!」
何はともあれ、明清東新聞部が、来年も存続出来ていますように……。
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■作者からのメッセージ
爽やかな青春を書いてみました。
※すみません、前投稿した奴は、こちらの掲示板でエラーが起きまして、パスワードを入れれなくなったので、新しく投稿しなおしました。感想くれた方、すみません。